第19話 誘い火 sideあやね
「……なんで、うまくいかないの」
スマホを握る手に力が入る。
画面には、あの女の投稿が映っていた。
なつきと手をつないで笑ってる。まるで世界で一番幸せそうに。
(私の方が、先だったのに)
中学の頃からずっと一緒にいて、相談に乗って、支えてきた。
なつきが誰かに好かれてるって噂が出たときも、笑ってきたのに。
(どうして……私じゃないの)
イライラして、爪を噛みながらSNSを開く。
あるアカウントに目を留める。
そこには、さやの写真がいくつも投稿されていた。
——すべて目線が外れた写真ばかりで、1枚もカメラ目線のものはない。
このアカウントは、さやのバイト先の年上の男、杉山とおるのもの。
この間店に行った時、ずっと彼はさやを見てた。
誰よりも長く。視線の温度が異様に高くて、誰が見ても“執着”だとわかるほど。
放課後、彼に“偶然”を装って声をかけた。
「……あの、ちょっとだけいいですか?」
「……なにかな?」
静かなカフェの隅。
他の客の目が届かない席に座って、私は静かにスマホを差し出した。
「このアカウント、あなたのですよね?」
杉山は一瞬たじろいだが、小さく頷く。
「これ、さやさんのことですよね?写真も、投稿の内容も」
「……いや、俺は……」
「彼女、なんですよね?あの子、彼氏いるのに他の男とバイト先に来てたって話、聞いたんですけど……浮気ですよね?」
私は言葉を選びながら、でも確実に彼の中にある“怒り”の種を揺らす。
その顔が、少しずつ歪んでいく。
「でも……あの子、あなたのこと、少し意識してる感じありましたよね?よく目、合ってたし」
「……たしかに。たまに話しかけてくれるし……」
「ね?私、思うんです。本当は杉山さんのこと、好きなんじゃないですかね。なつき、推し強いから断れなかっただけで……」
「……さやちゃん……」
「きっかけさえあれば、もしかしたら……」
囁くようにそう言うと、杉山の目に、迷いと……欲望が交じる光が浮かんだ。
(これで、終わり。あの女なんか——)
なつきは、私の隣に戻ってくるの。
それが“当然”なんだから。
少しずつ、歪ませていけばいい。
彼女の居場所も、笑顔も、全部。
(さや。あなたが“汚れた”ら——)
なつきはきっと、あなたを守れない。
あなたを見る目が変わる。
そして気づくのよ。私こそが、彼の隣にふさわしいって。
心の奥に巣食っていた何かが、静かに笑う。
——始まりは、小さなひび。
でも、そこから崩れる音は、案外大きいのよ。




