37話 火竜〈サラマンダー〉
「よし、行くか」
マーダラービーの死体の処理を終えたヴァランは、更に森の奥へと進む。
「狙ってた獲物ってこいつじゃないのか?」
「ああ、レッグにはついでにと頼まれてたが、目的の獲物じゃない」
「ふーん。どんなやつなんだ?」
「まぁ会えばわかるよ。マーダラービーより確実に強くて、もしかしたら殺すのは無理かもしれない」
「まじかよ」
魔物学でやった魔物なら知ってるからいいが、知らないやつが来られると初見殺しにやられかねないな。
「しかしクロト、お前も強いな」
「ん、まぁな」
「雷属性なんてろくに使える奴を見た事無かったが、お前は別格って感じだ」
「ん、そうか。でもまだまだだ。もっと強くならないと」
「その向上心が末恐ろしいな、全く」
しかしこの森に入った時から思っていたが、ここに生えている木はやたらと太いし高い。森の規模によるものかと思ったが、この森はそこまで大きくないはずだ。
「木が太いのが不思議か?」
「な……なんでわかったんだよ」
「クク。顔に書いてあるぜ。まぁ、生息している魔物が強いからな、木もでかくなるさ」
「……? なんだよそれ。どういう事なんだ?」
「昔この大陸は全体が大魔森の様な凶暴な魔物が住み着く森や山だったんだ。ただ人間が開拓するうちにそんな場所も大魔森だけになっちまった。で、こういう点々として残っている森や山はその名残だな」
「それと木がでかくて魔物が強いのと、何か関係があるのか?」
「魔粒子は知ってるか? 人間はこの魔粒子を微量ではあるが大気から吸収して、失った魔力を回復させる。それは人間以外にもある事で、木や草も魔粒子を吸えば吸う程大きく育つし、魔物が魔粒子を吸えばその分強くなる」
「なるほど」
「大魔森は魔粒子が他の地域に比べてかなり濃く、大魔森の名残を残しているこういう森も魔粒子が濃いって事になる。木の幹が太く、背が高いという事は魔粒子が濃いって事。魔粒子が濃いって事は生息している魔物は強いって事が関連してわかるわけだ。逆も然りな」
なるほど、つまりは森の木を見るだけでそこに生息している魔物の強さがおおよそ分かるという事か。それは有益な情報だ。知らなければ魔物と戦うまでその森のレベルを推し量れなくなってしまう。
それはそれとしても少しだけ楽しみになって来た。掠っただけで即死なんていう初見殺しとは戦いたくないが、強い奴とは積極的に戦っておきたい。自分の強さを確かめたいというのもあるし、更に強くなる為に強者との戦闘を重ねたいというのもある。まだまだ俺は学生範疇で、もっと強くならないと俺の目的はいつまでも目的のままだ。実行に移せない。
「ガルゥゥ。因みにご主人様、我が助けていただいたあの森も魔粒子は濃い方なのですよ」
「え、そうなのか? だって三級の魔物ばっかりだったし……」
「地中に巣を作るタイプの魔物が多く生息しておりまして、滅多に地上には現れないので、露見しなかったのですね」
「へぇ、じゃあ俺は幸運だったな。……てかアルギュロス」
「はい、なんでしょう?」
「そのご主人様ってのはやめてくれ」
「ではなんとお呼びすれば?」
「普通にクロトでいいよ」
「そ、それは流石に……」
「じゃあ主とかでいいんじゃないか?」
と、ヴァランが言葉を挟む。
「なるほど、ではこれからは主と呼ばせていただきます」
ヴァランめ、余計な事を……まぁいいか。ご主人様よりはそっちの方がまだマシだ。
「ヴァラン、だいぶ進んだがまだなのか?」
「もうすぐだ。もう他の魔物の気配が殆ど無くなった。ヤツに近づいたって事だろう」
「ヤツ……」
「ほら、気配を感じるだろ」
俺はあんまり気配を読むのが上手くは無いんだが、それでも理解出来る程強力な気配をこの先から感じる。
「この先だ。行こう」
「……ああ」
俺達は気配がする方、森の奥へ更に進んでいった。少ししてかなり開けた場所に出た。そして一番に目に入ってきたのは巨大な蜥蜴だった。
「グギャァァァァ」
赤い鱗が特徴的で四足歩行。太い手足はしっかりと地面を捉えている。体長は五メートルは軽く超えているだろう。……でかい。
「あれは火竜。別名をサラマンダーという」
「サラマンダー……」
そして次に目に入ってきたのはそれと戦う二人の人影だ。
一人は女の人で、紅の髪をポニーテールにし、陽光に反射してキラキラと光るビキニアーマーをつけている。武器は巨大な斧で、あの細い腕のどこにそんな力があるのかと不思議なほど軽快に振り回している。
もう一人は男の人で、紫の髪をオールバックにした髪型で、軽そうな革鎧を着けている。体格が良くて、かなり分厚い。武器は見当たらないところを見るに、素手で戦ってるらしい。
「遅れてすまんな! マルス! アジェンダ!」
