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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第三章 絆愛編

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77話 皇帝鬼〈エンペラーオーガ〉

「おぉぉらぁぁぁ!!」



 〈三首の鬼(クワトロデビル)〉のリーダー、フーバ・ガイエンの薙ぎ払った斧が炎の斬撃を纏い、ゴブリンを焼き払う。

 かれこれ戦闘が三十分は続いている。数で勝る相手との長時間の気の張った戦闘、魔力の消費、体力の消耗。これらの要因が徐々にフーバ達を苦しめていた。



「おら!」



 フーバの振り下ろした斧がゴブリンの頭を捉える。眉間にまで斧が食い込み、血しぶきを上げながら絶命。続く背後からのゴブリンの攻撃をラフの放つ素早い突きで急所を突かれ、これまた絶命。

 少し離れた所でドダラがゴブリン十数体に囲まれていた。



「ひひ……囲めば勝てると思ったか?」



 だが、味方がいないこの状況でこそこの男の真価は発揮される。ゴブリンはただならぬオーラにジリジリと距離を取りながら取り囲んでいる。



〈血術 体内爆破〉



 ドダラが詠唱を終えると、ゴブリン達に変化があった。緑色の皮膚に血管が浮かび上がり、ぶくぶくと膨張する。そして……パチンっとドダラが指を鳴らすのを合図に皮膚が破れ、血が吹き出す。

 これがドダラ・チナヤカの人理限界。血術……相手や自分の血を利用した魔術。先程使った体内爆破は自分より魔力量が低い者の血を操り、体内から爆破する技。グロデスクで汚れる為、普通なら好まれないような術だが、ドダラは最も気に入っている。



「ひひ! さぁ来い……」



 ゴブリンの数は少しずつ減っていき、フーバ、ラフ、ドダラは優位に立ちつつあった。



「だいぶ減らしたな」


「しかし巣の外だというのにこんなに居るなんてね。他のルートは大丈夫かな……」


「ひひ……他のルートも強者揃い。やられる事は無いはず……」



 三人はお互いに背を合わせ、取り囲む十数体のゴブリンを見ながら他の心配をする。



「さっさと決めるぜ! おらぁぁ!」


「えいやぁ!」


「ひひ……!」



 南ルート。ゴブリンの群れを全滅させるも疲労のため一時休憩。





「…………」



 東北ルートを進む〈舞姫〉のナイアリスは……



「迷った……」



 ナイアリスの弱点は性格でも、剣の腕でもない。彼女の致命的且つ絶望的な弱点がまともに移動が出来ないほど極度の方向音痴であるという事。

 東北ルート、森に入るまでは〈蒼紅(そうく)(あしぎぬ)〉の同行により迷わずに来れたが、一人になって迷ったため進行が困難になる。



「クソゴブリンも居ねぇし、私の活躍が全然ねぇじゃねぇか!!」





「サテ、殲滅ダ。同胞(リン)、一体グライヤロウカ?」



 雨刃は両手を前に突き出し、オーガに狙いを定める。

 その間に俺、レオは大物(ホブ)の排除。エヴァとシエラは負傷した〈女闘士軍(じょとうしぐん) アマゾネス〉のメンバーの避難、回復を行う。即興ではあるがお互いがお互いのやる事を理解したうえで成り立った作戦だ。



「いや、いい。さっさとやってくれ」


「了解シタ」



 そんな会話を聞きつつも、俺とレオはホブゴブリンに攻撃を仕掛ける。



〈雷帝流 雷鋼剣〉



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『虎武璃』〉



 俺の雷の一太刀でホブゴブリンに深い傷を残す。両断こそ出来なかったが、両腕で防御した為、最早戦闘でその腕は使い物にならないだろう。続けてレオの俊足の抜刀術で残る二体のうち一体の喉を斬りつけ、無駄に装備が良いせいで断ち切る事は出来なかったがこれも致命傷となりその場に倒れる。

 残った一体が、俺の方に狙いをつけ向かってくる。



〈雷術 雷撃大砲(プラズマキャノン)



