84話 爆殺剣
「エンリとリンリであの刀を持った男を。アリスは金髪の氷術使いと青髪の弓使いを殺れ」
「了解」
「わかりました」
それだけ言い終えるとリヴァは瞬時に姿を消し、道の左右に生えている木の枝から枝へ飛び移っていく。クロトの後を追うのだろう。
残ったエンリとリンリ、アリスはリヴァの命令通りそれぞれの相手に立ち塞がる。
「さぁ始めましょうか?」
「ここで終わらせる! 魔王!」
「リンリ、気を引き締めて行け」
「うん! 頑張ろう」
「女を斬る趣味は無いんだがな……」
「そんな事を言っていると、足をすくわれるでありんすよ」
お互いがお互いにそれぞれ狙いを付け、魔王達とレオ達の戦いが始まる。
◇
〈雷術奥義 雷化・天装衣〉
飛びかけた意識を無理矢理戻し、空中で雷化する。更にテンペスターを持ったまま腕を変形させて木を掴む。最近編み出した形状変化。腕を雷に性質変化している間、何もずっと形を人間の腕に留めておく必要はない。実際、体の形を細い稲妻の様に変えて、高速で移動する雷転移なんかでは既に形状変化は行っている。
それを腕だけに意識的に起こす。
鞭の様に伸ばした腕を木の幹に巻き付けて勢いを止める。阿吽の太刀の勢いがあまりにも強かったせいで、止めるために巻き付けた木の幹が少し抉れる。
腕を元に戻すときの伸縮性を利用して逆に木の幹に接近。横に伸びた木の枝に乗り、巻き付けた腕をほどき元に戻す。
「ふぅ……それにしてもすごい威力だな」
改めて獄気硬化を解除し、腹の様子を見る。外傷はないが、内部に響いてくる衝撃が凄まじく、獄気硬化を使ってなければ体を引き裂かれて終わっていたし、生半可な防御じゃ打ち破られていた。
エヴァ達はどうなった。かなり距離を離されてしまった。俺が居なくなったことで数的に不利になっている。急いで戻らないと。
改めて顔を上げるとかなり遠くに馬車が見える。
目を凝らしていると、視界のすぐ近くで何かが動いて……直後俺はバランスを崩し、木から落ちた。いや、違う。木が、輪切りにされて崩れ落ちたんだ。
崩れ落ちた木の影からリヴァが現れ、俺の体を十字に斬り裂く。
今までの戦いで雷化・天装衣状態の俺に、斬撃が例外を除いて効かない事をリヴァが知らないはずない。
体を元に戻そうと意識を集中させたとき、切り口が発光し……
「爆殺剣」
輪切りにされた木や周りに生えた木、そして俺の体は地面に巨大なクレーターを残し、爆散した。
◇
雷化・天装衣や獄化・地装衣、もとい古代魔術を使用している時、自然エネルギーを捉えられる打撃や斬撃以上の攻撃は無効化される。ただし、体は肉体という概念を失い、体質を属性へ変えている為、強い衝撃を与えらるとバラバラに散ってしまう。
その場合意識は飛び散った体のうち一番大きい体の欠片に移る。
爆散した体は雷になって飛び散り、あたり一体に散らばった。
俺の意識があるこの雷だけが俺の本体になり、残りの断片はただの雷に変わって霧散してしまう。
俺はすぐに雷を膨張させ人型に戻り、リヴァがいるであろう方向を見定める。煙に囲まれ、姿は見えないがそこに居るのは確かだ。
「今のなんだ? ただの剣術じゃ無いだろ……」
「ふぉっふぉっふぉ。わしだって魔術が使えるぞ? お主の剣術を見て編み出したんじゃ」
よく考えればアリスだって土術を使っていたし、フロリエルだって闇術を。フードの火傷男も爆炎術を使っていた。
こいつの剣が凄まじく、そっちにばかり気を取られていた。
