7話 『最弱』たらしめるもの
「ただいま戻りました!」
「あら、思ったより早かったのね。おかえり」
ガイナと別れて俺はまっすぐ家に帰った。
早くイザベラさんに合格を見せたかったのと、雷属性について聞きたくてかなり早足になってた気がする。
「で、どうだったの?」
心配そうな顔で見てくるイザベラさん。俺はニヤッと笑って紙を見せる。
「……全部合格じゃない! 良かったわね!」
「はい、ありがとうございます! ……で、イザベラさん。これなんですけど……」
「魔術属性ね……そっか、雷かぁ!」
イザベラさんはエリーさんやガイナ達と全く違う反応を見せた。少し嬉しそうな、それでいてワクワクしたような顔で俺を見る。
「やったわね!」
「やった……? 良いんですか? 雷って。エリーさんやガイナ達は心配するような、残念そうな表情で……」
「エリーさん? ガイナ? 誰?」
「あ、エリーさんは今日適性検査と魔術属性判別の時にお世話になった係員の人で、ガイナは今日出来た友達です! あとマナも」
「へぇ! もう友達が出来たのね」
「はい!」
「よかったわね! あ、で、雷属性だけど、もちろんいいわよ!」
「じゃあ何故ガイナ達は?」
「うーん、じゃあ魔術属性について話しておくわね。まず、魔術属性は大きく三つに分けられるの」
イザベラさんは三本指を立てる。
「まず四大基礎属性と呼ばれてる火、水、風、土。そして二大上位属性の光と闇。最後が三大下位属性の雷、泡、砂。名前の通り、基本の四属性とより強力とされる上位の二属性。そしてそれらよりも劣っているとされる三属性。事実として泡と砂は確かに他の属性より劣るわ……でも雷は別よ」
「別……?」
「雷が弱い理由は使う側に問題があるの。自然界のエネルギーを魔力を用いて再現する魔術において雷は属性としての力が強すぎるのよ。雷が強すぎて生半可な魔力量では雷を出す事さえ出来ない。前にも話したけど現代人の魔力量は衰退していているからね。だから現代の人は全く使えない上に大量に魔力を使う雷属性を三大下位属性に加えたの」
「……てことは魔力さえあれば……?」
「ええ、その通りよ。普通の人なら手にほんの少しの雷を発生させただけで魔力切れ……でも私はその魔力問題を解決する方法を知ってるわ」
「たしか、人間は持っている魔力の一部しか使えてなくて、身体の奥に眠る魔力をすべて使う方法があるんですよね」
「ええ! 善は急げ、早速訓練行くわよ!」
「え、あっ、はい!」
◇
イザベラさんに連れられ、いつもどおり訓練所に来た。
「さて、やり方はさっき説明した通りよ」
「初めて魔力を感じたように魔力を探し出す 色でいうと赤……ですよね。俺、初めて魔力を感じた時に赤い魔力も見たので行けると思います」
俺は目を閉じ魔力を探る。
二回目と言うこともあり簡単に赤い魔力を見つける事が出来た。今回は青い魔力に隠れていないという事もあってその膨大さが伺える。
赤い魔力は青い魔力と量も濃度も桁違いに違う。
これを引っ張り出して自分のものにするのか。しかし、自分の身体の中にある魔力なのに引っ張り出さないと使えないってのはどういう仕組みなんだろう……
まぁ考えても仕方ないか。さっさと引っ張り出すぞ。
なかなかイメージが難しいが、簡単に言うなら真っ暗な空間に俺がいて目の前に膨大な量の赤い煙のような魔力がある。
それを俺は引っ張って自分のテリトリーまで持っていくって感じだ。
簡単そうに言ったがこれが中々難しい。
魔力は暴れるし常に流動的で勝手に違うところに行こうとするから、自分の今ある魔力で包んで引っ張らないといけない。
かなりの精神力と集中力が必要だ。正直かなり辛い。が、この魔力を利用出来なければ俺はろくな魔術が使えない。
ここが正念場だ。
◇
魔力を引っ張り始めて早一時間。ようやく赤い魔力を引き釣り出すことに成功した。
「……っ!?………………はぁはぁ」
