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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第四章 傷痕編

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94話 レオvsアジェンダ

「おい、紅の伝説」


「ん?」



 レオは俺を押しのけ、アジェンダの前に立つ。その姿にオリハルコン級への恐れ等は全く感じられず、闘志だけが場に満ちていた。まぁ予想通りというか、この行動以外あり得ないというか……お互いにやりすぎない事を願うよ。



「おれと戦え……!」



 この間、ミスリル級の雨刃と渡り合ったとはいえ、次にアジェンダは早すぎるんじゃないかと思わなくも無いが、レオにそんな事を言っても仕方がないだろう。この二人の戦いを見てみたい気もするけど、流石にアジェンダも安請け合いはしないだろう。これでも冒険者の最高峰だし、大人だしな。



「わかった、やろう」



 うん、安請け合いしたな。

 アジェンダは巨大な斧を使うぐらいしか俺も知らないけど、レオは本気で勝つつもりなのか……いや、これは愚問過ぎるか。レオは負ける気で戦った事など無いだろう。



「んまぁ、面白そうな事になってるじゃなーい」



 そこへ、今度は若干苛立ちを覚えるような喋り方をした声が聞こえてくる。次に強風が駆け抜け、俺達は思わず目を瞑る。

 それでもお構いなく風は吹き続け、竜巻を巻き起こしながら木々を揺らす。



「な、なんなんだ……」



 歯を食いしばりながら声を絞り出す。



「あいつだ」


「あいつ?」


「この風は……」



 アジェンダが言いかけた時、風が突如として止み、人間がそこに立っていた。黒いタキシードにシルクハットを被り、服の裾についた汚れをパンパンと落としている。



「お久しぶり、アジェンダちゃん」


「相変わらず元気そうね、マスターボウ」


「マスター、ボウ……」



 確か〈シルク・ド・リベルター〉のオーナーでアジェンダと同じオリハルコン級の……〈風神〉のマスターボウ。こんな立て続けにオリハルコン級に出会うとは、運がいいのか悪いのか。



「あらぁ? あなた達、もしかして雨刃ちゃんの言ってた飛び級した子かしらぁ?」



 顔はワイルドなおっさんなのに、なんで喋り方は女みたいなんだろうか。……まぁ、これも個性の一つか。



「そ、そうだけど……」


「んーーーーっまぁぁ! 一度会いたかったのよねぇ〜」


「ヨ! クロト、レオ」


「雨刃!」



 いつの間にやら雨刃やリン、他にも〈シルク・ド・リベルター〉のメンバーと思わしき面々がマスターボウの後ろに集まっていた。

 ピエロに蛇使いに……ただの長身の男? ザ・サーカスって面々だ。一番謎なのはマスターボウだが。



「大事な仕事があるって言ってなかったか?」


「アア、ダカラココ二来タ。正確ニハ第二之都市(セントレイシュタン)ニ、ダガ」



 セントレイシュタンで行う依頼だったのか。言ってくれればあんなに別れを惜しむ事も無かったのに。



「それで、ついでだから四ヶ月後に超決闘イベントを控えたアジェンダちゃんを応援しに来たったわけなのよぉ〜!」



 へぇ、結構仲良いんだな。

 超決闘イベント、アジェンダは不安に感じているようだが、真の目的は士気の向上らしいし、そこまで気負うようなものでも無いのかもしれないな。

 ま、どうせやるなら勝ってほしい。



「オーナー」


「何かしらん? 雨刃ちゃん」


「レオト紅ノ伝説(アジェンダ)ハ模擬戦ヲスルラシイ。ソロソロヤラセテヤレヨ」


「んぅっ! そうね!」



 見た目に反しての喋り方が慣れない。仕草や表情は完全に女の人なのに、顔は男なんだもんな。おまけに話すときの動きがでかいから、妙な威圧感を覚える。これもオリハルコンたる所以なのだろうか。



