29話 土塊の巨人
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
バンリの薙ぎ払った巨大な槍が約半径五メートル以内にいたアンデットを吹き飛ばす。バンリの攻撃による衝撃で土煙が舞い、クレーターが出来ている。
触れずとも斬れる竜巻の如く攻撃で、周囲のアンデットはもはや何も出来ずにいる。
「はぁ! ……流石ですね、バンリ様。現役を退いたなんて嘘じゃないですか」
一方ガウィンは、ゾンビの両足を膝付近で切り離し、後ろから迫ってきたスケルトンの頭を剣の平で叩きつけ骨を砕く。バンリ程の豪快さは無いが、確実に弱点を攻撃し、無力化している。
二人が先陣でアンデットの数を減らしいるおかげで、後方に居る兵士は漏れてくるアンデットを、複数人がかりで対処すればいいので、負傷者を全く出さずに進めている。
「お前も、なぁ!」
再びバンリの薙ぎ払いで数十のアンデットが上半身と下半身を引き裂かれ、本物の死体となって地面に散らばる。
「俺はまだまだ現役なんですよ」
「そうだったな……しかし、本当に命を馬鹿にしてやがるぜ」
「そんな悠長な事言ってられないですよ。行きましょう!」
「あぁ! お前ら!ここは任せたぞ」
『うぉぉぉぉぉぉぉ』
数がどれだけ不利でも士気の高さからアルバレス側は優勢だった。有象無象のアンデットに対して無双を誇るバンリとガウィンが居る事も追い風だ。
それに対し、数で制圧するのは不可能と悟ったアリスが、アンデットとは別に新たな刺客を送る。
「行きなさい。エンリ! リンリ!」
戦場に凛とした女性の声が響いたかと思うと、アンデット軍団の中を縫うように白い閃光が二つ駆け抜ける。よく見ればそれは閃光ではなく二人の“人間”。髪の色が白髪である為にその速度も相まってまるで光のように見える。
二人はまだ若く、褐色肌に白髪。片方は槍を持ち、もう片方は剣を持っている。
剣を持った少女――リンリ――が、バンリに向かって一直線に走り抜け、速度を落とさずにそのまま剣を叩きつける。
対するバンリは、アンデットの中を駆け抜ける二人の少女を正確に捉えており、急接近してくるリンリにも慌てることもなく槍で受け止め、更にはそのまま押し返してしまう。リンリは少し驚いた表情を見せるが、それも想定内と言わんばかりに体勢を立て直して剣を構え直す。
「お前らは……どうやら生きてるな。しかも魔族じゃなく人間」
「あ、はい」
「人間が何故あの女の元で…………いや、野暮な質問をした。お前たちの胸元を見落としていた、すまない」
「いえ、謝られる事ではありません」
「お前らの境遇については分からねぇが、俺達に剣を向けるならこっちも無視するわけにはいかねぇ。俺は死ぬわけには行かないんでな」
〈水術 水圧爆散〉
バンリはリンリを改めて敵と認識すると同時に槍に水を纏い、槍を振り抜く。
水圧爆散は水を一点に集中させ、敵にぶつけると同時に留めに留めた水圧を爆発させて攻撃する魔術。水術の中でも非常に高い威力を誇るが、水圧を抑え続けるコントロールが難しく、比較的に習得難易度が高い。
リンリはバンリの攻撃を冷静に観察し、正面から適切に剣を振って対抗する。
〈我流 熊ノ太刀〉
リンリの剣は攻撃に合わせて炎を纏い、水圧爆散にぶつけて相殺させる。炎と水の衝突により水蒸気が発生し、周囲を薄い霧が包み込む。
衝撃で二人が仰け反るが、リンリは既にその事も見越して動いており、バンリが未だに体勢を戻せていない間に剣先を翻し、太ももに突き刺す。控えめな態度とは裏腹に殺す事への躊躇は全く見られない。
「う、ぐ……」
「死ぬわけにいかないのは、私も同じです」
◇
一方ガウィンの方では……
「ふ、はぁ!」
「ふん! う、おりゃ!」
片手剣を巧みに使うガウィンと豪快な槍捌きのエンリが激戦を繰り広げていた。
〈神明流 同力剣〉
「はぁぁぁ!」
エンリの強力な槍攻撃とガウィンの全く同じ力がぶつかり、互いに後ろへ飛ぶ。
「お前は、なんの為に戦うんだ?」
「生きる為」
「ふ……主人の為、とかじゃないんだな」
「当たり前だ。これが無ければ魔族になど従うものか」
親指で胸元の奴隷紋をトントンと叩く。
「そしてお前を殺さねば私が殺される。悪いが……」
「おっと、悪いなんて言うなよ。敵としてあった以上はお互い覚悟の上だ」
「そうだな、じゃあ……」
お互いに武器を握り直し、目の前の敵を殺す事にのみ集中して睨み合う。
『死んでくれ』
◇
「ふぁ~。全く、エンリもリンリも何をグダグダしてるのかしら。やっぱり奴隷紋で従えてるだけじゃ、ダメね。絆ってものがないわ」
アリスは戦いをエンリ、リンリ そしてアンデットたちに任せ、優雅に欠伸をしていた。
「ガガ、アリス、サマ」
「ん? 何?」
