32話 雷化の弱点
「はぁぁぁぁぁぁ!」
「ウォォォォ」
俺の拳とホワイトオークの拳がぶつかり、小さな稲妻がバチバチと弾ける。力は拮抗し、このまま押し合いになっては体格の面から不利になる。故に高速で後退し、次の攻撃に備える。
〈雷術 雷崩拳〉
雷の速度を利用した最大助走の拳。バチッという音と共に高速でホワイトオークの懐に飛び込み、腹に渾身の拳を叩き込む。
ゴンッと鈍い衝撃音が響き、雷が貫通してホワイトオークの向こう側にまで雷が迸る。ホワイトオークはジュージューと音を出して焦げているが、この一撃だけでは絶命には至らせられない。
「いくら雷化・天装衣を発動した雷崩拳でも、雷撃ほどの威力は見込めないか」
「ウォォォォ」
ホワイトオークが俺をホールドしようと両手を広げるが、悪いがこっちは雷だ。お前ごときに捕まるほど遅くない。
右足に力を入れ一気に踏み込み空へ飛び出す。
耳元で風がビュービュー唸る。がそれよりも自分の体から発するバチバチと言う雷の音の方がうるさい。
「ちょっと高く飛びすぎたな。……でも、これで決める!」
手のひらに魔力を集中させる。
「雷砲より速く、強く……この技はお前の肉体すら残さない!」
〈雷術 雷撃大砲〉
普段雷砲で作り出している数倍のでかさの雷丸を作り出し、電圧を上げる。弱い稲妻をホワイトオークまで走らせて雷の道を形成。一気に放つ。
巨大雷丸が雷の道に沿ってホワイトオークに直撃。まさに雷が落ちたような威力の爆発が起きる。雪が舞い、視界を防ぐが、雷砲拳を食らったホワイトオークがあの速度の攻撃から逃れられるわけがない。エヴァ達にも衝撃が行ってしまっただろうが、巻き添えにならないように加減はしたつもりだ。
「相変わらず、魔力の消費速度が尋常じゃないな」
残り少ない魔力から雷化・天装衣を発動したせいで、雷化をこれ以上維持出来ず、空中で下の様子もわからないまま雷化が解除。途端、俺の体が急激に重くなり、景色が目まぐるしく変化しながら落下を始める。耳元で風がうねり、これは不味いのではと考えがよぎった直後に今度は視界が真っ暗になる。
「ぶへ、下が雪で良かった」
落下の衝撃の殆どを雪が吸収してくれ、どうにか九死に一生を得る。
雪の中をかき分けてどうにか地上に這い上がり、雪を払いながら立ち上がる。
「クロト!」
「へへ、相変わらずやるなぁおい」
「あれを見せてくれたのは対抗戦以来だね」
「でもこれ……」
マナが指さした方を見るとさっきまではなかった巨大なクレーターが出来ていた。雪が全て吹き飛び、えぐれた地面が見えている。
その中心で焦げたホワイトオークが辛うじて原型を留めている。まぁ、丸焦げなんだが。
「体も残らないと思ったんだけどな……」
魔力切れで頭がフラフラする。全身にも力が入りにくいし、やっぱり雷化を使った後の反動の方をどうにかしなきゃいけないな。これじゃあ、連戦は絶対に無理だ。生身でももう戦えないレベルに消耗している。
「もう動けねぇ」
ボフっと尻餅をついて、ひとまずは勝利に安堵する。
「待って……何か、来る」
「ん、エヴァ? 何かって…………ッ!?」
気配がはっきりとわかる。さっきの二体のホワイトオークよりもでかいのがもうすぐそこまで……
「グウォォォォォォォ」
「う、嘘だろ」
「ホワイトオーク、三匹目だぞ……しかもさっきの二体よりも一回りは大きい。親玉ってとこか」
「もうクロトも魔力切れよ、今からアレと戦ったって勝てっこない!」
「初日でこんなピンチになるなんて……」
