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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第三章 絆愛編

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80話 勝利の宴会

 次に目を覚ました時には全てが終わっていた。

 後で聞いた話では、俺が気を失っていたのはほんの二、三時間程度だったらしい。その間にホブゴブリンとスペルゴブリンの残党は全て倒され、ディーナス達の治療も、応急処置ではあるものの完了したようだ。



「……? エヴァか」



 まだだるい体の上でエヴァが寄りかかるようにして寝ていた。どうやら俺に付いていてくれたらしい。

 レオとシエラは……近くには居ないな。レオとシエラだけじゃなく、救援に駆けつけてくれた他の冒険者パーティも居ない。どこに行ったんだろ……?



「ちょっと、ごめんな」



 俺はまだ動きの鈍い体に鞭打って体を起こす。寄りかかっていたエヴァを起こさないように起き上がり、激戦を繰り広げた元ゴブリンの巣、クレーター部分に歩いて行く。

 ゴブリンやオーガの死体が転がってるばかりで、他には何もない。エンペラーオーガも完全に燃え尽きたらしく、死体と思わしきものすら発見出来ない。鉄の棘も消えてる。



「起きんしたか! クロト」


「シエラ!」



 背後から声を掛けられ振り返るとシエラが森の中から出てきた。どうやら森の中を偵察していたらしい。



「レオはどうした?」


「ゴブリンの残党が居るかもしれないって森の中に入ってしまいんした。他の冒険者パーティならディーナス達を連れて一足先にアイゼンウルブスに帰りんしたよ」


「そうか……」



 ひとまず全員無事……じゃないんだよな。

 俺はクレーターを見つめる。



「雨刃、リン……本当に死んだのか?」


「イヤ、生キテルゾ」


「え……」



 今、どこから声が……? 聞き間違い、か? でもあの訛りの感じ……間違いなく雨刃のそれだ。



「勝手ニ殺スナヨ」



 突如としてクレーターの一部が崩れて空洞が現れる。中から現れたのは球体の……針鼠? いや、雨刃だろう。大量の片手剣が綺麗な球体を象っており、その姿は体を丸めた針鼠そっくりだ。

 そして細い糸が何度か球体の周りを回ったかと思うと球体が一気に崩れ、片手剣がマントに戻る。そしてほぼ無傷の状態で雨刃とリンが現れる。



「ヨ! クロト!」





「危ナカッタヨ、本当ニ」



 俺達はアイゼンウルブスに帰る為、森を歩いていた。レオは未だに帰ってきていないが、あいつならなんとか帰ってくるだろう。

 エヴァは疲れてまだ俺の背中で寝ている。



「全くだ。私もわかっていて協力はしたが、本当に大崩落を起こすなんて。雨刃の剣によって落石のダメージを防いだまでは良かったがそのまま生き埋めにされてな。おまけに雨刃は疲れたとか言って寝たせいで、身動きも取れなかった」



 なんだそのびっくり展開は。

 でも、それでも生きてるってのがやっぱりオリハルコン級冒険者パーティのメンバーたる所以なのかもしれない。



「ソウ言エバ、クロト」


「ん?」


皇帝鬼(エンペラーオーガ)ハオ前ガ倒シタノカ?」


「ああ、一応な」


「ソウカ……チャント耳ハ取ッタカ?」


「いや、そんな余裕無かったよ。それに倒した時には原型留めてなかったし、俺すぐ気絶したし」


「耳ガアレバスグニ昇格出来タノニ……」


「俺たちの目的は昇格じゃないからいいんだよ」


「デモ報酬ニモ関ワルゾ?」



 それはまずい。またエヴァに小言を言われるかもしれない。……いや、あの激闘の最中でそこまで気には出来なかったと理解してくれるはずだ。



「ま、まぁそんな事はどうでもいいさ」


「ソウカ?」


「あ、ああ……ははは」



 今、首に巻き付いているエヴァの手が若干締まったような……おかしいな、寝てるはずなのに。





 同刻。

 森のはぐれにて、意外な二人が対面していた。



「おい、お前。ちょっと聞きたいんだが、この辺にゴブリン居なかったか?」



 森の少し開けた場所に呆然と立ち尽くしている赤毛の女性。その赤毛の女性に話しかけながら草むらから飛び出す紫髪の青年。レオだ。



「い、いえ……こっちには来てないけれど……」



 答えた赤毛の女性は腰に三日月刀を三本ぶら下げており、腰に括り付けた茶色い革袋の中にはゴブリンの耳が大量に入っていた。この女性は今回の作戦において東北ルートを進んでいたゴールド級冒険者〈舞姫〉のナイアリスだ。当然レオは一度見ているが、覚えていられるほどレオの興味は向いていなかったらしい。



