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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第三章 絆愛編

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78話 雨刃、リンvs皇帝鬼

 〈女闘士軍(じょとうしぐん) アマゾネス〉をクロト達が連れ出してから数刻が経過した。

 未だに続く熾烈な戦闘はお互い一歩も引かない。

 エンペラーオーガはその高い自己回復能力を活かし、我が身を盾として突き進む。対する雨刃は自らが操れる最大本数の剣でエンペラーオーガを斬り刻む。



「無駄ということが……わからんかァ!」



 エンペラーオーガは更に腕を振るい片手剣を地面に叩きつける。が、雨刃が操る片手剣の数は百。数本吹き飛ばしたところですぐに別の片手剣に襲われる。

 付けた傷はすぐに回復し、吹き飛ばした片手剣はすぐに戻ってくる。



「皮膚ハ硬イ、耐性モ有リソウダ。修復速度ハ傷ガ付イテカラ約三秒……ナルホド……オ前ノ弱点モ見エテキタナ」


「弱点だと?」



 激しい攻防が続く中、一人と一体は冷静に言葉を交わす。



「アア、オ前ガ自然ニ生マレタ魔物ナラ倒セナカッタカモシレナイガ、意図的ニ作ラレタ魔物ナラ、必ズ仕掛ケガアルハズダ」


「仕掛け……?」


「筋肉ダヨ。オ前ハ皮膚ガ硬クテ耐性ガアルト思ッタガ、ソレハ間違ッテイタ。俺ノ剣ガ通ラナイノモ、直グニ回復スルノモ、特殊ニ作リ変エラレタ筋肉ノセイダッタンダ」


「何を言ってやがる……皮膚も筋肉も変わらねぇだろう!」


「皮膚ニソコマデノ強度ガ有レバソモソモ刃ガ通ラナイ。ダガ、硬質ナノハ筋肉……ナラ皮膚ハ傷付ク」


「なるほど。全身に張り巡らされた筋肉を改造されたならば……」


「行ケ、同胞(リン)



 エンペラーオーガを襲っていた片手剣の動きが止まり、エンペラーオーガは自由になる。が、エンペラーオーガが動き始めるよりも早くリンの太刀がエンペラーオーガの膝裏を断ち切った。



「関節や筋肉の薄い部分は同時に弱点になり得る」


「グ、グォォォ……おのれ……」



 エンペラーオーガは膝を付きながら悪態をつく。雨刃の分析とリンの攻撃により、エンペラーオーガから勝利が遠のいた。



「コレデ終ワ……」


「グギャシャァァァァァァァァァァァッッッ!!」



 今までと比べ物にならない怒号、咆哮、絶叫が鳴り響く。耳が張り裂けそうな叫びの前に雨刃もリンも動きを止める。糸の操作も途絶え、宙に浮いていた片手剣が地面に落ちる。

 リンも膝を付き、耳を抑える。



「ナ、何ヲ……」


「足……音……?」



 咆哮に混じってドタドタと足音が聞こえてくる。それはオーガやエンペラーオーガが出てきた穴、つまりゴブリンの巣の奥から。



「巣の規模の割に遭遇する数が少ないと思ったが……」


「少シ……面倒ダナ……」





 アイゼンウルブス、冒険者ギルド。ギルドマスター室にて、二人の男が会談していた。



「ギルドマスター。先日発見されたゴブリンの巣はどう対処致しましたか?」


「ふむぅ、一応手は打った。と言うかギルドマスターはやめろ、普通にレザリオでいい」


「はは、そうですか、レザリオ。ところでどんな手を?」


「冒険者を総動員にし、はぐれのゴブリンの討伐。腕の立つ複数の冒険者、及び冒険者パーティーに巣を叩いてもらっている」


「腕の立つ……冒険者か」


「本当は〈シルク・ド・リベルター〉の全メンバーに行ってほしかったんだが、国からの依頼の準備があるからな」


「ああ、今はラストサーカスの準備をしているのでしたね」


「おう、だからあそこんとこの雨刃とリンが行ってくれてる」


「雨刃にリンですか。それなら安心ですね」


「ああ、そうだろうよ。〈風神〉のマスターボウには及ばないが、あの二人の活躍もあって〈シルク・ド・リベルター〉は冒険者として名声を得ていると言っても過言ではないからな」


