65話 〈獄化・地装衣〉
尻尾に吹き飛ばされたレオは麒麟駆けの疲労と尻尾のダメージで意識が朦朧としていた。エヴァは離れていたから無事だったものの、尻尾を振り回す風圧だけで体を吹き飛ばされてしまっている。
「レオ! エヴァ!」
アイリスは二人に駆け寄る。
半数のハンター隊はそれに続き、もう半数はその場に留まり、ロックドラゴンに攻撃を続けている。
「私は……なんとか。レオが……」
「だい……じょうぶ……だ」
レオは無理矢理体を起こす、が、かなりフラフラだ。アイリスは手のひらをレオの背中に当てる。
「なにを……」
「大丈夫なはずない。肋骨は殆ど折れてるし、背骨も一部砕けてる。砕けた骨で内蔵もかなり傷ついてる。……意識があるだけでもすさまじい精神力。立って戦うなんて最早無理な体だ」
「触っただけでわかるの?」
「まぁある程度はな。せめてシエラがクロトを回復させて戻ってくるまでは無理だ。回復してからじゃないととても……」
「じゃあ、誰が……あいつを止めるんだ」
ロックドラゴンは矢を受けても微動だにせず、視覚を失ったとしても残った四感がレオ達を見つけ、ゆっくり足を引きずりながら近づいてくる。
〈氷術 雹絶帝砲〉
エヴァの両手から放たれた冷気の大砲はロックドラゴンの左手に直撃。だが、大したダメージにはなっていない。長期戦のせいもあり、魔力もあまり残っていない状態での魔術じゃ、ロックドラゴンを倒すどころか、鱗を剥がす事すら厳しい。
「だめだ……このままじゃ」
その時、エヴァ達から見て向かって右側から光の線がロックドラゴン目掛けて一直線に通過する。その光の線はロックドラゴンの左足、レオの斬り裂いた傷口に突き刺さる。
「グォォォォォォォォォォォォォォ」
痛みからか大きな咆哮をあげ、ロックドラゴンはそのまま前にのめり込み倒れる。
「今のは……」
よく見ると、ロックドラゴンの左足には一本の矢が刺さっていた。
「シエラか!」
「待たせんした。復活でありんす、クロト!」
シエラの後ろからまさに雷の如く飛び出したクロトは、ロックドラゴンの頭上で止まる。
〈豪雷術 雷光・御神楽之劍〉
クロトの手から放たれた雷は巨大な剣へと姿を変え、ロックドラゴンに降り注ぐ。
「す、すごい……」
「雷の質が……全く違う」
◇
目を開けるとそこにはシエラがいた。目覚めたばかりだったが、頭はかなりスッキリしており、すぐに状況が理解出来た。
シエラが回復してくれたおかげで俺は意識を取り戻せた。そして俺が抜けたせいでエヴァとレオだけでロックドラゴンを止めなくてはならなくなった。だが、それも長くは……
「ありがとう。シエラ」
「大丈夫でありんすか? もう少し回復してから……」
「いや、問題ない。みんな戦ってるんだ。戻ろう」
俺は体を起こし、状態を見る。
かなりの衝撃で吹き飛ばされたりしたからボロボロかと思ったが、そうでもない。シエラの回復でだいぶ力が戻ってきている。
「でも……あの様子では無策で突っ込んでも勝機はござりんせんよ?」
シエラは目を伏せながら言う。
「だからって戻らないわけには行かないだろ? 任せとけ……新技を使う」
「新技……?」
俺は立ち上がり右手に握られたままのシュデュンヤーを地面に突き刺す。右手の甲に刻まれた地獄の鍵が光る。
「開け! 地獄の門よ!! 来い……地獄の豪雷!」
〈獄化・地装衣 モード雷神〉
雷化・天装衣とは比べ物にならないほどの膨大な魔力を必要とする獄化・地装衣。獄気を地獄の門から直接体の中に流し込む事で、地獄の雷を俺の体へと宿す。
発生させるだけでもかなりの魔力を要求される雷だが、その分獄気を魔力に変換出来るから地獄の門を開いてる間はほぼ無限に魔力が溢れ出して来る。
状況と場合によっては雷化・天装衣よりも使いやすいかもしれない。
「クロト……その姿」
雷化・天装衣の時は体が雷化する……つまりは全身が黄色がかった白色になって輪郭が雷の性質上不安定なバチバチした姿だったが、獄化・地装衣は雷化した体に雷の鎧を着込んでいる。
「初めて使ったけど、わかる。力が全身から溢れてくる……行こう、シエラ」
「わかりんした」
そして現在に至る。
◇
雷光・御神楽之劍は爆発的な轟音を轟かせ、ロックドラゴンに降り注ぐ。
落雷の何倍もの雷エネルギーを叩きつけられて地面は震え、小石は重力に逆らい宙へ浮かぶ。
そして爆発を伴いながら剣は消え、辺りは雪煙に覆われる。
「クロト!」
皆の元に飛び降りた俺はエヴァに迎えられる。
衝撃で雪が舞ったせいか髪の毛に雪がついてたり、全身に擦り傷や掠り傷はあるが、とりあえずは大丈夫そうだ。レオもかなり重症みたいだが、シエラの癒術と元々頑丈だったこともあり、回復してきている。
