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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第一章 学園編

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28話 決死の奪還戦

 エルトリア城最上階。玉座の間。



 白髪頭に白いひげを生やし、赤いマントを身にまとった男――デルタアール皇帝――と天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)団長、イザベラが謁見を行っていた。

 デルタアール皇帝の後ろにはでっぷりと蓄えた腹が特徴的で、不敵な笑みを浮かべた中年の男――ブルックス大臣――と、アラン団長を更に一回りごつくした男が立っていた。



「うむ……あの一件以来、東の地にて再びミノタウロスは出現せず、か」


「は、我ら天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)が『東の地』全土に散って情報を集めておりますが、全くそういった情報や形跡は確認出来ていません」


「そうか……」



 イザベラのミノタウロス捜索の件を報告していると、そこへバタバタと足音を立てながら一人の兵士が転がり込んで来る。



「なんじゃ、騒々しい」


「はぁ……はぁ……ほ、報告します! アルバレス公爵領、ケルターメンより救援要請あり! 大魔森から突如としてアンデットの大群が出現。敵方の攻撃により兵の三分の二が壊滅。撤退を余儀なくされ、三分の一の領地が占領されました! 現在は冷戦状態であり、アルバレス公爵が奪還戦の指揮を執っています!」


「な……」


「…………!?」



 周りにいた兵士達もざわつく。

 それもそのはず。アルバレス公爵といえば十二公爵の中でも一位、二位を争うほどの軍事力を誇る公爵家だ。それこそ帝国と戦争出来る程の兵力を所持している。



「現在、バンリ様の活躍により痛み分けという形で持ちこたえていはいますが、相手はアンデット。数が無制限に増える以上、いつまで持つか……」



 バンリ・アルバレス。アルバレスを統治する公爵だ。



「うむ……事は急を要する。ファリオス!」


「は」


 

 デルタアール国王の背後から低い声が聞こえたかと思うと筋肉男が前へ出てきた。三大将軍の一角、剛力将軍のファリオス・デルガルドンだ。バンリの実の弟で、パトリックの父である。

 エルトリア帝国に仕える際、デルガルドンの名を賜り、今はそちらの名を名乗っている。



「特別精鋭隊を率いてすぐに向かってくれ、後から再編成した隊を送る」


「は。了解しました」



 それだけ言うとファリオスは早足に玉座の間を出ていく。



「イザベラ、天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)をすぐに呼び戻し、いつでも出れるようにしておけ。もしアンデットを率いているのが魔族であるなら、アルバレス公爵領を足掛かりとして帝国に攻め込んでくる事も考えられる。万全の備えをしておいてくれ」


