40話 新たな旅立ち
「……でよ、その後鬼みたいな顔したババアがよ……」
「……ほうほう……うん、それで?」
「クロ坊〜、酒がまだだぞ〜」
「あ、ああ。レッグ」
ブルーバードは一瞬静止したもののすぐにいつもの調子を取り戻した。ここに集まる連中はみんな総じてどこか変な部分が多い。そしてよそ者を拒まない。故にこの黒革鎧軍団もただの新入りだろうと言う認識で落ち着いたらしい。
俺は黒革鎧の男達、特に先頭にいる黒髪のリーダー格から目が離せす、上の空で相槌を打つ。
「ほらよ」
レッグから酒の入った瓶を受け取るのとほぼ同時に、俺の頭に映像が流れ込んで来た。
真っ黒の宮廷に巨大な玉座、座っているのは赤い顔の巨人。その足元でひざまずく黒髪の少女。場面は変わり宮廷の門の前で先程の少女が黒革鎧の男達になにか指示を出している。次の場面は森で魔物を討伐している場面だ。黒革鎧の男達の後ろで少女が見ている。
場面が最初に戻った。
でも今回は映像じゃない。もっと立体的な、まるで俺がこの場にいるかのような……ブルーバードが消え、俺は薄暗い広間にいた。
最初の映像で見た真っ黒な宮殿だ。奥に巨大な玉座が聳え、座っているのは巨人。真っ赤な皮膚に巨大な王冠。黒とも灰色とも取れる色の着物を着ている。よく見ると人の顔、それも苦しんでいる人の顔の模様が入っている。
「クリュよ」
巨人の野太い声が広間に静かに響く。この場にいるわけでは無いのに腹の奥がぞわそわするような、重く響く声だ。
「は! 父上!」
その声に反応するのはまだ十五歳程度であろう少女。サイズは普通の人間と同じで、真っ黒な髪を肩まで伸ばし、目は濁りが無い真っ白だ。
「もう抑え込むのも限界だ。我はここを離れる事が出来ぬ故、お主に頼む。ゼウスに代わる英雄を見つけ出し、我の元まで連れて来てくれ」
「は!」
最後の言葉を言い終えるか言い終えないかの内に、俺はまたブルーバードに戻ってきていた。
誰だ、あの巨人。クリュ……あの少女か。抑え込むって何を。ゼウスってなんだ。なぜこんなものが見えたんだ……
「……ロト!」
「おい! クロト!」
ハッと俺は我に返り周りを見渡す。
レッグ、ヴァランにマルスとアジェンダが心配そうに俺の方を見ている。
酒は……カウンターの上で粉々に砕けてる。全身から汗が吹き出していた。俺は息を整え、話す。
「わ、悪い。大丈夫だ」
「本当に大丈夫か? まだ魔力枯渇症が治ってねぇんじゃねぇか?」
「それは大丈夫……のはず。ちょっと悪い」
俺はカウンターを離れ、黒革鎧の男を睨み付けながら近づく。左腰にさげているテンペスターに手を添え、いつでも抜けるようにする。何が目的かは知らないが友好的には見えない。
そして黒革鎧の男の前で立ち止まり見上げる。こいつ、強い。今戦えば俺の全力で互角か、長期戦になれば負ける。
「やっと見つけました」
「なんの話だ……? 何故いきなりあんなものを見せた……お前だろ? 見せたの」
「場所を変えましょう」
とだけ言うとスタスタとブルーバードから出ていった。来いと言うことらしい。
ヴァランに目で少し抜けると伝え、そのまま男に続く。
◇
暫く無言で俺達は歩き、サラマンダーを倒した森の近くで男が止まったので、俺も少し距離を空けて止まる。
「突然の無礼、申し訳ありません」
男は振り返ると膝を付き、頭を下げる。周りの奴らも同じく。
「な、なんだよ、急に」
さっきまでの威圧的な態度が嘘のようだ。
「こうでもしなければ我々に気づいてもらえないと思い……手荒になってしまった事、本当に申し訳ございません」
「……わかった、それはいいよ」
後でレッグに酒代払ってくれれば。
「で、なんであんなのをいきなり見せたんだ?」
「単刀直入に申し上げます。我々の主を救っていただきたい」
「主?」
