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第九回
「じゃあ試しに桃に入ってみればいいんじゃないですか?」
特徴のない中年男性が急に提案した。
彼の名は桃田というらしい。
桃田の口ぶりが桃に入るということを当然のこととしているのが癪に障る。
参加者たちは皆、眼前に置かれている桃を思わず凝視した。
「ここに入れるでしょうか?」
少しの沈黙の後私が尋ねた。
「入れますよ。」
食い気味の桃田が答える。
「ドラゴンクエストのスライムは分かりますか?」
「ドラクエは3までしかやっていません。」
「スライムがたくさん出現すると、彼らは合体して一つになるのです。」
そう話すと桃田は勢いよく立ち上がり、桃を集め出した。
集めた桃が一つに合体されようとする刹那、空気のような存在感の老人がいきなり叫んだ。
「食べ物で遊ぶんじゃない!」