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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第三章 絆愛編

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71話 鍛冶の聖地『アイゼンウルブス』

 ハンター隊と別れてから早一週間。俺達はまっすぐ西へと進んだ。

 目指しているのはヘレリル公爵領。

 だが、テリア山からヘレリル公爵領に行くには、間に挟まる鍛冶の聖地、レオ公爵領を通る必要があり、物資調達のためにも街に寄る必要があった。

 そこで、アイリス達に勧めてもらったレオ公爵領、最大の都市『アイゼンウルブス』に立ち寄る事にした。

 テリア山での一件で、ハンター隊に分けて貰った食料以外の物資がすっからかんなってしまい、俺達は路銀を稼ぐ必要が出てきた。鍛冶の聖地であると同時に冒険者業の盛んなこの街は、ある意味うってつけだったわけだ。



 外壁に囲まれたこの街(アイゼンウルブス)は、どこかエルトリア帝国やコムラ公爵領にあるヴァントを彷彿とさせる。

 だが、その壁はエルトリア帝国やヴァントの石造りの壁ではなく、鉄と思わしき金属で出来ており、街そのものが一つの要塞の様にも見える。街の名前の由来はそんな所だろうか。

 街の中からは、空に向かって黒い煙が登っており、ヘレリル公爵領の都市セントレイシュタンともまた雰囲気が違う。



「やっと着いたな」



 レオは若干疲れたように、それでいて何処かワクワクしたような、興奮した様子だった。そういえばここに来る途中、「鍛冶職人に銀月を調整してもらおう」ってずっと言ってたっけな。

 チラッと見せてもらったが、この前のロックドラゴンとの戦闘でだいぶ無理をさせたらしく、刃こぼれがかなり酷かった。



「とりあえず……入るか」


「うん!」



 俺達は大きく口を開けている鉄の門をくぐり、アイゼンウルブスに入った。

 アイリスの話によれば俺達の手配書は全公爵内で共有されているらしく、レオ公爵が住んでいるこの街では当然手配書が回ってるんじゃないかと少しヒヤヒヤしたが、よく考えればあれはフードを被っている上に二人組。今の俺達ならば派手に雷術や氷術を使わなければバレる可能性は限りなく低い。

 アイゼンウルブスに入ると、大きな一本の大通りが真っ直ぐ続いており、住民や商人の往来が盛んだった。

 あちらこちらでカン、キン、カンという金属と金属がぶつかる音が聞こえてきており、商人の広げる露店に混じって、相当な数の工房が見受けられた。

 街を眺めながら歩き、暫く進むと大きな十字路にぶつかった。どうやらこの街は大通りが二本、交差して出来ているらしい。正面の道は今までと同じような商店の通りになっており、奥に冒険者ギルドがでかでかとそびえ立っている。右の道には武器屋が多く並んでおり、左の道には宿や鍛冶職人達の工房が並んでいる。どうやら武器を鍛える鍛冶屋と、実際に売る店は別に設けている人が多いようだ。