「……お前、なんでそんな喋り方してるんだ?」


「え……? な、なんの事……」


「無理にその口調作ってるだろ」


「…………チッ、なんでわかったんだ」


「そんな気配がした。お前からはそんな育ちの良い言葉遣いをするような気配を全く感じない」


「それは私の育ちが悪いって言いてぇのか? ……まぁいい、気配に敏感な奴はそれだけで気づくんだな。で、なんの用だ?」



 もうバレてしまっているためか、さっきまでの気弱な様子は無く、髪を耳に掛けながら高圧的に態度を変えた。

 それに対しレオも、闘気を放ちながら答える。



「要件ならさっきも言った。ゴブリンがこっちに来なかったか?」


「その答えならしたはずだが? こっちには来なかった、と」


「そうか、なら二つ目の質問に答えろ。なぜそんな喋り方をしているんだ?」



 ナイアリスはしばらく悩むように頭を捻り、そして答えた。



「昔から口が悪くて友達が居ないから、皆の前では丁寧に喋ってるだけ」


「なんだ、案外面白くない理由だな。そんな事気にして、疲れないのか?。おれの仲間にも変な喋り方の青髪( シエラ )が居るが、全く気にならないぞ」


「な、なんだと……!」


「そんな小せえ事で自分を潰すなよ」



 レオはそれだけ言うと森の中へ引き返そうと振り返る。が、ナイアリスはそれを制した。



「ま、待て」


「……?」


「そ、その…………いや、いい……アイゼンウルブスに帰るんだろ?……いや、帰るんでしょ?」



 再び高圧的な態度を取ったかと思えば、また先程の気弱で上品な喋り方でもない、新しい態度でレオに尋ねる。



「もうはぐれのゴブリンもあらかた始末したから、その予定だ」


「私も行く……」


「……何故?」


「その…………に……った……よ」



 いよいよ体をもじもじさせながら小声で何か呟く。風の音にも負けそうなその声にレオは当然……



「道に迷っただ?」



 聞こえていた。



「そ、そうだよ! 帰り道がわからなくてずっとここをウロウロしてんだ!」


「……わかった、着いて来い。でも、あの黒い煙を追えば帰れるんじゃないのか?」



 レオは木々の間から見える黒い煙を指差す。それは、アイゼンウルブスからあがる煙だ。



「それを辿っても気づいたら逆方向を歩いてるのよ……」



 その言葉を聞いたレオは、何を考えてるのか、無表情のまま森の中へ入っていった。



「ま、待ちやがれ!」





「ルーキーの奮闘と伝説級魔物エンペラーオーガの討伐を祝して……」


『かんぱーーーいっ!!』



 フーバの掛け声でその場にいた皆が一斉にコップやら食べ物やらを掲げる。



 雨刃らと共にギルドへ帰った俺達は一足先に帰っていたフーバらの計らいにより、大歓迎で迎えられた。

 宴会はギルドでやりたかったらしいが、他の冒険者にも迷惑という事で、俺達の止まっている宿〈ホワイトパピー〉で行われた。今回のゴブリン討伐作戦に参加した〈三首の鬼(クワトロデビル)〉、〈女闘士軍(じょとうしぐん) アマゾネス〉、〈青紅(そうく)(あしぎぬ)〉、そして何故かレオと一緒に帰ってきた〈舞姫〉のナイアリス。

 そして俺達と〈シルク・ド・リベルター〉の雨刃とリンが一堂に会していた。



 仲間の仇討ちのため、ゴブリン討伐を依頼した金髪の男、アークは泣いて感謝していた。勿論、死んだ人は戻らないが、せめてリヴァの傀儡とならないようにしてやらないとな。

 あと変わった事と言えばナイアリスの口が若干悪くなっているような気がする。



「おらおら、酒持って来い!! レオ! 飲め飲め!」



 酔っ払ってるせいだけではないだろうな。本性ってやつか? 口調と裏腹に若干顔が赤いくなってもぞもぞしてる時もあるし、なんだかよくわからない奴だ。最初に会った時はもっとこう、上品な感じだったはずだけどな。

