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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第三章 絆愛編

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74話 ゴブリンの脅威

至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『狂乱の太刀』〉



 俺と包帯男の間に割って入ったレオは、無差別の四連撃を放ち、寸前まで迫っていた片手剣の群れにぶつかり、辛うじて相殺する。



「レオ!」


「待たせたな……こいつは?」


「わかんねーけど、相当強いぞ」



 包帯男は防がれたのが意外だったのか、片手剣を空中で遊ばせながら興味深そうにレオを見ている。



「オ前ラ、ヤケニ強イナ。強イ冒険者ナラ俺ガ見タ事無イハズ無インダガ……オ前ラハ見タ事ガ無イナ」


「そりゃそうだろ。おれ達は昨日冒険者になったばかりのブロンズだからな」


「ナニ? 最低位(ブロンズ)?」



 遊ばせていた片手剣は糸が切れたように地面に落ち、驚きでぼーっとしている。こいつ、強さは本物だがそこまで完璧な奴じゃない。集中力を切らせれば片手剣を操る術は解除される。



「エヴァ、レオ! やるぞ! あいつが何故攻撃してくるかは知らないが、来るなら受けて立つしかない!」


「あ、うん!」



〈雷帝流 雷斬砲・獄〉



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『地を這う大蛇』〉



〈氷術 雹絶帝砲(エンペラーキャノン)



 地面を走る斬撃に黒雷の斬撃と氷が加わり、一つの攻撃へと昇華される。



〈複合魔術 凍える黒雷の大蛇〉



 斬撃と黒雷、そして氷を混ぜ合わせた三人の一撃が包帯男に直撃し、爆発と共に砂煙が包み込む。

 三つの攻撃を同時に受け、ただで済むはずがない。例えこいつの力が未知数だったとしても、完全に防御し切る事も、回避する事もあの状況では出来まい。

 だが、砂煙はすぐに収まり、俺の予想が外れた事を告げる。包帯男は片手で十本以上の片手剣を操り、防御した。複数の片手剣の柄と柄を合わせ、扇のように展開させて大きな円形の盾を作り出す。それをただ展開させるだけでなく、回転させることであの一撃さえも防御した。



「何故、カ……俺ハ強イ奴ト戦イタイ。小鬼(ゴブリン)程度デハ不完全燃焼ナノダ」


「戦闘狂が……予想が外れた。一本の指に一本の糸、故に一本の指に一本の剣。片手に五本、両手で十本……そう予想してたんだが、あれを見る以上、違うらしいな」


「ソモソモ『一本ノ指ニ一本ノ糸』トイウノガ違う」



 包帯男と俺達の間で回っていた十数本の片手剣は引っ張られるように包帯男のマントに戻って行き、一本の片手剣だけが残った。人差し指と繋がったその剣は、とても糸で操っているようには見えない程繊細な動きをしていた。



「コノ剣布(マント)ニハ百本ノ剣ガ付イテイル。ソレガ同時ニ俺ノ操レル最大本数」



 全部で百本。片手で五十、指一本で……十本!?

 もし指一本で十本操っている時と両手で十本操っている時、同じ精度で操れるなら、さっきのゴブリンの群れを指一本で全滅させられるのか。



「ハハハ。勿論、指一本ヨリモ両手デ十本操ッタ方ガ魔力ノ消費モ少ナクテ済ムシ、集中力モ要ラナイ。ダガ、ソレダケダ」


「つまりは、片手で五本なんて遊びと同じって事か」


「マァ、ソウダナ」



 俺はテンペスターを抜いて二刀流に変える。相手に準備する隙を与えるべきではない。一気に走り出し、距離を詰める。

 包帯男はすぐに対応し、両手で十本の剣を操る。

 奴の攻撃をシュデュンヤーとテンペスターの二本だけで受けるのは不可能だ。俺自身が弾けて三発。四発目以降からはおそらく間に合わなくなってくる。



「レオ! エヴァ! 援護を頼む!!」



 俺を捉えようと十本の片手剣が、本当に一人に操られているのかと思う程独自に動き、襲いかかってくる。



「技の連発は体に負担が掛かる……だが、ここで手は抜けねぇ」



〈雷帝流 雷千剣〉

〈雷帝流 稲妻剣〉

〈雷帝流 雷鋼剣〉



 雷千剣によっては分断された雷の斬撃がほんの一瞬、片手剣を跳ね除ける。だが、いくら弾いても包帯男に操られている以上、片手剣はすぐに戻ってくる。だが、こういうスピードタイプにはほんの一瞬の隙が致命的なはずだ。

 再び向かってくる片手剣を稲妻剣と雷鋼剣にて合計五本落とす。糸を断ち切ったわけでは無いのでまたすぐに向かってくるだろうが、その一瞬であいつを斬れば終わりだ。



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『飛翔する鉤爪・連』〉



〈氷術 武器具現『レーヴァテイン』 氷剣一斉嵐撃〉



 残った五本の片手剣が一斉に俺目掛けて飛んでくる。

 そこへレオの飛ぶ斬撃が、片手剣ではなく糸を断ち切り、完全に使えなくする。氷剣はさっき包帯男がしたように回転し、片手剣を防御した。



「助かった、二人とも!」



 一気に距離を詰め、射程圏内に入る。包帯男はそれでも楽しそうに見ている。この状態でどうする!!