「これは良い報告が聞けそうですね」





「さっきの叫び……なんだ?」



 俺達はディーナス達を担ぎながら来た道を小走りで引き返していた。だが、つい今しがた耳を劈く咆哮が通路に響き渡った。



「わからないけど、エンペラーオーガが何かしたのかも?」


「そうか……雨刃とリンなら大丈夫だとは思うが」


「あの二人なら大丈夫。それより前だ!」


「来るでありんす。ゴブリンの群れ!!」





 奥の通路から大量に押し寄せるのはゴブリンの群れ。ゴブリン、ホブゴブリン、スペルゴブリン。更にはゴブリンロードまでいる。

 雨刃とリンは咆哮を終え、大量の味方を呼び出したエンペラーオーガと睨み合っていた。エンペラーオーガの後ろには何十何百を越えるゴブリンの群れ。雨刃とリン以外に味方は無し。状況は絶望的だ。



「ダガ、俺達ハミスリル級冒険者。コノ程度デ諦メルト思ウナヨ」



 再び百本の剣を操り、ゴブリンの群れに向ける。リンも腰に収めたままの刀を抜き、ゴブリンの群れに向ける。



「あの叫びがもし仲間を呼び寄せるものだとしたら、通路から帰ってくるゴブリンもいるかもしれない」


アイツラ(クロト達)ナラ心配ハ要ラナイダロウ。今ハ眼前ノ敵ヲ滅ボスマデダ」



 百の内、二十ほどの片手剣がゴブリンの群れへ飛ぶ。

 ゴブリン、ホブゴブリンを一突きで絶命させ、戻す時にはまた別のゴブリンを引き裂く。だが、動いているのはたかが二十。数百にも及ぶゴブリンの群れを倒し切るにはまだまだ至らない。

 エンペラーオーガが動く事も考え、八十は待機させている。リンも動かずにじっとエンペラーオーガを観察している。



「雨刃、あまり体力を使うなよ」


「アア」





 狭い通路から現れたのはゴブリンが五体、ホブゴブリンが二体、スペルゴブリンが三体。

 俺は背中にディーナス、レオは両肩にイズとコモエフを抱えている。シエラはステラに肩を貸しており、両手が空いているのはエヴァのみ。

 この状況でどうする……



「ここは私に任せて」


「でも……」



 明らかにエヴァは氷術を使う事に躊躇いを見せていた。さっきの〈雹絶帝砲(エンペラーキャノン)〉だって普段に比べればかなり威力が落ちている。

 原因は明白で、テリア山での魔術の暴発。それが黒い氷と結びつき、エヴァの中で仲間に危険が及んでしまう事を危惧しているのだろう。



「そもそもこの狭い通路じゃ、クロトやレオの力は半減される。この場面じゃ私が適任だよ」



 振り返ってニコッと笑うエヴァを見て、俺は確信した。そしてこの局面で自分がやると言い切った勇気。今エヴァに必要なのは哀れみや慰め、助太刀じゃない。

 仲間からの絶対的な信頼。それがすなわちエヴァへの力になる。



「頼むぞ! エヴァ!」



 俺達は進むスピードを落とさずに進む。エヴァは魔力を高め、一点を狙う。



〈氷術 武器具現 『トライデント』 氷槍猪突猛進撃ひょうそうちょとつもうしんげき



 両手を重ね、そこから生成した氷の槍を回転させながら一直線に飛ばす。ホブ二体、スペル一体を貫通し、洞窟の出口に向けて更に飛んでいく。

 残ったゴブリンの一体がエヴァに飛び掛かるが、エヴァが片手で作り出した氷の盾(アイス・シールド)に阻まれ、更に続く氷の弾丸(アイス・バレッド)によりその身を串刺しにされる。



「グシャァァァァ」



 スペルゴブリンが叫びと共に火球を放つ。それに対し……



〈氷術 氷刃〉



 エヴァの氷の刃が相殺、いや、火球をも斬り裂きスペルゴブリンの首を飛ばした。目の前にゴブリンは消え、俺達はそのまま通過しようとする。が、



「グシャァァッッ!!」



 通路の窪み、影になっている場所に最後のゴブリンが隠れており、俺に飛びかかって来た。

 ディーナスを抱えたままでは剣は抜けないし、仲間が近すぎて危険だ。



「クロト!」


「悪いな……」



 俺は両手の内、左手をディーナスから離す。

 ディーナスが半分崩れ落ちるような形になるが、少し前のめりになってそれを支え、左手に雷を纏い、右から飛び込んでくるゴブリンの胴体を掴む。



「グギャァ!?」



〈雷術 雷撃(ライトニングボルト)



