42話 救出戦
「おい……何だ今の?」
「あの黒髪のガキ、雷使ってなかったか?」
「バカ言え、雷があんな強いわけ無いだろ」
「じゃあさっきのはなんだよ」
「知らねぇよ。俺に聞くな」
たまに忘れるよな。雷が虐げられてるの。
「…………おい、聞いているのか。誰なんだ? お前達」
「エ、エンリ、落ち着いてよ。喧嘩ばかりしちゃだめだよ」
「あ、ああ……そうだな。で、誰なんだ?」
「ここはうるさいから、場所を変えないか?」
「……わかった」
周りが見当外れな憶測を口々にしているのを横目に見ながら俺たちはギルドから出る。
荒っぽいやり方をしてしまったのであの大男の事は偉そうに言えないが、あのまま二人がぶつかるよりはマシだろう。
「ったく……雷ってだけであんな騒ぎやがって」
「仕方ないよ、雷は本当に弱いイメージが強いから」
「俺以外の雷属性の人を見なきゃ実感がわかないな」
それにしても、殴り飛ばしたあの男。ゴールド級って言ってたか?……の割には弱すぎる。ゴールドって言えば冒険者の中ではそれなりに実力者のはずだが。
「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか? 私はエンリ、こっちは妹のリンリ。双子だ」
「あ、ああ。俺はクロト、こっちはエヴァ」
「クロトに、エヴァだな。で、二人は何なんだ?」
「何ってどういうことだよ」
「んー、何をしているんだ?」
「俺たちは……」
ありのまま話すわけにはいかないよな……
「……冒険者じゃないけど、そんな感じかな」
「へぇ、いいな。楽しそうだ」
「エンリとリンリは? ギルドに居たんだから冒険者なんじゃないのか?」
「ん、私達は……まぁ似たようなものだ」
隠し事はお互い様か。こっちも隠している事があるわけだし、詳しく聞くのはやめておこう。アレについても。
「そうか、二人とも強いんだろ?」
「ん、まぁそれなりには」
「だろうな、その辺の人とは雰囲気が違う」
「エンリ!」
「ん、リンリ。どうした?」
「アリス様から伝令。すぐに戻ってこいって」
「なに?……わかった。クロト、エヴァ、悪いな。急用が入った。また会おう」
「お、おう」
それだけ告げると二人は走って行ってしまった。年で言えば俺達より少し幼いぐらいの少女達。その背中を見ながら帝国の闇を露骨に感じる。
「ねぇ、クロト」
「ん?」
「あの二人の胸元、見た?」
「ああ」
「服でほとんど隠れてたけど、多分……奴隷紋が」
「初めて見たが、なんとなくわかる」
そう、二人の胸元に微かに覗いていた赤い模様。奴隷紋。エヴァがそういうならきっと間違いないんだろう。
「うん、それにアリス様って……」
《主!》
《どうした?》
《救援をお願いします!》
「エヴァ!」
「え?」
「アルギュロスがピンチらしい。行くぞ!」
「うん!」
俺達も二人を追うように街から出た。
◇
『主達と別れてすぐ、グレイド殿と会いまして、話を聞いたところ、クリュと言うグレイド殿の連れが北西の山を根城にする盗賊団に捕まったと。それを聞き我も同行したのですが、盗賊団が思ったよりも強く、苦戦を強いられています』
俺たちが出発してすぐ、アルギュロスから聞いた話だ。
「相手はこっちを本気で殺す気で来る。気を抜くなよ、エヴァ!」
「うん!」
今はちょうど山に入りかかった所だ。
さて、相手の数も実力も、何もわからない。慎重に……
「ぐうぁぁ!」
どうやらあっちみたいだな。
すかさず声のした方へ走り、獣道を抜けて中腹辺りの平面に出た。そこそこ広い場所で、洞窟が奥に見える。恐らくは奴らの根城。
そしてそこにグレイド達は居た。