「レオ公爵は冒険者が好きで、冒険者ギルドも自分の屋敷そっちのけで作らせたみたいだよ」



 へぇ、よくそんな事知ってるな……と思い、エヴァを見ると一冊の本を見ていた。題名は『大陸観光完璧ガイド』。なるほど、いつの間にそんなの手に入れたんだ。



「とりあえず、冒険者ギルドに行くか。なにせ俺達一文無しだからな、仕事しないと野宿する羽目になる」


「そうだな」


「冒険者って何をするんでありんすか?」


「冒険者ギルドに寄せられた依頼をこなすんだよ」


「依頼……?」


「簡単に言えばお願い事だね。自分じゃどうしようも出来ない事を、冒険者にお願いするの。採取依頼、討伐依頼、護衛依頼……大体はこの三つだね」


「なるほど、初めて知りんした」



 シエラは記憶を失ってからは山育ちだったし、俺と同じで世間一般常識がエヴァに比べてかなり乏しい。



「どうせなら強い奴と戦えて稼げる仕事がいいな」


「えー、やだよ。危ないし」


「おれ一人で片付けてやるよ」


「それはそれで危なそう」


「どういう意味だ?」



 強い敵か。ま、冒険者業をやっている内は暫く戦う事が無いだろうな。もちろん上級冒険者になればあるだろうけど。



「階級はブロンズからだから、レオの願いは叶いそうにないな」


「階級? なんだそれは」


「あー……下からブロンズ、アイアン、シルバー、ゴールド、ミスリル、オリハルコンってあって、上位に行くほど強い魔物の討伐依頼とかが回ってくるわけだ」


「で、冒険者を始めると全員ブロンズだから、私達も最初は下積みって事。レオの言う強い魔物と戦うには最低でもゴールドかミスリルにならないとだね」



 ミスリル級は実質的な冒険者の最上位階級で、オリハルコン級が飛びぬけているだけにミスリル級の冒険者の数が、各町の冒険者ギルドの強さに直結したりもする。



「オリハルコンになればいいんだろ?」



 こう、レオの直感的な所は好きだったりする。エヴァもシエラも、まるで馬鹿を見るような冷ややかな視線を向けているが……



「うん、そうだね」



 エヴァが諦めたように適当な相槌を打つ。

 オリハルコン級冒険者。三大将軍に匹敵する実力を持つと認められた冒険者に与えられる称号で、大陸にも両手で数え切れる程の人数しか居ない。俺とエヴァが唯一知っているのはブルーバードで出会ったアジェンダだけだ。

 そう言えば、俺が冒険者についてそれなりに知識があるのも、『ブルーバード』の常連酔っ払い、エリックとビリーの話を聞いているおかげだな。



「さて、着いたな」



 喋っているうちに大通りの奥、冒険者ギルドの前に着いた。

 セントレイシュタンで見た冒険者ギルドは酒場に似ていて、実際宿と酒場が兼ね備わっていた。それに対してアイゼンウルブスの冒険者ギルドは木造ではなく鉄造。形は似ているが鉄の板で覆われ、工場を思わせる。

 入り口に扉は無く、そこから見える中の様子は、ブルーバードの様な酒場とはかなり雰囲気が違った。依頼を受ける為のカウンターと依頼が貼られているボード。後は休憩が出来るように椅子が置かれている。



「おっと……」



 中へ一歩踏み出すと、ほぼ同時に黄色い何かがぶつかって来た。かなり急いだ様子で出てきたのは金色の髪がふわふわとカールしている女の子だった。バンダナをカチューシャ風に巻いており、うさぎの耳のように少し出たバンダナの先が体の動きに合わせてぴょんぴょんと動いていた。



「お、悪い」


「気にす……お気になさらず」



 途中で言葉を止め、丁寧に言い直した女の子は薄い水色の目をしていた。

 顔はかなり整っており、若干幼さの残る顔ではあったが、十分美形と言える。それだけ言うと立ち去って行ったが、服装からして冒険者……だが、その品質の良さや漂う雰囲気はまるでお嬢様で、とても印象に残る子だった。



「クロト? さっきの子がどうかしたの?」



 その女の子はすでに大通りを進み、人混みに紛れて消えていった。



「いや、冒険者にしては随分気品があるなって……っと、そんな事より行くか!」





「すいません 冒険者登録をしたいんですが……」



 ギルドの中にあるカウンターで、冒険者登録を済ませるため、エヴァが受付の係員に声をかけた。



「はい! わかりました。ではこのカードに名前をお書きください」



 縦五センチ、横十センチ程度の分厚い紙で作られたカードが人数分渡された。俺達はそれぞれ名前を書き、係員に返す。



「はい! では登録しますね」



 と言って受付嬢はカードと同じサイズの四角形の魔石にカードを押し当てる。

 すると、名前の下に大きくブロンズという文字が浮き上がってくる。順番にカードを押し当て、全員分のカードを押し終わると、再びカードは俺達に返される。



「そのカードは身分証にもなり、依頼を受ける際にも必要になりますので、無くさないようにお持ちください。皆さんお知り合いのようですが、パーティの登録はいかがいたしますか?」


「はい、お願いします」


「了解しました。では別でこちらのカードもお持ちください」



 俺達が貰ったカードと同じカードを魔石に押し当て、渡される。ブロンズと大きく書かれていて、俺達のカードと違うのは、名前が一人分ではなく全員分書いてある所だ。小さい字で四人のフルネームが刻まれている。



「このカードはパーティ用のカードになります。パーティのお名前を空いてる部分にお書き頂くと、自動的にパーティとして登録されます。パーティとして依頼を受ける際はこちらのカードだけで構いませんのでお見せ下さい。後の細かい説明はこちらの冒険者ガイドブックを差し上げますので、そちらをご覧ください。必要な事はほぼ全て網羅されていますので」