 が、ホブ程度ならこれで十分。

 高電圧のキャノンがホブに直撃し、爆発を起こす。ホブは避けも守りもせずそのまま雷撃を食らい、黒い煙を上げてそのまま倒れる。

 空洞の中に居る魔物は人喰い鬼(オーガ)が残り二体。それは雨刃が相手する手筈になっている。その間に俺は〈女闘士軍(じょとうしぐん) アマゾネス〉のメンバーの様子を見る。

 紫髪のコモエフと赤毛でショートカットのイズはどちらも火傷が酷いが、命に関わる傷では無さそうだ。今、シエラの癒術で傷の手当とエヴァの氷術で火傷を冷やしている。

 俺の近くにはホブに囲まれ、身動きが取れなかった茶髪のステラがへたりこんでいる。その近くには確かリーダー格だった銀髪のディーナスが意識を失って倒れている。どうやら頭を打ったらしく、顔を上げ、状態を確かめてみたが、素人の俺では流石にどういった状態なのかわからなかったが、顔色はそこまで悪くないので、こちらも命に関わるほどではないだろう。

 レオと協力し、二人をシエラの所に運んだ頃、ちょうど雨刃と二体のオーガの戦闘が始まった。



「グォォォォォォォッッ!!」


「グギャァァァァァッッ!!」



 オーガは邪魔されたことが相当気に入らなかったらしく、叫び声を響かせながら雨刃に迫る。

 対する雨刃は特に慌てた様子もなく、ただじっとオーガを見据えている。そして雨刃のマントにくっついている複数の片手剣がマントを離れ、雨刃の指先から伸びる糸によって持ち上げられ、宙に舞う。

 数は両手で十本。まだまだ本気ではなさそうだ。オーガも馬鹿ではないため、前方から飛んでくる片手剣を無視はしない。

 一体が若干スピードを緩め、もう一体の陰に入った。オーガが一列に並んだ状態になったわけだ。先頭のオーガは片手剣を弾くため、鉈を振り下ろす。

 が、それを難なく六本の片手剣が交差し止めた。残った四本の片手剣は先頭のオーガを素通りして更に進む。一本は股下を通り、一本は脇腹を掠め、一本は頭上を飛び、一本は大きく迂回して陰に隠れていたオーガの四肢を斬り離す。そして四本の片手剣はまるで逆再生を見ているかの如く正確に逆戻りし雨刃のマントに戻った。



「チィ……良ク見エナクテ殺シ損ネタ」



 いくら数が多いとはいえ、糸で操った片手剣でオーガの一撃を受け止め、更には片手剣一振りで四肢を切断。雨刃の攻撃は速いだけじゃない。威力も重さも桁違いに高い。

 雨刃がほんの少し指先を動かすと六本の片手剣はオーガの大太刀を跳ね除け、刃の腹の部分を六枚重ねてオーガの脇腹に打ち込む。

 かなりの衝撃だったのだろう。オーガは顔を歪ませながら左側に押される。

 重なっていたオーガ二体をずらし、奥にいたオーガを視認した雨刃はそこに狙いをつけ、先程マントに戻した片手剣をもう一度伸ばす。



「グギャァァァァ…………グ……グガァ……」



 四肢を切断されてうつ伏せに倒れていたオーガは、背中から四本の片手剣で心臓を刺され、断末魔の叫びをあげて動かなくなった。もう一体のオーガは、仲間の死に怒りを感じたのか、恐怖を感じたのかわからないがその場に立ち尽くしている。

 雨刃はそこを見逃さず、剣の数を十本から三十本へ増やし、オーガを中心に展開する。右、左、上、前、後ろ……全方位を剣によって囲まれ、その全ての剣の剣先がオーガを向いていた。



「コノ大陸ニハコウイウ玩具アッタヨナ。エート……名前ハ……」



 思い出そうと頭をひねる雨刃に対して、オーガは全方位を囲まれ、どこから脱出するかキョロキョロと確認している。この状況からの脱出はもはや無理かと思われるが、オーガはそれでも諦めない。