グレイドを合わせて黒革鎧の男達は十五人。そこにプラス、アルギュロス。対する盗賊団はぱっと見ただけでも三十人以上はいる。約倍以上、グレイド達も必死に応戦しているが、一人一人が強い上に、数が多い。
俺達が入ったところでどうにかなるかどうか……
「クロト!」
「……あ、ああ! 行くぞ! エヴァ」
「うん!」
〈雷術奥義 雷化・天装衣〉
俺はいつも通りに地面にテンペスターを突き刺し、鏡盾に向かって魔力を放出。反射した自分の魔力を吸収して雷化する。
〈氷術 武器具現 『レーヴァテイン』〉
エヴァは手を合わせ頭上にテンペスターよりも少しでかい氷剣を次々に生み出す。その数は十を越え、更に増える。
〈雷帝流 雷斬砲〉
薙ぎ払ったテンペスターから雷の斬撃が飛び出し、一直線に盗賊団を襲う。
「ぐあ!」
「な、なんだ!」
「落ち着け!!」
「うわー!」
「落ち着けと言っているだろ!!」
リーダーらしき人物が統制を取ろうと試みるが、グレイド達にばかり気を取られていた盗賊団はパニックを起こしている。
〈氷剣一斉嵐撃〉
そこに更にエヴァよりありとあらゆる方向から放たれた数十の氷剣に体を斬られ更にパニック。もはや統制も何も無い。
「クロト様!」
「主!」
グレイド達だ。
「大丈夫か! お前ら!」
「はい! なんとか」
あれだけ不利な状況でも全員無事だ。流石にこの程度では死なないよな。
「……おい、お前ら……」
「ひ、ひぃ……」
「……落ち着けと……言ってるだろぅがァァァ!!」
そこへ大地が震えるほどの怒号が響く。
「気をつけてください、クロト様。あのリーダー格の男、ただ者じゃありません」
「ああ、なんとなくわかる」
盗賊団はさっきの怒号により我に返り、というより恐怖で無理矢理統制を取り戻した。
全員が武器を構え、憎しみの籠もった目を向けてくる。おいおい、怒鳴られたのはお前らのせいだろ……
対する俺達もそれぞれ武器を構える。
今気づいたが、グレイド達の武器は「かたな」とかいう東洋の武器だ。東の大帝国大和で代々使われている武器。ますます何者だ、コイツら。
「うぉぉぉぉぉ!」
「おらぁぁ」
「やったれー」
「行くぞ グレイド! エヴァ!」
「はい!」
「うん!」
「アオーーーン!」
激闘が始まった。数では盗賊団が有利に見えるが、俺とエヴァの攻撃で半数は傷を負っている。勝機はある。
〈雷帝流 雷撃一閃〉
〈氷術 氷の弾丸〉
テンペスターを横一線に薙ぎ払い、雷撃が襲い掛かる。その後すぐさま氷の棘が盗賊団を蹂躙する。
〈嵐術 風圧大砲〉
アルギュロスの口から放たれる空気の巨弾が盗賊団をまとめて吹き飛ばす。
「何やってんだお前ら……」
「ひ、ひぇぇ」
「お前ら! 死ぬ気でやれ! 殺されるぞ!!」
殺さないと殺される組織か。いかれた集団だな。
〈雷術 雷撃大砲〉
手の平を向かい合わせ、雷丸を生成。電圧を上げ放出する。
「ぐぁぁぁ」
「いてぇぇぇぇ」
「あ、あぶねー」
雷撃大砲の通り道だった一直線上で立っている敵はもう居ない。横に避けた奴も居れば直撃して倒れている奴もいる。
〈氷術 武器具現 『トライデント』〉
エヴァがパチンと手を合わせると頭上に四メートルはあるかと思うほどの巨槍が現れた。エヴァの新術『武器具現』はどこから知識や着想を得ているのか、日に日に数も練度も増している。
〈氷槍猪突猛進撃〉
氷巨槍は盗賊団の中を一直線に駆け、次々に串刺しにして行く。勢いは止まらず、そのまま奥の壁に激突する。作り出した氷柱で串刺しって、結構エグい技だな。
「下がれ!」
〈雷術 雷神具・地裂剣〉
雷化も長くは持たない。ここで一気に蹴りをつける。
