第15話 誰にも渡さない sideなつき→sideあやね
朝の光が差し込む道を、さやに会えないかな〜と1人歩いていた。
「なつきくん!おはよう!」
「おはようございます、さやさん。……今日も可愛いね」
「な、なんで……っ」
頬を赤く染めたさやの反応が可愛すぎて、思わず笑みがこぼれる。
「ねね、さやさん。さやって呼んでいい?」
さやは小さく頷いた。
頬を真っ赤にして手でぱたぱたと扇ぎながら、恥ずかしそうに目をそらしている。
そんな姿がたまらなく愛おしい。
どんな仕草も、どんな反応も、全部が可愛くて。
その存在が隣にあるだけで、胸の奥がじんわりあたたかくなる。
「……幸せだな」
そう思った瞬間、自然と笑みがこぼれた。
◇◇
「なーつきー、俺みーちゃった!」
さやと別れて学校への道のりの途中、りくがニヤニヤしながら肩を叩いてきた。
「え?なに?うまくいったん?」
「…うん。」
そう言って俺はりくにピースを向ける。
「やだなつきくん、お顔がニヤニヤ、ニヤニヤ」
「してないって」
「いや、してるって。
でもすげぇな、お前……おめでと。
よかったな、なつき」
「ありがと」
「で、どこがそんなに好きなの? 語っていいぞ?」
「んー……」
しばらく考えて、素直に言葉にしてみた。
「年上なんだけど、少し抜けててかわいいところとか…表情がコロコロ変わってかわいいところとか…とにかく、かわいい。
あと、声がすごく優しいんだよね。なんか、聴いてるだけで落ち着くっていうか……」
「うわー、完全に惚れてるな……」
りくが苦笑しながらも嬉しそうに頷いてくれる。
「だからこそ、ちゃんと守りたいって思ってるんだ。
あの人を見てると……放っておけないっていうか、気づいたら抱きしめたくなってる」
あの夜、震える彼女の肩に触れたあの瞬間――
あのときの想いが、ずっと胸の奥に残っている。
……これはただの恋じゃない。
もっと深くて、きっと俺の全部をかけたいって思うくらい、本気の気持ちだ。
◇◇
1人で歩いているなつきを見つけて、駆け寄ろうとした。
けど、また……あの女がいた。
ニコニコと笑って話す2人。
自然に手は伸びて、別れ際までしっかりと握られていた。
教室の窓辺から見ていた背中。笑っていたその顔。
まるで、全部が私から奪われたみたいだった。
(どうして……あの子なの)
心の奥で、何かが軋む。
この胸のざわめきは、ただの嫉妬なんかじゃない。
もっと前から、ずっと……失ってきた何かに対する怒りのような、痛みのような。
(ずっと、ずっと私の隣にいたのに…)
なつきのそばで一番近くにいたのは私だった。
なのに、どうして――その笑みを向ける相手は、私じゃないの?
でも……ひとつだけ、はっきりわかってることがある。
あの子は、私のものを奪った。
……絶対に、許さない。
なつきは、誰にも渡さない。