「俺の知る限り今の爆発を起こせる魔術があるとは……」
「爆炎術。リッ……いや、あの者と同じ爆炎術じゃよ。剣に炎を纏わせた必殺の剣、名付けて爆殺剣」
「なるほどな……だったら俺も全力の全力で行かなきゃな」
俺はテンペスターを抜き、二刀流で構える。単純な剣術勝負ならリヴァの方が一枚上手だ。だが、雷化・天装衣に加えて地獄の力、それらを組み合わせた戦法なら、リヴァ相手にも戦える。
右手のテンペスターにはただの雷を、左のシュデュンヤーには黒雷を纏い、剣を交差させる。
〈雷帝流 白黒雷多連斬撃・獄〉
一気に踏み込み、リヴァとの距離を詰める。交差させたままの二本の剣をリヴァに向けてぶつける。
当然の如く杖に仕込まれた刀で受け止められるが、そのまま雷斬砲の要領で吹き飛ばす。若干飛んだリヴァはその勢いを利用して後ろに飛び退き、森の中に入っていく。
俺は体を雷に変え、木の幹を蹴ってジグザグに飛び、リヴァの頭上を取る。
「はぁぁっっ!!!」
再び二本の剣を頭上から振り下ろすが、リヴァは既に回避しており、二本の斬撃が地面を抉る。続けざまにリヴァの回避先に、畳み掛けるように連撃をかける。
右手で振り下ろしたテンペスターをガードされ、続けてシュデュンヤーの突きを放つ。これまた軌道をずらされリヴァには届かないが、体勢が崩れた。
そこにすかさずテンペスターの一撃を叩き込む。これも刀で弾かれたが、その時リヴァ本体が無防備になった。
「ここだぁぁ!」
シュデュンヤーの突きがリヴァの肩を捉え、血が吹き出す。リヴァと一対一で戦える機会はそう巡ってこないだろう。ここで確実に倒しきってしまいたい。
俺はシュデュンヤーを握る手にさらに力を込め、そのままねじ込んでリヴァを押す。
「ぐ……やるようになったのぉ」
「おかげさまでな」
「この距離ではわしも危ないが……しかたあるまい。爆殺剣!」
言葉の途中でリヴァの意図を感じ、慌てて離れようとしたが、時既に遅し。リヴァの刀が俺の右腕を突き刺していた。
ダメージは無い。痛みもなければ血も出ない。だが、爆殺剣と言うことはさっきと同じく……
直後大爆発を引き起こし、右腕が吹き飛び、体も吹き飛ばされた。
◇
アリスとエンリ、リンリ対私とシエラにレオの三対三の戦いが始まるかと思えば、戦いはすぐに分散した。クロトを吹き飛ばしたエンリとリンリはレオに狙いを定め、得意のコンビネーションでレオを圧倒している。
残ったアリスは私達を睨みつけ、その場に留まっている。
「金髪のあなたとは以前会っているけれど、そっちの青髪の子ははじめましてね。仲良くしましょ?」
「ようざんす!」
レオ達は森の中に入ったらしくもう周りに姿はない。シエラは矢をつがえ、高速で矢を放つ。
放たれた矢はアリス目掛けて真っ直ぐに飛ぶ。だが、アリスは特別驚いた様子も無く、頭を少し傾けて躱す。
「この弓の使い方……思い出すわね。東の地、弓の名手が集う里と言われる村があったの。そこは滅んじゃったんだけど、あなたとよく似た弓の使い方をする人が多かったわ。まぁ……滅ぼしたのは私達なんだけど」
シエラはアリスの言葉に目を見開き、動揺を隠せていない。
そう言えば、シエラはハンター隊に教わる前から弓の技術がすごく高くて、住んでいた村で教わったんじゃないかって言っていたけど、もしかしてその村がシエラの……
「シエラ?」
「…………」
息も上がってるし、私の声も聞こえてない。このままじゃ……なら!
