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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第四章 傷痕編

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95話 天装衣の真価

「おお、よく帰って来たな。クロト」


「ああ、意外と久しぶりだ」



 宮殿内、玉座の間に来た俺は赤皮膚の巨人に挨拶する。

 地獄も宮殿も、何も変わった様子はない。当然と言われれば当然かもしれないが、少し安心した。



「しかし、まさかアルギュロスに子供が出来てるとは思わなかった」


「うむ、生まれたのはお主らが地上へ出てからすぐだったぞ。呼びたかったが、どこにいるかわからなくてな。特別急用でもないので断念したんだ」


「そうだったのか……俺達は地上に戻ってからすぐ盗賊団やらドラゴンやら、色々あったからな」


「おお、その話も聞かせてくれ」


「そうしたいのは山々なんだが、すぐにでも聞きたいことがある」


「ほぅ?」





「なるほど……雷化・天装衣(ラスカディグローマ)か」



 俺は雷化・天装衣(ラスカディグローマ)皇帝鬼(エンペラーオーガ)との戦いで物理攻撃を無効化する性質が発動されなかった事について話した。その後、リヴァと戦った時は問題無かったし、何か異常が起きているのかもしれない。

 雷化・天装衣(ラスカディグローマ)の物理攻撃の無効化はあくまで副次的な効果だが、これまでの勝利に大きく貢献してくれたのは確かだ。理由を判明させておかないと、予想外な事態を招く事もある。特に俺はこの物理無効に頼っている部分もあったからな。



「それは……一言で言うなら成長と適応かもしれん」


「成長と、適応……?」


「うむ、まず成長の部分。雷化・天装衣(ラスカディグローマ)は使えば使うほど成長する魔術だ」


「そんな話聞いた事無いぞ?」


「魔術が退化すると共に失われた情報だったんだろう。成長する毎にその性質が強くなり、魔力量が上がる」



 そういえば、最初は五分も保たなかったのに今では普通に戦えてる。魔力量も特に気にならなくなってきてる……無意識のうちに成長してたって事か。



「その、性質が強くなるっていうのは?」


「うむ、例えばお主は雷に変換するわけだが、そのスピードは人間にしては早いが雷にしては遅すぎる」



 そんな事考えてもみなかったが、確かに雷……つまりは音速と比べれば遅い。雷化した状態で瞬動術を組み合わせれば音速の移動も可能だが、普通、雷ならそんな事しなくてもいいはずだ。



「原因は単に体がついて行けてないんだ。基礎的な体力面や、雷化・天装衣(ラスカディグローマ)を受けるに足る器では無いという事」


「俺は魔術の特訓はしてきたが、これと言って体作りはしてこなかったらな。ここに来てそれが自分に巡って来たって事か……」



 地上に戻ったら体作りしないとな。



「ただの筋トレでは意味がないぞ。体に負荷をかけた状況下での戦闘等が好ましい」



 雨刃に頼むか。



「次に適応について。雷化・天装衣(ラスカディグローマ)や、天装衣は状況に応じて状態を変化させることがある」


「変化?」


「物理無視からスピード特化、魔力増幅などある程度相手に合わせて変化する性質がある。まぁ相手に合わせるというよりも自分が最も望む長所を伸ばすと言った表現の方が正しい」


「……物理無視から魔力増幅による時間延長、そしてスピード特化……」



 確かに今までの戦いはそうだった……ような気がする。

 最初の頃は文献に載っていた性質。次に効果時間の短さに悩んだ時は魔力増幅。雷獣戦では雷を防ぐために同属吸収の効果。そして未知数だった皇帝鬼(エンペラーオーガ)にはスピード特化での圧倒。その代わりに物理無視を失ったってことか。