「ええ、主はある目的のために貴方を……いえ、正確に言えば適合者を探しておりました」
「目的? 適合者?」
「申し訳ありません。私の口からは……どうか我らの主、ハデス様の娘であるクリュ様とお会いください」
クリュ……映像に出てきた少女の事か。
「で、そのクリュって奴はどこにいるんだ?」
俺は周りを見渡しながら聞く。この男達以外に人影はない。
「今ここにはおりません。突然行方がわからなくなってしまったのです」
「行方が……?」
「クリュ様はお強いお方ですので無事だとは思いますが、主から人間の殺生は禁じられておりますので、もしかすると……」
「そうか、じゃあまずはクリュを探す……もしくは助けるところからだな」
「はい、ご協力感謝します」
「最後に聞かせてくれ」
「はい?」
「どうして俺だったんだ? あの場に俺より強いやつは他にもいた。それこそヴァランやアジェンダ、マルスみたいに……お前だって俺より強いはずだ」
「主より仰せつかった命は『ゼウスに代わる英雄を見つけ出し、我の元まで連れてこい』です」
「だからなんで俺なんだよ。だいたいゼウスって誰だ」
「ゼウスとは主の古き友人でございます。三千年前、世界を救った英雄の名……単純な理由ではありますが、ゼウスは雷属性の使い手でしたので同じく雷属性のクロト様をお選びいたしました。この世界にて雷属性をあそこまで使いこなしている方はクロト様しかいませんでしたので……」
俺の名前も属性も知っている。恐らく前々から調べていたんだろう。
「わかった、じゃあまずクリュって奴を助けよう。お前の名前は?」
「私はグレイドといいます」
「グレイドか、よろしくな」
「よろしくお願いします」
そんなこんなで俺は素性も何もわからないこいつらを助ける事になった。
俺の最終目標はリブ村を滅ぼした奴に復讐し、イザベラさんを殺した帝国を潰す事。だが、今それができると思い上がるほど馬鹿じゃない。今は耐える時期だ。力をつける為に、今は……
◇
「なんだクロト、話って」
俺は、グレイドとセントレイシュタンで落ち合うと約束し、別れた。その後、ブルーバードに戻り、仕事を終えて今、ヴァランと二人で話をしている。
「今日来た黒革鎧の男達、覚えてるだろ?」
「ああ、あの時は大丈夫だったか?」
「ああ。で、あの後、そいつらと話したんだが……」
俺はさっきした話を掻い摘んで説明する。
「なるほど……どうしてその話を受けようと思ったんだ? 特にお前にメリットは無さそうに思えるが」
「それは……わからない。前にも言ったが、俺の目的は故郷を滅ぼした奴への復讐と、帝国を外から切り崩す事。そのために今は多くの事を知って、実際に見て感じてみたいと思ってる。だから……」
「その復讐の気持ちが揺らぐ可能性もあるぞ」
「その時はその時だ。俺は憎しみに操られる殺戮者にはなりたくない」
「……わかった。お前が自分で考えて決めた事なら、それを止める事はオレには出来ない。十分に気を付けて行ってこい!」
「恩を返しきれてないのに勝手を言ってすまん。ありがとうな」
「気にすんな」
ヴァランに感謝を伝えた後、俺は自室へ戻り同じ事をエヴァにも話した。
「……って事になった。エヴァはここで待ってても……」
「ううん、一緒に行くよ」
「そうか、わかった。じゃあ明日の朝には出発するから……ありがとう、エヴァ」
「……?」
俺の言葉に不思議そうな表情で頭を傾ける。
「エヴァがいつも一緒に居てくれるおかげで、俺は復讐に取りつかれた殺戮者にならずに済む」
「ふふ、当り前だよ」
◇
「じゃあ短い間だったが世話になった。また一段落ついたら帰ってこようと思ってる。その時はまた雇ってくれると嬉しい」
「ああ、しっかりやれよ」
俺達はヴァラン達に見送られ出発した。
「アオーーーーーン」
あ、忘れてた。