「クハハハハ 面白イナ。俺モ本気デ……」


「そこまでだ」



 俺の振るったテンペスターが突然現れた一人の女に簡単に受け止められ、逆に吹き飛ばされる。

 くすんだ赤色のマントを身に纏い、ポニーテールにした紺色の髪が腰まで伸びている。切れ目から覗く眼光はかなり鋭い。



同胞(リン)、余計ナ事ヲ……」



 俺は投げ飛ばされた勢いで背中から地面に落ち、倒れる。すぐに立ち上がったが、不意打ちだった為に受け身が取れず呼吸が乱れた。

 しかし、包帯男の片手剣の動きを聞き取る為に、耳は常に研ぎ澄ませていたのに、この女……全く気配がなかった。



「旅人よ、すまない事をした。私はリンという」


「あ、ああ……俺はクロトだ」



 条件反射でこちらも名乗ってしまう。



「こいつは雨刃。悪い奴ではないんだが、重度の戦闘狂でな。ただ戦いたいだけなんだ」



 確かに、俺達を殺そうと思えば初手で百本の剣を使えばいいはずだし、本当にただ戦いたいだけだったと言われればそうかもと思ってしまう。まぁ、殺気を感じなかったとはいえこっちは殺されるかと思った。

 でも、この大陸に俺達が全力を出しても上回って来る可能性のある奴が居る事を早めに確認出来たのは良かった。まだまだ上を目指せる。



「ハハハ、悪カッタナ。詫ビト言ッテハナンダガ、コレヲヤルヨ」



 包帯男――もとい雨刃は茶色い小袋を投げて寄こす。拾って中を見るとゴブリンの耳が大量に入っていた。「なら私も」と、リンと名乗った剣士も同じサイズの小袋をくれた。



「自分の報酬を差し出すのか?」


「マ、迷惑料ダ」



 いつの間にか片手剣をマントに戻し、どうやったのかは知らないがレオに斬られた糸も元通りになって収まっている。

 雨刃とリンは俺達を素通りし、気絶した二人の冒険者を抱える。



「こいつらは私達に任せてくれ」


「あ、ああ……じゃあ頼む」


「では」



 そのまま森に消えてしまった。まさに嵐と例えてもそう違いはないと思う。





 クロト達一行と雨刃、リンが出会うよりも少し前、一組の冒険者パーティがゴブリンの巣を掃討する為に森に入っていた。



「ま! 巨大な巣って言ったって所詮はゴブリンでしょ!」



 シエラと同じく弓を持ち、革鎧を着た薄緑色の髪の女冒険者。ドレッド・ビート。



「油断大敵と言う言葉もある」



 チャクラムと呼ばれる円形で刃のついた輪っか型のブーメランの様な武器を腰から下げた赤黒い髪の男冒険者が応える。彼はトロイア・マゼラン。



「あんまり油断はしたあかんで。ゴブリンの群れは上位種がおったら統制されとる。野良とはわけが違うからな」


「何が来ようと私が蹴り飛ばしてあげるわよ」



 このパーティのリーダーらしき関西弁の男がメンバーに注意を促す。アーク・ゼルブス。両手に円形の盾を持ち、その縁には刃が付けられている。

 それに自信満々な表情で軽口を返す黒髪を長く伸ばした女武闘家。名前はアウル・アンドラス。装備は極力軽く、体の動きを阻害しないように防御力を捨てて、動きやすさに特化している。



「井の中の蛙にならなければいいがな」


「で……これが巣?」



 森の中心に聳え立つ、地面から突き出たような巨大な岩石。

 根本が入り口のように割れており、奥の洞窟へと続いている。元々あった天然の洞窟をゴブリン達が更に掘り進め、中は迷路と化している可能性があるとギルド職員には告げられている。



「ほな、入っていこか。前衛は俺とアウルが、後衛は二人に任せたで」


「まっかせといてよ〜」


「問題ない」



 四人は二列縦隊で洞窟に入った。

 暫くは何も起きずにただ薄暗い洞窟を歩いていた四人だが、突然状況が悪化する。まず最初に、今まで一本道だったにも関わらず後ろからゴブリンの奇襲が起きた。

 だがしかし、シルバー級冒険者パーティは中堅と呼ばれる階級で、一騎当千の強さがあるわけでは無い。しかし、それでも長く冒険者をやっているパーティならば、その程度の奇襲は対処出来る。