「……(くろ)獅子(しし)危機(きき)一発(いっぱつ)?」


「ソレダ。食ラエ、クロト危機一発!」



 リンの答えを聞き、スッキリしたのか、雨刃は今まで留めておいた三十の剣を全てオーガに向かって突き刺した。全方位から一斉に剣で突き刺され、急所もクソも無く全身を穴だらけにされたオーガは断末魔を上げる事も出来ずにそのまま絶命してしまう。



「いや、それだと俺が刺されてんじゃねぇか!」





 東南ルート。

 〈蒼紅(そうく)(あしぎぬ)〉はゴブリンの群れに遭遇する事も無く、道に迷う事も無く順調に進んでいた。



「拍子抜けだなぁ」


「まぁまぁ、何事もない分には良いではないですか。ランシエ」


「そうだけどよぉ」



 蒼のベポ、紅のランシエはその絶妙なコンビネーションと熟練の知識から、なんの問題もなく歩みを進めていた……が。



「グォォォォォォォッッ!!」



 咆哮と共に草むらから現れたのは赤黒い皮膚、角の生えた頭部はいかつい顔に鋭い牙も生えている。



「おお、オーガか」


「どうしてこんな所にオーガが……ともかく殺りますか。ランシエ」



 オーガの振り払った鉈をベポが棍で受け止める。その隙にランシエの金棒がオーガの下顎を強打。

 オーガはよろよろと後ずさるが、二人は引き下がらない。



「グ、グギャァァァ」


「無駄ですよ」



 棍による突きで四肢を突かれ、オーガはがっくりと膝をつく。



「お、ら、よっと!!」



 そこへランシエの金棒がオーガの頭部を捉え、グチャリと嫌な音を立てて、オーガの頭は潰れた。



「他愛もないですね、ランシエ」


「オーガ程度、余裕余裕」



 東南ルート。障害に遭遇するも問題なく進行。





「ドウダ?」



 オーガを仕留め終えた雨刃は片手剣についたオーガの血を落としながら尋ねる。血を落とさない事をエヴァに怒られてから気を付ける事にしたらしい。エヴァは「意外に素直なんだ」と驚いていた。

 雨刃が聞いたのは恐らくはディーナス達の具合についてだろう。



「全員かなり傷付いてはありんすが命に別状はなさそうでありんす」


「ソウカ。ジャアサッサト外ニ連レテ……」



 こっちに近づきながら喋っていた雨刃がピタリと動きを止める。

 竹笠から見える赤隻眼が何かを思案している。と言っても赤い点が見えるだけなので、勘でしかないが。リンも感じているようで、入ってきた入り口よりも右側に続いている通路をじっと見据えている。

 シエラとエヴァは治療でそれどころじゃ無く、レオは腰の銀月に手を当てている。



「ホゥ……」


「……何か……何か来る」



 耳に神経を集中させ音を聞く。

 何か、金属のような物を引きずる音。それに合わせて足音、それも並の魔物じゃない。デカさで言えばさっき雨刃が殺したオーガの二倍……いや三倍にはなるだろう。



「グギャハハハハッッ!! 随分好き勝手暴れてやがんなーッ!!」



 通路から現れたのはオーガと同じく赤い色の肌の鬼。

 下半身はみっちりと筋肉がついており、上半身も筋肉隆々……では足りないほど筋肉で盛り上がっている。片手に引きずっているのは巨大な剣は一振りで俺達の体なんて簡単に真っ二つに出来そうだ。

