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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第二章 地獄編

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51話 指名手配

「よぉ坊主、地上で暴れてきたんだって?」


「お、アシュラか。まぁかなりギリギリだったけどな」



 アシュラが後ろから肩をぽんと叩く。



「ガハハハハハハ。やるじゃねぇの。今日はとことん飲めや」


「おう!」



 俺は酒の入ったコップを高く上げ、アシュラの右の上から数えてニ番目の手に持ったカップに乾杯する。



「クーーローートーーーー」



 やや間抜けな声と共に声の主が俺の腰をガシッと掴む。



「おい……誰だ! エヴァに酒を飲ませたやつは!!」



 エヴァだ。

 初めてここに来た時も少し酒を飲んだだけでベロベロに酔ってしまった。乗り物酔いもそうだが、エヴァは『酔う』という事に対してとことん弱い。



「あ、我だ」



 犯人はハデスか。

 まったく、いくら地獄と言えど、これじゃブルーバードと何ら変わらない。と思いつつも俺は楽しんでいた。

 リブ村を襲ったのが魔王であった事、かつての仲間マナと敵として対面した事、そしてこれから起こるであろう熾烈な戦いの事もしばし忘れて。





「あー、食った食った。おーい、エヴァ!」


「ふへぇー?」


「……完全に酔ってる。だから酒はやめておけって言ったのに」



 ベロベロになって自力で立つ事も出来なくなってしまっているエヴァを支えてやりながら、背中をさすってやる。明日は気持ち悪くてろくに動けなくなるんだろうな。



「クロト」


「ん、ハデスか」



 気づくと後ろにはハデスが座っていた。

 先程までの馬鹿騒ぎは既に収まり、皆酔い潰れ騒ぎ疲れ眠ってしまっている。



「うむ」


「なんだよ」


「…………」


「なんだよ!」


「……うむ。本日の戦いで四魔王全員と戦う事になったわけだが……正直なところ、どうだ? これから相手にする者と実際に戦い、己の力も、敵の力も十分に理解したはずだ」


「うーん……四人を俺とエヴァだけで相手するのは、正直きついな。残り一年鍛えて、一対一なら……勝ち目はあると思う。でも、相手が警戒して四人同時に来られたら勝てない。それに、あの四人の上に大魔人という親玉も居るらしいし、はっきり言って二年修行すればあの四人にも勝てるんだと思ってた。俺の認識の甘さを痛感させられた」


「……これからどうする? 残り一年の修行を終えて、魔王と戦うにしても、帝国への復讐を始めるにしても、どこかに身を置いたり、仲間を集めたりする必要はあるはずだ。地獄の力を操るお主達でも、たった二人で出来る事は限られているからな」



 そういえば、一年後の事なんて考えた事なかった。

 今日の戦いで俺の故郷を滅ぼしたのは大魔人という事が分かった。であれば、四魔王も必然的に俺の復讐対象になる。ハデスの願いと、俺の復讐。利害が一致する。そしてその先に見据えるのは帝国との戦い。

 長いと思っていた三年の修業も、それらをまとめて相手にするには少なすぎる程だ。俺とエヴァ、それに並び立つ実力を持つ仲間を集める。組織でもいい。頭数を揃えないと、何も実行には移せない。

 でも、それと同時に思う。マナ、ガイナ、レイグ……俺が仲間だと胸を張れた連中は、もう俺のそばには居ない。居たとしても、俺の個人的な復讐に協力させるのは、きっと俺自身が嫌がる。



「ま、具体的な行き先や当面の目標なんて、急に聞かれても考えておらんか」


「ああ」


「では本題に入る。……とりあえず、これを見てくれ」





「お疲れ様。マナ、ガイナ」



 エルトリア帝国城内。

 復興も一段落付き、天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)龍騎士団(ドラゴン・ナイツ)はエルトリア帝国に帰って来ていた。



「レイグ! 久しぶりじゃない!」


「ああ、マナ。元気そうで何よりだよ」


「おう、レイグ。そっち(近衛隊)はどうなんだ?」


「まぁまぁだね。でも楽しくやってるよ」


「そうか!そりゃ良かったぜ」


「マナの噂は近衛隊にも届いてるよ。戦場を縦横無尽に駆け回り、敵を屠る聖炎の騎士。しかも今回は魔王相手に奮闘したらしいじゃないか」


「ええ……でもあいつが魔王かどうかは……」


「君はそう考えているそうだね。でも、君の所の団長はそうは考えていないようだ。あれを見なよ」



 レイグが指さした方を見ると張り紙が二枚貼ってあった。





「なんだこれ、指名手配か?」


「うむ。フードで顔が隠れておるが、十中八九クロトとエヴァリオンだろう」



 手渡された二枚の紙にはフードを深くかぶった人がそれぞれ描かれており、これだけじゃ誰かわからない。だが、俺達だと断定する情報がいくつか記載されていた。





「もう指名手配が回ってるなんて」


天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)団長エイナ様の証言で帝国は全国に一斉手配した。外見の特徴は一切不明で正直宛にならない。だが、この二人を特定出来る程の決定的な情報が一緒に書かれている。こんな特徴を持つ者はこの帝国に数人と居ないだろう」


