61話 月の女神が微笑むまで
「まさかまた会えるとは思っていなかったが、それがよりにもよってこんな所になるとはな!」
「こっちもびっくりだ。まさか再会するとは夢にも思ってなかったからな」
雷獣・トゥエルノティーグルを倒した後、傷の手当と魔力回復の為、そのすぐ近くでハンター隊と共に野営をする事にした。
今はいくつかのグループに分かれ、焚き火をしている。
俺達の所にはアイリス、青髪の女の子、俺、エヴァ、そして少し離れた所にレオが居る。近くに来いと言ったのだが、どうにもこういう場には馴染めないらしい。
しかし、強いとは思ったが、超級があんな普通の森にいるなんて……これもアグリアの言っていた魔物の凶暴化なのか。
「しかしお前達は死んでいたはずだが……?」
「テリア山の事か? 雪崩になら確かに巻き込まれたが、生きてたさ」
「いや、間違いなく死んでいたはずだ。確かに我々も雪崩だけでお前達が死ぬとはとても思えなかった……が、三年前、お前達を探すため龍騎士団と天馬騎士団の要請で私達ハンター隊も駆り出された。そして見つけたのがお前達の死体だ」
「なに?」
死体? でも俺達は現に生きている。どう転んでも死体なんて出てこないはず。てっきり行方不明で処理されているんだろうと思っていたが、違うのか。
「そのせいもあって帝国内でまだお前達が生きていると思っている者はもう居ないはずだ」
「なんだそれ……」
「私にもわからない。間違いないのは、何者かが何らかの理由で偽の死体を作ったという事だ」
「普通に考えればそうだよな。一体誰が何の目的で……いや、まぁいい。いつかそいつも見つけ出してやる」
「うむ。今目の前にお前達が居るのでは、あの死体が偽造されたものだと言わざるを得ない。それはそうとしても、再び会えてよかったよ」
「俺もだ。しかしこんな所で何してたんだ? ハングル公爵領はまだ先のはずだろう?」
確かハンター隊はテリア山を拠点にしていたはず。ここはハングル公爵領からは近いが、テリア山はまだ先だ。
「うむ 帝会に参加してきた」
「帝会?」
「正式名称、帝国大会議。定期的に行われる国の重鎮と私達十二公爵が集まり、帝国の抱える問題、及び展望について話し合う場だ」
「そんなのがあったのか」
「うむ、参加するのはデルタアール皇帝、ブルックス大臣、各騎士団長、三大将軍、十二公爵、そして七老会」
「七老会……?」
どこかで聞いた事ある気もしなくもなくもない。
「国の最高権力者だ 時として皇帝にも意見出来る」
「すごいな」
「魔術を極めし七人の老人。三大将軍だったとしても、戦えばどちらが勝つか断定は出来ない程の実力を持つ」
「そんなすごい人なのか……で、その会議では何の話をするんだ?」
「一応秘密なんだが、まぁいいか。こいつらについてだ」
と、アイリスは二枚の紙を俺に渡す。何度見たかもう分からないほど見た俺達の例の手配書だ。一年経った今でも根強く出回ってるなんて。
「あ、ああ……」
「魔王だ。こいつらは最近特に活発でな。被害にあった街ももう十を超える」
「あー、でもやってるのはこいつらじゃないよ」
「ん? なぜわかる?」
「これ、俺達の事なんだ」
沈黙が辺りを包み込む。
遠くで他の隊員の談笑する声も聞こえるのに、なぜかここだけ沈黙。なんか不気味だ。俺はなるべくおどおどしないように直立を努めた。エヴァは少し気まずそうに俺の服を掴む。
アイリスは一点を見つめたまま動かず、青髪の女の子は若干目に殺意がこもった。レオは……後ろの木にもたれかかりながら寝てる。
「そ、それは驚いたな。てことはお前達が……」
「あ、いや、違う違う。一年前、ヴァント襲撃事件があっただろ?」
「ああ、そこで目撃した証言を元に作られたと聞いたが」
「たしかにあの場に俺達もいたが、俺達は魔王と戦っていた。そこを見られ、魔王と勘違いされたんだ」
「…………なるほど」
