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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第二章 地獄編

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36話 新しい生活

 薄暗い広間。城を思わせる豪華な装飾の施されたその広間の奥に玉座が一つ。



 その玉座に座っているのは真っ赤な皮膚に巨大な王冠を頭に乗せた巨人。黒とも灰色とも取れる色の着物を着ており、よく見ると人の顔、それも苦しんでいる人の顔の模様が入っている。



「クリュよ」



 野太い声が広間に静かに響く。声の主は玉座の巨人だ。



「は! 父上!」



 その声に反応するのはまだ十五歳程度であろう少女。巨人の足元に膝をついている。

 真っ黒な髪を肩まで伸ばし、目は白く濁りがない。巨人を父上と呼んでいるが、クリュと呼ばれた少女は普通の人間と同じ大きさだ。



「もう抑え込むのも限界だ。我はここを離れる事が出来ぬ故、お主に頼む。ゼウスに代わる英雄を見つけ出し、我の元まで連れて来るのだ」


「は!」





 古びてはいるものの、しっかりとした分厚い木の扉を引く。それに呼応して来客を知らせる鐘がカランカランと音を立てる。



「いらっしゃ……ってお前らか。思ってたより早かったな」


「まぁな……」



 俺達はブルーバードに戻ってきていた。騎士団墓地から出てその足でここまで戻ってきたのだ。

 アルギュロスは流石に疲れたのか、手のひらサイズまで小さくなり、フードの中で眠ってしまった。



「で、どうだったんだ?」


「…………」


「……そうか。残念だったな」


「ああ……」


「……それで、これからどうする? うちにいるのは構わんが、お前らはそれでいいのか?」


「まだ決めてないが、暫くはここで世話になるよ」


「そうか。ま、うちは若い衆は大歓迎だ。なんせこんなおっさん二人しか従業員が居ないもんでな、ガハハッ」



 ヴァランは俺達の暗い雰囲気を変えようとしてくれているのか、豪快に笑う。



 そんなこんなで俺達はブルーバードに世話になる事になった。最初こそ何をするにしても体の動きが悪く、気を抜けばすぐにイザベラさんの事を思い出してしまったが、ヴァランとレッグに山のように押し付けられる雑務を前に、奔走を強いられた。

