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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第二章 地獄編

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52話 ジェームズ商店

「三年間、世話になったな」


「うむ。また何かあればすぐに戻ってくるが良い」



 ヴァント攻防戦から一年。俺達はハデスに言われた三年間の修行を終え、遂に魔王、帝国を打倒するため、地上へ向かおうとしていた。

 三年間の修業の成果は上々で、三年前の俺達と比べれば数倍は強くなっている自覚がある。



「これは少ないが地上の金貨じゃ。手元金にすると良い」



 俺はハデスから金貨が十枚程度入った小さな袋を受け取る。



「おう、ありがとうな」


「そう簡単に魔王、更にその上の大魔人は倒せまい。まずは情報を集め、対策を練る事から始めるんだぞ。勇み足で死に急ぐでないぞ」


「ああ、わかってる。それとアシュラ、アルギュロスをよろしくな」


「おうよ! アリサとまとめて面倒見てやるよ!」



 アシュラの友であるアリサ――と言っても地獄の番犬、三頭のケルベロスなのだが――とすっかり仲良くなってしまったアルギュロスはしばらく地獄に置いて行く事にした。アルギュロスは着いて来ようとしたが、最終的にはアリサを一匹残して行く事は出来なかったようだ。



「じゃあまたな」


「クロト様。また、お会いする日まで」


「ああ、グレイド。次あったら手合わせしよう。……開け、地獄の門よ」





「ここは……」


「地上に戻って来たね」


「ああ……久しぶりに新鮮な空気を吸った」


「うん!」



 俺達は木が数本生えた草原の中にいた。



「しかしここは、どこだ……?」



「わかんない。近くに街もないし、どうしよっか?」



 周りを見渡しても街らしきものは見つからない。周りに何か目印になるようなものは無いかと俺はぐるっとあたりを見渡す。



「いや、あそこに何かないか?」


「ん……」



 俺の指さした方をじっと見るエヴァ。



「ほんとだ! 家……かな? 一軒だけ建ってる」


「行ってみるか」


「うん!」



 俺達はぶらぶらと歩き出した。

 街の外とはいえ、近くに森もないので魔物も出る心配はない。まぁ出たところで今の俺とエヴァなら特に問題無いだろうが。

 しかしこのだだっ広い平原に家が一軒。魔物が殆ど出ないと言っても危険なんじゃないか? 一体誰が住んでるんだろうか。



「これから、無事に街に着けたとして。そこからどうするの?」


「とりあえずは生きていく為の稼ぎ口を見つけなきゃな。あとは仲間探しもする予定」 


「わかった。私はどんな時もクロトの味方だよ」


「な、何だよ急に」


「ふふ。それで、稼ぐにはどうする? やっぱり冒険者かな?」


「まだ考えが纏まってないんだよなぁ」


「あの建物が何なのかもわからないしね」



 俺達はそんなことを話しながら一軒の家を目指した。

 思ったよりも遠く、地獄から出たのが夕方であった事もあり、家まであと半分という距離の所で夜を迎えてしまった。無理やりにでも進もうと思えば進めるのだが、そう急ぐ必要も無いだろうという結論になった。



「ハデス達から必要最低限の道具をもらっておいて良かったな」


「そうだね。食料も貰ってなかったら困ってたし、地面に直に寝るところだった」


「魔物の肉を食おうにもこの辺には魔物が居ないからな」



 事実この辺では特に警戒しなくても、襲われることもない。三年間も地獄に居た俺とエヴァにとっては退屈でもあった。



「森の中に一歩入れば危険がまとわりつくってのに、平原では全然だな」


「その代わりここ最近では盗賊が跋扈(ばっこ)してるってハデスは苦悩してたよ。私兵に規制があるから各街につけれる兵士の数も決まってるし、とても討伐しきれないんだって」



 盗賊か。まぁ今のところ盗まれるものもないし、返り討ちに出来るだろうからそこまで警戒しなくてもいいだろう。

 エヴァは修行と並行してハデスの書庫で地上の情報なんかを頭に叩き込んでいた。修行が終わった後、世間知らずの二人が地上に出ると苦労するだろうと言うのをあらかじめ予期してたのだろう。