 高電圧の放電を受けたゴブリンの皮膚は焦げ、白目を向いている。だが、構っている暇は無い。俺はゴブリンを投げ捨て、そのまま出口を目指す。



「あ! 光が見えてきたよ!」



 エヴァが指差すすぐ先には洞窟の入り口、俺達にとっては出口があった。



「なんとか着いたでありんすな」



 俺達は洞窟から抜け出し、森に出た。

 長らく太陽の光を見ていなかっただけに突然刺す陽光に目がくらむ。だが、なんとか出てこれた。

 雨刃とリンがまだ中だけど、あの二人がやられるところは想像がつかない。〈女闘士軍(じょとうしぐん) アマゾネス〉のメンバーも全員無事。

 後は二人に任せて……



「な、なんだ」


「嘘だろ?」



 ディーナス達を洞窟から離れた所に寝かせていると、突如として地面から突き出した岩石に亀裂が入る。その亀裂は別の亀裂と合わさって徐々に岩石全体に広がり……そのまま崩れ落ちた。





 クロト達が脱出する少し前。



「グガァァァァァァ」



 未だに二十の片手剣で相手をしていた雨刃だが、エンペラーオーガの叫びにより、ただやられているだけだったゴブリンたちが雨刃達に向けて攻め始めた。

 その数は数百にも及びいくら二人が強くても不利である事に変わりはなかった。だが……



「ナンダコイツラ」


「どうやら、数が多すぎたみたいだな」



 数百にも及ぶゴブリンの群れ、それはこの空洞に入るには少し多過ぎたらしく、お互いがお互いに道を塞ぎ、雨刃達の前に来れるのはせいぜい十匹同時がいいところであった。

 そんな数に劣る雨刃ではなく、むしろ狙いが集中されやりやすくもあった。



「肉の壁の方が向いてるな」


「全クダ」


「グガァァァァァァッッッ!!!」



 エンペラーオーガはそのもどかしさからか持っていた大剣でつっかえているゴブリン達を斬り捨て、後ろでまだ待機中のゴブリン達に何度か吠える。



「ホォ……」



 エンペラーオーガが吠えるとまずはただのゴブリンが一斉に雨刃達に迫る。大きさも小さく、つっかえる事も無い。

 雨刃はすぐさま剣の数を増やしゴブリンを捌く。だが、圧倒的物量戦。対する雨刃も物量戦を得意とするが、相手の数の方が多く、二百を超えるゴブリン達を捌き切るには至らない。それでも、雨刃の攻撃を掻い潜ってきたゴブリンはリンに斬られ、攻撃は届かない。

 だが、雨刃達がゴブリンに気を取られている間にホブは隊列を組み、スペルは後ろに回り火球を放つ準備をしている。

 エンペラーオーガの叫び一つでここまで統制が整えられた。



「このまま相手してはジリ貧だぞ!」


「分カッテル。ダカラ、コノ巣ヲ潰ス。数分頼ムゾ」



 言い終わると同時にゴブリンの相手をしていた片手剣が空洞の天井部分目掛けて上昇し、そのまま突き刺さる。

 片手剣を全て上に回した事で無防備になった雨刃を守るようにリンはその周りを駆け続け、ゴブリン達を寄せ付けない防壁となる。

 片手剣を突き刺された天井は小さな亀裂がいくつか入る。そして、全ての片手剣が天井に刺さると、点と点が繋がるように亀裂が広がり、天井部分全体に広がっていく。



「脆イ部分ヲ突ケバ簡単ニ亀裂ガ入り、崩レル」


「お、お前……まさか……やめろぉぉぉぉ!!」



 エンペラーオーガの叫びを最後に空洞、及びゴブリンの巣が崩落。ゴブリン達を道連れに雨刃達自らも、岩雪崩に埋もれてしまう。

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