 それから一週間は怒涛の如く過ぎた。

 世話になると言っても、何もしないわけにはいかないので、ブルーバードの従業員として雇ってもらう事になり、こじんまりとしたバーの割には覚える事が多くて苦戦した。

 一番驚いたのは昼間はガラガラのブルーバードも、夜になると休む暇がないほど人が来る事だ。



「ふぅ……今日も疲れた……な」


「おつかれ」


「おう、クロト。しかしながら、すげぇ働きっぷりだな。常連の奴らも期待の新人が入って来たなって褒めてたぜ」


「そりゃ良かったよ」


「今日はもう上がっていいから、ゆっくり休みな」


「おう、サンキュー!」



 因みにエヴァは接客に一切才能が無かった為、レッグの元で氷の製造と裏方の仕事に回っていた。



「今日も疲れたな」


「うん」



 俺達は部屋に入り、腰に巻いていたサロンエプロンを取って、ベッドにバタンと倒れる。



「この一週間、早かったね」


「ああ、ブルーバードがあんなに繁盛してるとは思わなかったぜ」


「そうだね」


「ほんとに休む暇がないからなぁ」


「ヴァランさん、わざとクロトに用事を押し付けてた。クロトが一時でも暇にならないように気を配ってたんだよ」


「ん? なんでそんなことを」


「クロトがイザベラさんの死でショックに飲み込まれないように……だと思うよ。あの人はああ見えても私達の事をよく見てくれてる」



 確かに……

 この一週間忙しすぎて、中々ゆっくり考える時間も無かった。エヴァの言う通り、ヴァランは俺達の事をよく見て気を遣ってくれている。



「ヴァランの奴、余計な事を……でも、今度礼を言わないとな。おかげでだいぶ立ち直ったよ」


「よかった! ここに帰ってきた時のクロトの顔、本当に感情の欠片も無かったから」


「はは、そんなひどい顔してたのか? まじかよ」


「まじ! ふふ」



 俺達は笑い合いながらベッドに潜り、火を消した。俺達にあてがわれた部屋は残念ながら一室しか無く、寮に続いてエヴァと相部屋となっている。





 次の日の朝。クロトとエヴァの部屋の扉がバタンと大きな音を立てて開けられる。



「おい! クロト! 悪いが……ってまだ寝てたか。この一週間ろくに休む暇も無かったからな。仕方ねぇ、叩き起こすか」


「ヴァランさん、おはよう」



 今ので起きたのか、それともそれよりも前から起きていたのかはわからないが、エヴァが体を起こして部屋に入って来たヴァランに挨拶する。



「エヴァは起きてたのか。すまんがクロトを起こしてもらえるか? 少し急用でな。起きたらオレの所へ来いって言っといてくれ」


「わかった」



 頼むぜーと言いながら扉が無造作に閉められる。

 エヴァはまだ布団の中で寝息を立てているクロトを見ながら思う。これはあと数時間は起きない……





 ヴァランはクロトの部屋を出たあと、すぐに酒場へ向かった。



「ヴァラン、クロトは起きていたか?」


「いや、まだ寝てるんでエヴァに起こしといてもらった。オレもオレで準備しなきゃならんからな」


「そうか……急いだ方が良い。悠長にしている時間は無いだろう」


「ああ、だから焦ってんのよ!」





 時同じくしてクロトの部屋。



「クロト、起きて!」



 エヴァの声がぼんやりと聞こえ、首元が急激に寒くなる。体が無意識に震え、ぼやけていた思考が一気に覚醒する。



「……うぉ! びっくりした。なんだ? どうした、エヴァ?」



 飛び起きると同時にベッドのすぐ横でジーっと俺を見ていたエヴァに声をかける。

 謎の冷気はエヴァの氷術だったのだろう。エヴァがこうやって起こすのは初めての事だ。それだけ緊急事態と言う事だと思うが……



「おはよう」


「あ、あぁ、おはよう」


「ヴァランさんが呼んでたよ。結構急用みたい」


「お、まじか。じゃあすぐ行かねぇと……ありがとな!」


「うん、行ってらっしゃい!」



 俺はささっと着替えを済ませ、サロンエプロンを腰に巻き、テンペスターをさす。

 ブルーバードに来る客は基本的に話のわかる飲んだくれが多い。なので、トラブルなんて滅多に起こらないのだが、それでも酒が入ると人間何をしでかすかわからないもので、たまに殴り合い斬り合いの喧嘩が起きたりする。

 その時の為にテンペスターは常備しておけとヴァランから言われている。

 俺はもはや慣れ親しんだ階段を駆け上り、酒場に出る。後ろからエヴァがついてくる気配がしたが、歩きだったので置いて行く。



「ヴァラン! 悪い……なんだ? 用事って」


「お、クロト。来たか。お前に折り入って頼みたいことがあってな……」


「な、何だよ急に」



 そこへエヴァが現れ、レッグと会話を始める。



「レッグさん、おはよう」


「……エヴァか、おはよう。そろそろ酒の作り方を教えてやろうと思う」


「うん」


「よし、じゃあこっちに来てみろ」



 そんな会話を耳に入れながらヴァランとの話に戻る。



「オレと一緒にすぐ近くの森に入ってくれ」


「なんだよ、そんなことか。もちろんいいぜ」


「助かるぜ」



 この大陸には大魔森というエルトリア城下町よりも全然でかい森があり、そこに魔物が生息しているが、それ以外の場所にも森はあり、そこにも魔物は多く生息している。

 森の大きさには大小あるが、大きい森なら街数個は余裕で入るほどの大きさになるそうだ。

 俺達はブルーバードを出ると高台を降り、西に少し行ったところに広がる森へと入っていく。

 すぐにアルギュロスが付いてくる。こいつはウルフというより犬だな。いや、ウルフと犬はかなり近い種族か。



「しかし、なんで今日は俺を誘ったんだ? 普段は一人で森に入ってるんだろ?」


「ん、まぁ少し緊急事態でな。この森に居ないはずの強力な魔物が出現したんだ。その討伐に協力して欲しいのと、少し話がしたくてな」


「話?」


「ああ、この一週間で心は決まったか。この先お前達がどうするのか、聞いておきたい。うちでこの先も働いてくれるって言うならオレにも考えなきゃならん事があるし、何かの目的を果たしたいってんなら、協力してやれる事もあるかもしれない」


