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1) 序 変な人たち

英会話喫茶『アメリカン』物語


     英会話喫茶『アメリカン』物語


(『アメリカン』と登場人物は架空です。他の英会話喫茶名や固有名詞では実名もあります)


序 変な人たち


 今でこそオンラインを含めて外人講師による英会話が一般的になったが、一九八○年代初めには庶民に手が出るような値段ではなかった。その頃から、日常会話をあまり経費をかけずに上達しようと、英会話喫茶カフェというものができ始めた。

 自分が幸せでないと感じていた中年主婦の私は英会話喫茶に居心地の良い癒しを感じた。学生時代、クラスメートから「貴女は変わっている」と言われた。それが嫌だったけれど、どうしてだか分からなかった。気がついていなかった胸奥に固まらせた氷の塊のせいだったかもしれない。

 英会話喫茶というのは、たいていの人には耳慣れない言葉だと思う。英語で雑談する喫茶店のことだ。ハローと形式張らない挨拶をして、個人名で呼びあい、気軽に会話が始まる。喫茶店だから気が向いた時に行けばよい。語学校のようなおもしろくもないテキストを開く必要もない。好きなことを話していればよい。その自由な会話に、相手の生き方が見えてくる。

 その上に、外国語のせいで、日本語で話す社会から抜け出たようにも感じた。ふだんの自分とは違ったことをしゃべってしまう。いつもは表にださない本音や夢がでてくる。日常生活を忘れさせてくれる英会話喫茶は、現実の向こうの世界だった。

 たいていの英会話喫茶は外国人が雇われて会話の中心となっていたが、『アメリカン』には外国人スタッフが居ず、日本人同士のでたらめ英語でしゃべり続ける人たちの溜まり場だった。日本人同士が話す程度の英語には、男女の言葉の区別も、方言も、敬語や謙遜語、丁寧語もない。そのお陰で、誰とでも友達になれた。つまり日本語だと上下関係や親しさの微妙な関係を表す言葉使いが邪魔して親しくなれない人とでも、きさくな仲間になれた。この水平な仲間意識が『アメリカン』の最大の魅力だった。

 一杯のコーヒー代五百円で、いつまでもねばれた。中国語、フランス語なども交わされ、禁止のはずの日本語単語も飛び混じったが、共通語は英語だった。会話はたいてい相手の職業や趣味をたずねることから始まる。そして他のどこの場所よりも短時間で、深く知り合ってしまうその人たちはみんなどこか変だった。

 元々、普通の人とは「変わっていた」らしい私だが、その人たちの「変」は、私とは違う変だった。その「変な人たち」と出会って私も今までとは違う変になり始めた。

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