第14話 ぬくもりを重ねて
好きって、なんだろう。
一緒にいるだけでただ楽しくて…
それだけじゃ物足りなくなって…
ただずっとそばにいたくて…
不安も迷いもまだあるけれど、それでも……伝えたい想いがあった。
送ったメッセージには
なつき《わかりました。16時に駅で待ってます!》
と返事が来た。
胸の奥がドクンと高鳴った。
◇◇
駅前の時計が16時を指す少し前。
私は人の流れの中で、そっと彼の姿を探した。
彼は、すでにそこにいた。
私を見つけると、小さく手を振ってくれる。
「……行こっか」
「うん」
その言葉だけで、私たちは歩き出した。
向かったのは、私の家の近くにある、小さな公園。
だけど、道中も公園に着いてからも、私たちは何も話さなかった。
ベンチに並んで座ると、少しだけ風が吹いて、頬を撫でた。
静けさが苦しいようで、それでも心地いいようで。
「「あのっ!」」
声が重なって、2人して一瞬、驚いたように目を合わせた。
「……先にいいよ?」
「いや、俺、あんな風に抱きしめちゃったけど……その、答えを急かしたわけじゃなくて」
彼は目を伏せて、少し焦ったように言葉を紡いだ。
「断られるかもって思ってたし、今も……正直、怖い」
「違うよ……」
私は小さく首を振った。
「私も、初めて会った時に……なつきくんが気になってた。
きっと……あれは一目惚れだったんだと思う」
彼の瞳が、驚きに見開かれる。
「なつきくんが好きです。……私と、付き合ってください」
その言葉を伝えた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるような感覚と、同時にすっと軽くなった。
彼は一瞬きょとんとした後、ふわっと笑った。
「……夢みたいだ」
そう言って、彼は横にいる私を強く抱きしめた。
「ありがとう、さやさん。俺も…さやが大好きだよ。」
その声が、真っ直ぐに胸に響いた。
そのまま、しばらく何も言わず、ただ抱き合った。
あたたかくて、優しくて。
でも、どこかで……頭の奥がチカチカする。
眩しい光と、誰かの声の残響。
これは……記憶? それとも、ただの錯覚?
そんなことを考える暇もないほど、私は今のこの瞬間が愛しくて、手放したくなかった。
彼が少しだけ体を離して、私の瞳を見つめる。
「……キス、してもいい?」
こくん、と私は頷いた。
優しく触れる唇に、心の奥がじんわりと熱くなる。
(この気持ちが、今の私の答え)
私は、彼と歩いていきたい。
言葉にできない不安も、胸の奥のざわめきも、
今この手のぬくもりが、そっと包んでくれる気がした。
風がふわりと吹き抜ける。
まるで、新しい季節が始まる合図のように――。