「……そうだな。俺の故郷はミノタウロスの群れに壊滅させられた。ずっとミノタウロスの裏に居る奴を見つけて復讐すると心に決めてたんだが……イザベラさんを殺した帝国も許す事は出来ない。だから……」


ご主人様(マスター)! 全方位より魔物多数。危険です」


「……ッ! ヴァラン!」


「ああ」



 俺は咄嗟にテンペスターを抜き、ヴァランも剣を抜いて構える。アルギュロスは中型犬サイズだったのが、元の二メートルサイズに戻り牙をむき出している。三人で背中を合わせ、全方位から接近しているという魔物に備える。

 暫く静かだったが、その静寂を破って魔物の群れで現れる。出現したのは巨大な蜂の魔物で、数は相当居る。



「こいつは……」


「マーダラービー。二級の魔物だが群れで行動し、けつに付いた毒針で確実に獲物を仕留める。自然の殺し屋だ。毒針は掠っただけでも死ぬと思え!」


「おう!」


「ガルゥ」



 四方八方を数十のマーダラービーが囲っている。毒針は掠っただけでもアウト。なら距離を取りつつ大技で複数体を一気に仕留める。



〈雷帝流 雷千剣〉



 斜め下から上へ薙ぎ払う。

 剣を振り切った剣先から雷が分散して飛び、一体のマーダラービーに直撃。シューと音を立てながら落ちる。さらに細かく分かれた斬撃がマーダラービーの群れを襲う。一発の威力は低いものの、対象が少ないため一体に集中しやすい。雷撃に撃たれたマーダラービーは次々に絶命して地面に落ちる。



「ガルゥゥ!」



〈嵐術 風圧大砲〉



 アルギュロスの口から放たれた暴風の咆哮がマーダラービー達を吹き飛ばし、お互いにぶつかって地面に落ちる。そこへアルギュロスの爪や牙がとどめを刺す。

 流石超級、この程度の魔物に手こずる様子も無い。

 俺は目の前から迫ってくる二体のマーダラービーを斬り捨て、ヴァランの様子を見る。



〈水術 水刃〉



 二、三枚の水の刃が、マーダラービーの胴体やら羽やらを引き裂き、地面に落とす。前方に注意しているヴァランの隙を突いて、後ろから数体のマーダラービーが迫る。



「ヴァラン! 後ろ!」


「チッ、喰らいな」



〈波術 水陣〉



 ヴァランは手のひらをマーダラービー達の方へ向ける。

 そこからから溢れ出した水がマーダラービーを外へ押し出す。が、水で押し出された程度で怯むマーダラービーでもなく、再びヴァランへと向かっていく。



 今度は後ろだけじゃなく、全方位からだ。

 俺は周りに群がるマーダラービーを蹴散らしながら救援に向かおうとするが、掠る事すら許されないこの状況では思うように進めない。

 アルギュロスも似た感じだ。



「ま、心配すんなよ。オレだって普段からこいつを相手に狩りをしてんだからよ……『水刃』と『水陣』、合わせて……」



〈波術 水陣・刃返し〉



 再びヴァランの周りから溢れ出した水がマーダラービーへ向かう。

 今回は水の先が水圧によってマーダラービーを容易く斬り裂ける刃になっており、そこへ突っ込んでいったマーダラービーは次々に体を真っ二つにされていく。



「さて、あとはあいつらだけか」


「みたいだな」



 正面から迫ってくる五体のマーダラービーに狙いを定める。



「全員で合わせるぞ」



〈波術 水刃・蝶の舞〉



「ガルゥゥ……」



〈風術 風圧銃〉



〈雷術 雷槍〉



 蝶の如く舞う水刃と風の塊、風圧銃。そして雷槍が混ざり合い五体のマーダラービーに直撃する。

 水に体を引き裂かれ、風に揉まれ、雷に貫かれる。いくら魔物でもあそこまでもみくちゃにされると、なんだかかわいそうだな。



「ふぅ、なんとかなったな」


「ああ、危なかった」


ご主人様(マスター)、お怪我は?」


「あったら死んでるな」


「さて、数匹ケツの部分が無事なやつが居るな。そいつらは持って帰るぞ。酒の原液になるんだ」



 へぇーと思いつつ一体のマーダラービーの死体を拾い上げる。あんまり飲みたくないな……

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