なんだこれ……この力、すごい。
赤い魔力を自分のものにした瞬間、全身からものすごい量の魔力が溢れだす。それこそ魔力を纏ってすらいないのに魔装衣を纏っているような感覚だ。
「す、すげぇ、これが」
「……古代魔力。ふふ、お疲れ様」
「イザベラさん。この力、凄いですね。体の底から力が溢れるみたいです」
「ええ、現代の人間全員が持っているにも関わらず殆どの人が気づかずに一生を終える……故に古代魔力なんて呼ばれてるわ」
と苦笑しつつも目はウズウズしてる。
「試してみたいです」
「ええ! ……あ、そういえば魔術の発動法なんて教えてなかったわよね。こんな事は魔術学で教えてもらうんだろうけど先取りね」
と、イザベラさんに魔術基礎を教えてもらう。
「簡単な話、頭で具体的にイメージしながら魔力を込めれば自ずと魔術となって顕現する。大抵の場合は形状をイメージしながら魔力を体外に放出する事で、自分の属性に魔力が勝手に変換されて魔術となる。まずは一度、試してみなさい」
「よし、やってみます」
俺は両手を握りこぶし分間隔をあけ、手のひら同士を向かい合わせにして構える。手と手の間に小さい稲妻が行き交うイメージをし、魔力を込める。
俺のイメージに呼応するように予想通りの稲妻がバチッと音を立てながら発生する。
「や、やった!」
「流石ね! でも、発生させるだけでは戦えないわよ」
「まぁ見ててくださいよっと」
ニヤッと笑って俺はさらに魔力を込める。
流石にイザベラさんに当てるわけにはいかないので兵士が訓練に使う藁で出来た人型の人形を狙う。
「……ふぅー」
バチバチと稲妻が行き交う中に雷が凝縮された玉が現れる。名付けて雷丸。俺の魔力を凝縮して爆発寸前で抑えられたビー玉サイズの玉だ。
きっとこれをそのままぶつけてもかなりの威力があるんだろうが、俺も巻き込まれるかもしれないから今回は……こうする!!
〈雷術 雷砲〉
雷丸からレーザーの如く雷が放出される。一点に集中させた雷を、幕のような雷で包んだのが雷丸。そこに一点だけ放出口を開けてやれば雷は出口を求めてその放出口から一気に溢れ出す。
雷砲は訓練用の人形に直撃し……訓練用の人形を貫いて更に向こうの地面に着弾。雷を伴った爆発が起きる。
「………あ、あれ?」
俺の予想では人形に着弾した時点で爆発するはずだったんだけど……
「すごいじゃない! クロト! 初めてでこの威力の魔術が使えるなんて……雷属性って事もあるでしょうけど、本当に恐ろしい子ね!」
とイザベラさんが抱きついてくる。か、顔に柔らかい感触が……
だがそれと同時に不意に疲労感が襲ってくる。脱力感に逆らわずそのまま膝をつく。どうやら雷属性の大量の魔力消費問題はこれの事らしい。それもそのはずで自分を包んでいた魔力が雷砲一発打っただけでごっそり削られている。
これは最弱と呼ばれる理由が身に染みてわかる。
古代魔力を持ってしてもこれだけの魔力消費量……死活問題だ。何か対策を考えないとな。
「やっぱり魔力の消費はとんでもないみたいね。いくら古代魔力を使っているとは言っても、雷属性魔術の魔力消費量は全属性の中で一番多い。魔力量を伸ばす訓練や、無駄な魔力を使わないようにする訓練もしないといけないわね。……でも、今日はもう遅いからこの辺で終わりにしましょう。焦っても仕方ないし、いきなり魔力を使い過ぎたら魔力枯渇症になっちゃうわ」
「なにより初日にここまで出来るなんて快挙よ、今日はお祝いね!」と何故か俺よりも喜んでいるイザベラさん。まぁ喜ばれてるんだから嫌な気はしない。
母さん。父さん。ローガン師匠。リック。……俺、あの時より格段に強くなってる。まだまだこれからな部分ばっかりだけど、一歩ずつ確実に進んでいくからな。
あともう少しだけ待っててくれ。必ず仇は取る。
俺は空を見上げ心に誓う。
「クロトー? 早く!」
「あ、はい! 今行きます!」