 そして何より今までの魔物と違うのは喋っているということ。魔物の中には言語を理解する種が存在するとは聞いていたが、遭遇するのは初めてだ。



「ドッカデ聞イタヨウナ台詞ダナ」



 雨刃は直ぐに片手剣を展開させオーガの上位種と思わしき魔物に狙いを定める。



将軍鬼(ジェネラルオーガ)か」


「お? えれーべっぴんな嬢ちゃんがひぃふぅみぃ……グギャハハハハハッッ! 俺はついてるなぁ 雑魚共が数体やられてるがまぁそれも問題な……ッ!!」



 俺達を値踏みするように見ていたジェネラルオーガは突然攻撃を受け、言葉を止める。リンの攻撃だ。高速の連撃がジェネラルオーガの全身を捉え、斬り刻む。

 だが浅い。全身に傷を付ける事が出来たものの、どれも大して効いてない。



「おうおう、血気盛んなこった。だが、その程度では俺を倒すことは……お?」



 数十の片手剣が天を舞いながらジェネラルオーガに襲いかかる。

 だが、なんでもないと言わんばかりにその巨大な剣を振り、その大木の如き腕を振り、片手剣を跳ね除ける。



「一級トハ思エナイ強サダナ」



 単体でもオーガの四肢を斬り裂く程のパワーがあった雨刃の攻撃を全弾打ち落とし、おまけに言語も理解。一級にしては強すぎる。なんだ……ジェネラルオーガじゃないのか。



「一級? 俺は一級のジェネラルオーガじゃねーぜ。俺は……いや、これは言えねーか。……俺は皇帝鬼(エンペラーオーガ)、ジェネラルオーガの上位種にしてその実力は伝説級にも劣らないってわけだ」



 エンペラーオーガ。伝説級に匹敵する……?



「ソンナ人喰い鬼(オーガ)ハ聞イタ事ガ無イ」


「そうだろうな この世界に俺以外にエンペラーオーガは居ねぇ」


「それもおかしな話だな」



 雨刃とエンペラーオーガの会話にリンも加わる。



「上位種とは、別名、突然変異種。いつ生まれるかも、どこで生まれるかもわからない未知の個体。仮にお前一体しか居ないとして、何故種族名があり、自身の実力が伝説級であると断言出来る? そもそも人間が作り出した階級を魔物であるお前が理解しているのもおかしな話だ」


「この世界には、自然の流れで突然変異する奴も居るが、俺は違う。“意図的に”突然変異したのが俺だ」


「意図的?」


「ああその通りだ。正確にはさせられた、だがな。俺はある方によって意図的に作られた種族ってこった」



 意図的に魔物を作る? そんなやつがこの世にいるのか。

 居たとしたらなぜこんな所にエンペラーオーガを置くんだ? 突然現れたゴブリンの巣……その巣を支配しているのはゴブリンでは無く、オーガの上位種。何が目的で、何がしたいのかさっぱりわからない。おまけに伝説級に匹敵する魔物を作り出して野に放っておくなんて明らかな人間への敵対行動だ。



「クロト!」


「あ、ああ!」


「アイツハ危険ダ。ココデ殺ル。ヒトマズ時間ハ稼グ。ソノ間ニソイツラ(ディーナス達)ヲ外へ連レテ行ケ」


「俺達も……」


「邪魔ダ」



 言い終わると同時に片手剣が嵐の如く動き出す。その数は百。本気だ。

 だがエンペラーオーガもかなり早い。流石に巨大な剣を高速で振る事は出来ないらしく、盾のようにしながら攻撃を防いでいる。更には素早い動きで腕を振るい、足を振り上げ雨刃の猛攻を防いでいる。だが、流石に数の暴力には勝てず、全身に多くの傷が出来ている。

 作られたという事は普通のオーガよりも高性能ということなんだろう。あの巨体にしてはかなり早いし、かすり傷が出来ても全く関係ないというようにただひたすらに突き進んでいる。自己回復も出来るのか、純粋なタフさがそれを可能としているのか。

 確かに攻撃を仕掛けているのは雨刃で、エンペラーオーガは受ける事しか出来ていないが、じりじりとその距離を詰めている。このままでは……



「クロト!」


「エヴァ?」


「行こう」


「そうだな、俺達が居ても邪魔になる」



 強さがどうとかのレベルじゃない。

 雨刃の戦闘は個人戦でこそ本領を発揮する。それに、傷を負ったディーナス達を巻き添えにしてしまうかもしれない。

 俺は気を失ったまま倒れているディーナスを肩に担ぎ、出口を目指す。

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