「心当たりがあるみたいだな」


「あ、ああ……てことはその時々に適したものや、望む性質になるって事か?」


「うむ、ある程度の制限はあるが、昔の天装衣はそれが普通だった」



 そんな性質があったのか。

 今までは違和感としか感じてこなかったけど、これからは戦略の幅が広がったな。



「わかった、ありがとう。早速地上に帰ったら特訓しないとな。もっと強くなれるって事だ、有難い」


「うむ、それも大事じゃが……この間の戦いの事」


「ああ、そうだ。エヴァについて聞きたい」


「ハルバードの子……全て見ておったし、事情も理解しているつもりだ」


「いつ目が覚める?」


「今から二週間、いや遅ければ三週間は身体の回復にかかるだろう」


「早くてもそれか……」



 仕方ないとはいえもどかしい。早く話したいんだけどなぁ……



「死に瀕している事も忘れるな。今こちらに片足突っ込んでる状態だ」


「なに?」



 予期せぬ言葉に思わず切り返しが鋭くなる。



「一時は魂はこちら側に半分ほど来かけておった。今は本人の生きようと強く思う心がそれを留めており、そう簡単にこっちに飲み込まれたりはしないだろうが、危険である事に変わりはない」


「な、どうしたらいいんだ?」


「しっかり看病してやるしかないだろう……こればっかりは我でも手出しは出来ない」


「そうか……」



 エヴァ、死ぬなよ。頼むから、死ぬなよ……



「ところでシュデュンヤーだが」


「……あ、ああ! 重宝してるよ。手に入れた当初に比べればかなり軽くなったし」


「うむ、時にシュデュンヤーの効果を覚えてるか?」


「たしか、魂を地獄へ送る毎に性能を上げる、だったよな」


「うむ、そしてそれ以外にもう一つ。殺したアンデッドの持つ属性を稀に吸収するというものだ」



 そういえばそんなのあったな。実際に吸収した事がまだ無いからすっかり忘れてた。



「で、それがどうしたんだ?」


「その様子、気づいておらんか」


「え?」


「吸収しておる」


「え?」


「だが、属性ではないな。一つの魔術を取り込んだらしい」



 いつだろう。時期的に言えばこの前のリヴァとの戦いだよな。まぁでもあって損するものでもないし、いいか。



「で、何を吸収したんだ?」


「取り込んだ魔術を所持していたアンデッドはイザベラ。取り込んだのは最高位の結界術、聖域(サンクチュアリ)

 




 その後ハデスとの話を終えた俺は、ハデスの娘であるクリュと再会し、話の花を咲かせた。

 グレイドとも久しぶりに手合わせしたが、やっぱりグレイドの動きは早かった。あと、アルギュロスとミセス・アリサとも久しぶりに喋った。子供達は三者三様で、共通してる点といえば元気過ぎるところぐらいだ。

 軽く一時間は地獄を駆け回っていた気がする。



 本当なら一日二日居ても良かったが、ヴァランに何も伝えてなかったし、ハデスの話を聞いて、すぐにでもエヴァの元へ帰りたかった。

 必ず近いうちに来ると約束し、俺は地上へ戻った。





「オラ飲め飲めっ!」


「決闘イベント、アジェンダ勝利の前夜祭だぁ!」


「クロ坊! 何ぼーっとしてやがる。酒だよ酒! 酒ッ酒ッ酒ッ!」



 地獄から帰ると既に地上は深夜の時間になっており、森はシンっと静まり返っていた。

だが、ブルーバードはそんな事関係ない。いかついおっさん達が酒の入ったコップを振り回しながら歌え踊れの大騒ぎ。おまけに四ヶ月後の超決闘イベントの前夜祭も行われている。と言ってもこの一週間殆ど毎日が前夜祭なのだが。

