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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第三章 絆愛編

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81話 蠢く闇の中で

「……ロト! 起きてーー!!」


「うおっ!」



 突然腹に何かがのしかかって来た苦しみで俺は目を覚ます。見るとベッドで仰向けに寝ている俺の上でエヴァがバタバタと暴れていた。



「やっと起きたー!」


「あ、おはよう!」



 確か宴会をしてて、途中でエヴァを寝かせた所までは覚えてる。その後、結局寝ちゃったのか。起き上がって周りを見てもレオとシエラは居らず、二人だけだった。



「レオとシエラはどうした?」


「さぁ? 下で寝てるんじゃない?」



 エヴァもさっきまで寝てたらしい。



「そんな事より依頼に行こう!」


「一日ぐらい休んでも……」


「時は金なり……という言葉を知らないのか!」



 口調の変わったエヴァが人差し指で俺を指す。



「……そうだな。休んでる暇は無いしな!」


「うん!」



 下で眠っていたシエラと未だナイアリスと飲み比べしていたレオを引っ張りながら俺達は冒険者ギルドに向かった。

 途中女将さんとフィールに出会い、馬鹿騒ぎした事への謝罪をしておいた。女将さんは大笑いしながら「久々に楽しかった」と喜んでくれたのが意外だった。フィールもどうやらこんなに楽しかったのは初めてらしく、冒険者たちとひとしきり馬鹿騒ぎして未だに眠っているようだ。

 そんなこんなで冒険者ギルドに向かうと……



「あ、クロト様! ちょうどお話があったんです」



 と、受付に行くなり話が始まった。

 簡単に言えば昨日の報酬についてと、昇格についての話だった。

 俺達は殆ど耳を取らなかった為、報酬は出ないはずだったが、他の冒険者の証言や冒険者ギルドから信頼の厚い〈シルク・ド・リベルター〉のメンバーである雨刃達のおかげで報酬が出る事になったらしい。



「伝説級魔物の討伐、巣の破壊、その他にも多大なる功績を称え、金貨二百枚を贈呈します」



 二百枚。いきなり大金持ちだ。



「ありがとうございます!」



 特に驚いた様子も無く、受け取れるエヴァはすごいな。でも、元公爵の出だから大金を見る機会ってのもあったのか?



「そして昇格の話です。ギルドマスター直々の判断でクロト・アルフガルノ様がブロンズからミスリルへの昇格、エヴァリオン・ハルバード様、レオ様、シエラ・アグリアス様はブロンズからゴールドへの昇格となります」



 ブロンズからアイアン、シルバー、ゴールドを飛ばしてミスリル級。オリハルコンの一つ手前だ。

 雨刃やリンと同格。いくわなんでもいきなり過ぎないか。



「それに伴い、クロト様御一行のパーティもミスリル級へなります」



 そうか。確かパーティ内で一番位の高い人のものが反映されるんだったな。



「どうしてクロトだけミスリルなんだ」


「そりゃ、直接エンペラーオーガ倒したからでしょ」


「納得いかねーー」


「納得行かなくても依頼には行くでありんすよ」


「……依頼、行くか」



 雨刃とリンが「今回勝てたのはクロト達が居たからで、もしいなければ全滅も有り得ていた」とギルドマスターに直接訴えてくれたことで、異例の昇格が受理されたそうだ。当人達からは口止めを厳しく言い渡されたそうなので、「雨刃さんとリンさんには内緒ですよ!」っと受付嬢はウィンクしながら教えてくれた。





「ふぅぅぅぅぅん……」


「どうされたのですか?」



 北の大陸に点在する廃古城のうち、リヴァ達四魔王が使っている城とは別の城にて、唸りながら水晶を眺める白衣姿の男と、それを傍らで見守るクロコダイル男が居た。

 クロコダイル男とは、黒光りする鱗を全身に持ち、口、牙、爪、尻尾……どこ取ってもクロコダイルであるが、形状だけは人間だった。筋肉質な体付き故に普通の人間よりはかなり大きく、半竜半人のリザードマンに似ている。



