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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第四章 傷痕編

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96話 不幸なのは貴女だけじゃない

 ブルーバード地下。二人の少女が一つの部屋にいた。

 一人はベッドのすぐ近くに椅子を置き、もう一人を見つめる青髪の少女、シエラ・アグリアス。もう一人はシエラに背を向ける形でベッドに寝ている銀髪の少女、リンリ。

 寝ていると言っても寝転んでいるだけで目は開き、意識はしっかりしている。



「ずっと寝てると、体に悪いでありんすよ。たまには外に出てみなんし」


「…………」



 シエラはこの部屋にほぼ毎日通っており、姉の死別で完全に心を閉ざしてしまったリンリともある程度のコミュニケーションが取れるようになっていた。

 それでもやはり心のダメージは大きく、未だこの部屋からは出てこない。



「……貴女も毎日飽きませんね」



 もう既に一時間以上静寂だった部屋で自分以外の声が聞こえ、シエラはぱっと顔を明るくする。



「クロトに頼まれてるでありんすから」


「……クロト」



 シエラはクロトを知らないんだと思ったが、実際は違う。

 リンリはアリスの元で長く奴隷をしていた。クロト達の情報も当然得ている。リンリが復唱したのは命を狙っていた自分を、何故あの男が助けたのか、見当がつかなかった為だ。



「クロトはわっちらの……」


「知ってます。アリス……様から聞いてます」


「そうでありんすか……」


「私は貴女達の敵です。どうして助けたんですか?」



 そっぽを向いたまま投げられた問に、シエラは予想外に頭を悩ませた。

 クロトが連れて行くと言ってここまで連れてきたし、クロトが様子を見てやってほしいと頼んできたから様子を見ている。そこに疑問を持たなかったし、特に反対意見も無かった。

 改めて考えると言う事を聞いているだけにも思えるが、自分が決めろと言われても同じ選択をしただろう。それだけに何故、と聞かれると自分でもよくわからない。

 でも、強いて言えばそれが理由なのかもしれない。



「……助けない理由が無いからでありんす」


「助けない理由なんていくらでもありますッ!」


「…………」



 即答で返され、何も言えないでいるシエラを他所に、起き上がったリンリはシエラを真っ直ぐ見据える。

 リンリはずっと考えていた。

 何故私は助かってしまったのか。何故姉と共に死ねなかったのか。何故姉は助けられなかったのか。自分はこれからどうすればいいのか。どれだけ考えても答えは出なかった。

 そして思考の沼にハマったリンリはがんじがらめになり、半分自暴自棄に陥っていた。



「私は貴女達の敵の奴隷で、貴女達も傷つけました。なんの罪もない人達を殺しました」


「それは……きっと、(ゆる)される事ではないでありんす」


「だったら!」


「でも、それでもクロトは許し、助けたいと思ってるでありんす。勿論、わっちらも」


「……許す? ……助ける?」



 混乱状態で突然差し伸べられた手を、リンリは素直に握れない。

 長年従ってきたアリス、フロリエルに裏切られ、最愛の姉を殺され、そして敵に命を救われる。

 この数週間、真っ暗だった心に一筋の光が射した。それでもリンリはその光に戸惑い、苦しみ、怯える。



「あんな男に! 私の何が……」



 自分でも抑えられない感情が爆発しかけた時、リンリは言葉を止めた。目の前に青い髪がふわりとなびき、何かに体を引き寄せられたからだ。

 少し甘い匂いが鼻をくすぐり、リンリはさっきまでの感情が嘘のように静まっていくのを感じた。



「クロトは数年前に村を焼かれて、知り合いは皆死んでしまったそうでありんす。最愛の師匠も殺され、エヴァ以外の知り合いは殆ど居ないと聞きんした」


「え……」


「エヴァは自分の力のせいで父親も母親も皆殺してしまったと」


「…………」


「今は辛いと思いんす。でも、気持ちをわかってくれる人は必ず居るでありんす」



 リンリを抱きしめながら囁きかけるシエラの優しさを直に触れ、リンリの目から涙が止めどなく溢れる。心の傷が完全に癒えたわけではない。それでも、リンリの心に光が射した。



