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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第二章 地獄編

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43話 地獄

 しばらくの間そこには、文字通り地獄(・・)が広がっていた。

 地面から吹き出た炎が、生き物の如く蠢いて、盗賊団を燃やし尽くす。逃げようともがく盗賊団の肉を容赦なく燃やし、骨だけになっても炎は止まらず燃やし続けた。

 そうして盗賊団をあらかた燃やし尽くした後、炎は勢いを失い、完全に消え去る。しかし、その場には焦げた地面と元々は人だったと思わしき燃えかすだけが残っている。



「えげつないな……何者だ、あいつ。こんなに強いのに捕まるなんて」


「それは……」


「この力は禁じられてたのよ、父上にね」



 いつの間にかクリュが近くにいた。



「父上って確か……」


「ハデス様の事です」


「ああ、娘なんだっけか」


「さて、クロト……であってるわよね?」


「ああ、あってるが……ずっと気になってたんだが、どうしてお前らは俺の名前を知ってるんだ?」



 俺はクリュとグレイドの顔を交互に見ながら答える。



「んー、簡単に言えば占いで貴方達の事を見つけたから、ね」


「占い……?」


「ま、その話はまた今度してあげるわ」


「クロト」


「ああ、わかってる。お前らを助けると約束した。……がとりあえず話ぐらい聞かせてくれないか?」


「そうね、とりあえず父上の宮殿に行きましょ」


「わかった。この辺にあるのか?」



 クリュは無言で下を指す。



「地面の中?」


「うーん、正確には違うけどそんな感じ。とにかく行きましょ?」


「行くって……どうやって?」


「まぁ見てて。開け! 地獄の門よ!」



 手の甲を上にして地面に手を付き、さっきと似たような言葉を放つ。

 またあの炎を呼び出したのかと思い、若干焦るが、地面が割れる事は無く、手の模様が光り、地面に巨大な魔法陣が展開されるだけだった。



「何だこれ……?」



 次の瞬間目の前が真っ暗になり、そのまま意識が飛んだ。





「ん……こ、こは?」


「主!」


「クロト!」



 視界の左端からもふもふした毛の塊とエヴァが覗き込む。



「アルギュロス……にエヴァ。ここは?」


「ここは……私達もよくわからない。クリュ達はクロトが目覚めたら説明するって言ってたけど」


「お前ら、元気そうだな」



 俺は二人を見て思った。正直、今は体が全然動かない。



「主は魔力切れを起こしていた時に移動してしまった為、負荷がかかってしまったんだと思います」


「そうなのか……とりあえずもう一眠りさせてくれ」


「はっ」


「おやすみ」





「う…………ぐはっ……だ、誰だ……お前は……」



 エルトリア城下町国民区、路地裏。



「ハンター」


「ハ、ハンターだと……」


「ふ……知らなくて無理はない。今決めたからな。そしてお前は死ぬ。そうすればまた新しい名を考えるとしよう」


「死んで……たまるか……」



 冒険者と思わしき男と、真っ黒のマントにフード、少しだけ出た右手には紫の禍々しい刀を握っている。



「その意地だけは認めてやろう。だが……死ね」


「ちょっと待てェ!!」



 ハンターが刀を振り下ろす間一髪の所で龍騎士団(ドラゴン・ナイツ)、団長のアランが間に入る。



「何者……」


「お前だな? 最近この辺りで人を斬りまくってる辻斬りってのは」


「ふふふ。赤き騎士……この刀を試すにはちょうど良さそうだ」


「余裕だな」


「当たり前だ、お前じゃ俺には勝てん」


「でも、この状況じゃ俺たちが勝つぜ?」



ドタドタと足音がした後、路地を挟むように龍騎士団(ドラゴン・ナイツ)が現れた。



「国民を恐怖に陥れた罪だ。おとなしく受けろ」



 アランは一歩踏み込み、剣を振りかざす。



「時間の無駄だな」



 アランの重い一撃を軽く受け止め、更には弾き飛ばす。



「赤き騎士、今日の所はここまでにしよう。またいずれ時が来たら……」


「なに!?」



 それだけ言い残すとハンターは景色と同化して消え、その場には龍騎士団(ドラゴン・ナイツ)だけが残された。





 あれから二日後。

 回復した俺はエヴァ達と共にクリュに連れられ宮殿の一番上に位置する大広間に通された。だだっ広く、奥には巨大な玉座。グレイドに見せられた幻覚のままだ。巨大な玉座の上にはこれまた幻覚とそっくりな巨大な赤皮膚の巨人が座っている。