「どうやら被験体八号が死んだようだね。しかもブロンズの少年相手に」


「そ、それは真でありますか」


皇帝鬼(エンペラーオーガ)、僕が七号までに得た知識をフル活用したまさに最強の化物……だったのに」



 この男の名はフランケンポール。四魔王の上に立つ大魔人と肩を並べる魔人であり、皇帝鬼(エンペラーオーガ)の作成者でもある。

 フランケンポールは『改人造魔』……人や魔族を媒体として改造魔物を作り出す異能を使い、造魔軍団を作り上げようとしていた。雨刃を手こずらせ、クロトですら地獄の門を開く事でやっと勝利した皇帝鬼(エンペラーオーガ)は彼にとって初めての成功作だったのだ。

 因みに、三号から七号までは生物として、もしくは戦力として決定的な欠点があり、運用するには至らなかった。

 話を戻して、傍らに立っているクロコダイル男の名はアリゲイン。アリゲインはフランケンポールの被験体一号であり、人間と二級魔物クロコダイルの改造魔物である。

 何故一号が成功しているのに八号までを失敗作としているかと言うと、アリゲインは純粋に半人半魔。何の特異性も持ち合わせていないただのキメラだからである。研究の助手とするだけならアリゲインで十分のため、処分していない。



「皇帝殿は確か、ここに襲撃を仕掛けて来た魔族を媒体にされているんでしたよね」


「うん、恋人を暴走した造魔に殺されたとか言ってたかな」



 皇帝鬼(エンペラーオーガ)は魔族を媒体とし、あの辺り一帯を収めていた小鬼王(ゴブリンキング)。それにフランケンポールが実験で使わずに残っていた将軍鬼(ジェネラルオーガ)をかけ合わせた傑作。フランケンポールにとっては自信作だったのだ。



「皇帝殿が……相手は?」


「どうだろうね。皇帝鬼(エンペラーオーガ)に仕込んでおいた意送受魔石から届いた最後の意思は『俺がこんなブロンズ程度のガキにぃぃ……』となっている」


「ブロンズ……人間の大陸で最弱の位」


「まずは情報収集……皇帝鬼(エンペラーオーガ)は伝説級にも匹敵する実力を持っていたのだから倒されれば当然話題になるはず。見つけ出して、観察、実験がしたい……」



 白衣を翻しながら引きつった薄気味悪い笑顔で妄想を膨らませる。

 彼の頭の中はある強い信念とそれを成す為の非人道的な計画の数々、そして人を人とも思わぬ考えしかあらず、その狂気の笑みにフランケンポールを慕うアリゲインですら若干の恐怖を抱いている。



「アリゲイン、すぐに行ってくれ。そして必ず見つけ出して、ここまで連れてくるんだ」


「はっ……!」



 突然、声色が真剣なものに戻ったフランケンポールの命令にアリゲインは即答し、暗い廊下を通って外へ向かう。

 元はフランケンポールに慕って助手を務めていた男の成れの果てであるアリゲインはその記憶をも無くしたままフランケンポールにただ従う。

 先人達はフランケンポールを『厄災』と呼び、四魔王や大魔人よりも強力かつ卑劣極まりないと警戒していた。その魔人が次の狙いをクロト達に定めた。

 これから巻き起こる戦いを引き金に巨大な敵が動き出す。





 そしてフランケンポールが動き出した一方で、この者達も動き出していた。

 魔族領。とある古城にて。



「命令通り大陸の各地を襲ってはおるが、具体的な理由はあるのか?」


「今更何を言っている、リヴァ。俺達の目的は帝国を……」


「それなら一気に帝国に襲撃を仕掛ければいい。ちまちまと襲う必要は……」


「ひぇひぇひぇひぇひぇ、いいじゃないですか。人間の悲鳴が聞けるのですから」


「黙っておれ、フロリエル。お前さんの恨みもわかるが……」


「人間への怒りを忘れたのか? リヴァ」



 その時、コツコツと言う足音と共に一人の男が部屋に入ってきた。



「だ、大魔人様!」



 四魔王全員がひれ伏す。



「人間に何をされた? お前達は人間によって蹂躙された。ならば今度は我々が、人間を蹂躙する番だ。リヴァ、フロリエル……忘れたわけではあるまい?」


「ひぇひぇひぇひぇひぇ、勿論です」


「……勿論です」


「そして、リヴァ。なぜ各地を襲うのか、と聞いたな。理由は今言った通り、より多くの苦痛を、絶望を人間に味合わせる。そうしなければ我々の雪辱は晴らせない。そしてその裏で、一気に墜とす為の準備も並行している。……負のエネルギーを、集めているのだ」


