68話 帝国大会議
時は遡り、アイリス達ハンター隊とクロト達が再開するよりも二ヶ月ほど前。
エルトリア帝国城。
東西南北に塔をもち、それぞれの塔を繋いだひし形の城壁を持つ、大陸唯一の城。東西南北の塔を四副塔、中央にそびえる城本体を本城塔という。本城塔には王の間や大臣の部屋といった重要な部屋が多く存在している。
そして王の間より一つ下の階に設立された大会議室。
そこに集うは国の重鎮をはじめとするこの大陸を代表する者達。十二公爵のうち、エルトリアを除く十一の公爵。エルトリア帝国を代表するデルタアール皇帝、ブルックス大臣。そして各騎士団の団長三人。最後に三大将軍のファリオス、レボ、ヴァールハイト。
「皆の者、よくぞ集まってくれた。早速だが、今回話したいのは現在我が国に侵略を仕掛けてきている魔王についてだ」
円卓を囲む十八人の顔をそれぞれ見ながらデルタアールが話し出す。
「今現在、この大陸全土において魔王からの攻撃が相次いでいる。五年前、エルトリア城下町で行われた『心臓狩り』。その半年後にはアルバレス公爵領の襲撃。それとほぼ同時期に学園の雪山合宿襲撃。その際には学園の生徒を死に至らせた。一年前には大規模なヴァント襲撃とあまりにも……あまりにも目に余る」
「同意見でございます」
シルバス公爵、ワイズ・シルバス。銀髪にメガネをかけている。
「でもどうするのです? 現状、三大将軍をはじめとする国の最高戦力が対応に走り回っても追いつかない。それどころか接触さえ出来ない魔王にどうやって……」
「しかも厄介なのはあいつらの駒だ。痛みも感じず、死にもしないアンデッド軍団。そんなの相手に戦えってのもまた無理な話だ」
続いて口を開いたのはハングル公爵、アイリス・ハングル。そしてアルバレス公爵、バンリ・アルバレス。
「うむ、アイリス、バンリの言ったことも一理ある。今のところ判明している魔王は三人。心臓狩りを行っていた『不死不滅』のフロリエル。ヴァント攻防戦において、天馬騎士団によって目撃されている雷使いと氷使いの二人」
「しかし、少し不自然にも感じます。その手配書が流れてから、襲撃してくるのはその二人に似た格好をした二人組ばかり……しかし、その手配書が回る前は姿を隠すような事は一度も無かった。私も四魔王の一人である女の魔王を見ています。これではまるで、その二人が魔王だと思わせるためにわざとやっているとすら思えます」
三大将軍の一角、剛力将軍ファリオスがアルバレス公爵領襲撃の際、戦ったアリスの事を伝え、更に推測を述べる。
「そんな事はもはや問題ではないかと存じます」
「む? ヴァールハイト。それはどういう事だ?」
「人数がどうであれ、あの手配書の二人がヴァントを攻撃していた事に変わりはありません。最前線で追うべきは結局の所この二人です」
「私もそう思いますぞ〜」
ヴァールハイトと大臣、ブルックスの言葉に、何人かは頷く。しかし数人は納得できないように顔をしかめている。
「真偽をはっきりさせるのは現状無理でしょう。わらわたちがこれから何をするのか、どう対処するのかを話し合うべきでは?」
「うむ、ティアナの言う通りだ」
ティアナ……エレノア公爵で、十二公爵の中で唯一の妖精族のエルフ。
小規模な公爵ながらも種族の違いによるアドバンテージがあり、他の公爵には引けを取らない。元々は大魔森に生息していたのだが、部族間の争いから逃れてきた妖精族を十二英雄であるアフロディテが受け入れたことがエレノア公爵の始まりである。
「やるべき事は多い。大陸に迫る魔王に加えて、最近では姿を見なくなったが、ハンターの事も気になる。これより各公爵間での協力関係を築き、襲撃は公爵とその私兵で対処して貰う。天馬騎士団、一角獣騎士団を襲撃の際には派遣するが、何せこれ以上の兵は割けない。許してくれ」
