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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第三章 絆愛編

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86話 ”翡翠の騎士”

〈土術 凝土弾〉



 アリスの魔術により浮いた複数の土が凝縮され、強度を上げて放たれる。

 一メートルあるかないか程度の大きさの土が、岩の強度で真っ直ぐに飛んでくるのを私とシエラは左右に飛んで回避する。



「……はあっ!」



〈氷術 雹絶帝砲(エンペラーキャノン)



 ただ避けるだけじゃない。地面を一回転し、すぐにアリスめがけて氷塊を放つ。シエラも三本同時に矢を放った。

 だが、その攻撃はアリスの後ろにそびえ立つ土塊(つちくれ)の巨人によって阻まれてしまう。

 巨人は異能によって命を与えられたも同然。当然自分の意思で動く。そしてその行動原理はアリスへの忠誠。つまり並の攻撃なら、アリス本人は何もする必要がない。

 自分は攻めにだけ集中していればいいって事になる。



「シエラ、あの巨人の目を射抜ける?」


「それはもちろん可能でありんすが……」



 果たしてあの目を撃ち抜いて意味があるのか、と言いたがってるのが伝わってくる。巨人は人と言うだけあって顔の造形にしっかりと目も含まれている。だが、本物の人間のように瞼や眼球の“形”をしているだけでその区別はない。

 例えあの目を撃ち抜いても機能の無いオブジェクトを破壊するだけの可能性もある。



「やって!」


「させないわよ」


「あんたの相手は、私!」



 右手を突き出し、手の平から氷塊を連続で放つ。一つ一つの練度は低いが、それでも氷塊。否が応でもこっちの相手をしなければならない。

 その間にシエラに目を撃ち抜いてもらう。



〈氷術 雹絶帝砲(エンペラーキャノン)



〈土術 凝土弾〉



 氷と土の撃ち合いが続く。

 数、威力においてはほぼ互角……だけど、生成するスピードがアリスの方がかなり早い。無から氷を出す私と、地面の土を操るアリスとでは魔力消費やスピードの点で如実に現れる。



「だったら……」



〈氷術 武器具現 『トマホーク』 氷斧両断二投撃ひょうふりょうだんにとうげき



 手を鳴らすと同時に空中に二本の両刃斧を生成。回転を加えてアリス目掛けて放つ。



「その程度で……」



〈土術 凝土弾〉



 アリスによって放たれた土塊だが、回転のかかった氷斧にことごとく両断され、辺りに散る。



「く……巨人よ!」


「させないでありんすよ」



〈聖術 聖なる一撃(セイクリッド・アロー)



 シエラの放った二本の矢が超高速で巨人の顔へ飛ぶ。

 そのまま進めばちょうど鼻へ刺さる位置を飛んでいた二本の矢は、お互いに引き寄せられ、衝突。その反発を利用して起動を変え、両目に命中。更に聖属性を纏っていた矢は光の爆発を引き起こし、土煙が巨人の顔を覆う。アリスを守ろうとしていた巨人は視界を奪われ、守る対象を見失い、腕の動きを静止させている。



「やっぱり視界を塞ぐのは有効なんだ。今しかない、行くよ!」



 二本の氷斧は左右に分かれ旋回しながらアリスの首へと収束する。あと二秒でアリスの首が飛ぶ……はずだった。

 限りなく首に近づいた時、なんの前兆もなく二本の氷斧は砕け散った。まるでアリスの全身に見えない鎧があるかのように。



「な、どうして……?」


「……! そう、ははは! その程度で私を倒せると思っていたの?」


「一体何をしたでありんすか?」


「ふふ……」



〈土術 凝土雨弾〉



 アリスが指を鳴らすと巨人の体を形成していた土が浮かびだし……一斉に私達に降り注ぐ。一発一発が地面を抉り、枝を折り、時には木をもなぎ倒す。



〈結界術 展開防御壁・五〉



 間一髪のところでシエラの作り出した、五枚の結界によりなんとか直撃だけは防いだ。けど、後ろの馬車は大丈夫かな。エリザベスとゴンザレス、大丈夫かな。



「なんとか防ぎきれそうでありんすよ」


「ありがとう、シエラ」


「それはいいでありんすが……さっきの攻撃はなぜ効かなかったでありんすか?」


「わからない……でも、攻撃がアリスに当たると思った瞬間、少しだけ離れた場所から魔力の気配を感じた。そもそも四魔王のうち、二人だけがこの場に居るっていう認識が違うのかも」


「……相手にもまだ隠している札、もしくは仲間が居るというわけでありんすね



 次第に土の雨も収まり、辺り一帯は土煙に覆われたままだが、音は消えている。シエラも魔力の限界だったみたいで、結界もその後すぐに消えた。

 次に砲撃が来たら、どう回避すればいい……森に紛れてもあの土は木もなぎ倒していたし……



「エヴァ」


「ん?」


「アリスが……居ないでありんす」



 言われて目を凝らすと確かに居なかった。辺りはまだ薄っすらと煙が覆っているが、見間違いはない。さっきまで視界を埋め尽くすほどの大きさで立ちふさがっていた巨人も、その足元で凝土弾を放っていたアリスも、もうここには居なかった。