俺の体にはもう魔力がほとんど残っていない。この魔力量から雷化・天装衣を発動させると、恐らく肉体が保てなくなる。鏡盾で魔力を多少回復させるか? いや、意味が無い。雷化・天装衣を発動出来ないんじゃ、あの親玉には勝てない。
かと言ってもう生身じゃテンペスターを振るのでさえも厳しい。駄目だ……勝てない。
「やれるだけはやろうぜ……クロトのおかげで俺達四人は少し回復出来た」
「あ、あぁ……そうだね。クロトのように一人でかっこよく、は無理だけど、力を合わせれば……」
「……だめだ。この状況で向かっていけるのはレイグとガイナだけだ。よく見ろ」
少し後ろの方でマナが腰を抜かして震えている。エヴァもさっきから痛いほど俺の肩を掴んでいた。
「……仕方ないね、勝つ事は諦めるしかない。せめて逃げる算段を立ててくれ、クロト。僕達二人で何とか時間を稼いでみる」
「俺達二人じゃ五分も稼げねぇかもしれねぇけどな」
「もう諦めるのか? 帝国の学生ってのは案外根性無しなんだな」
ガイナ達が諦めそうになったその瞬間、森から数十人の人影が飛び出して来る。文字通り、木の上から飛んできた。
その内の一人が俺達とホワイトオークの間に割って入る。
「な、なんだ?」
「誰だ……?」
俺はろくに動かない体でどうにか立ち上がろうとする。
「……ク、クロト。魔力が切れてるんだから、そんな無理しないで」
現れたのは真っ白のコートに矢筒を担ぎ、自分の身長ほどある弓を持っている女の人達だった。十歳ぐらいの少女から二十代ぐらいの女性もいる。全員同じ装束で弓を構えている。明らかに何かの組織だ。
「ま、名乗るのは後にしよう。今はこいつをやるのが先だ」
リーダーらしき黒髪の女性が手で合図すると同時に全員が一斉に弓を構え、放つ。
「あいつの皮膚を矢なんかで……」
ひゅっと弧を描き、次々とホワイトオークに突き刺さる矢。テンペスターでも浅い傷しか作れなかったホワイトオークの皮膚に矢が次々と突き刺さり、簡単にホワイトオークを追い詰めている。
「この山での狩りを専門にする私達が、奴らの厄介な皮膚の対策をしていないわけ無いだろ?」
「なんなんだ、お前らは」
俺とリーダーらしき人物が話している間にホワイトオークは呆気なく倒れた。俺達の奮闘が嘘のようだ。
「私達はハンター隊。主にこの山で狩りをする狩人さ。そして、私がハンター隊の隊長で、ハングル公爵のアイリス・ハングルだ」
ハンター隊……って公爵?
「ふ……女なので驚いたって顔だな。十二公爵の中には結構いるんだぞ? 女の公爵。そんな事で驚くなんてお前さては田舎者だな?」
いや、公爵が男とか女とか考えた事も無いし、そんな事よりこんな所で公爵に会う事になんて方に驚いているんだが……
俺は驚いて振り返るとガイナ達は、助かった事に対するリアクションの方が大きいようで、いきなり公爵が出てきた事とかは二の次らしい。
ああ、いろんな意味で頭がフラフラする。
「い、いや……驚いたけど、女とか男とかって話じゃなくて……」
「ま、詳しい事は後で話してやる。とりあえずお前らのキャンプまで連れて行け。最近の若い奴らの動きを見てるとこっちがイライラする……シエラ、オークの死体の後処理をしておいてくれ」
「……」
傍らで控えていた金髪の少女に指示を出すと、少女は無言でうなずき、ハンター隊の元へ向かう。それからすぐに少女の命令でハンター隊がオークの死体処理に取り掛かる。
「さて、行こうか」
「ああ」
「……クロト、本当に連れて行くの? 助けてくれたけど……」
「大丈夫だ、信用出来る」
「……わかった。信じる」
「とにかく行こうぜ。俺たちもそうだが、クロトは限界のはずだ」