アイリスはしばらく考えた後、それだけ言った。
「だがしかし、ヴァント攻防戦以降、魔族に襲撃された現場ではこの手配書によく似た二人組が目撃されている」
「ここからは推測だけど、多分この手配書になりすます事で俺達へ疑いを向けたいんじゃないか? 本物の魔王が。根本的には魔族に敵意が向くから意味が無いが、本当の魔王の情報が割れていないのは何かしらで使える場面も出てくると考えたのかもしれない」
「なるほど、それなら辻褄も合う……か。そもそも四魔王と呼ばれてるのだから四人いるのが当然。逆にその指名手配された二人組だけを出してくるのは怪しいしな。うち一人の『不死不滅』のフロリエルは情報が割れているわけだし、これ以上手札を見せないぞという姿勢なのかもしれない」
「全ては推測だけどな。とにかく死んだと思われてるならそれはそれで好都合。死んだまま魔王を倒すさ」
また周りが沈黙に包まれる。
「あ、そういえば」
突然思い出したようにエヴァが口を開く。
「さっきトゥエルノティーグルの攻撃を結界術で助けてくれたのは誰?」
「ああ、それはこいつだ」
とアイリスは隣に座っていた青髪の女の子を指す。
「さっきはありがとう! 私はエヴァリオン、よろしくね」
「役に立てたのならわっちとしても嬉しいでありんす。わっちはシエラ・アグリアス。ハンター隊の副隊長を務めておりんす。雪山合宿の時も見かけていんしたが、実際に話すのは初めてでありんすね」
へぇ、珍しい喋り方だな。
シエラもこれまた美形で青い髪は流れるようなポニーテールで、目はオッドアイだ。右目は金色、左目は赤色だ。
シエラとすぐに仲良くなった俺達は再び話に花を咲かせた。
「今度はお前達の話を聞かせてくれ。今は何をしているんだ? なぜあんな所でトゥエルノティーグルと戦っていた?」
しばらく談話した後、アイリスが真剣な表情に変わる。
こういう所を見るとやっぱり公爵の名は伊達じゃないなと思う。今まで友達同士って雰囲気から一気に変わった。
「うん、つい最近まで遠い場所で修行してたんだけど、魔王の動きが目立ってきたから倒す為に戻ってきたの。で、今はヘレリル公爵領に向かう途中で野宿して、朝起きたら……って感じ」
俺の代わりにエヴァが話し出す。
「魔王を倒すた為に仲間集めの途中でもあるけどな。あそこで突っ立ってんのが新しい仲間のレオ」
「うむ、そうか……」
アイリスは何かを考えてるのだろう、一点を見つめている。
その後、俺達は他愛もない話を少ししてそれぞれ眠る事にした。見張りはハンター隊がしてくれるらしい。
最近は夜ずっと交代で見張りしていたから夜ゆっくり眠れるなんて久々だし、ありがたくお願いすることにした。明日こそは目覚めたら超級の魔物がこっちを見てるなんて事が無いと良いな。
◇
翌日。
久々に清々しい朝を迎え、ゴンザレスとエリザベスに餌をやって、ハンター隊の作った朝食を頂いた。
ハンター隊も普段から保存食を食べてるらしく、俺達が普段食べてるものと似た朝食が出された。だが、流石は長く狩りを続けるハンター隊だけあって、味に色々な工夫がされていたりして、久々に美味しいものを食べた気分だった。
そしてしばらく休憩した後……
「さて、エヴァ、レオ。俺達はそろそろ行くか」
「だね」
「ああ」
荷物をまとめ荷台に乗せる。ハンター隊が食料を少し分けてくれたおかげで次の街まで食糧の心配はしなくて良さそうだ。
各々がハンター隊の面々に礼を言ったり別れを告げる。そんな中、激しく蹄を鳴らしながら街道を走り抜ける一頭の馬とそれに跨る一人の女性はやってくる。
俺達……というよりもハンター隊の一団を見つけると、慌てた様子で方向を変え、一直線に向かって来る。服装からしてハンター隊の一員だろう。
「ア、アイリス様!!」
「ん? ユノか、どうした?」
馬で駆け抜けてきた女性はユノと呼ばれた。
「はぁはぁ……テリア山に、ロ、ロックドラゴンが!!」
