第13話 あの温もりへ
夜の静けさの中、薄暗い部屋の中に3人の女がいる。
私は…微笑みながら2人と話していた。
「ねぇ、ダイアナ、ソフィー?
私が明日からレオン様の隣に立つのよ?
信じられる?」
「よかったわね。私もソフィーもあなたとレオン様の幸せをいつまでも願ってるわ。」
「そんなこと言って…悔しくて仕方ないんでしょ?
ソフィーの世話ばかりしてたから私のライバルにもならなかったのよ!」
カミラが鋭い目つきで私を睨む。
その言葉に驚くことしかできなかった。
「……私の……せい、なの?」
あの言葉が胸に刺さる。
“旦那様に選ばれなかった場合、虹色の鳥となって空へ還る”
そんな運命を、私は…昨日ようやく知ったばかりだった。
ダイアナは静かに首を振りながら、柔らかか声で
「ソフィー、あなたのせいとかじゃないのよ。
レオン様がカミラを選んだ。
それがレオン様の幸せなら…私は祝福するだけだわ。」
「でも……。」
「それに……本当は、あなたがーーー
「……っ!」
はっ!と目を覚ますと、部屋はまだ薄暗く、外は小雨の気配。
(また……あの夢)
なつきくんに出会ったあの夜から、頭の奥に何かが浮かび始めている。
懐かしくて、でも、切なくて、どうしようもなく胸が苦しい。
夢の中の“私”は、ソフィーという名前で、誰かを祝福しながらも、心の中では泣いていた気がする。
(私は…いったい、何を願ってたんだろう)
時計の針はまだ朝の5時を指していた。
もう眠れそうになくて…私は大学へ行く準備を静かに始めた。
もう覚えていた夢はまた遠くへ消えていった。
◇◇
教室に入ると、なぎさ先輩が一人、窓際で本を読んでいた。
「おはよう、さやちゃん。今日は合同授業だっけ…。
なんか元気ない?」
「あ…はい…おはようございます。ちょっと寝不足で…」
彼女はふっと笑って、手元の本を閉じる。
「無理はしないでね。
さやちゃんはもう少し自分に正直になっていいと思うよ?」
その言葉が、夢の中の誰かの言葉と重なった。
『ソフィー、あなたはもう少し自分の気持ちに正直になっていいのよ』
『私は祝福するだけだわ』
思考の奥で、何かがぶつかる音がした。
頭の奥がズキンと痛んで、私はそれ以上考えるのをやめた。
正直に…なつきくんはいつも私に温もりを与えてくれた。
あの温もりに、私は……触れたんだ。
「先輩、ありがとうございます。少し…気持ちが整理できたかもしれません」
なぎさ先輩は何も聞かずに、ただ「よかった」とだけ微笑んでくれた。
授業が始まる直前。私はスマホを手に取り、メッセージを送った。
さや《今日、放課後ちょっとだけ話せる? ……伝えたいことがあるの》
送信ボタンを押したあと、少しだけ涙がこぼれそうになった。
何に対してかは、自分でもはっきりしない。
それでも…心がふっと軽くなった気がした。