 それにいつの間にかあんなにレオと仲良くなってるし……何があったんだろう……



ひゅ()()ひょ()〜」



 机の上に乗ったよくわからない果物を頬張っていると隣からエヴァがのし掛かるのと近い動きでもたれかかってくる。

 すっかり酔キャラが定着してないか? そのまま腰に手を絡ませたまま眠ってしまった。



「ご執心だな。クロト」


「ああ……まぁな」



 そこへグイグイと酒を飲みながら向かい側にリンが座る。俺の周りの人って酒に強いか弱いか両極端なんだよな。



「一緒にいた期間はたったの数日だが、私ですらエヴァリオンの気持ちはわかる。お前も気づいているのだろう?」


「……ああ、わかっているつもりだ」


「答えてやったらどうだ? お前も気持ちは同じだろうに」



 俺はドキリとしながらも酒を飲む。見透かされてるってのも気持ち悪い感じだ。



「わかってるんだけど、なぁ。エヴァには俺の我儘(わがまま)に随分と長い間付き合わせてしまってる」


「もし私がエヴァリオンの立場なら尚更早く答えて欲しいものだがな」



 リンは真剣なのか冗談なのかわからないが、酒を注ぎに別の机にフラフラと歩いていった。

 エヴァの気持ちに答える……か。

 俺は腰にほっぺたを擦り付けながら寝ているエヴァの頭を撫でながら、改めて考える。最近のエヴァの憂いる様な表情。それを見るのは初めてじゃない。

 一度目は出会ってすぐの頃。エヴァが氷の悪魔と呼ばれていた頃見せていた。二度目は地獄での修行中。俺に話しかけては来るものの歯切れの悪い、もやもやしたような様子だった。そして三度目は今。恐らくはグラキエースドラゴンとの戦闘時に無意識のうちに発動した『アイギスの盾』に恐怖を抱き、それについて悩んでいるんだろう。



「もう少し……もう少しだけ待っててくれ。なにかあと少しで振り切れそうなんだ」


「ぐぅ…………」



 返事をするかの様に唸ったエヴァを見て、やっぱり起きてるんじゃないかと疑わされる。



「クロトさん」



 俺は背後から声を掛けられ、またリンが来たのかと思って勢い良く振り向くとそこに立っていたのは銀髪を綺麗に伸ばし、お嬢様的風格の漂う女性が立っていた。



「あ、あんたは確か……」


「〈女闘士軍(じょとうしぐん) アマゾネス〉のリーダー、ディーナス・ギルですわ」


「おう、怪我の具合はもういいのか?」


「はい、先程はありがとうございました。助けに来て頂けなければ(わたくし)達は全滅してましたわ」


「気にすることは無いさ、お互い無事で済んだんだしな」


「ええ、ありがとうございますわ」



 他の人にもお礼を言っているのか、すぐに別の人の所へ行ってしまった。

 全員が今日の勝利に喜び、祝っている。犠牲になったアーク達のパーティメンバーの事を考えると不謹慎であるのかもしれないけど、今はこの状況がすごく幸せに感じる。

 雨刃やリンも死んでしまったかと思っていたが、二人ともピンピンしながら飲み食いしてるし……

 雨刃はいつも不気味に開く口が今日だけは少し可愛いチャームポイントに見えてくる。少しの間ではあるが、一緒に居て雨刃の表情を読むことに少しずつ慣れてきている。あんまり慣れたくも無いものに慣れてばかりな気もするが……



「クロト、部屋まで運んであげたらどうでありんすか? この様子じゃ、朝まで続くでありんすよ」



 と、シエラがコップ片手にエヴァを指差す。

 エヴァは完全に眠りの世界に入ったらしく、クークーと寝息を立てている。



「そうだな」



 俺はエヴァをお姫様抱っこで抱え、食堂から出る。

 二階に上がっても聞こえてくるバカ騒ぎを聞きながら俺はエヴァをベッドに寝かせる。他に客が居なかったからいいものの、居たらかなり迷惑だよな。

 と、考えつつ俺は部屋を出ようとベッドから離れる。



「……ん?」



 クイッと後ろから引っ張られ、後ろを振り返る。袖をエヴァが掴んでいた。

 本当に寝てるのか? ま、今は一緒にいてやるか。俺はベッドに腰掛け、エヴァの頭をまた撫でる。



「くぅ~ん」

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