「巨人は多分、さっきの魔術の媒体に使われて消えた。アリスは……」


「近くには気配を感じないでありんす」


「……探そう、二手に別れて」


「わかりんした。何かあれば空に合図を上げるでありんす」


「了解!」





 戦闘はすぐに始まり、激化した。

 武器を持った有象無象のアンデッド達にテンペスターによる部位破壊で動きを止め、シュデュンヤーの一振りでとどめを刺す。だがこれだけのアンデッドに囲まれていると、一体倒しても次の一体が……と次々に現れてくる。

 周りに漂う腐臭に目も鼻も次第にやられていき、疲労は溜まっていく。



「あいつは高みの見物かよ」



 リヴァの出した特殊なアンデッドは少し離れた場所から俺を見ているだけだ。他のアンデッドより特別な感じはするけど、よくわからない。

 どこか懐かしさを感じるのはなんなんだろう。



「この……邪魔だ!!」



 シュデュンヤーを振るい、群がっていたアンデッドを斬り伏せる。それと同時に自分から雷化・天装衣(ラスカディグローマ)を解除する。このまま使ってても魔力消費が激しいだけだ。



「なるべく体力は温存したいんだがな。開け!! 地獄の門よ。来い、地獄の苦しみ……」



〈衆合地獄〉



 右手のあざが光り、地獄の門が開く。すると、ゴゴゴと鈍い音が辺りに響き、アンデッド達は動きを鈍らせる。

 そして次々に膝を付き、倒れていく。それは、ただ倒れるのとは様子が違う。まるで何かに押さえつけられるように地面に突っ伏しているのだ。

 重力を何十倍にも引き上げ、押し潰す地獄。これまで呼び出した等活地獄や焦熱地獄とはまた違った主旨の地獄である。



「お前はしっかり避けるんだな」



 特殊なアンデッドは地獄の門を開いた瞬間に何かを感じ取ったのか、地獄の範囲外まで下がっていた。やはり他のアンデッドに比べて知性がある。どこか俺の力を見極めているような節もあるし、何より地獄の範囲を理解している。

 周りで重力に押し潰されているアンデッドは次第に肉が爛れ、骨が砕け、血と肉くずとなっている。

 これで死ぬ。焦熱地獄だと木々をも燃やしてしまう可能性があるので今回は衆合地獄にしたが、問題なかったみたいだ。



「本当はこれ(衆合地獄)でお前も倒すつもりだったんだが、とりあえずはこれで一対一だな」



 俺は特殊なアンデッドに剣を向けながら近づく。



「随分と力を付けたみたいね」



 特殊なアンデッドは逃げる事もせず纏っていたローブを取り、投げ捨てた。ローブを外した事で緑色の髪がそれに合わせてなびく。異様に目立つピエロの仮面に目が行くが、この雰囲気。

 服こそただの村娘のような服ではあるが、この声と緑色の髪。



「……盲点でした。貴女だけは無いだろうと、勝手に心の中で決めつけていました」


「私も、こんな形での再会は望んでなかったわ」



 アンデッドは最後に仮面を外し、それも投げ捨てた。

 翡翠の戦士と呼ばれ、魔王に匹敵する強さを持ち、世間を騒がせていたのは天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)元団長、イザベラ。

 俺の命の恩人にして師匠、帝国トップクラスの光属性の使い手。



「お久し……ぶりです……イザベラさん」



 自然と涙が目から溢れる。

 今までかけられていた心の枷が外れたかのように、どんどん溢れてくる。相手がアンデッドで、今は敵だと言う事も頭の中では理解していた。それでも涙は無意識のうちに溢れてくる。

 そして次第に悲しみや嬉しさからイザベラさんをも利用したリヴァへの怒りに変わり、そして最後にある問題に行き着いた。



 俺は、イザベラさんには勝てない。



 単純な力量戦でも経験においても、そして何より今のこの感情を抱いている俺では、イザベラさんには及ばない。自分の感情すらまともにコントロールできていないのにイザベラさんに勝つ事なんて、それも殺す事が出来るわけがない。



「逃げなさい、クロト」


「え……?」


「確かに力もつけて強くなったみたいだけど、その様子じゃ感情面に足を引っ張られるわ。私だって死んでなお生きている今ですら気持ちが悪いのに、クロトまでこの手にかけてしまうのは……とても耐えられない」



