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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第二章 地獄編

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64話 名付けて、『地装衣』

「ハンター隊! これより全員で鱗を削ぎ落とせ!」


『了解!!』



 俺はシュデュンヤーを右手に持ち替え、走り出す。シュデュンヤーに魔力を流し、黒雷を纏わせる。

 シュデュンヤーは地獄の獄気を大量に吸い込んだ鉱石から造られている。故に雷を流すとシュデュンヤーの持つ地獄の力と合わさり、黒雷が発生する。



「いくぞ!」



 ロックドラゴンに真正面から接近する。目では俺を捉えているが何もしてこない。余裕のつもりか。だが、何もしてこないのならば好都合。鱗の中でも特に飛び出た鱗に足をかけ、ロックドラゴンの頭上に飛び上がる。



〈雷帝流 神鳴螺旋(かみなりらせん)・獄〉



 シュデュンヤーを地面と平行に構えて体をひねり、その場で回転する。黒い雷がそれに伴い俺の体を軸に回り、黒雷の竜巻が生まれる。

 竜巻は一撃こそ強くないものの、継続的にロックドラゴンの鱗を削る。次第に回転軸が俺の体からロックドラゴンに変わり、黒雷の竜巻がロックドラゴンを閉じ込める。

 黒雷の竜巻はロックドラゴンの鱗を削り取るが、この程度では全ての鎧を剥がすまでには至らない。

 もっと強くて、でかい攻撃が必要だ。

 エヴァと俺の……いや、シエラも加えた三人の複合魔術とレオのダメ押しの一撃があれば剝がせるはずだ。



「クロト! 奴が何かするぞ!」



 アイリスの忠告通り、ロックドラゴンが黒雷の竜巻を破り、右腕を天に掲げている。



「……ッ!!」



 直後、ロックドラゴンの巨大な腕が空中にとどまっていた俺を捉え、俺は呆気なく投げ飛ばされる。

 一瞬意識が飛ぶほどの衝撃を受けてそのまま空を飛び、そして頭から地面に突っ込む。

 雪が覆われていたおかげでいくらか衝撃は緩和されたが、それでも衝撃は凄まじく、意識が飛びそうになる。数回雪の上をバウンドした後、俺は仰向けに倒れる形で地面に落ちた。



「がはっ……」



 腕の攻撃を受けた左半身が痺れて動かない。

 食道を何かが逆流してくる嘔吐感がしたと思ったら口から血が吐き出され、雪を赤く染める。

 体に上手く力が入らない。頭がうまく回らない。思考が停止する。視界もぼやけてよく見えない。辛うじてロックドラゴンの方を見ると、かなり遠くに見える。

 結構な距離を飛ばされたらしい。

 目の前を黒い斑点が現れては消えを繰り返す。次第にチカチカしだし、まぶたが重くなる。身体全身が気絶を要求している。

 右手にはまだシュデュンヤーを握っている。あの攻撃を受けてもちゃんと持ってたのは良かったが、この体じゃまともに振れるかどうか怪しい。



 そんな事を思っているうちに気力に限界が訪れ、意識が途絶える。





「クロトっ!!」


「エヴァリオン!! クロトなら大丈夫なはずだ! 今は目の前の敵(ロックドラゴン)に集中しろ」



 クロトが吹き飛ばれた直後、動揺するエヴァをレオが止める。



「シエラ! クロトの所へ行ってくれ。癒術の使えるシエラなら、クロトを助けられるだろう」


「し、しかし……」


「行け!! クロトの強さは本物だ! あいつ無しでは勝てないと思え!」


「わ、わかりんした」



 アイリスの命によりシエラはクロトの元へ向かう。

 ロックドラゴンは邪魔な竜巻を発生させていた人間を吹き飛ばし、新たな標的を全方位から矢を浴びせてくるハンター隊に変えた。が、ハンター隊は全方位に散っているため、あっちを向いたりこっちを向いたり、狙いが定まっていない。