「……雷属性の黒剣使い。そして白い獣を操る氷術使い。確かに雷も氷も、探しても数人しか居ないでしょうね。……でも二人共、聞いて欲しい。私は雷属性の黒剣使いと戦ったわ。あの剣術、声、気配……とてもたまたまなんて……」


「マナ、君の気持ちはわかる。僕も正直これを見た時は同じ事を思った。ガイナは信じていないようだが、クロトとエヴァリオンはもう……君も見たろ? あの死体(・・)を。この二人にクロトとエヴァを重ねて、求めてしまう気持ちはわかる。もしこの二人が本人達なら、これほど嬉しい事は無い。だけどね……」


「うん……」


「違った時、君は更に深い悲しみを背負う事になる。僕は君達に、悲しみの中で生きて欲しくは無いんだ」


「……」


「どきたまえ。騎士如きが僕の道を塞がないでくれるかい?」



 そこへ足音高らかにやってきたのは現皇帝デルタアールの息子、皇子イーニアス。そして護衛のパトリックとアイズだ。



「てめぇ、イーニ……」


「ガイナ! やめろ」


「んー? なんだって? デカブツ君。……君、僕に逆らう気か?」


「申し訳ありません。イーニアス王子」



 レイグはすぐさま頭を下げる。



「お、おいレイ……」


「いいから黙って頭を下げろ」


「はっはっはっはっはっ。少しは礼儀をわきまえてるようだな。わかったらどけ」



 と、それだけ言い残すとガイナをドンッと突き飛ばし、立ち去っていった。不意に突き飛ばされたガイナは壁にぶつかる。



「あの七光り野郎が……」


「ガイナ、皇子に真っ向から反発するのはやめておけ。君だけが責任を負わされるならまだいい。でも、今の君はベルガラック男爵の息子であり、龍騎士団(ドラゴン・ナイツ)の一員でもある。その責任の所在は君のお父様やアラン団長に向くかもしれない」


「……ああ、すまない。止めてくれてありがとう」



 ガイナは悔しそうに歯を食いしばる。レイグもマナも、気持ちは同じだ。

 イーニアスは通常四年で卒業となる学園を、二年で特別卒業という形で卒業していた。デルタアール皇帝の跡取りとして、彼には学ぶべき事が他にも沢山あるのだ。故にもうイーニアスは学園の生徒ではなく、マナ、ガイナ、レイグにとっては仕える王家の人間なのだ。イーニアスの意志一つで、三人の首は飛ぶだろう。



「ともかく、この手配書の事は真偽が判明するまで考えないようにしてくれ。僕だってクロトとエヴァリオンにもう一度会いたい。けれど、それと同じように、君達二人を失いたくないんだ」





「さて、先の襲撃ご苦労だったな」


「うむ」


「結果だけを言えばヴァントの街の陥落は失敗と言わざるを得ない。しかし、同時に得た収穫も大きい。いずれ我々の邪魔になるであろうあの男が生きていた事を確認出来たのもそうだが、騎士団を巻き込み、かなりの被害を出せた」


「今まで聞いたことなかったけど、どうしてあの小僧を狙うの? 最初はフロリエル君のわがままを聞いてるだけかと思ってたけど、それだけじゃないんでしょう?」


「さっきも言っただろう。あの男は必ず我々の邪魔になる。あいつの故郷を滅ぼしたのが魔族だと気づいたなら、これからは向こうもこっちを狙って来る。それに……あいつが生きていると困る理由もあるからな。だが、運は俺達についてるらしい。見てみろ」



 男は二枚の紙切れを出す。



「ひぇひぇひぇひぇひぇ。これは……?」


「手配書?」


「ああ。人間共はお前達より、最前線で戦っていたこいつ等を魔族だと断定したらしい」


「それは、なんとも」


「愚かな生き物だ。この襲撃で我々の脅威を伝えるつもりだったが、俺達の情報を割られずに済んだならそれもよし。人間共が魔族の襲撃と思えば思う程、我らの脅威が伝わったと言う事でもある。これより作戦をより具体的に、より入念に……焦るなよ。この国を墜とすには、まだ準備が足りぬ」

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