その後もそれぞれの対策を協議し、デルタアール皇帝は龍騎士団にハンター捜索の全権を任せ、ファリオスは指名手配の二人を最前線追う事に。そしてレボとヴァールハイトは帝国の守備とその他細事の対処に回る事になる。
「大陸中の冒険者達の力も借りましょうぞ。彼らを味方に引き入れる事が出来れば、帝国の軍事力は二倍三倍にも跳ね上がる」
ブルックスの一言に周りの雰囲気もあり、皆が頷く。
「オリハルコン級冒険者パーティ〈シルク・ド・リベルター〉に要請を依頼しましょう。大陸の士気を上げ、戦闘面でも助けになるでしょう」
それに反応するようにレオ公爵、バージス・レオが反応する。
オリハルコン級冒険者パーティ〈シルク・ド・リベルター〉とは、アジェンダと同じくオリハルコンの称号を持つ『マスターボウ』をリーダーとする冒険者チームだ。
「もうひと押し欲しいですね」
バンリが興奮したように口を開く。
「なにか案があるのか? バンリ」
「はい、実は……」
◇
「兄者、本気なのか?」
帝会終了後、バンリの部屋にファリオスが訪れた。
「ん?」
「俺とオリハルコン級冒険者〈紅の伝説〉アジェンダの一騎打ちと言うのは」
「まだアジェンダにも連絡を取っていない以上なんとも言えんが……」
「内輪で戦ってる場合じゃ……」
「違うぞ、ファリオス。俺が提案したこの超決闘イベント。その真の目的は何もお前とアジェンダの強さを比べるものじゃない。冒険者の中でトップレベルの実力を持つアジェンダと帝国最強のお前が戦えば、かなりハイレベルな戦いを民衆に見せる事ができる」
「それが、一体……」
「帝国はまだまだやれるというのを見せれる。それが民の士気に繋がり、帝国の士気に繋がる」
「なるほど」
「これから魔族との戦いを本格的に視野に入れるとして、徴兵をするにしても民の士気が低ければ志願する者も減る。今はとにかく、帝国が魔族に抗うという姿勢と、帝国の力を見せなければならない」
「流石だ、兄者。そういう事なら俺も協力しよう」
「頼んだぞ、ファリオス」
◇
「……とまぁ、帝会ではこんな事を話した」
「なるほど……」
色々と気になる単語が出てきた。超決闘イベント。剛力将軍のファリオスとアジェンダの一騎打ちの決闘か……
「とにかく、お前達の事を……と言っても完全にクロトとエヴァを断定出来ているわけでは無いが、雷使いと氷使いをファリオスは追っている。誤解が解けるまではあまり目立たないようにした方が良い」
「ああ、わかった」
ロックドラゴン、そしてグラキエースドラゴンを倒した俺達はテリア山を一ヶ月で下りつつ、傷の手当をしていた。現在は傷もかなり治り、麓の集落で休んでいる。
ハンター隊からも死者が少なからず出てしまい、明日の夜に鎮魂の儀式を行うらしい。
かく言う俺達もかなりの深手を負った。俺は特に目立った傷は無いものの、獄化・地装衣による疲労とダメージの蓄積があり、ロックドラゴンに投げ飛ばされた時のダメージもまだ抜けてない。肋骨が数本折れたらしいが、シエラがほぼ完治状態まで回復してくれた。それでも受けたダメージを消す事は出来ないから、安静にしてろとの事だ。
レオは三人の中ではかなり重症だ。何度も投げ飛ばされたせいで全身の骨にヒビが入っており、おまけに奥義である神薙麒麟暴を使った反動が凄まじく、今も寝込んでいる。
エヴァは比較的俺達二人に比べると軽症だったが、謎の魔術のせいで魔力の急激な性質変化が起き、それによる消耗のせいで体に上手く力が入らなくなってしまっているそうだ。
因みに俺達の事を救ってくれたマルスは、武者修行の一環でこの山を訪れており、丁度下山している最中に俺達に会ったそうだ。積もる話はあるけれど、どうにも急用があるらしく、話もそこそこに出発してしまった。
俺達は体を癒やすことを最優先に、激闘の数日間を忘れ、ゆっくりと休む事にした。