ヴァランの呼びかけに二人が一斉にちらっとこちらを見、そしてすぐにサラマンダーに目線を戻す。
「ヴァラン。その子が助っ人?」
アジェンダと呼ばれた女の人がサラマンダーが振り下ろした爪を避け、巨大な斧で腕を攻撃しながら話しかけてくる。
が、パンパンに詰まった筋肉と、鱗が相まって、巨大な斧の銃撃は弾かれてしまう。
「ああ、そうだ」
「おい、ヴァラン……てめぇ俺達を舐め過ぎじゃぁねぇか? 俺達とそんなガキが共闘できるわけねぇだろ」
いきなり険悪ムード。
マルスと呼ばれた紫色の髪の男がサラマンダーを数発殴りつける。連打を食らったサラマンダーは、衝撃を殺せず、ジリジリと押されている。
サラマンダーを単純な腕力だけで押してしまうなんて、すごい力だ。
「ギシャャャャャャ」
「わははッ、舐める? 馬鹿を言うな。こいつはお前らと同等、いや下手したら上だぜ?」
と、俺の頭をバシバシしばきながら言う。
「なに? ……チッ、まぁいい。戦えばわかることだしな。とりあえず手伝え! さっさと殺っちまうぞ」
「ええ、少し本気を出すわ」
アジェンダが両手で持っていた斧を地面に突き刺し、腰に下げている二本の片手斧を両手に持ち構える。
「クロト。お前、マーダラービーと戦った時が全力じゃないだろ? 本気で行け、サラマンダーは四人がかりでも厳しいぞ」
「ガウ!」
「わはは。四人と一匹、だったな」
本気か。ヴァランとは長い付き合いになりそうだし、誰彼に喋る事も無いだろうからアレを見せる事に問題は無い。そもそも、使わずに勝てるような相手じゃない可能性は十分ある。
戦いに参戦しようとテンペスターに手を伸ばしたところでサラマンダーに動きがあった。口から呼吸に合わせて小さな炎がぼっと出ている。
「ブレス……来るぞッ!」
気づいた時には既に巨大な炎塊が目の前に迫っていた。サラマンダーの口から放たれる巨大な火炎弾。このままじゃ飲み込まれて丸焼きだ。
「全員、避けろ!!」
俺達はそれぞれ横に飛び避け、地面を数回転がる。ぎりぎりの所でブレスを回避出来たが、ブレスが通った跡は、地面を抉り溶かし、シューシューと煙を上げている。炎もいうよりは巨大なエネルギー砲だ。
俺の後ろに鬱蒼と生い茂っていた木やツルは燃えた……というよりも吹き飛び、あれだけ太かった木も数本折れてしまっている。
「アジェンダ! マルス! 一旦下がって来い」
二人は意外にも素直に従い、俺達のすぐそばまで下がってくる。と、ほぼ同時でサラマンダーの口から少し炎が出る。インターバルを少しも挟んでいないのにもう二発目が撃てるのか。
「ブレスニ発目、来るわよ!」
「チッ、ヴァラン。あれをやるぜ」
「ああ。アジェンダ、クロト! 俺達がブレスを防ぐから、隙を突いて一気に畳み掛けてくれ。それまでは俺達の後ろに」
「ああ!」
「わかったわ」
サラマンダーの正面にヴァランとマルスが並んで立ち、その後ろに俺とアジェンダが並ぶ。
「えーと、確かクロト……だったわね。私はアジェンダ。呼び方はそのままアジェンダでいいわ。詳しい自己紹介は後でね」
「あ、ああ。よろしく」
「仲良くお喋りしてる時間はねぇぜ。行くぞ、ヴァラン!」
言うが早いか、サラマンダーの口から高熱の炎が放出される。ブレスは地面をえぐり、空気を燃やしながら俺達に突っ込んでくる。一点に魔力を集中した先程の様な球状のブレスではなく、文字通り咆哮の様な一直線のブレスだ。
〈土術 羅生門〉
マルスが両手を地面につけると同時に地面が盛り上がり、巨大な土の壁が俺達とブレスの間に出来る。
〈水術 水陣壁〉
ヴァランが羅生門を水で包み込ませる。
〈複合魔術 羅生門・水の陣〉
土と水の壁。炎を相手にするならこれほど心強い壁もそう無いだろう。
《アルギュロス! 俺達に合わせてお前も来い!》
《御意》
ゴゴゴッと地面が大きく揺れ、ブレスと羅生門が衝突する。いくら炎を防ぐのに効果的な防壁とは言え、あれは生半可な炎じゃない。燃やす、というよりも破壊すると言った方が表現的には正しい。故にこの壁ですら長くは俺達を守れない。
「くそ、流石に強いな……」
「ああ、持ちこたえられるかどうか……」
ヴァランとマルスが、羅生門に魔力を込めつつ歯を食いしばる。
「こいつの魔力は思ったより高い。このブレスも普通より強力。長期戦は不利。短期決戦で決めるしかない。……クロト!」
「ああ!」
俺はテンペスターを抜き、全身から放電して雷化・天装衣の準備をする。
「な……てめぇ、雷属性なのか? チッ……お荷物が」
「……最弱属性なの?」
俺は反論する代わりに二人を短く睨み、テンペスターを地面に突き刺す。文句はこれを見てから言ってくれ!
〈雷術奥義 雷化・天装衣〉