そこにアンデット軍団のリーダー、一級魔物ダークナイトがやって来る。スケルトンより一回り大きい骸骨の魔物で、スケルトンより高度な戦闘技術を持つ。が、知性はあまり高くないのと、骨を打ち鳴らすような発声しか出来ないので、アリスはあまり好きではない。
「リンリ様ト、エンリ様ガ、苦戦シテ、イルヨウデ……ス。イカガ、イタシマ、ショ、ウ」
「相変わらず、聞き取りにくい声ね。大丈夫よ、あの子達は勝つわ。貴方達はそのまま相手を休ませないように攻め続けなさい」
「ハッ! リョウカ、イシマ、シタ」
アリスから新たに命令を受けたダークナイトはドスドスと足音を立てて離れていった。
ダークナイトはアンデットのリーダーに配置されているが、実際の役目は戦況の伝達係であり、戦闘能力は並みのアンデットよりも高いが、それでもエンリ、リンリにすら劣る為、今回の作戦では殆ど重要視されていない。
「もし負けたら殺してやるんだから」
◇
「ぐ…………」
「がはっ……」
同時に倒れるバンリとガウィン。
「よし、よくやった。リンリ」
「う、うん!」
二人をほぼ無傷で倒したエンリとリンリ。バンリとガウィンはその足元で突っ伏していた。
「く、俺もまだまだ現役と思っていたが……」
「……バンリ様、申し訳ありません」
「さて、殺しても良いんだったな?」
「うん! アリス様からはそう聞いてるよ」
「では、死んでもらうぞ」
エンリは槍の矛先をバンリに向け、狙いを定める。
「……じゃあな」
「させるかッ!」
心臓目掛けて槍を突き出したその直後。突如として現れた人影がエンリの槍を弾き飛ばし、そのまま回し蹴りを繰り出してエンリとリンリをまとめて吹き飛ばす。
「ぐ……ぐはっ」
「ごほっごほっ」
「大丈夫か? 兄者、それにガウィンも」
漆黒の鎧に見を包み、手には片手剣よりは少し大きく、大剣よりは小さい剣を手に持った騎士が、バンリとガウィンに声をかける。
「ファリオス……よかった、来てくれたか」
「ああ、後は俺達に任せろ。……アイン! 俺はこの二人と後ろで馬鹿みたいに欠伸してる女の魔族をやる。お前らは兄者とガウィンの手当、そしてアンデットの殲滅にかかれ!」
「は!」
ファリオスと同じく同じく漆黒の鎧に見を包んだ水色髪の女性が応える。その他にも約二十名程の漆黒の騎士団が控えており、ファリオスの命令で全員がそれぞれの役割を理解し、動き出す。彼らこそファリオスが自ら選んだ精鋭。特別精鋭隊と呼ばれる者達だ。
「く……リンリ、あいつもやるぞ」
「うん、任せて」
「来い」
〈水術奥義 時雨飛沫〉
〈我流奥義 白虎ノ太刀〉
エンリは槍に水の力を込め上へ飛び、脳天へ槍を叩きつける。それに合わせるようにリンリは動き、剣に白炎の虎を纏い、下からファリオスの心臓を狙う。
二人は正真正銘の双子であり、生まれた時から共に生きて来た。故に連携は完璧であり、エンリが脳天を狙ったと理解した瞬間、リンリが死角となる下側を同時に仕掛ける。リンリの動体視力が高いからこそ成立する連携とも言える。
「ふん、その程度」
〈豪傑疾風流複合奥義 天駆ける龍の鉤爪〉
双子が大技を放ちながらファリオスへ攻め込むその瞬間、空中を二振りの斬撃が駆け抜け、エンリとリンリの攻撃を同時に弾き飛ばし、更にその勢いでエンリとリンリにダメージすら負わせている。
「ぐ…………はっ」
「う…………」
攻撃は防がれ、更には二人ともが斬られる。二人は地面に倒れ、傷口を抑えながら呻く。傷自体はそう深いわけではないが、衝撃で骨が数本折られている。二人の武器も真っ二つに折れて、戦場に転がっている。
「もう少し歯ごたえがあるかと思ったが、期待外れだったか」
「……あの三大将軍が相手じゃ、流石にこの娘達じゃ荷が重かったわね」
そこへ見かねたアリスがようやく姿を現す。
「ふん、お前とて変わらんさ。さぁ、ここで死んでもらうぞ」
「ふふ……何も私は勝てるなんて言ってないわ。貴方相手じゃ流石に勝ちは譲ってもらえないでしょう。これで勘弁して頂戴。異能解放……」
〈土術奥義 巨兵創造〉
アリスが魔術を発動させると、アリスの後方に広がる地面が盛り上がり、人型に形成されていく。そのまま土で出来た巨人が現れ、ファリオスを見下ろす。
「貴方が居るんじゃ作戦もここまで。私達はこれで退散させてもらうわ。じゃあね」
アリスはエンリとリンリを抱えると空へ浮かび上がり、そのまま闇夜に消えていく。後を追おうとしたファリオスを、土塊の巨人が阻む。
「……逃したか」
「ウォォォォ」
「行くぞ? 傀儡の巨兵よ」
〈疾風神明流複合奥義 闇夜に舞う天馬の蹄〉
ファリオスは十メートル以上もある巨人の頭上まで一蹴りで飛び上がり、落下する速度を利用して巨人に剣を振り下ろし、真っ二つに斬り裂く。
圧倒的なまでの一撃に巨人は何の抵抗も出来ずに土の塊へと変わってしまう。
「くだらん足止めだったな」