「アイリス様」


「ん? どうした、エヴァリオン」


「ハンター隊を集めて目を狙って下さい」


「目を?」


「あの図体でも眼球には攻撃が通るはず。遠距離攻撃の精度に乏しい私やレオじゃ正確に目を潰せませんが、ハンター隊の弓なら可能でしょう」


「それはいいが、今はハンター隊が注意を引いている状態だ。ハンター隊が目への攻撃に転換したあと、誰があいつを抑える?」


「おれが居る」


「……わかった。頼むぞ!」


「行くよ、レオ」


「着いて来い」



 レオもエヴァも、同時にロックドラゴン目掛けて走り出す。

 後ろからハンター隊を集めるアイリスの声を聞きながら、エヴァは考えを巡らせる。



 クロトも居ない。シエラも居ない。敵にはまだまだ余力がある。

 今の最高戦力はエヴァとレオ。それも既に一撃食らって万全とは言えない。鎧も剥がしきれてない。状況は絶望的。

 全身の鎧を剥がす作戦は一旦やめて、奴の動きを止める事から考える。シエラがクロトを回復させてくれるまで、時間を稼ぐだけでいい。



「エヴァリオン!」


「どうしたの?」


「具体的にはどこを狙うんだ?」


「そうだね……」



 未だ四方から飛んでくる矢に翻弄されているロックドラゴンを見ながら考える。

 奴の中で一番危険な部分はどこか、どこを使えなくすればこの状況は打破出来るか。ドラゴン特有の鋭い五感の内、特に鋭い目か……クロトを投げ飛ばした巨大な腕か……いや、もっと潰すべき部位がある。



「足を……足を使えなくしたい!」



 ロックドラゴンの後ろ足二本は太く、がっしりと地面を捉えている。その脚力はあの巨体で遥か天空に飛び上がるほどだ。

 あの足がロックドラゴンの機動力の源なら、まずはそこから潰す。



「左は頼むよ、レオ」



〈氷術 武器具現 『トマホーク』 氷斧両断二投撃ひょうふりょうだんにとうげき



 エヴァの頭上に作り出された二丁の氷の巨斧が、その場でクルクルと回転し、そのままロックドラゴンの右足めがけて飛んでいく。

 氷の巨斧は右足を挟むように命中し、チェーンソーのようにガリガリと岩石の鱗鎧を削っていく。鱗鎧はボロボロと削れ、少しずつ足本体に近づいて行く。

 だが、それをロックドラゴンが黙ってみているはずもなく、右足を切断しようとする二本の氷斧の内一本をくわえ、頭を大きく回して勢いを付け、噛み砕く。

 もう一本は角度的に届かず、だがなんとかしようとロックドラゴンはもがく。



「そりゃ、足が削られてるんだ。必死なのはわかるが……隙だらけだぜ」



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『麒麟駆け』〉



 レオは右足にばかり気を取られているロックドラゴンの左足目掛けて飛び込み、抜刀。そのまま連撃を繰り出す。



「グァァァァァァァァ」



 右足を削っていた氷斧が遂に岩石の鱗鎧を破りロックドラゴンの生身にたどり着き、回転を増した氷斧はロックドラゴンの足を抉り斬っていく。

 加えて左足にまで斬撃を食らい、怒りを(あらわ)にする。



「グォォォォォォ」



 氷斧に斬られた右足は血を吹き出し、プルプルと震えている。氷斧は血に染まり、回転数も勢いも落ち、骨に辿り着く寸前でヒビが入り、そのまま砕け散る。



「はぁはぁ……レオ!」



 レオはまだ左足に斬撃を繰り出している。十連撃を超えたあたりで鱗鎧が剥がれ、斬撃が生身を捉えた。

 傷は氷斧の方が深いが、麒麟駆けの特性である連撃のおかげで、左足は滅多切りにされ、ロックドラゴンはついに両足を膝につく。



「……十六連撃」


「放て!!」



 そこへ更にハンター隊の矢が降り注ぎ、ロックドラゴンの両目を塞ぐ。両目両足を失い、ロックドラゴンは闇雲に頭を振る。



「グォォォォォォッッ!!!」



 ロックドラゴンは力を振り絞り、一際大きい咆哮を轟かせる。



「最後の力か? ……このまま決める」



 レオの麒麟駆けはかなりの体力を使う。今のレオはかなり疲労が溜まっているはずだ。



「レオ!!」


「ああ」



 レオは立ち上がり、もう一度抜刀の構えを取る。



「グォォ」



 ロックドラゴンは切断されかけた右足の膝に重心をかけ、そのまま回転。滅多切りにされた左足と尻尾が超速度で振るわれ、空を切りながら横一線に駆け抜ける。結果、尻尾がレオを直撃し、その体を吹き飛ばす。