「父上、ゼウスに代わる英雄を連れてまいりました」


「うむ、ご苦労だった。そして……お前が、ゼウスに代わる英雄」



 野太い声が部屋全体に響く。まるで地面から響いてくるような、腹に響く声だ。



「ゼウスに代わるかはしらないが……」


「うむ、早速ではあるが本題に移ろう。まず、ここについて説明しておかねば混乱するであろう。ここを一言で言うならば、地獄だ」


「……地獄? 何言ってんだ」


「……やはり時代は変わってしまったようだな。我がまだ地上におった頃の人々は地獄も神も信じておったが……仕方あるまい。これを見ろ」



 巨人が指をパチっと鳴らすと俺の目の前に灰色の雲のようなものが現れ、それが少しずつ円を描く。



「中を覗いてみろ」



 言われたとおり出来たばかりの円を覗くと、まさに地獄と呼んで差し支えない光景が広がっていた。空は一面真っ黒な雲に覆われ、灰色の大地は血のように真っ赤な液体の流れる川によって区切られている。



「一歩ここから出れば同じ光景が広がっている」


「地獄……要は死後の世界が実在してたって事か。とりあえずは信じるよ、嘘をついても意味がないだろうし」


「うむ 理解が早くて助かる。で、そうだな……とりあえず我の要件は後で話すとしよう。まずは自己紹介から行こうか」



 巨人は玉座に座り直し、背筋を伸ばす。



「我の名はハデス。三千年前、ゼウスと共に大陸を救った。そして今はここ、地獄の支配者をしている。時に閻魔と呼ばれる事もある」


「ハデス……」


「エヴァ、知ってるのか?」


「うん。三千年前の十二人の英雄伝説、その十三人目がハデス」


「三千年前……なんで生きているんだ? 巨人はそんなに長寿なのか?」


「この姿はいわば神の姿。本来の姿ではない、我も元は人間族だ。なぜ我がこんなに長寿か…………」


「な……姿変えれるってことか?」


「……う、うむ そしてなぜ我が……」


「へぇ、便利な力も持ってんだな」


「うむ、もうよい……他に何かあるか?」


「なぜ私達まで呼んだの?」


「エヴァ?」



 エヴァがアルギュロスの頭を撫でながら言う。



「ん、お主はハルバード家の人間か」


「え、わかるの?」


「我以外にも異例の英雄はいたのだ。十二人に数えられなかった英雄がな。その一人にヘスティアという女性がおる」


「ヘスティア……?」


「ああ、不器用ではあったが想いの強い女性じゃった。お主はヘスティアによく似ておる。そして共に連れて来た理由じゃったな。それはクロトに必要な人間だと我が判断したからじゃ。お主等はお互いに想い合っておるようじゃしな」


「お、想い合ってる……」


「しかし、本当に何も知らんとは、今の人間界はかなり衰退してしまったようじゃな。魔術、剣術、文化も歴史も……」



 ハデスは悲しそうに首を振る。



「おっと、悪かったな。それでは我からの願いだ」



 ハデスはもう一度座り直し、俺達をまっすぐに見つめる。



「現在の地獄はかなり危険、そして不安定な状態になっている」


「危険、不安定?」


「うむ。地獄とは生前悪行を行った者が来る場所、と言われておるが実際のところ、死んだものは皆一度ここに来るのだ。そして、悪さをしたものは罰を、良い行いをした者は楽園へ送られる」



 へぇ、この手の話は昔からあんまり聞かなかったし、興味もなかったからな。実際に目の前にそれがあるって言うのは変な気分だ。



「そして地上と地獄を繋ぐのは地獄の門。それを開閉できるのは我の地獄術、そしてそこから派生し、武器として具現化した地獄の鍵のみ。しかし最近、死者の魂を無理矢理地上に呼び出し、肉体に封じ込める者がおる」



 そういえば、アルバレス公爵領を襲った魔族はアンデッド軍団を率いていたらしい。きっとその魔族のせいだろう。



「『死者は蘇らせてはいけない』、これは古代から続く地獄の掟。我々としてもそう簡単にこれを破られては面目が立たん。更に死んだ者をアンデッドとして蘇らせるなど、命の冒涜。決して許すわけにはいかん」


「なるほど。でも、あんたほどの力があれば魔族ぐらい……」


「我は古き盟約によりここ(地獄)を離れることが出来ぬ。その上、我がここを離れれば死者たちは暴走し、地獄の門を破られるやもしれぬ」


「なるほど、それで助っ人を呼んだってわけか」


「うむ」


「わかった。元々魔族にはやられっぱなしでやり返してやりたいと思ってたところだ」


「おぉ、快く受けてくれるとは有り難い。最近、その魔族だけでなく黒鬼隊だった者が一名、地獄に眠る秘宝『狂鬼零刀』を盗み地上に出てしまった」


「黒鬼隊? 狂鬼零刀?」


「黒鬼隊とは我々、地獄の兵の事です」


「へぇ」


「狂鬼零刀とはこの地獄の宝刀なのだが、同時に妖刀でもあるのだ。持った者の身体能力を何十倍にも引き上げる代わりに殺す事に囚われ、人格が乗っ取られるのだ」


「な、そんなのを持った奴が地上に?」


「うむ。急速に対処せねばならぬが、その前に」


「ん?」


「クロト、エヴァリオン。現時点でのお主達では、まだ力不足じゃと言わざる得ない」

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