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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第二章 地獄編

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67話 竜を狩る麒麟

「ブレスが来るぞ!」



 岩石を十分食べたロックドラゴンは真っ直ぐレオ達を睨みつける。その口には魔力が込められ、溢れ出ている。



「シエラ、結界でブレスを止められるか?」


「恐らくは……いや、出来るでありんす」



 自らの抱える不安を払拭させるように、シエラは言い切る。



「なら頼む。幸いハンター隊も一箇所固まってる今なら、一人の結界でも全員を守れる。ま、結界が破れたら全滅するわけだが」


「時間が無いでありんすから、とにかくやるでありんすよ」



〈結界術 五重守護結界陣〉



 シエラの詠唱と共に指先から展開された魔法陣が、五枚重なり、五重の結界を作り出す。展開防御壁と違い、五重に重なるので、一点の防御力ではこちらが上回る。

 直後、ロックドラゴンの口から放たれたブレスが結界を襲う。ロックドラゴンのブレスは土砂のようで、そこにさっき食べたであろう岩石が混じっており、生身で受ければ全身をズタボロに引き裂かれていただろう。

 五重に張られた結界は強力で、ブレスを完全に防ぎ切れている。ブレスを完封されたロックドラゴンは驚き半分怒り半分でレオ達を再び睨みつける。



「はぁ……はぁ……」



 結界が消え、シエラが膝を付き肩で息をする。これまでシエラは月の女神の投擲眼アルテミス・シュス・アイの常時発動にクロト、レオの回復。更には何度も大技を結界術で防いできた。もはや魔力も大した量は残っていない。



「グォォォォォォォォ!!」



 ロックドラゴンは咆哮を轟かせ、再び地面にかじりつく。



「まさか……また……」


「ブレスを放つ気だ……全体!散開しろ! 避けきるぞ!!」


「いや、待て」


「どうした、レオ。あまり時間は……」



 レオは一歩前に出ると二代銀月を抜刀した状態で構え、腰を低く下げる。



「シエラ、悪いが最後にもう一度結界を張ってくれ。次のブレスさえ受け切ってくれれば、おれがあいつを倒す」


「な、何を言って……」


「奥義を使う」





 エヴァを抱えたまま俺は何度か地面を転がり、体勢を整えて立ち上がる。



「どうやら氷を食ったら強くなるらしい。てことはエヴァの攻撃はリスクが高いな」


「ごめん……」


「気にすることじゃないさ。俺があいつを落とすからトドメは頼むぜ。食べなけりゃ氷も効くんだろう」


「う、うん!」



 エヴァの謎の力は気になるが、今はこいつを落とすのが先。テンペスターがあればあれが使えるが……シュデュンヤーだけでもやってみるか。



「クァァァァァァァァァ」



 グラキエースドラゴンが再び空気を吸い込み、ブレスを放つ。



「クロト! 危ないよ!」


「問題ないッ!」



〈雷帝流不完全奥義 雷式(かみなりしき)黒雷滅破(こくらいめっぱ)



 シュデュンヤーから放たれた黒雷は一筋の斬撃となりグラキエースドラゴンのブレスを斬り裂きながら一直線に飛んで行く。

 黒雷滅破(こくらいめっぱ)はグラキエースドラゴンに当たる直前に回転し、軌道を変えてグラキエースドラゴンの片翼に直撃。翼を斬り裂かれたグラキエースドラゴンは空中に留まる事が出来ず、そのまま落下を始める。