俺は地面に手を付け、一気に魔力を込める。地面に雷を流し、そして今度は逆に上向きに放つ。地面を突き破って現れたいくつもの雷が剣の刃を象り、盗賊団を次々に突き刺す。
「ぐぁぁ」
「うぐ……」
「ぐぎゃぁぁ」
「今度はなんだ」
「斬れる雷が……うぅ」
体を串刺しにされ、更に傷を負い、またもやパニック状態に陥った。
「よーし、三分の二はやったか……」
「もういい、引っ込んでろ。……俺がやる」
ついにリーダーが出てきたか。
しかし、強いな。身長はガイナ程度。だが筋肉の量が桁違いだ。背中に背負った大剣を軽々片手で引き抜き、振り上げる。
「来いよ」
「エヴァ、グレイド、ここは俺がやる」
俺はテンペスターを両手で握り直し、リーダー男目がけて走る。
「おりゃぁぁぁ!」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
振り下ろされた大剣と振り上げられたテンペスターが激しい音を上げながら衝突する。威力は俺の方が劣っている。速度に対して斬撃が重すぎる……
この重量の剣は持つ事さえかなりに力が必要だろうに、それをブンブン振り回してくるのは厄介極まりない。
「クロト!!」
「心配すんな……この程度……」
俺は歯を食いしばりながら声を漏らす。
しかしこの重量と威力。テンペスターの強度がなければ確実に折れてた。でも、それは相手も同じ。こんなパワーで叩きつければ必ず武器にガタが来る。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
俺はテンペスターに雷を流す。
「知ってるか……雷は切断力を上げるんだぜ」
右足に力を入れてテンペスターを振り上げる。バキッという音と共にリーダー男の大剣が真っ二つに折れる。
「へ、どうだ」
大剣を折るのと同時に雷化が解け、俺はそのまま膝を付く。
「クロト!!」
「主!」
「わりぃ、時間切れだ」
次の瞬間、黒い影が俺を飛び越え盗賊団のリーダーに襲いかかる。グレイドだ。
グレイドの攻撃を、折れた半分の大剣でガードし、グレイドを空いた左手で殴り飛ばす。
「ぐ……」
「もっと全力で来いよ?」
「この……」
「そこまでよ!」
そこへ突如女性の声が響く。この声は、聞いたことがある……
声のした方を見ると、洞窟の手前に黒髪をボニーテールにした少女が立っていた。
凛と睨みつける目は闘志に溢れている。
その側で黒鎧の男が膝をついている。あいつがクリュか……どうやら救出は成功したらしいな。
「てめぇ……勝手に逃げ出しやがって」
「ふん! 今までよくも好き勝手してくれたわね。全員まとめて地獄に叩き落としてあげるわ」
「ほざけ小娘が」
「グレイド! 門を開くわ。全員退きなさい!」
「はっ! クロト様、エヴァ様。ここはクリュ様に任せて退きましょう」
「あ、ああ」
俺はなんとか立ち上がり、アルギュロスの背中にしがみつく。
「一体何をする気なんだ……」
「驚きますよ」
クリュは右手を掲げる。その右手は微かにだが光を放っている。正確には、手の甲に刻まれた不思議な模様が光っている。
「開け、地獄の門よ。来い! 地獄の炎!」
〈焦熱地獄〉
言い終わると同時に模様が赤く光り、地面が裂ける。
割れた隙間から炎が噴き出す。炎はあちこちから飛び出し、まるで生きているかのように動き、あっという間に盗賊団を包囲する。
熱気が凄まじく、離れていても汗が吹き出すほどだ。周りの木々も焼けて……いや溶けている。
「うわぁぁ」
「あついあつい!」
「う、くるしぃ」
「ぐ、なんだこれ……小娘!何をしたぁぁ!」
「何って……言ったでしょ? “地獄に叩き落とす”って」