 そこから二百メートルほど離れた場所で、倒れたクロトと青髪の少女、シエラが居た。



「クロト!」



〈癒術 癒やしの光(ヒールライト)



 優しい緑色の光がクロトの体を包み傷を癒やしていく。だが、傷が深すぎて、回復が間に合わない。



「それなら……」



〈癒術 神の聖光ゴッド・セイクリッド・ヒール



 シエラの手から放たれた黄色い小さな光がクロトの全身に降りかかる。

 神の聖光ゴッド・セイクリッド・ヒールは傷を持続的に回復し続ける。瞬間的な効果は他の癒術に比べて劣るものの、持続回復の恩恵はでかい。

 これでシエラが手を離しても回復し続けてくれる。



「その間にわっちはもっと高位の癒術を……クロト! 起きなんし! ……クロトッ!」





 灰色の大地、それを区切るように流れる赤い川。空には一面赤黒い雲に覆われている。更にゴロゴロと黒い雷も走っている。

 すぐ近くには黒い宮殿がそびえ立ち、地上には咲かないであろう花が咲いている。



「クロトよ。これから雷化・天装衣(ラスカディグローマ)以上の切り札となる新技の習得に移る。雷化・天装衣(ラスカディグローマ)が出来たお主ならば、これも習得出来るであろう」


雷化・天装衣(ラスカディグローマ)以上? 雷化・天装衣(ラスカディグローマ)自体もかなり強化したのにか?」


「うむ、今までは雷化・天装衣(ラスカディグローマ)でなければ使えなかった高位雷術を通常時でも使えるようにし、雷化・天装衣(ラスカディグローマ)使用時には雷術の上位に位置する神鳴(かみなり)術が使えるように修行してきた。だが、それ以上の力が必要になる時も来るだろう」


「なるほど……一体どんな新技を?」


「お主のネーミングを借りるが、名付けて『地装衣』」


「地装衣……」


「うむ、地獄の豪雷、獄気を含んだ黒雷。はたまた地獄の炎を呼び出し雷炎化なんて事も出来るかもしれない」


「そんな事が……」


「要領は雷化・天装衣(ラスカディグローマ)とほぼ同じだが、地獄の門を開き、獄気を自分に流し込む事で地獄の力を雷化・天装衣(ラスカディグローマ)に組み込むんだ」


「なるほど、そんな使い方が……早速やろうぜ!」


「そう慌てずとも良い。いいか、この技のメリットは色々ある。だが、逆にデメリットも大きい事を忘れるな。下手をすれば命を燃やす技にもなりかねん。そもそも雷化・天装衣(ラスカディグローマ)ですらお主にとっては命を削るドーピングじゃ。それ以上のものだとよく心に刻んでおけ」


「……ああ。わかったよ」





 今のは……

 修行の時の記憶。そうだ、あれは一年前。ヴァント攻防戦から帰ってきた後、最後の修行として教えてくれたんだっけ。



“……ロト!”



 ん、なんだ……?



“……ロト! 起きなんし!”


“クロト! 皆がピンチでありんす。寝てる場合じゃないでありんすよ”



 この声はシエラか……

 皆がピンチ? 俺達はロックドラゴンを倒すためテリア山に……そうか! 俺はロックドラゴンに吹き飛ばされて……



「クロトよ」



 突然、さっきまで聞こえていたシエラの声とは別に、もっとはっきりした別の声が聞こえた。後ろを振り返ると、そこにはさっき記憶でも見た赤い肌の巨人、ハデスが居た。



「ハデス? なんでこんなところに……」


「いいから立ち上がるんじゃ。寝てる場合か? 地獄の門を開け、許可しよう」



 そうだ、みんなは戦ってるんだ……

 こんなところで寝てる暇はない。

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