 あれだけの巨体が上空から落ちて来ると、流石に衝撃もとんでもなく、近くに生えていた数本の木は吹き飛んでしまった。



「っ!……エヴァ! 無事か!」


「う、うん! なんとか……」



 雪煙が収まると翼をたたみ、四本の足でしっかりと大地を掴んだグラキエースドラゴンがこっちを睨んでいた。

 まだまだ戦えるみたいだな。



「エヴァ、これであいつはそう素早い動きは出来ない。特大の一撃をお見舞いしてやろう」


「うん。集中……集中……さっきの盾のような力を、もう一度私に……」


「クァァァァァァァァァァァ」



 グラキエースドラゴンの咆哮が再び響く。



「まだまだ元気そうだな。だったらもう一度……ッ!」



 一歩踏み出した瞬間に獄化・地装衣(インフェルノトール)が解ける。今まで溜まっていた疲労がどっと押し寄せ、俺は片膝を付き、シュデュンヤーが手から離れる。

 獄化・地装衣(インフェルノトール)が解けた事により、今まで抑えられていた疲労や痛みが体を蝕む。体中の節々が痛い。足も手も既に限界だ。動かすだけでも痛みが走る。魔力もほとんど残ってない。肝心な時にこればっかりだな、俺は。



「クァァァァァァァ」



 三度目のブレスが放たれる。

 今回のブレスは氷柱を無数に飛ばすさっきまでのブレスとは違い、吹雪と(ひょう)が混じり、螺旋状に回転しながら雪を巻き上げて迫ってくる。

 あれを防ぐだけの魔力は俺には残っていない。エヴァは……かなり集中してるみたいだ。魔力をかなり高めており、肌で感じれる程だ。周りにまで伝わってくる緊張感。あの盾をもう一度呼び出そうとしているのか。それも、あのブレスには間に合いそうにない。



「万事休すか……」


「……ったく、久しぶりに会ったってのにいきなりピンチかよ。歯ァ食いしばれよ! ガキ(・・)!」



 突然声が聞こえたかと思うと、視界の右端、森の中からキラリと光った。



文曲星(メグレズ)



 光は一瞬で消えたが、再び強く光り五、六個の光が放出される。複数の光はブレスに当たると激しい光と爆発を伴いながらブレスを相殺していく。

 グラキエースドラゴンはブレスを邪魔された事で怒りを森の中に向け、吠える。だが、驚いたのは俺達も同じだ。

 まさか救援が来るとは思わなかったのもそうだが、来た人物が意外過ぎるからだ。



「クァァァァァァァァァァ!!!」



 咆哮に混じって微かに足音が聞こえる。光を放った正体は草をかき分け、森の中から出てくる。

 紫の髪をゆるいオールバックにし、好戦的な目がギラギラと光っている。革鎧を身に着け、体にも革のマントを巻き付けている。腕には金属で作られた籠手がつけられており、光を放ったであろう右腕が煙を上げている。



「へばるには早すぎるんじゃないか? ガキ(・・)


「俺はガキじゃないって何回も言ってるだろ。マルス(・・・)



 現れたのはマルスだった。三年前、サラマンダーと戦った時に出会った武闘家だ。グレイドの頼みでクリュの救出に向かった時を最後に、実に三年ぶりの再会となる。



「ここは俺に任せときな。お前らもうボロボロじゃねーか」


「ああ、頼む」



 マルスはでかい図体に似合わない素早さでグラキエースドラゴンに接近するとそのまま右拳でグラキエースドラゴンの下顎を捉える。

 グラキエースドラゴンは体を吹き飛ばされそうになりながらも負けじと右腕でマルスを殴りつける。



「相変わらず化物だな、あの怪力」



 グラキエースドラゴンの右腕に投げ飛ばされたマルスだが、なんの問題もなく地面に着地、そのまま下から顎を殴りつける。

 グラキエースドラゴンの前足が浮き、体が仰け反る。



「今だ……行くぜェ!」



武曲星(ミザール)



 先程よりも強い光がマルスの右腕を包み、仰け反っているグラキエースドラゴンの腹に容赦なく拳を打ち込む。

 右腕は爆発を起こし、爆煙でマルスとグラキエースドラゴンの姿が見えなくなる。



「マルス!」


「心配すんなよ。ガキ」



 すぐに煙の中からマルスが出てくる。その後ろには仰向けに倒れ、気絶しているグラキエースドラゴンの姿が。俺の攻撃で片翼を失い、何度か攻撃を受けているとはいえ、たった一撃気絶せしめてしまうのか。三年前から思ってた事だが、その腕力はもはや人間を逸脱しているんじゃないか?



