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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第二章 地獄編

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59話 ただいま

 キンミー村を後にした俺達は、俺の故郷であるリブ村に向かって進み出した。



「俺の勘が正しければもう近くまで来てるはずだ」


「そんなのわかるのか?」


「この川が目印だ」


「川?」



 レオが俺達の進んでる道のすぐ隣を流れる川を見る。



「この川は帝国まで流れてて、俺の村もこの川のすぐ近くにあるんだ。ここから帝国は見えないし、もうすぐのはずだ」


「なるほどな」



 そんな会話をしつつも俺達は馬車を進め、その数時間後にはリブ村に到着していた。

 遠目から見ているうちはただの村に見えたが、近づけば近づく程その全貌が露わになってくる。村の入り口に建てられたアーチ状の門は完全に破壊され、無傷な家を探す方が難しい程、例外なく全ての家に痛々しい傷がある。

 あの日以来、一度も帰って来れなかったし、実際にこの目で見るのは初めてだ。



「…………」


「おい、クロト」


「ああ、言ってなかったな。俺の故郷、リブ村は五年前にミノタウロスに襲われて、壊滅してる」


「……そうか」



 俺達は馬車を手綱でひき、村の奥に進む。

 血は乾燥し、村人たちの死体も無い。だが、斬り裂かれ、踏み潰された家々にはしっかりとあの日の惨劇が刻まれていた。



「ここが、村の中心だ」


「キンミー村に比べても大きい村だったんだな」


「ああ」


「……クロト」



 エヴァがスッと俺の袖を掴む。



「大丈夫だ、エヴァ。取り乱したりしないから」


「うん……」



 何気なく広場の端を見ると、大きめの石が規則的に並べられていた。釣られる様にそっちの方に歩いていく。

 そこには墓というにはあまりにもささやかだが、気持ちの込められた、俺にとっては立派な墓が立っていた。膝までの大きさの石がきれいに並べられ、その下の土が少し盛り上がっているところを見るに、ちゃんと遺体も埋めてくれたんだろう。

 視界がぼやける。

 涙が頬を伝い、地面に落ちる。物心ついた時からの記憶が走馬灯の如く駆け巡り、止まることなく涙がこぼれ落ちる。俺は唯一無二の故郷を失ったんだと、五年経った今明確に心に刻まれた。今まで心の底でまたここに来れば村の皆に会えるんじゃないかと思っていた。でも、もうそんな甘い幻想は見ない。決意と共に魔王への復讐の気持ちが高まる。