 時間はかかってもこれから歩いて行けるだろうとシエラは確信した。



「ありがとう……ございます……少し楽になりました」


「シエラ」


「え?」


「私はシエラでありんす。よろしく」


「……シエラ」





 場所は変わり、その上に位置する酒場。



「クロト〜酒だ酒! わかってんだろ〜?」


「わかってるから少し待ってろって」


「クロ坊!こっちもだ」


「はいはい」


「今日も人気だな、クロト」


「まぁな……ってお前、ここのオーナーなら手伝えよ!」


「カッカッカッ! オ前、戦イ以外ニモコンナ事シテルナンテ、器用ナ奴ダナ」


「お前もちゃっかり座ってんじゃねーよ」



 こいつ(雨刃)の笑い方、こんなんだっけ? てか、雨刃の糸を操る力があればこんなの余裕なんじゃ……



「ン? ナンカ嫌ナ予感ガスルナ……」


「おーい、クロろろろろろろろろ」


「呼びながら吐くな! てか吐くなら外行け!掃除大変だろ!」



 実際はヴァランの水属性魔術で流すから、そこまで大変でもないが……



「クロト!」


「お、シエラ。丁度良い所に! 手伝っ……て……」


「リンリが、クロトに話があるって」


「……わかった」



 俺はシエラの後ろで立っているリンリを見て、真剣な雰囲気を感じ取る。



「ここじゃうるさいから、場所を変えよう」



 俺はヴァランに一声かけ、ブルーバードを出る。馬鹿騒ぎは外にまで聞こえてくるが、中よりは静かだ。

 ブルーバードより少し離れた場所まで二人を連れていき、足を止める。



「あ、あの……」


「もういいのか?」



 シエラが寄り添う形で俺と向かい合っているリンリに、俺は調子を尋ねる。この言葉には身体的な面と、精神的な面の両方を含んでいる。



「はい……おかげさまでかなり良くなりました」


「そうか」


「ありがとうございます。助けていただいて」


「気にする必要はない。それに、ごめん」


「え?」


「俺達がもっと強ければ、フロリエルを止めれたはずだ。君の姉を、助けられたはずだ。ごめん」



 本心から思っている事だ。

 俺がもっと強くて、リヴァとの勝負をすぐ決めていれればフロリエルを止められた。イザベラさんをもう一度殺す事への戸惑いが無ければ、もっと早く駆けつけられていた。



「…………」


「……クロト」


「だから……」


「いえ、謝らないでください。クロトさん達が助けてくれなければ、私も殺されていました」



 リンリは初めてあった時のような怯えた目はしていなかった。目の周りが赤くなり、頬には涙の後があったが、それでもしっかりと前を見ていた。

 これ以上言うのはリンリの覚悟を無駄にしてしまうかもしれない。



「……わかった。わざわざお礼を言いに来てくれたのか?」


「はい、このまま何も言わずに去るのは、無礼だと思ったので」


「そうか、ありがとうな。……去るって、これからどうするんだ?」


「これから……?」


「魔王の所に戻るのか?」


「それしか私には……」


「気づいているかはわからないが、もうアリスの奴隷じゃない。奴隷紋は解除されている」


「え、あ、ほんとだ……」


「リンリが気絶した後にアリスが現れて、解除して帰っていった。二人を抹殺する事が今回の作戦の中に組み込まれてるって言ってたし、情が湧いて殺せなかったのか、真偽はわからないけど、アリスはあえてリンリを殺さない選択をしたように見えた。でも、多分今回限り。もし戻れば、間違いなく殺されると俺は思う」


「……」


「それでも戻るなら俺達はそれを止められない。リンリはもう自由だ。誰の奴隷でもない。これからどうやって生きるかは自分で決めたらいい」


「……」


「ま、急に言われてもすぐに決断するのは難しいか。俺達はエヴァが目を覚ますまでここに留まる予定だ。それまでに決めればいい。シエラ、頼めるか?」


「任せるでありんす」


「……あの」



 リンリが少し考えてから間を空けて口を開く。



「私は貴方達に二度救われました。このお礼は必ずさせてください」


「……ああ、気にするな」

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