 何はともあれ模擬戦をする為にブルーバードの前である程度の間隔を持ち、アジェンダとレオが向かい合った。



「これは興奮するわねっ!」


「オーナー、少し落ち着いてください」



 よほど楽しみなのか、マスターボウは飛んだり跳ねたり地面を這いずったりブルブル体を震わせたり、とにかく主張が激しい。それをなだめているのはピエロ姿の人だ。見た目に反した優しい声、口調でマスターボウをうまく抑え込んでいる。



「クロト君だったよね。僕は〈シルク・ド・リベルター〉ピエロ担当のグラブスだよ。よろしくね」


「あ、よろしく」



 マスターボウを挟んで座っているグラブスとしっかり握手を交わす。グラブスには悪いが、マスターボウがなにかしようとしていたので慌てて手は引いた。



「雨刃、もしやばくなったら止めてくれ!」


「アア」



 やばくなったらって、ただの模擬戦でそんなに本気を出すつもりなのだろうか。いや、俺もアジェンダの本気は見たことがない。是非とも見たいとは思うが、オリハルコン級ならこんなボロ酒場吹き飛ばしてしまうんじゃないだろうか。



「行くぜ……」


「来なさい」



 レオは瞑想し、集中力を高めている。

 至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅうは単純な技術に加えて、闘気を扱うものも多いらしい。闘気ってのはこっちで言う魔力で、大和では普通に用いられているものだそうだ。



「ッ!!」



 黒くて細い何かが目の前を落ちて……髪? 一陣の風が吹き抜け、俺の髪の毛が数本落ちた。なんだ……全く何が起こったのか見えなかった。

 レオの姿が一瞬にして消え、アジェンダの巨斧に何かがぶつかった。それも半端な威力ではない。よくあの斧が折れなかったなと疑うレベルだ。



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『至天失斬烈風斬り』〉



 レオはアジェンダの後ろに姿を現し、銀月を鞘に収める。とほぼ同時にアジェンダの腹に浅い傷を作り、そしてアジェンダの背後に広がる森を切り崩した。数十本の木が切り倒され、鳥たちが一斉に飛び立つ。



「……防ぐか。この一撃を」



 一言言うならやり過ぎだ。ブルーバードの敷地を今の一撃で大きく広げる事になった。

 だが、結果で言えばそれだけの威力を見せた技すら、アジェンダの巨斧によって防がれている。防がれたとは言っても、その威力を完全に殺す事は出来ず、アジェンダにも僅かだが傷を作った。