「負の……エネルギー?」


「そうだ。憎悪、怒り、絶望……人間の出すこれらの感情は良質な負のエネルギーとなる」



 男は懐から一つの玉を取り出した。

 半透明の玉だが、中には黒く、おどろおどろしい何か(・・)が渦巻いている。



「大陸に溢れる負のエネルギーはこの玉に蓄積される。そして負のエネルギーが十分に溜まり切った時、永遠の王〈永竜 エターナルドラゴン〉が復活し、我々の最大の切り札となる」


「エターナル……ドラゴン……」


「ひぇひぇひぇひぇひぇ、一体どれだけ強いのか……」


「その為にはもっと必要だ。憎悪が、怒りが、絶望が……」


「深いお考えがおありの事だったとは露知らず。失礼いたしました」



 リヴァは更に深く頭を下げる。



「構わん。少し話がある、来い。リック(・・)


「はッ!」



 黒のマントを身にまとい、左頬に大きな火傷の魔王のリーダーが応える。





「その体になってから随分経つが、もう慣れたか?」


「はい、かなり」


「そうか、では本題に入るが、話は二つある。一つ目は、アリスの奴隷であるエンリとリンリを殺せ」


「……! 失礼とは思いますが……何故?」


「三年前にクロト達と接触していた事がわかった」


「……」


「それだけでは無い。奴らは元々奴隷紋で従えているだけの存在だが、その実力は敵に回ると面倒な次元に達している。いつアリスが死に、奴隷紋が解除されるともわからん。そうなった時に使役してきた我々へ反逆してくる可能性は十分にあるだろう。あの双子が敵に回るぐらいなら、殺してしまう方が得策だ」


「……お言葉ですが、いずれ殺すにしてもまだ戦力として手放すのは惜しい状況ではないでしょうか?」


「その心配もわからんわけではない。しかし、こちらの戦力も最早あの二人の有無に左右されない次元に到達している。折を見て魔王達にも話そう」


「……わかりました。ではあの双子はここで始末を」


「ああ、そして二つ目の話だが、リヴァとアリスの動向に注意せよ」


「……? それは一体……」


「その昔、リヴァの家族は人間に蹂躙された。その憎しみから俺の配下に入ったわけだが、ここに来て少しずつその気持ちも揺らいでいる。そしてアリスだが、あいつはエンリ、リンリと長く居すぎた。死を命じれば反旗を翻して来るとも限らん。采配はお前に任せるが、あの二人の価値は双子とは別格だ。失う事は許さんぞ」


「……御意」





「アリス」



 四魔王のリーダーが大魔人との会話を終え、古城内に戻ってくる。残りの三人はそのまま待機しており、先程と同じように机を囲んでいる。



「なに?」


「大魔人様と話し、決まった事がある。突然ではあるが、エンリとリンリを……殺せ」


「……!?」


「……理由は、なんじゃ?」


「あの二人がクロト達と接触していた事がわかった。奴隷紋があるにしても万が一もある」


「ひぇひぇひぇひぇひぇ、面白くなってきましたねぇ」


「どうやら向こうの大陸で奴らの動きが活発になって来たらしい。二年前のヴァント攻防戦を機に再び姿を消していたが、向こうから出て来てくれたのは好都合。ここで確実に消しておきたい。その戦闘に乗じてあの双子もそこで消しておけ。この作戦はそうだな……アリス、リヴァ。お前達で行け」