「エヴァ、先に寝ろよ。必要無いとは思うが一応見張りはしておく」


「うん、ありがとう。おやすみ」


「おやすみ」



 すぐに毛布に包まり寝息をたてるエヴァを見ながら俺は焚き火に薪をくべる。

 今までぼんやり修行して、ぼんやり考えてた目標が一年前の四大魔王との衝突を機に変わった。四魔王を倒し、更にその上に君臨する大魔人とやらもぶっ倒す。

 そのためには流石に俺とエヴァでは戦力不足だし、エヴァを危険な目に合わせるわけにはいかない。

 そういえば、エヴァとは学園で出会ってからずっと一緒だったな。いろいろ巻き込んじまったから、せめて守ってやらないと……





「店……なのか」



 次の日、俺達は朝から歩き出し、昼前には建物の前までついた。木で作られた家で、屋根は赤色。

 今まで見えなかったが、建物の向こう側には柵で囲われた小さな牧場があり、馬が数頭いる。ドアには看板がかかっており、「ジェームズ商店 他にはない商品を揃えております」と書かれていた。



「うん、商店って書いてあるし、多分」


「入ってみるか」


「うん」



 俺は黒い木の扉を開き、中に入る。

 中はキレイで、入ってすぐ右にカウンターがあり、正面には大量の棚が並んでいる。商店をあまり知らない俺にもここが一流の店だということがひと目でわかった。



「いっらっしゃいませ〜」



 店の奥に出てきたのはまだそう老けてはいないのに髪は白く染まりほうれい線の目立つ中年の男だった。一見すれば親切そうな店主。にも見えるが、どことなく胡散臭さを纏っている。



「あ、どうも……」



 俺たち以外に客は居ない。周囲に街も無いこんな大草原の真ん中では、そうそう客なんて来ないのだろう。



「私は店主のジェームズです。それで、どのようなご入用で?」



 ジェームズはごますりをしながらニコニコと聞いてくる。エヴァは俺の後ろにスッと隠れてしまった。



「えーと、これから長い旅になりそうなので道具を一式揃えたくて」


「なるほど」



 ジェームズは俺達をジロジロと見ると何か考えるような仕草をし、忙しなくあちこちを駆け回り、棚から商品を取ってはカウンターに乗せていく。



「す、すごいな……」


「うん」



 一通り揃え終わるとジェームズは改めて俺達に振り返る。



「見たところ必要最低限の持ち物は持っているようなので、加えて必要になるであろう物をご用意しました」



 カウンターの上には商品が山積みに置かれており、ギリギリ反対側に居るジェームズの顔が視認出来る。



「まずは旅には欠かせない寝袋。こちらは夏は涼しく冬は暖かいという優れものなのに加え、折りたたんでもかさばりません。続いて折りたたみ可能な料理道具。こちらはどんな高熱にも耐えられるのに軽くて丈夫。長期の旅にはもってこいです。そしてこれは火を起こす魔石や水を起こす魔石。野営をする上で魔術を使わなくても火を起こせたり水を生成出来ます。もし人数が増えたとしても大丈夫なように少し多めにご用意しました」



 一息で説明しながらあれこれ商品を持ち上げて見せてくれる。



「少し俺たちを見ただけでそこまで分析出来るのか」



 ジェームズは一度ニヤッと笑うとそのまま続ける。



「他にも便利なものをいくつかおまけして金貨三枚、銀貨五枚でどうでしょう!」



 高いのか安いのかはわからないがこれだけ便利なものを売ってくれるなら少し高かったとしてもいいだろう。



「買った」


「商談成立!」


「しかし、よく得体のしれない俺達に物を売れるな」



 俺はハデスからもらった小袋の中から金貨を取り出しながら聞く。



「ええ、もちろんです。貴族だろうと魔族だろうと善人でも悪人でも、お金を払ってくれるなら私の大切なお客様ですから。それにこんな平原のど真ん中にある商店では、来るお客様全員……とまでは言いませんが、大半のお客様の得体は知れませんよ」



 「そしてこんな所で店を開いている私自身もね」と付け加えながら、ジェームズは素早く商品を整理している。



「なるほど、逞しい商売精神だな。ほらよ」


「まいど。金貨四枚頂きましたので、銀貨十一枚のお釣りです。ちなみに旅の目的は? それによっては追加でご紹介出来る商品があるかもしれません」


「えーっと、そうだな……」



 馬鹿正直に全部話すわけにもいかないだろう。



「街を転々としながら冒険者として食っていくつもりで。今はまず、仲間を集めたいと思ってる」


「ほう……」


「と言ってもどうやって集めるかなんて決まってないんだがな」


「それではとっておきのものをお見せしましょう。特別なお客様にしか見せないとっておきの……商品(・・)です」


「とっておき……?」

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