「クロト……」



 駆け寄ろうとしたエヴァの肩をレオが掴み止める。



「今はそっとしといてやれ」


「……うん」





「悪い、時間を取らせた」


「もういいの?」


「ああ、行こう。あんまり時間も使ってられないしな」


「わかった、行こう」



 父さん、母さん、ローガン師匠……そしてリック。

 ただいま、そして……行ってきます。





 リブ村の周辺で一晩過ごした後、俺達は旅を再開した。

 来る日も来る日も馬を進め、特になんのトラブルもなく数日が経過した。そんな平和に緩み切ったとある日の朝。



「……ロト! ……クロト! 起きて! クロト!」



 ん、この声はエヴァか。どうしたんだ、こんな朝早くに。昨日の見張りはレオとエヴァが交代でしてくれているはずだったが。

 俺は寝ぼけ眼を擦りながら目を開く。朝の日差しがもろに入ってきて一瞬怯むが、まだ寝たいと騒ぐ体を無理矢理動かして起き上がる。



「おはよう、どうし……」



 ぼやけた視界でエヴァがいるであろう方向を向くと、巨大な虎のような生き物がよだれを垂らしながらこっちを狙っていた。

 体毛は白く、たてがみは黄色い。目は人間ならば白目の部分が黒、黒目の部分が赤色をしている。四足で立っている状態でも高さは俺達の二倍、三倍はある。



「こ、こいつは……?」


「さぁな。とりあえずこのままじゃやばい。おれが足止めするからクロトとエヴァリオンは馬車の用意をしてくれ」



 俺とエヴァの間にレオが立ち、足止めしようとしてくれている。



「クロト……」


「ああ、行くぞエヴァ」


「うん」



 俺は野営に必要な荷物を入れてある袋を掴み、走る。

 森を走り抜け、馬車がある所まで出ると、昨日と同じように止まっている馬車に荷物を投げ込む。馬達には悪いが朝飯の前にひとっ走りしてもらう。



「ヒヒィィィィン」



 伸び伸びと草を食べていた二頭の馬は何かを感じ取ったのか「ありえないわ」と言った顔で俺を見る。

 そんな顔で俺を見るなよ。緊急なんだから。



「よし、エヴァ乗れ!」


「うん!」



 俺も荷台に乗り込んで森の方の様子を伺う。ここからじゃレオの姿は見えない。向こうがどうなっているのかわからないが、このまま出してもレオならついてこれるはずだ。



「なんだ……」



 妙な違和感と嫌なプレッシャー。肌が、ピリピリして髪が逆立つような……

 次の瞬間、突然にして視界を真っ白な何か(・・)が塞ぐ。それは地面を抉り、土や木が宙を舞いながら森から外へ放たれる。森の中から高エネルギーの何かが放たれたらしい事しかわからない。何かは森の正面に位置する川にぶつかり水を巻き上げながら止まった。



「……な、なんだこれ」



 目の前の平原がえぐれた土に変わり、川は水を吹き飛ばされ、底の岩が見えている。そして次の瞬間レオが森から出て来た。

 先程の高エネルギーを食らったのか、肩の辺りから煙が上がってる。



「おい、これ……」


「馬車を出せ! 早く!」



 俺はレオを引っ張り上げ、手綱を握る。と、ほぼ同時に虎が森の中から現れる。口元には雷をバチバチと纏わせている。

 反射的に馬に鞭を振るい、走らせる。



「あれはなんだ?」



 全速力で馬を走らせながらレオに聞く。



「わかんねーけど、雷を操る虎だ。わりと強いぜ……」



 レオの語尾が妙に楽しそうで、強い魔物を見て闘争心が掻き立てられてるんだろうと察する。

 しかし、レオじゃないがこれは戦うしかない気もする。咄嗟に逃げる事を選択したが、馬車を引いた馬のスピードなんてたかが知れてる。このままじゃすぐに追いつかれる。事実虎と俺達の距離は三メートルも無い。



「ゴンザレスぅ……エリザベスぅ……頑張って……うぷっ……」



 ゴンザレスとエリザベス。いつの間にやらエヴァが付けたこいつらの名前だ。……と、そんな事よりこれは本当にやばい。逃げ切るのは不可能だ。



「戦おう。このまま逃げ切るのは無理だし、戦っても勝てるだろう」


「わかった。行くぜ……」



 レオは荷台の後ろから虎に向かって飛び、腰の刀、二代銀月を握る。



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『横一文字斬り』〉



 レオは素早く抜刀し、横一文字に斬り付ける。斬撃は歯を剥き出していた虎の牙に当たり、痛みと衝撃に虎は一瞬怯む。

 その隙に俺は馬車を止め、エヴァを起こす。



「エヴァ! 馬車止まったぞ。今からあの虎と戦う。行けるか?」


「う、うん」



 まだ顔色が悪そうなエヴァを一旦馬車に残し、俺は馬車から降りる。エヴァならすぐに復帰出来るだろうが、少し時間をあげないとさすがに酷だ。とりあえずは俺とレオで抑え込むしかない。

 レオの様子を確認すると、虎と睨み合い、一定の間隔を保ったまま牽制し合っている。

 俺はテンペスターとシュデュンヤーを抜き、レオの隣まで歩いていく。レオの一撃で怯んでいた虎も、もう立て直している。



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『突き立てる牙』〉



 ジャンプと同時に抜刀、左手を伸ばし、右手に持った刀をまっすぐ構えそのまま突く。虎は見た目とは裏腹に素早い動きでそれを避けるが、斬撃の衝撃で毛を数本持っていかれる。

 機動力はあるが、避けきるにはその巨体が邪魔なんだろう。



〈黒帝流 剣狼・極〉



 テンペスターを持った右手を曲げ、シュデュンヤーを持った左手をまっすぐ構え、瞬動術で突っ込む。

 そのままシュデュンヤーで突きを繰り出し、続けざまに右手を突き出して二連撃の突きを放つ。両方の剣が虎の左足を捉え、突き刺さる。

 剣狼を二刀流で放つ為に応用させた二段構えの刺突。威力も当然上がっている。



「よし、攻撃は通るな」



 テリア山の魔物みたく体毛で弾かれたりしたらたまったもんじゃない。剣を引き抜き、後ろに下がる。

 レオも少し離れた所にいる。この虎の一番の脅威はやはりあの高エネルギーを放出するあの技。あれをされたらこっちにも被害が出るだろう。となると、やっぱり速攻で決めるしかない。