「さてと……改めて、久しぶりだな。元気にしてたか?」





「奥義を使う」


「……わかりんした。結界はわっちに任せるでありんす」



〈結界術 三重守護結界陣〉



 シエラが結界を張り終えると同時にロックドラゴンがブレスを放つ。さっきと同じく岩石が入り混じったブレスで、生身で突っ込めば全身をズタズタに引き裂かれてしまうだろう。

 だが、レオは左腰に差したままの二代銀月の鞘を左手で、柄を右手で握ったまま、体を低く倒して構えて動かない。

 すると、レオの全身から漏れ出したオーラがレオの頭上で一体の獣を象る。

 それは魔物のようで、獅子の頭に鹿の角。目は虎のようで体は鹿。全身には体毛の代わりに龍の鱗がびっしりと生えた生き物。麒麟(きりん)が具現される。




至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう奥義 薙払の型 『神薙麒麟暴かみなぐきりんのあかしま』〉



 先頭を飛んできていた岩石がレオに当たる寸前で横一文字に抜刀。それに合わせて麒麟が口を開いて吠える。その声はまるで雷が落ちたかのような轟音で、周囲一帯に響き渡る。

 二代銀月から放たれた斬撃は岩を真っ二つ……いや木っ端微塵に斬り裂いた。たった一度の振りだったにもかかわらず、放たれた斬撃は何重にも重なりそして散る。



「あ、あれは……なんだ……」



 すぐさま右へ左へ、斜めへ下へ。レオは二代銀月を振り、ブレスを斬り裂く。一振り一振りが何倍もの数の斬撃を纏っている為、乱雑に振られているはずの斬撃がブレスを完封している。

 更にレオは斬撃を繰り出しながら走り出し、次々と岩石を斬り落としてロックドラゴンへ迫っていく。

 結界を展開したシエラだが、結局ハンター隊の所へ来るのは土煙だけで、結界の必要は無かった。



「嵐の様でありんすな」



 まるで斬れる竜巻を纏ったレオはブレスを斬り進み、ロックドラゴンに接近。一振りがロックドラゴンの牙を捉え、岩石と同じく木っ端微塵に粉砕する。

 ここでロックドラゴンのブレスは止まり、すぐそこまで接近してきたレオを噛み砕こうと口を大きく開き、レオに覆いかぶさる。



「グォォォォォォ……グ……ォォ」



 だが、レオを噛み砕く前に二代銀月が振られる。

 痛みで顔を上げたロックドラゴンには下顎(・・)が無く、地面に落ちていた。

 そのすぐ近くにはロックドラゴンの下顎を斬り離したレオが返り血で真っ赤に染まりながら立っていた。が、それもほんの一瞬で更に次の斬撃で右腕が吹き飛び、次の斬撃では胸の部分に大きな傷が出来る。

 休む間もなく次々と斬撃が繰り出され、ロックドラゴンは全身をズタボロに斬り裂かれる。



「圧倒的でありんすな」


「ああ、あれはもう……死んでるぞ」



 もはや鱗など無い物と同じかと思うほど簡単に斬り裂いてくる斬撃の嵐に見舞われたロックドラゴンは、最後の最後に何の抵抗も許されずにドスンと音を立てて倒れた。

 それと同時にレオは二代銀月を鞘に収める。麒麟を象っていたオーラも消え、その場には一時の静寂が訪れた。

 だがこの場にいた全ての人間が確信した。



「か……勝った……勝ったぞ!!」


『うぉぉぉぉぉぉ!!!』



 ハンター隊はある者は抱き合い、ある者は今回の戦いで死んだ仲間の事を思い、ある者は疲れ果てて座り込んだ。

 ロックドラゴンにトドメをさしたレオは麒麟駆け以上の体力を使う奥義、神薙麒麟暴かみなぐきりんのあかしまを使った事で完全にダウンし、ロックドラゴンのそばで倒れた。

 レオは眠気を堪えながら横目に自身が斬ったロックドラゴンを見る。その腹部にはクロトの愛剣、テンペスターが刺さっていた。

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