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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第四章 傷痕編

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93話 再会に息吹く風

「ではリュウ、しっかりと役目を果たすんじゃよ」


「あ、ああ……任せとけ」



 大陸より南西。

 切り立った崖に囲まれ、外部との接触がほとんど無い島、バイラス島。

 過酷な生活環境を強いられるこの島では強力な魔物が多く生息し、更に原住民達も過酷な生活を送っていた。

 バイラス島には村が一つあり、原住民たちはそこで生活をしている。その村は人口五十人ほどの小さな村だが、周辺の魔物から身を守れるほどの戦闘に長けた民族が住んでいる。その村の入り口でリュウと呼ばれた赤毛の青年と、これまた赤毛の老人。そしてそれを囲むように村人達が集まっていた。



「お前は村一番の臆病者じゃが……」


「臆病じゃねーよ!!」


「……同時に勇敢でもある」


「わけわかんねーよ! じいちゃん!」


「村の守護竜様の力を受け継いだんじゃ。誇りと使命を忘れるな」


「わかってるけど……」


「さぁ行け!!」


「わ、わかったよ」



 リュウはトボトボ歩き出し、数歩離れたところで立ち止まる。



「村の者たちよ、良く見ておれ。あれが守護竜様の力を受け継ぎ、七色の竜を滅する最強の龍じゃ」


「来い……!」



竜鎧装(りゅうがいそう) 全身(フルメイル)



 リュウが叫ぶと、背後に半透明のドラゴンが現れる。ドラゴンはリュウに纏わりつき、胴、腰、腕、脚と次々に実体を持つ鎧へと変わっていき、最後に兜が現れる。全身鎧を虚空から召喚した。



「おお! あれは……」


「すごいわ! リュウ!」


「古代魔術の中でも更に最古、自らを竜へと進化させる最強の古代魔術。使用者に若干の不安はあるが、一族の使命……我らに代わって頼むぞ、リュウ」



(フリューゲル)



 リュウの背中を覆う竜鎧装がバキバキと変形し、リュウの身長以上もある翼が生える。大きく開かれた翼を羽ばたかせ、地面を蹴ってそのまま大きく空へ飛び立つ。





 目を覚ますとやっと見慣れてきた天井が広がっていた。ブルーバードの奥にある部屋の数々、その中の一つ。

 ここに来てから既に二週間が過ぎていた。俺やレオ、シエラは傷も完治し、戦いの疲労も完全に消えていた。



「いてて……」



 体を起こすと全身が悲鳴を上げ、俺に痛みを訴える。この痛みは魔王との戦いでの痛みではなく、ブルーバードでこき使われた結果だ。



「さて、今日も働くかな」



 俺はブルーバードを手伝っており、シエラはブルーバードの周囲を警備するという仕事をしている。レオは接客の才能が無く、おまけに酒の善し悪しも気にしないため、レッグにも見限られた。周辺警備も彼にとっては退屈だったようで、最近ではセントレイシュタンにある冒険者ギルドで依頼を受けているそうだ。もちろん冒険者の依頼の方が金は稼げるが、今の目的は稼ぐことではないし、ヴァラン達に礼もしたいので俺とシエラはブルーバードで働いている。



「じゃあ、行ってくるな。エヴァ」



 俺は隣のベッドで、未だ寝たきりのエヴァに挨拶をし、部屋を出た。二週間経っても特に目覚める気配はない。今でこそ少し落ち着いてはいるが、最初の一週間は特に死ぬんじゃないかと気が気じゃなかった。

 今もその危険が去ったわけじゃないが少しは安心していいとドクターが言っていた。体は衰弱し、体力も落ちているが、命に危険のある状態では無いし、強力な力を使った反動で今は体が眠りながら目覚める準備をしているのだろうと診断された。



 廊下を進み、ある一室の前で止まる。ここ二週間、何度も来た場所だ。エヴァとは別の意味で心配なリンリの寝泊まりしている部屋。

 ブルーバードに着いてから数日後には目を覚ましたリンリだが、気を失う寸前の記憶……つまりはフロリエルにエンリが殺された記憶は残っていた。俺は今の状況やエンリについて一通り話してみたが、逆効果で部屋から出てくる事はおろか、一言も口を聞いてくれなかった。