「…………」


「……わかったわ」


「その前に一つ、試したい事があっての。準備する時間をもらうぞ」


「……好きにしろ」



 アリスとリヴァは立つ上がり、部屋を出て行く。



「……フロリエル」


「はい?」





「エイナさんっ!」



 エルトリア帝国城下町、騎士団区にある天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)の兵舎。

 元々はイザベラが使っていた騎士団長室にて、団長のエイナが書類をまとめていた。別に家を持っていたイザベラがこの部屋を使うことはあまり無く、物置となっていたが、三年前からエイナが使い始めた。まだ物置の名残があり、部屋の壁に埋め込まれた本棚に入り切らない本や紙の束がそこら中に転がっている。

 そこへ一人の団員が転がり込んでくる。



「どうしたの? そんなに急いで」



 扉を勢い良く開けたのはエイナより薄い茶髪をポニーテールにした若い団員だ。

 兵務は終わっていたため、鎧を着ておらず、コート型の制服を着ている。白を基調とし、背にはペガサスがあしらってある。



「それが……はぁ……はぁ……敵襲ですっ!!」



 敵襲という言葉に対応するかのように爆発音が響いた。



「うそでしょ……でも、生きて帰るつもりはないようね。ここはすぐ隣に龍騎士団(ドラゴン・ナイツ)の兵舎もある。……相手は?」


「それが……バンリ様やファリオス様が相対したとされる魔王を含む二人組です!」


「四魔王が二人も……!? ……すぐに戦闘態勢に移りなさい!」


「はいっ!」



 目を見開いたまま団員が出ていくのを見届けエイナ自身も鎧の準備を始めた。



 そしてそこより少し離れたとある部屋では……



「な、何者!?」



 壁が破壊された事で土煙が舞い、その中に姿は見えずとも威圧感を放ちながら何者かが部屋に入ってくる。

 それを鎧ではないコート型の制服に見を包んだマナティアが腰にさげたローズレインを今にも抜かんとして構えていた。襲撃された部屋はマナティアの部屋だった。



「四魔王が一角、『死者ノ王』リヴァ……と言えばわかるじゃろうか」



 襲撃者(リヴァ)は名乗ると同時に姿を現す。

 いつも通りの白いコートに白いマフラーの白髪老人。そしてそれとほぼ同タイミングで別の場所でも爆発音が起こる。



「四魔王……!! しかもその姿、三年前テリア山でクロトとエヴァちゃんを襲った……!!」


「……懐かしい話をするのぅ。確かにその通りじゃ」



 その言葉を聞くとマナティアは眉間にしわを寄せ、いつでも飛びかかれる程に力を入れ、身構えている。

 だが、その一歩は踏み出さない。

 マナティアは二年前、天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)に入団してからイザベラに教えてもらった事を自ら応用させ、遂には聖炎の騎士と呼ばれる程にまで成長した。だが、元の性格からか慢心もせず、格上相手に飛び込む程愚かでもない。

 彼女とリヴァの間にある絶対的な実力差を本能的に理解しているのだ。



「そうかっかするでない。別に命を取りに来たわけではない」


「な、なにを……」


「別の場所で暴れておるアリスも所詮はただの引きつけ役じゃ」



 そう言いながら、刀が仕込まれている杖をつき、数歩前へ出る。それに合わせてマナはジリジリと後ろへ下がる。



「目的はお前さんのその、腰の剣じゃ」


「……!? これはイザベラさんの形見……なんの目的で狙う!」


「知らずとも良い」



 リヴァはゆっくりと仕込み刀を抜き、威圧に加えて殺気をも撒き散らす。殺気に怖気づき、戦意を喪失すれば命までは取らないというリヴァの算段だった……が。



〈聖炎術 不死鳥(フェニックス)



 マナティアはローズレインを引き抜くと同時に突きの動作を行い、それに合わせて刀身が発火。白く輝く炎は鳥を型取り、リヴァへ飛んで行く。だがリヴァは避けようともせずに刀を構える。



「爆殺剣」



 一際大きな爆発を巻き起こし戦闘は終了した。

 爆炎が収まった頃には既にリヴァの姿はなく、別の場所を襲撃していたアリスも消えていた。マナティアは部屋に倒れており、かすり傷こそあるものの、ほぼ無傷に近い状態で倒れていた。

 だが、その腰にローズレインは無かった。

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