「なに!? ロックドラゴンなんて今まで一度も……」
「魔物の凶暴化に伴うものだと思われます! さらにロックドラゴンに縄張りを荒らされた“奴”が目覚めて……」
「嘘だろ……ロックドラゴンに加えて“奴”まで……」
「こんな所で油売っている場合じゃありんせん。急いで戻らないと、このままじゃ……」
なんだかヤバそうな雰囲気。
ロックドラゴンって言えばサラマンダーと並ぶ超級亜竜。サラマンダーですらマルスやアジェンダが居たから倒せたようなもんだし、かなり強いと予想出来る。
「クロト……恥を忍んで頼みがある。このままロックドラゴンを野放しにしておけばテリア山は荒れてしまうだろう。それだけは回避したいが、ロックドラゴンは超級に数えられる亜竜の魔物。ハンター隊だけじゃ戦力的に乏しい。どうか私達に……」
まぁ公爵がそこらの無名に頼むのは恥に当たるのかもな。自分の領地の事だし。
「何言ってんだ、早く行こう」
「え……でも」
「トゥエルノティーグルの時は助けてもらったからな、恩はここで返す。いいよな? エヴァ、レオ」
「もちろん!」
「当然」
よし! バシッと決めてやったぜ。
「ありがとう……恩に着る」
◇
「エヴァリオン。後どれぐらいで着く?」
「う……うぷっ」
「エヴァ、ロックドラゴンってどんなやつかな?」
「……うっ」
「“奴”ってのも気になる」
「確かに。ハンター隊から詳しくはテリア山に着いてから説明するって言われたけど、言い方的にロックドラゴンより強いんだろうか」
『なぁエヴァ(リオン)?』
こんなことをかれこれ一週間はやってる。
意気揚々と了解したが、そこからは割と地味なものだった。どれだけやる気があっても数日でテリア山には着かない。俺達はハンター隊の一団に着いて行ってるから進路やペースは問題ないんだろうけど……
しかし不安だ。
雪山での戦闘は三年前に経験してるが、かなりやりにくい。しかも今回はホワイトオークやホワイトベアーよりでかく強いロックドラゴンが相手。
おまけにこんな服装でテリア山は厳しいんじゃないか?
防寒具なんて黒マントしかないし、レオに至ってはシャツ一枚しか着てないからな。
「お、見えてきたぞ!」
◇
その後テリア山に到着した俺達は最小限の準備を済ませ、山に登り始めた。
有難いのはハンター隊がコートを貸してくれた事だ。これがまだ不思議なコートで軽いし動きやすいのに暖かい。
ジェームズの売ってくれた寝袋に似ている気がする。この極寒の地で、寝袋に包まりながら動いている感覚だ。
テリア山は平原が段々に積み重なった山で、あまり山っぽい山ではないが、段と段の間は傾斜になっているので上に行くには普通の山より労力が必要になる。
ロックドラゴンが確認されたのは八段目らしいからこれから数週間はテリア山に潜ることになるだろう。
三年前は精々一段目から二段目の途中程度までしか行ってない。あれだけでもかなり疲れるのに今回は少なくとも八段目まで行くのか……大丈夫かな。
「よし……聞け! これより八段目に現れたロックドラゴンを討伐に向かう。帝会に出ていたハンター隊約二十名、そしてテリア山に残っていたハンター隊十七名。そして助っ人のクロト、エヴァリオン、レオを含めて締めて四十人。超級に分類されるロックドラゴンは手強く、そう簡単には倒せる相手ではないが、これを許しては我らがテリア山は大きく荒れる! 命を懸けて守るんだ! 行くぞ! 月の女神が微笑むまで!」
『うぉぉぉぉ!!!』
素直にすごいという感想が浮かんでくる。今から強大な敵に向かっていくってのにこの士気の高さ。厳しい戦いになることは目に見えてる。それでも士気の高さだけで言えば……勝てる。そう無意識に思わされるほど、みんなはやる気に満ちていた。
地獄の修行で俺は一回の戦闘で雷化・天装衣を二回までなら使える。それで片付いてくれればいいんだがな。