 後ろから約二十のゴブリンが迫ってくるが、すぐさま前衛に居た二人は後衛の二人と入れ替わりアークは盾で攻撃を受け、隙あらば盾についた刃でゴブリンを殺す。素手を得意としているアウルはアークに比べて殺傷力こそ劣るものの、スピード、パワーにおいてはアークを勝り、ゴブリン達を次々に組み伏せていった。

 後ろからの弓矢による正確な射撃、そしてチャクラムの変則的な攻撃により奇襲して来たゴブリンの四分の三を倒した。

 だが、アーク達は普段、洞窟内での依頼はあまりしない。故に洞窟の中ではチームワークが上手く取れず、次第に疲労も溜まってくる。



「う……痛っ!」


「あ、ごめん!」


「ギャァシャァァァ」



 ドレッドの放った矢がアークの太ももに刺さってしまったのだ。薄暗く、見通しの悪い洞窟内という事と、洞窟の幅的に、矢の援護は味方の間を縫って行わなければならないという難易度の高さ。それらが災いしたのだ。

 今までゴブリンの侵攻を抑えていたアークだったが、それによって体勢が崩れ、ゴブリンにのしかかられてしまう。

 更に洞窟の奥、つまりは反対側からもゴブリンの増援が押し寄せて来る。

 ナイフや剣、盾を持った前衛を務めるゴブリン。その後ろに弓矢を装備したゴブリン。そして一番後ろにはローブを纏ったゴブリンが居た。



「嘘だろ……」


「あれってゴブリンの上位種……魔術師小鬼(スペルゴブリン)!?」


「アーク、まずいぞ」


「はぁ!」


「グギャァァ」



 アークにのしかかっていたゴブリンをアウルが蹴り飛ばし、アークを解放する。



「せ、せやかて……この状況どうしたら」


「つべこべ……ッ! 言わないで……ッ! 目の前の敵を、殺る事を考えて!」



 アウルが蹴り、殴り、そしてまた蹴りを繰り出す。目の前にはゴブリンが四体。後ろからは四十体前後のゴブリンが押し寄せている。このまま突破するにしても、一旦退散するにしても、まずは入り口側の四体のゴブリンを倒す事が先決だろう。しかし、そちらに注意を向ければ、後ろの四十体のゴブリンに背中を晒す事になる。



「ああ、悪い!」



 アークは目の前のゴブリンを一体盾で押しやり、刃付き盾を持ったまま殴る。

 そしてアウルの踵落としで最後の一体が気絶するも、死んではいない。ゴブリンにトドメを刺そうとするアークだが、その前に戦況は動いた。 



「アーク……!」


「来るわ!!」


「トロイア! ドレッド! アーク、そんなの後よ! 二人を援護しなきゃ」


「ああ!」



 後ろから詰めてくるだけだったゴブリンが一斉に走り出し、トロイアとドレッドに襲いかかっていた。

 距離が少しあったこともあり、最初は矢とチャクラムで応戦する。が、弓矢は暗がりで狙いが逸れ、チャクラムは突き出た岩にぶつかって地面に落ちてしまった。



「し、しま……」


「グギャギャギャギャ!」



 見ているだけだったスペルゴブリンが、何やら詠唱らしきものを唱えると、火球が生成され、放たれる。見事な狙いで火球はトロイアに直撃し、炎が燃え上がる。



「トロイア……きゃぁぁぁ!」



 火を消そうと躍起になり、暴れるトロイアをなだめる為、ドレッドが近付こうとするがゴブリン達に足を掴まれ、それを阻止される。



「ぎゃぁぁぁぁぁ……うあっあああああああああ!!」



 そのままゴブリン達はドレッドに群がり、腹這いにすると、何の躊躇もなく各々の武器でドレッドの腹を串刺しにした。

 もがき苦しんだ後にドレッドはそのまま死んだ。



「ドレッド!!」



 怒りを顕にしたアウルが飛び出してドレッドの死体に跨がるゴブリンを三体まとめて殴り飛ばす。だが、振りかぶり過ぎたせいアウルの体は殴った反動で他のゴブリンに対処できなかった。

 直ぐにゴブリンに群がられ、地面に組み伏せられる。



「ぐぁぁぁ」



 トロイアは転げ回って火を消したが、降り注ぐ矢が全身に突き刺さり、更に苦しむ。そこへまた別のゴブリンが群がり武器でトロイアの体を何度も何度も突き刺す。



「やばい……やばいやばいやばいやばい。助けてくれぇぇ!!!」



 リーダーであるアークは走りながら洞窟の出口へ走っていた。三人がやられた時に、復讐心よりも恐怖心が勝り、走り出していたのだ。



「グギャァァァ」


「ギャシャァァァ」


「グゲゲゲゲギャァァ」



 ゴブリンはそれを追いかける者とその場に残って死体を弄び、(なぶ)り者にするものとで分かれた。



「アー……ク……あ……ああ……」



 アウルの最期の声は、アークには届かなかった。

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