 おそらくイベント当日までは前夜祭が続くんだろう。



「お、帰ったか。クロト」


「悪い、遅くなった」


「いや、気にしなくていいけどよ」



 カウンター席に腰掛けながらヴァランが手を振る。

 周りにレッグの姿はあるものの、レオやシエラ、アジェンダ、マルスが見当たらない。



「シエラとレオはどこに行ったんだ?」


「シエラはあの白髪の子を面倒見てる。レオはまだ帰ってきてないな」



 そうか、リンリはまだ……

 なんとかしてやりたいけど、俺より女の子の気持ちがわかるシエラに任せる方が良いのかもな。レオに関しては……まぁ死にはしないだろう。



「アジェンダは?」


「レオの様子を見に行ってるよ。自分のせいでふさぎ込んでるかもってな」



 アジェンダには悪いがそれは絶対無いな。レオがふさぎ込む? それは嵐の前兆だ。



「マルスは?」


「えーっと……」


「街に顔出してくると言っていた」



 頭を抱えるヴァランにレッグが助け舟を出す。



「まぁ居ないなら居ないでいいか。エヴァはどうしてる?」


「まだ眠っているはずだ。少し前に身体を拭くのと着替えをシエラにやってもらった時は小さく寝息を立ててたらしい」


「そうか、わかった。俺はとりあえずそっちが気になるから先に見てくるよ。その後手伝いならするから」


「おう!」



 あらくれ共に酒をもってこいのコールを受けながら俺はブルーバードの地下へ降りる。階段を降りると、正面に通路が伸びている。左右の壁には扉がいくつも並んでおり、一番奥には更に地下へ通じる階段がある。ワインやら酒やらが貯蔵してあるらしく、レッグの機嫌を損ねるといけないので俺も入った事は無い。

 そして酒場へ続く階段から数えて三つ目の左側、ここがリンリの部屋で今はシエラも一緒にいるらしい。

 そこから更に二つ奥に俺とエヴァの使っている部屋がある。



「入るぞ」



 もし目覚めて着替えでもしてたら悪いと思い、毎回ノックと声掛けはするようにしている。だが、今日も目覚めた様子はなく、ベッドの上で寝ていた。

 服装が今までの服ではなく、白いワンピースだった為、一瞬違う人かと思った。でもこのワンピース俺達の荷物の中には無かったよな。

 どこから出てきたんだろう。



「まぁいいか」



 俺は一先ず自分の使っているベッドに腰掛け、すぐ隣で寝ているエヴァを見る。顔色も比較的良いし呼吸も安定してるし、どう見ても寝顔なんだよな。でも眠るように死ぬ人もいるわけだから、安心する理由にはならないか。



 遠くで酒場の馬鹿騒ぎする音が聞こえてくるが、部屋の中はシンとしていて心地が良い。俺はそっとエヴァの手を握る。



「さ、行くか」



 俺はエヴァの手を毛布の中に戻し、エプロンを腰に巻いて酒場へ戻った。今日も今日とて、バカの相手だ。





 ブルーバードを囲う森。そのとある場所にて。



「……ッ」



 巨大な蜂を模した二級魔物、マーダラービー十数体を相手に奮闘する(レオ)が居た。

 奮闘と言っても、マーダラービーは即死毒の付いた針をレオに刺そうと躍起になって飛び回っているが、レオはそれをただ避け続けている。だが、相手の数は十を越え、夜である為に視界も悪い。その中で気配だけを感じ取り避け続ける。



 これはレオが編み出した修行方法だった。

 掠っただけでも死ぬ様な緊張感の中、ただひたすらに気配を読み、動き続ける。基礎体力を補い、戦闘中の視野を広げる効率のいい修行方法と言える。

 だが、問題はそこではない。

 この修行をアジェンダに敗れてから、つまり数時間前から続けているという点だ。既に体力的にも精神的にもかなり限界に近いはず。

 だが、レオはやめない。やめれないと言ったほうが正しいかもしれない。二代銀月を置いた場所が遠過ぎて取れないのである。



「……っ」



 そんな状態が長く続けば、どんな超人だって限界が来る。

 一匹のマーダラービーを避けた時に体がよろけ、隙を作ってしまう。何時間も追い回している獲物が見せた初めての隙をマーダラービーが逃すはずも無く、一斉に飛びかかる。

 流石にまずいと感じたレオだが、この状況を打破する術は持っていない。

 万事休す。



「はぁぁぁ!」



 流石に死んだなとレオが覚悟を決めたその時、紅の髪がなびき、マーダラービー達を真っ二つに斬り裂いた。

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