 確かにここは逃げて、リヴァを倒すのが先決かもしれない。

 リヴァを倒せばリヴァの異能で動いているアンデッドは機能しなくなる。つまりイザベラさんも解放されるわけだ。



「確かに……その通りかもしれません」


「この体、喋ったり動いたりするのは私の意思なのに根本的な目的意識だったりこれからの行動を縛られている……上手く言えないけどかなり気持ち悪いわ。早く行って! クロトの雷なら私は追いつけないわ」



 今まで何十というアンデッドを倒してきた。

 アンデッドの増殖法はリヴァの死魂召喚とアンデッドの細胞を体内に入れられる事……つまりはアンデッドに攻撃を食らう事がアンデッド化への一歩なわけだ。そんなアンデッド達を俺は今まで何十何百とこのシュデュンヤーで倒してきた。

 その中にはもしかしたらリブ村の人も居たかもしれない。それでも見た目はゾンビだったし、とても考えなかった。もしも最愛の人がアンデッドになったら……なんて。

 今ここで逃げ出せばイザベラさんと戦わずにイザベラさんを解放出来るかもしれない。だけど……



「俺は……逃げません」


「…………」


「イザベラさんを倒す事が、イザベラさんの解放になるのであれば、僕は迷わず剣を振ります。魔王の傀儡にさせたまま、置いて行ったりはしません!」



 俺は改めて二本の剣を握り直し、戦闘態勢に入る。

 イザベラさんには三年修行したとは言え、良くて互角……悪ければ三年前と何も変わらない状態だろう。それに俺は多分……イザベラさんを斬る事にまだ躊躇いがある。だが、ここで逃げるなんて選択肢は俺には無い。

 俺は駆け出し、イザベラさんとの距離を詰める。



「……大人になったわね。考え方も、感情に囚われるだけじゃない」



 イザベラさんもその腰に収めてあるローズレインを抜き、俺に備える。



〈豪傑流 撃鉄〉



 軽やかに跳躍したイザベラさんが、上から剣を振るい、パワー押しの撃鉄を放つ。

 考え事をしていただけに反応が遅れ、テンペスターで斜めに流したものの、体は衝撃で左に逸れ、膝をついてしまう。



「今考え事したでしょ? 相変わらず考えに入ると周りが見えてないわよ」


「返す言葉もありません」



 お互いに腰に剣を構え、視線が交差する。直後……



〈豪傑流 斬鉄砲〉



〈雷帝流 雷斬砲〉



 力任せの斬撃と雷の斬撃がぶつかり合い、せめぎ合う。そして行き場を失った斬撃はお互いを破壊しながら爆散し、消滅する。



「この感じ、懐かしいです」


「そうね、生きていてくれて本当に嬉しいわ」


「三年前……もうすぐ四年になりますか。あの時の話は聞きました」


「私が死んでからもうそんなになるのね」


「…………」


「まさか私が死んだのはクロトのせいだとか思ってない?」


「でも、実際……」


「私は私のした事に誇りを持ってるわ。その末に死んでしまったのならそれは仕方の無いこと。誰のせいでもない」


「……はい」


「また泣く気? そんな暇はないわよ!」



 煙を突き破り出てきたイザベラさんは再び腰に剣を構えている。恐らく断斬が来る。だったら……



〈雷帝流 雷千剣〉



 千の稲妻がそれぞれ前方に迸る。だが、イザベラさんはそれを軽く避け、接近してくる。それを狙っていた。



〈雷帝流 雷霆螺旋(らいていらせん)



 テンペスターを振るうと雷の竜巻が発生し、イザベラさんを閉じ込める。

 動きを止められたイザベラさんは一瞬怯んだが、それでも雷霆螺旋を破ろうと再びローズレインを力強く握る。破られる事は想定内。俺の狙いは破られた瞬間。

 テンペスターもシュデュンヤーも鞘に収め、テンペスターのみを握りその瞬間を逃さぬように構える。



〈豪傑流 断斬〉



〈雷帝流奥義 紫電一閃〉



 イザベラさんの技が雷を打ち破るその瞬間、一気に懐まで潜り込み、テンペスターを抜き天へ向ける。天から呼び寄せた小落雷が紫へと色を変え、落ちてくる。

 その落雷に合わせ剣を真下へ振るい、弧を描きながら斬り付ける。



「……!!」



 落雷を伴った一撃は対象物を切り裂くだけでなく弾き飛ばし、焦がす。踏み込みの衝撃でイザベラさんから見てかなり後ろまで来てしまったが、手応えはあった。

 腕ぐらいは飛ばしていても不思議ではないはず、だが……



「やるわね……ここまで成長してるとは思わなかったわ」



 煙の中から現れたのは“無傷”のイザベラさんであった。

 アンデッドは土ですら自分の体の一部とし欠損している部分を補うと聞いたことあるが、リヴァのいないこの場では無理なはず。



「忘れてないかしら。私は光属性だって持っている」


「〈聖域(サンクチュアリ)〉……」



 俺の全身全霊を賭けた一撃も、結界術の完全防御の前には無力だった。

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