 どうしようかと手をこまねいているとシエラが『女の子同士わかり合えるかもしれないでありんす』と言って部屋に通うようになった。

 それから一週間と少し。未だリンリが部屋から出てくる事は無いが、大丈夫だろうか……



「よぉ、クロト」


「お、起きたか」



 少し前の事を思い出しながらブルーバードの本体、酒場に入るとマルスとヴァランが居た。もちろんレッグもだ。



「ああ。おはよう」



 人の気も知らずにこいつらは朝から酒か。いや、気にされてもこそばゆくて困るが。



「おう、そうだ。クロト」


「ん?」



 何かを思い出したようにヴァランは手を叩く。今日は少しなまった体を動かしに森へ行こうかと思っていたんだが、何か用事だろうか。



「客人が来てるぜ」



 ヴァランが親指で外を指すので、扉を開けて外に出る。

 寒い冬はもう終わりを迎え、少し暖かくなってきた気持ちのいい風がブルーバードの店内に吹き抜けた。天気も晴れで気持ちがいい。

 一体誰が来たんだろうと外を見渡すと、ブルーバードの敷地の中に一人の女が立っていた。赤い髪を一つにまとめ、風がその髪を揺らす。肌の露出が多く、ビキニアーマーというらしい銀の防具は、太陽の光を受けてキラキラと光っている。

 巨大な斧を担ぎ、丘に立つその姿はどこかの物語に出てきそうだとさえ思う。



「久しぶりだな、アジェンダ」


「ん……あ、クロト! 久しぶりね」



 アジェンダは三年と半年前、この森の近くに生息していたサラマンダーを倒した時に出会った。この間知った超決闘イベントにも参加するオリハルコン級冒険者。実力で言えば俺の知ってる中では上位三名に入ってくる。



「超決闘イベント、聞いたよ」


「あ、ああ……それ……なんだけどね……」


「ん? どうしたんだ?」



 急に決まりの悪そうに、関節が固まったみたいな動きに変わった。



「緊張してんだとよ」



 ブルーバードから出てきたマルスが俺にそう教えてくれる。



「緊張?」



 確かに大観衆の前で帝国最強の剛力将軍と戦うわけだから、緊張ぐらいするか……でもここまでって、〈紅の伝説〉が泣くぞ。



「これでファリオスに負けたらヘタレの伝説と呼んでやるよ」



 大口を開けて笑いながらマルスは再びブルーバードの中に入っていった。



「ぐぬぬ、マルスめ……」


「強い奴と戦えるなら戦いを楽しめばいいんじゃないか? 俺の仲間にレオって奴が居るんだが、ファリオスと戦えるなんて聞いたら踊りだす勢いだ」


「……確かに、そうかも。でも、私がファリオスと対等に戦えるか、不安なのよ」



 オリハルコン級に選ばれてる時点で実力者なのは事実だし、ファリオスとも渡り合えると思うんだがな。でも今回の超決闘イベントは帝国最強の将軍と、冒険者で最高峰の称号を持つ者の一騎打ち。当然、アジェンダに対する期待も高まっているわけだ。



「ほら、前にサラマンダーと戦った時も私だけ気を失ったし……」



 そういえばそうだったな。確か尻尾に弾かれたんだったか。今もその時と同じビキニアーマーを着けている。鎧と言う観点で見れば防御力の殆ど無いそれを好んで着けているのは何か拘りがあるからだろうか。



「装備から見直してみたらいいんじゃないか? 全身甲冑にしてみるとか」


「それだけは勘弁ね。昔全身鎧を使っていた時期があったんだけど、動きにくいしクレセンティーヌは振れないし、良い事無かったわ。それに、この格好にしてから人気が出てとんとん拍子でオリハルコン級まで昇格したのよ」


「見た目でか?」



 アジェンダは非常に大きな胸を強調しながら自信満々な表情をしている。自信があるのだろう。



「ま、エンタメ的な要素がある事は否定しないわ。でも、今は冒険者が世間から見られる事も増えたから、こういった要素も必要なのよ。実際、私はビキニアーマー(これ)を気に入ってるから、都合が良いのよ」



冒険者にとってはルックスと言うのも大きな意味を持つ。指名の依頼なんかはやっぱり功績と人気に左右される部分だから、同じ功績ならより人気な者が選ばれる傾向にある。であればアジェンダの言い分も理にかなっているわけだ。



「なるほど、じゃあせめて新しいものにするとか?」


「それは確かにありね。もう五年近くはこれを使い続けてるし……」



 と、胸の部分を撫でる。よく見ればこれまでの戦いの跡が刻まれており、ボロボロな所が目立つ。



「クロト!」


「お? 噂をすれば……レオ!」



 丁度依頼から帰ってきたらしい。また服が汚れている。



「ん、誰だ?」


「アジェンダだ。今度ファリオスと戦うオリハルコン級冒険者〈紅の伝説〉の」


「……そうか」



 何でも無い風を装っているが、レオの目に闘志が宿るのを俺は見逃さなかった。

 何気なく紹介したが、レオに「目の前の人は冒険者の中で最高峰の強さを持つ人だよ」なんて言ったりしたら。レオがどういった考えに至るのか、容易に想像出来る。これは間違いなく、戦いたいんだろうな。

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