「はっ!」


「よりにもよってこんな時に……」





「なんだか騒がしいみてぇだな」



 エルトリア城から何度も騎士達が出たり入ったりしてる。大通りは交通のため、一時的に商人に退散命令が出されており、馬に乗った兵士達が慌ただしく移動している。



「知らないのかい? ガイナ」


「何も聞いてねぇぞ」


「俺も知らねぇ」


「クロトもか」


「……レイグ、なんで?」


「なんでも大魔森からアルバレス公爵領へアンデットの軍隊が攻めて来たらしい。未確認の情報だがアンデットを率いている魔族まで現れたらしいよ」


「魔族……!」


「……」



 俺とエヴァは無言で向き合う。

 あいつ(フロリエル)が来たのか、それとも別の魔族か。



「フロリエルって奴とは別のやつだと思うよ」


「ん、なんでわかるんだ?」


「なんでって……君達の証言であいつの顔も能力もこの国全土に知られてる。入って来た情報は『魔族』という事だけで、『フロリエル』という名前は一度も出て来ていない」


「ああ、確かにそうか」


「……本当か?」


「ガイナ?」


「アルバレス公爵領が襲われたってのは本当か!」


「あ、ああ。少なくとも僕はそう聞いている」


「そ、そうか……」



 あのガイナが何か考え込んでいる。それほど何があるのか、アルバレス公爵。



「……ガイナ どうしたの?」



 ナイス、エヴァ



「ん、ああ……わりぃ。アルバレス公爵は親父の、ベルガラック男爵と仲が良くて、俺もよくかわいがってもらったんだ。それに、親父の領地も大魔森に隣接してるんだよ」


「そうか……それは心配だな」


「ああ。本当ならすぐにでも確かめに行きたい……けど、俺なんかが行ったら何してんだって怒られちまうかな」



 力なく笑うガイナに俺はいつの間にか自分を重ねていた。魔物や魔族のせいで大切なものを奪われる人はもう見たくない。



「行こう、ガイナ」


「え……?」


「じっとなんてしていられないはずさ。俺も、少しだけならわかる。行こう、後で悔やんだんじゃ遅い」


「で、でもよ、ここから最速で三週間はかかる。それに雪山合宿だってある」


「関係ないさ。そんなことより大事な場所なんだろ?」


「あ、ああ」


「よし、じゃあけっ…………」


「待ちなさい。その必要はないわ」



 突然後ろから声をかけられた。

 振り返るとそこには対抗戦ぶりのイザベラさんの姿があった。そしてイザベラさんを先頭に数十人の白い鎧を着た女性も。



「イ、イザベラさん!」


「久しぶりね、クロト。それに皆も。マナだけはそうでもないか」


「お久しぶりです。あの、俺達……」


「何が何でも止める……って気はないわ。クロトの性格的にも、止めたって行く時は行っちゃうだろうしね。でも、あなた達が行く必要は無いって事だけは伝えておくわ」


「それはどうしてですか?」


「三大将軍であるファリオス様が既に救援に向かわれたわ。ファリオス様なら絶対に大丈夫よ。もしファリオス様にどうにも出来ない状況なら、そもそも貴方達が行ったところで何も変えることは出来ないしね」


「それは……それは、本当ですか」



 今まで迷っていたガイナが声を上げる。



「ガイナ君。貴方のお家が今回の戦場にほど近い事、それに伴う不安は十分理解してるつもりよ。でも、騎士団団長としては、お父様を信じなさいと、それだけ言わせて」


「……はい。ありがとうございます!」


「イザベラ先輩。そろそろ」



 イザベラさんの左斜め後ろにいた茶髪の女性が声をかける。あれは確か……



「……短剣担当の人」


「やっぱりか?」


「あ、エヴァちゃん! 久しぶり……でもないか~!」


「……ん」


「クロトははじめましてよね。天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)副団長のエイナよ」


「君がクロト君かぁ! 噂はかねがね。対抗戦も見させて貰ったよ! よろしくねぇ~!」


「え、あ、よろしくお願いします」


「まぁ、てなわけだから。これから私達も出陣するわ。ここは任せてくれる?」


「それでいいか? ガイナ」


「ああ!」


「じゃあ、またね」


「ばいばーい」



 イザベラさんとエイナさんはにこやかに手を振ると、振り返って集まった天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)に号令をかけ、そのまま出発してしまった。



「良かった……本当に良かった……!」





「バンリ様、どうしますか」


「うむ、魔族のせいで戦況が変わった」



 アルバレス公爵領。

 青髪に青い鎧、2メートルはあるかと思うほどの巨大な槍を持ったバンリ・アルバレスとアルバレス公爵領を守る兵士達のまとめ役、ガウィンが戦況を確認しながら作戦を話し合っていた。



「あの魔族……張本人は居なくなりましたね」


「ああ、だが女の方が残ってる。ありえないほどバカでかい魔力だ。生き残った兵でアンデット軍団を追い返せるかどうかも微妙なのに、あいつが居たんじゃ勝ち目はないな」


「でも、もうすぐ……」


「ああ、帝国から軍が来る。おそらく俺の弟が来るだろう。それまで耐えれば俺達の勝ちだ」





 バンリ達が布陣している地点より更に南。壊滅した街の一角を陣取る一人の魔族。四魔王『土創巨兵』のアリスだ。



「もうあの拠点も潰していいかしら。全滅させないようにギリギリを攻めるのも難しいわ。兵士を減らし過ぎなのよ」


「…………」


「…………」



 アリスの側に槍と剣をそれぞれ持った褐色肌に白髪の、恐らく双子の少女が二人立っていた。



「ねぇ、エンリ。あの中年の男、潰して」


「はい」



 エンリと呼ばれた槍持ちの少女が応える。



「リンリ」


「は、はい!」


「あの青髪、殺って?」


「は、はい……」



 もう一方の剣持ちの少女が応える。二人の胸にはしっかりと奴隷紋が刻まれていた。





 場所は戻り、バンリ達が動き出す。



「いいか、お前達ッ! アンデットは痛みを感じない上、腕を切り落とそうが胴体を切り離そうが死なない。殺す方法は一つ……術者を殺すことだけ。今の状況を考えるにあの女が術者だ。アンデットを足止めし、俺とガウィンであの女を狙う。お前達にはそれまでの間アンデット軍団を足止めしてほしい! 足を攻撃すれば多少は動きを止めれる。五分でいい! 耐えてくれ! 軍神が我らに微笑まんことを!!」


『うぉぉぉぉぉぉぉ』



 兵士達が咆哮を上げ、士気を高める。その数はアンデットの半分にも満たないが、練度で言えば十分精鋭と呼ぶに匹敵する。

 バンリとガウィンが先陣を切り、それに対応するようにアンデットも動き出す。

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