〈氷術 雹絶世界・攻〉
私は地面に手を付け、地面を凍らせる。
今までの雹絶世界と違い、地面を凍らせるだけじゃなく、アリスの足元まで凍らせると氷柱を隆起させる。氷柱が下からアリスを串刺しにしようと天へ伸びる。が、アリスはすぐに察知し、横に飛び退いて回避する。そこへすかさずシエラの矢が飛ぶ。
アリスは手を地面につけ、土を盛り上げて盾を作り出す。盛り上がった土はアリスを覆い隠し、矢から守った。
「…………っ!」
この氷のコーティングを破って土を盛り上げられた。腐っても魔王、強い。
魔術なしでも身体能力が高いし、土術を完全に使いこなしてる。強力な異能を持っているはずだし、全く油断出来ない。これが魔王。
「どうする? シエラ」
隣を見るとシエラは落ち着きを取り戻し、矢筒に手を伸ばしている。
「厄介な相手でありんすな。少し、わっちにやらせておくんなまし」
「うん……でも大丈夫?」
シエラは一歩前に出ると、矢を三本同時に番える。真っ直ぐアリスだけを狙い、集中力を高めている。場の空気が一気に緊張した。なんて集中力。
「神眼発動」
〈月の女神の投擲眼〉
「集え、月の光よ……」
シエラは左目を閉じ、右目の神眼を発動させる。金色に輝く神眼は瞳の中に薄っすらと魔法陣が描かれている。
狙いを定めた射撃が放たれ、三本の矢は空を斬り裂きながらまさに光速で駆け抜ける。本来ならアリスを貫くであろうその矢はそれぞれが軌道を変え、アリスを中心に等間隔で円形に並ぶ。矢じりをアリスに向けたまま、完全に静止している。
〈月之女神式魔法陣展開・女神の怒り〉
「聖なる一撃より更に上位の魔術でありんす……」
三本の矢からそれぞれ展開された三つの魔法陣は、アリスを取り囲み、逃げる間もなく発動する。光の柱が頭上からのしかかる様に降り注ぎ、たちまちアリスを覆い隠す。
光内はかなりの圧力がかかっているんだろう。光の降り注ぐ衝撃で大地が低く震えている。
神眼“月の女神の投擲眼”の力で聖なる一撃の威力を極限まで高め、月之女神式魔法陣と合わせて放つ一撃。神眼を使用する必要がある為、実質シエラ専用の魔術ではあるけれど、聖術の奥義である聖なる輝き以上の威力を誇る魔術。
後方支援に徹していたシエラがここまでの魔術を使えるなんて知らなかった。
「すごい……シエラ!」
「はぁはぁ……これで倒れてくれるとありがたいでありんすが、そうはいかないでありんすね」
「え……」
見ると砂煙の中から確かに強大な力を感じる。まだ生きている。流石は魔王と言うべきか……あの一撃でも倒れてくれれば楽だったけど、そんな簡単に勝てる相手なら魔王なんて呼ばれてないよね。
「ふふふ、すごい一撃ね。流石の私も死ぬかと思ったわ」
砂煙の中から姿を表したアリスは全身ボロボロで確かに先程の一撃を食らったと思わせる格好をしていた。だが実際にはそこまでのダメージは受けておらず、余裕の笑みを浮かべていた。
「嘘でしょ……」
あの様子じゃアリス自身には殆どダメージが無い? いや、そんなはずはない。シエラが放った一撃、女神の怒りの魔力は本物だし、威力も桁違いに高い。
「どうしてって顔してるわね。答え合わせと行きましょうか? 私の異能と共に……」
〈土術奥義 巨兵創造〉
アリスの足元が十メートル以上盛り上がり、まるで人が膝立ちしている様な姿が形成される。遠目から見れば巨人が膝を付いている様にしか見えないだろう。
「こ、これは……」
「なんでありんすか……?」
使用したのは土術の奥義である〈巨兵創造〉。ただこの術はただ単にゴーレムを作り出す術のはず。でもこの威圧感や気配はまるで本物の生物。
ゴーレムよりも精密で、本当に人をそのまま巨大化させたような……
「これが私の異能“自我発現”。無機物に自我を与える。おまけに私へ完全忠誠よ」
「それって……」
「さっきの一撃はこの子を作って防御したのよ。もちろんいくらかダメージは負ったけどね……」
てことは、あの巨人を倒すのに女神の怒りと同等の一撃が必要って事になる。アリスが同時に何体あれを作り出せるのかわからないけれど、ただ存在しているだけで十分に厄介。アレがアリスの盾になったり、アリスとは別に攻撃してくるのならばこっちは無視出来ない。そうなればあれを倒す為にどんどん魔力を持っていかれる。
「考えても仕方ないでありんす」
〈聖術 聖なる一撃〉
シエラが放った矢は光を纏い、天を駆ける。光が鹿を象り、巨人の上にいるアリス目掛けて飛んでいく。
「ふふ、無駄よ?」
〈異能解放 自我発現〉
アリスの目が光ると、鹿を象った矢がアリスを素通りし、大きく回っててこちらに向かってくる。鹿は避ける間も無く地面に着弾し、私とシエラは衝撃で後ろに下がる。
「ふふふ、はははは! 楽しみましょう? この勝負を」




