プロローグ
初夏を告げるさわやかな風がやさしく吹く。
いつもの道、いつもの時間、何も変わらない朝のはずだった。
頭の奥でキーンと鐘の音が響くような気がして思わず振り返ると
同じようにこっちを見ている彼と、目が合った。
彼は目を見開いて驚いた表情をして立ち尽くしていたが、一方で嬉しそうな、でも哀しげな顔でこちらを見ていた。
頭の中で鐘の音はまだやまない…
心の奥底でなんだかよくわからない気持ちが込み上げてくる。
どこかで…会ったことがある…?
「「あのっっ!」」
思えば声をかけていた。
そして彼も同じく声をかけている。
「あっ、えっと、ごめん、なにかな?」
声をかけたもののなんて言っていいのかわからず問いかける。
「………ソ……………あの、いきなりなんですけど……
一目惚れしました!付き合ってもらえませんか?」
「え?!えぇ?!!!!」
驚きで変な声がでていた。
どこかで会ったことがある気がする…
でも多分はじめましての少年。
でも心臓の鼓動が止むことなく、聞こえてしまうんじゃないかというほどドキドキしている。
この出会いが、私のすべてを変えていく。
……まだそのことを、私は知らなかった。
-side俺-
今日はいつもと違う朝、違う時間、違う道…
ただ普通に歩いてた、だけだった。
その時、俺の頭の中でキーンと鐘の音が鳴り響くような感じがした。
思わず振り返るとそこにいたのは
遥か昔俺が"愛してる"と気づけなかった愛しい女の子だった。
今の俺はどんな顔をしているだろう。
驚きと喜びと……
でも気を緩めたら涙が出てきそうで…
「「あのっっ」」
思わず声をかけた。
彼女も声をかけてくれた。
「あっ、えっと、ごめん、なにかな?」
あの時より少し落ち着いた彼女の声。
その姿もその声も全てが懐かしく愛しい…。
「………ソ……………あの、いきなりなんですけど……
一目惚れしました!付き合ってもらえませんか?」
名前を呼ぼうとしてとどまる。
"今の"名前はこれじゃない。
この時間、私服の彼女は多分年上だ。
出会えたこと
思い出せたこと
再び言葉を交わせること
ーーここで終わりにしたくなかった
だから俺が言えた言葉は、
「一目惚れしました。付き合ってもらえませんか?」
——それだけだった。
気づくのが遅すぎた。
ずっと、後悔していた。
もう一度君に、会いたかった。
奇跡のような、この日。
もう後悔はしない。
君をーー今度こそ離さない。