〈雷術奥義 雷化・天装衣(ラスカディグローマ)



 全身から放電し、雷化する。

 もう鏡盾(シュピーゲル)無しでも雷化が出来る。地獄での修行の賜物で、自力で雷化出来る程魔力量を増幅させた。更に雷化の新しい活用法で、この状態の俺なら相手や自然発生の雷を吸収して魔力に変換出来る。幸か不幸か、この虎との相性は良い。



「なんだそれ?」


「自分の体質を雷に変える古代魔術だ。さっさと決めるぜ……」


「おう……」



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『地を這う大蛇』〉



神鳴(かみなり)術 神鳴放電砲(かみなりほうでんほう)



 レオはサッと二代銀月を抜き、両手で頭上に掲げる。そのまま地面に叩きつけると、剣先から斬撃が飛び出し、ガガガと地面を削りながら蛇の如くうねる斬撃を繰り出す。斬撃は地面を伝い、虎へと迫る。

 俺は手のひらを向かい合わせ、超高電圧の雷を放出する。地面にバチバチと電流が流れるほどの大砲(キャノン)が駆け抜け、虎に直撃。

 レオの斬撃と同時に着弾し、大爆発を起こす。



「こいつ、本当に何なんだ」


「さぁな。とにかく、これで少しは……いや、駄目みたいだな」



 土煙が収まると球体の透明な膜のようなもので守られた虎が現れる。どうやらさっきの攻撃はあの膜が守ったらしい。

 イザベラさんが使っていた〈球状聖域スフィアサンクチュアリ〉に似ているが、魔術を使える魔物って事だろうか。



「今ので全部防がれたらしいな」


「グウォォォォォォ!!!」



 咆哮と共に球状の膜が破れ風が吹き抜ける。と、その風に合わせて小さな稲妻が虎を中心に落ちる。小さな稲妻とはいえ、雷をも自在に操れるところ見るに、雷を自在に操る虎という事になる。

 と、考えていた矢先、左肩に稲妻が落ちる。



「クロト!」


「大丈夫だ」



 俺は左肩に当たった雷はまるで元から俺の一部だったかのように吸収され、俺の魔力に変換される。



「なんだそれ。無敵か?」


「雷属性だけな。さっさと決めよう、長引くのは危険だ」



 俺はテンペスターとシュデュンヤーを地面に突き刺し手を離す。

 拳を握って腕に力を込め、腕の周りに肘から先だけの雷の腕を複数作り出す。片手に六本ずつ、本体も合わせて計十四本の腕だ。



「行くぜ……」



 瞬動術で虎の懐に飛び込む。雷化して居る時の瞬動術はまさに雷の如き速度で、離脱にも接近にも、何でも使える汎用性が強い。当然虎もまだ俺の居場所に気付けていない。

 腰を落とし、全力の力を込めて右手、左手の順に虎の腹に拳をねじ込む。更に作り出した腕も連動して虎を殴る。



神鳴(かみなり)術 雷崩連拳撃〉



「グギャァァ?」



 突然下からの強力な衝撃を与えられ、虎は間抜けな声を上げる。これだけ図体がでかくても十四連弾の拳により流石に体が持ち上がる。



「レオ!!」


「ああ」



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『麒麟駆け』〉



 レオは一気に虎に肉薄し、素早く抜刀。

 目にも止まらぬ連撃を虎に叩き込む。刀が弧を描き、斬撃が目に見えるほどのスピードで何度も何度も叩き込む。虎は体勢も立て直す事が出来ないまま空中で何度も斬撃を浴びる。



「グ、グァァ」



 一際大きな斬撃を受け、虎はそのまま地面に背中から倒れる。



「はぁ……はぁ……十一連撃か」


「すごいな。レオ」


「ああ……だが体力消費が激しいんだ……」



 俺は雷化を解き、地面に突き刺したままのテンペスターとシュデュンヤーを抜いて鞘に納める。レオは二代銀月を杖代わりにしながら休憩している。かなり素早い連続の抜刀。確かにかなりの体力を持って行かれるみたいだな。



「エヴァ! 無事か!」



 そういえばと思い、後ろを振り返ると、荷台に腰掛けながらエヴァがこちらに手を振ってる。大丈夫みたいだ。

 さて、早いうちに離れよう。またこいつみたいな奴が現れたら困るからな

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