「あ、ありがとうございます!」



 エヴァが受け取った本は厚さが十五センチはあるだろうかと思う程の分厚い本で重そうなのがひしひしと伝わってくる。



「さて、これで皆さんも立派な冒険者です! 安全には十分気を付けて、頑張ってくださいね!」



 心からの笑顔で受付嬢が激励をくれる。



「よし、オリハルコンへの一歩だな」



 まだ言ってたのか、レオ。



「オリハルコンなんて殆ど居ないんだよ。そんな簡単に成れるわけないでしょ」


「オリハルコン級に興味がおありなのですか? でしたらこの街に滞在されているオリハルコン級冒険者パーティ〈シルク・ド・リベルター〉様がサーカス団を兼ねていらっしゃいます。是非一度見に行ってはどうでしょうか?」


「この街にオリハルコン級冒険者パーティが居るのか!?」


「ええ、公爵であるバージス様に気に入られ、ここに滞在されてます」



 オリハルコン級……冒険者のランクの最上位に位置するその称号を持つ者は大陸に数えられる程度しか居ない。しかしその強さは絶対的で、帝国が誇る三大将軍にも匹敵する。そんな称号を持つパーティがこの街に居るとは夢にも思わなかった。

 アジェンダに続いて二人目になる。オリハルコン級冒険者に会うのは。



「よし、そのサーカス団に行ってみようぜ」


「その前に仕事行かなきゃ。今日本気で野宿になるよ」


「た、確かに……行くか」





 記念すべき初依頼となるのは薬草集め。ブロンズ級冒険者が必ず通る道でもあるらしい。

 近くの森に薬草を取りに行くだけの簡単な仕事で、強い奴との戦いを期待していたレオにはつまらないかもな。



「それにしてもエヴァって教養あるよな。ちゃんと敬語使えるし、対応も出来るし」


「一応元公爵家の娘だからね。礼儀作法とかは全部叩き込まれた。皆こそ出来ないの?」


「田舎育ち」


「山育ち」


「武一筋」


「あちゃ……」



 そんなこんなで俺達は依頼された薬草を取るため街から出た。

 すぐ近くに薬草を取りに行くだけの依頼なので、報酬は籠一杯に薬草を摘んで銅貨二枚。かなり安い仕事ではあるが、ブロンズの冒険者には必ずこの仕事が与えられるらしい。

 道すがら分厚い本を読んでいたエヴァが言っていた。



「パーティの階級はそのパーティに所属している人の中で、一番高い階級の人の物が反映される……だって」



 なるほど……てことは、オリハルコン級冒険者パーティはパーティ内にオリハルコン級冒険者が居るからそう呼ばれているのか。



 森に着いた俺達は早速中へ入り、薬草を探す。思ったよりも大きな森で、薬草の群生地になっていた。



「どれが……薬草なんだ……」



 レオは目の前に広がる薬草の群生地を見つめ、突っ立っている。エヴァも似たような感じだ。

 俺は昔から薬草採取をしていた事もあり、慣れたものだ。シエラも山育ちのおかげかすぐに見極め慣れた手付きで薬草を摘んでいる。



「ほら、二人共こっち来てみろって」



 俺に呼ばれ、二人は素直に俺のすぐそばまで近づく。



「この二つに葉っぱが分かれてるのが薬草だ」


「これだな」



 レオが自信満々に一本の草を引き抜くと、茎の棘が刺さったようで、少し痛そうな表情を見せる。



「それはよく似た雑草。棘があるか無いかで判断するんだ」


「くそ、雑草が!」



 今にも『二代銀月』を振り抜いて群生地を斬り刻みそうな勢いだが、文句を言いながらもせっせと薬草を採取している。エヴァは飲み込みも早いもんで、俺とレオのやり取りで理解し、黙々と摘んでいく。

 時々レオが棘のある雑草に怒り、俺達はおかしくてたまらないという風に笑い合った。



 そんなこんなで、それぞれが一つの籠をいっぱいにする頃には日が沈みかけていた。

 結果としては四つの籠をいっぱいにし、最初の依頼としては成果は十分とも言える。



「そろそろ戻るか。思ったより時間がかかった」


「うん、そうだね」



 俺達は街へ戻り、冒険者ギルドに薬草を納品。報酬として銅貨八枚を手に入れた。

 そこからもまた大変で、次は宿を探すべく街中を練り歩いた。宿はたくさんあるが、何せ高い。一泊飯付きだと相場はだいたい銀貨二枚ってところだ。

 すっかり夜になり、大通りを歩く俺達に一人の少女が声をかけてきた。

 元気に笑顔を浮かべてはいるが、その身なりからしてそこまで裕福ではないんだろう。大通りはまだまだ賑わっていて、客引きをする宿もちらほら見かける。

 そんな客引きの一人に俺達は捕まった。



 「格安だよ!」という言葉に釣られ俺達がついていった先は大通りから一つ路地に入った所にある小さな宿〈ホワイトパピー〉だった。

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