「こんな技、今まで見たことない」


「恐ラクハ居合ノ最終形……威力ト速度ヲ極限マデ高メタ必殺技ト言ッタ所ダロウナ」


「んんん! 良いわねぇ良いわねぇ。アジェンダちゃんが先手を取られるなんて!」



 三つの型と多彩な技を持つレオに対し、アジェンダは特に技という技もなく、その斧さばきが一番の攻撃手段だ。

 どちらかといえばレオに分があるような気がする。アジェンダのゴリ押しに対しての対処法を多く持っている。



「……ハァッ!!」


「ク……フッ!」



 レオとアジェンダは既に三度打ち合っている。

 だが、力は均衡。少しアジェンダが押している様にも見えるが、レオは得意の身体能力で上手く流している。



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『突き立てる牙』〉



「……クッ……フン!」



 レオの突きを斧の腹で受け止めたアジェンダはそれを弾き飛ばし、ありえない速度で回転。そのまま斬り込む。



「……ッ!」



 レオは技を出そうとするも、速過ぎる斧の回転斬りに間に合わず、慌てて受け身を取る。巨斧の全速力の攻撃を何とか受け流し、若干後退しながらも怯む事無く闘気を放つ。

 全長二メートルは超えるほどの巨大な斧を、防御する間もなく振るうアジェンダの筋力はどうなってるんだろう。



「まだまだ行くよ!」


「く……速い……」



 スピードもパワーも兼ね備えて攻めるレオが両方においてアジェンダに押されてる。身体能力も互角かと思ったが、アジェンダの方が速いし、力も強いな。

 この三年でまた腕を上げたのかも。



「この間のゴブリン事件の時も思ったが、レオの抜刀術は私が知ってる物とはやはり違うな」



 いつの間にやら隣で座っていたリンが考え込むようにレオを見ていた。



「そういえばリンも刀を使うんだよな。大和出身だったのか?」


「ああ、そうだ。だが、私は抜刀術は好きじゃなくてな。あまり使わないんだが……向こうで暮らしている時も、あんな抜刀術は見たことすらない」


「大和の中にも色々な流派があるって事か?」


「この大陸にも剣術なら豪傑流、疾風流、神明流。魔術なら炎術、水術、土術……と色々あるだろう?」


「確かに……」


「あの至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅうという流派……見た感じでは一点火力の突破型、回避防御の相殺型、多数撃破の薙払型……攻防隙きのない流派だ」


「それだけ会得も難しいって言ってたぜ」


「それはそうだろうけど……そんな流派があればもっと広まっていると思う。大和に伝わる流派は基本的に流派ごとに回避の流派や攻撃の流派って分かれているものだ」


「そうなのか?」


「うむ……一流派で……ブツブツ」



 腑に落ちないらしいな。

 リンはどんな流派を使うのだろう? 抜刀術は嫌いだと言っていたが、抜刀術を使わない流派もあるはずだ。聞きたいけど……ブツブツ言ってるし後にしよう。



「クッ……」



 お、リンと話してる間に勝負がついたらしい。

 二代銀月が地面に突き刺さり、アジェンダの斧がレオの頭上で止められている。あのままではアジェンダのクレセンティーヌがレオを真っ二つにしていただろうが、寸前の所で雨刃の片手剣がそれを阻止している。

 やっぱりまだオリハルコン級とは差があるらしい。俺もアジェンダにはまだ勝てそうにない。



「んんん! いい勝負だったわ!」


「最後、危ナカッタナ。レオ」


「ああ、実力不足を思い知らされた。少し森に入ってくる」



 と、言葉少なにそのままスタスタと森に向かってしまった。やっぱり交流とかには興味が無いんだな。

 その時、視界の端に移るレオに違和感を覚え、目を凝らす。よく見ると、森に向けてスタスタと歩くレオの後ろを、赤い何かが着いて行ってるような……レオの歩く速度が速過ぎてかなり急いでいる事がここからでもわかる。

 まぁ、敵意があるようには見えないし、いいか。



「少しは自信が戻ったか? アジェンダ」


「うん! こんなに集中した戦いは久々だったよ」


「それは良かった」


「さ、せっかくこれだけのメンバーが揃ったわけだし、今夜は騒ぎましょ!」


「ソレハ此処(ブルーバード)ニ迷惑ジャナイカ?」


「ブツブツ……ブツブツ……」


「気にしたら負けよ!」


「気にしないと負けだと思うボーン」


「あ、悪い。俺用事があるから先に戻っててくれ」


「……? ワカッタ」


「早く戻ってきてねん!」


「待ってるボーン」


「ああ!」



 俺は一人ブルーバードを離れ、レオが入っていったのとは別の方向の森へ近づく。あまり近くでやると目立つからな。ここなら人目もないし、見られる心配もないだろう。



「開け! 地獄の門よ!」





 黒い光に包まれたあと、目を開けると黒い宮殿がそびえ立っていた。久しぶりに見た地獄、ハデスの宮殿だ。相変わらず空は暗いし地面は黒いし川は赤い。おおよそ地獄と言われて想像する光景だ。



「アオォォォォン」


「キャンキャン」


「バフバフ」


「グルルルゥ」



 宮殿へ入ろうとした俺を出迎えたのは白い巨犬……もといジャイアントウルフのアルギュロス。

 そして普通のウルフより大きいウルフが三匹。一匹は黒い一本首、一匹は白い二本首、一匹は白い三本首と中々に個性派揃いだ。



「久しぶりだな、アルギュロス」


「お久しぶりでございます、主」


「キャンキャン」


「この子達は?」


「その……我とアリサの……ぽっ」



 ぽっ……って。お前そんなキャラだっけか。



「主は、どうして地獄へ?」


「少しハデスに用事があってな」

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