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初回
「第一回読書会を始めます。本日の課題図書として指定させていただきました、桃太郎です。皆さんの忌憚ない意見をぜひご披露ください。」
主催者として恥ずかしくないよう、私は何度も反復した口上を破綻なく述べることができた。
昨夜は緊張から一睡も出来なかった。
「会の名前は?」
明らかに教養がなく風采の極めて上がらない中年男が労働者風の粗野な口ぶりで問いを発した。
一瞬たじろいだ私は平静を装って会員に尋ねる。
「会の名前は何かアイデアのある方はいらっしゃいますか?」
このような時に起こるありふれた無反応が場の緊張をむやみに高めた。
中年男はまるでアイデアを出す気配がない。
「それでは次回までにそれぞれ考えてくるということにしましょう。」
「意義なし!」
場違いなほどの声が響いた。
初老の男性はかつて参加した政治運動かなにかを思い出しているらしい。