「やった……のか?」
ロックドラゴンの方を見るとシエラの矢によって足を射抜かれ、追撃の雷撃を食らって倒れたまま動いていない。
雷の攻撃により、全身から黒い煙を上げている。
「クオオオオオオオオオオオ」
その場にいた誰もが勝ちを確信したその時、ロックドラゴンとは“違う何か”の鳴き声が雪山に響く。次に翼のはためく音が遠くから聞こえてくる。次第に近くなっていき……
「お、おい……あれ……」
ロックドラゴンよりかなり斜め上を見上げたレオが目を見開く。
目線の先を見ると遠くからなにか近づいてくる。鳥……? いや、ドラゴンだ……
それもサラマンダーやロックドラゴンと違って肩から巨大な翼の生えた、純竜と同じタイプのドラゴン。
「しまった、このタイミングで奴が目覚めるなんて!」
「アイリス! 奴って……?」
「テリア山の主にして超級魔物の中でも更に上位魔物。氷竜グラキエースドラゴン……」
「グラキエース……」
「ドラゴン……! ずっと言ってた奴ってあいつの事か」
「グォォォォォォォォォォォォォォ」
更に最悪なことに黒い煙をあげ倒れていたロックドラゴンが息を吹き返し、再び立ち上がった。
岩石の鱗鎧はほぼ剥がれ、雷の剣による傷が全身についている。だが、サラマンダーの時と同じく憎悪の籠もった目で俺たちを睨んでいる。
「グォォォォォォォォ」
「クァァァァァァ」
地にはロックドラゴン。空にはグラキエースドラゴン。
これはかなりまずい状況だ。
「来るぞ!!」
レオが叫ぶとほぼ同時にグラキエースドラゴンが息を吸い込む。そして吐き出すと同時に大量の“何か”が飛んでくる。
何十何百を超えるそれは無差別に飛んできて、辺り一帯を雪煙で覆い隠す。
「ぐあ……」
「痛い……」
「う……」
「……っ!」
あちこちから痛みを訴える声が聞こえてくる。
足元に突き刺さった“それ”をよく見ると縦五十センチ、幅十センチ程の氷柱だった。両端が鋭く、もし当たればただでは済まない……
「まずいぞ……」
〈結界術 展開防御壁・五〉
シエラが手を伸ばすとグラキエースドラゴンと俺達の間に結界が貼られた。
一つの魔法陣が展開され、それを中心に四方に四つの魔法陣が展開される結界だ。俺達だけでなくハンター隊も守る事が出来るほど大きい。
「どうする……!」
「今の一撃で負傷者がかなり増えたでありんす。全員を回復しながら、更にあの二匹を抑えるなんてとても出来んせん」
「チームを分けよう。このまま一か所に留まっても勝ち目は無い!」
「エヴァの言う通りだな。グラキエースドラゴンは俺が殺る。ロックドラゴンは……レオ、頼めるか?」
「任せとけ、だいぶ回復してきた」
「わっちはレオに付くでありんす」
〈癒術 神の聖光〉
黄色い光の粒子がレオに降り掛かり傷を癒やす。
ここは任せておいて大丈夫だな。
ロックドラゴンはかなりダメージを食らい鱗鎧も剥がれている。残った戦力でも勝てるとは思うが……問題なのは氷竜・グラキエースドラゴン。あいつはまだダメージを受けてないし、能力なんかも全くの不明。あの氷柱をまき散らすブレスも十分に厄介だ。
ロックドラゴンの岩石の鱗鎧なんて隠しネタもあるかもしれない。だが、まぁ……獄化・地装衣なら、悪くても相打ちには持っていける。
「エヴァ! 来てくれ」
「う、うん!」
「あいつをここから遠ざける」
「わかった……けど、どうやって引き離すの?」
「んー……とりあえずやってみるか」
「え?」
俺は手のひらに小さな雷の塊を作り出す。雷丸よりも歪で、力を抜けば暴発するレベルの雷だ。まぁ、挑発には十分だろう。
俺は雷の塊をグラキエースドラゴンめがけて投げつける。小さかろうが歪だろうが、雷は雷。ソニックブームを起こしながらグラキエースドラゴンの胸部に直撃。全身に電気が走りグラキエースドラゴンは一瞬怯む。その後俺達に狙いを定めたらしく、こっちを睨んでいる。
「よし! 行くぞ!」
エヴァを肩に抱きかかえる。
「ま、待て! まさか二人で相手するつもりか?」
「ああ 任せてくれ」
「しかし……」
「アイリス! 集中しろ。相手はボロボロだが、おれ達もボロボロなんだ」
「あ、ああ」
「じゃ、行くぜ」
俺は方向を変えて走り出す。グラキエースドラゴンも釣られて俺達を追って来る。
雷化・天装衣や獄化・地装衣を使うと雷とほぼ同じ速度で動ける。まず追いつかれる事は無いだろう。故にあいつを離し過ぎず、近づき過ぎず……一定の距離を維持したままロックドラゴンから離れる。
「まさか……」
「おう、このまま行くぞ。適度に攻撃して挑発してくれ」
「わかった……!」




