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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第一章 学園編

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27話 ”迫る死”と”抗う生”

 学園は対抗戦を最後に夏の長期休暇へと入り、自領を持つ貴族の子息令嬢は、それぞれ自分の家に帰る。うちのチームはガイナ、マナ、レイグが自領へと帰る事になっているが、一週間経った現在も三人は学園の寮へ滞在していた。

 その理由が今のこの場に居る為だ。



「本来生徒間の問題に俺達が口出しをするべきではないのだが……皇子、立会人が俺達で良いのか?」



 俺達の正面に立っているのはイーニアス。その中間でいつでも仲裁に入れるように待機してくれているのが龍騎士団(ドラゴン・ナイツ)のアラン団長と、天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)の団長、イザベラさんだ。

 俺が対抗戦でイーニアスのチームと戦う直前にした約束が果たされる時が来たのだ。



「はい。完全な中立の立場であるお二人が見届けてくれれば、後々の面倒事を防げるでしょうから」



 イーニアスは俺達五人に向き直ると、深々と頭を下げる。不気味なほどに潔く、また一悶着あるのではと警戒していた俺達は若干呆気にとられる。



「エヴァリオン・ハルバード。君の事を『悪魔』と罵った事を謝罪する。そして、仲間と共に僕達を破り、対抗戦で優勝したその武勲に心から尊敬する。すまなかった」



 イーニアスの謝罪に、エヴァは無言で頷く。

 両団長の立ち合いもあり、その謝罪は正式に行われた。最後にはエヴァとイーニアスが握手を交わし、入学当初からのイーニアスとの因縁にもここで一段落がつく。



 この時はエヴァが認められた事が嬉しくて、それでいて対抗戦優勝の余韻もあってか、気づく事は出来なかった。イーニアスの謝罪が心からのもので無いなんて疑う気持ちは一切なく、俺の目には映っていなかったのかもしれない。

 部屋を出ていく俺達を見るイーニアスの目に憎しみが宿っている事にも、頭を下げているイーニアスが、音が漏れ出しそうなほど歯を食いしばっていた事も。





 対抗戦から早くも三か月が過ぎ、長期休暇で自領に帰っていた貴族の子供達が戻ってきたこともあり、学園にはまた活気が戻って来た。暑い夏が過ぎて、頬を撫でる風も涼しくなってきた頃。



「最低でも一時間は維持出来ないといけない。それに、連続での発動にも体を慣らしておく事、更には余力を残して解除する器量も必要になってくる。今のままじゃ一〇分しか戦えないし、反動で戦闘継続が厳しい。もっと強くなるにはこの辺はクリアしていかないとな」


「それにしても皇子直属の護衛を一撃で倒したんだからすごいと思うよ」



 対抗戦で習得した〈雷化・天装衣(ラスカディグローマ)〉も、この夏で訓練を重ねれば重ねるほど、その維持と解除の反動に頭を抱えるばかりだ。



「お、やっぱりここに居たか。おーい、クロト! エヴァリオン!」



 俺とエヴァがイザベラさんに借りた騎士団の訓練場で訓練をしていると、ガイナがやって来る。今日の授業は終わって、解散したばかりだ。一体どうしたんだろうか。



「ガイナか、どうしたんだ?」


「いや、マナとレイグにはもう聞いたからよ。二人にも一ヶ月後のアレをどうするか聞こうかと思ってな」


「雪山合宿の事か? 行けばいいんじゃないか?」



 雪山合宿。

 俺達一年生はこの時期に授業の一環として行く事になっており、雪山に約一ヶ月間、山籠りの訓練をするらしい。

 ただ、この訓練は過酷で、実戦も当たり前にあり得る訓練。雪山に住む魔物を狩れなければ、一ヵ月間を生き抜く事すら叶わない。というわけで強制ではなく、参加は任意になっている。ただ、チームメンバーの一部だけが参加するなどは認められておらず、チーム全員が参加、もしくは不参加と統一しなければならない。死者こそ出た事は無いが、危険な訓練なので貴族なんかだと参加を見送る事もあるらしい。



「マナとレイグもそう言うんだけどよ、半年前の魔族の件もあるし、いくら対抗戦で優勝したからって少し危険なんじゃないかと思ってな」



 こう言っているがガイナはどちらかと言えば参加に賛成なはずだ。訓練とは言ってもこういった実戦の機会は、武勲を重視する家柄では有利に働く場合が多い。



「魔族か。でも、それは大丈夫なんじゃないか? 龍騎士団(ドラゴン・ナイツ)に加えて天馬騎士団(ペガサス・ナイツ)も護衛に来てくれるらしいし、もしあいつ(フロリエル)に遭遇しても五人なら時間稼ぎは出来る。最悪の場合だがエヴァの黒氷なら超再生も完封出来る。そもそもまた現れるなんて確証も無いだろ?」


「それは……そうだけどよ」


「それに行かないわけにはいかないんだろ? いくら任意参加とは言え、ここで逃げるやつは一族の笑い者だってガイナが言ってたじゃないか」


「俺はそうだが、仲間は違うだろ……?」 


「そんな暗い顔するなよ。俺達は対抗戦でも全員揃って勝ったんだ。今回の訓練だって大丈夫さ」


「そうか……そうだよな。じゃあ、早速訓練に向けて訓練するか!」


「おう!」





 時同じくして北の大陸。魔族領のとある古城にて人影が四つ。ボロボロのテーブルを囲んでいた。そのうちの一人はクロト達と邂逅した『不死不滅』のフロリエルだ。



「さて、少し準備に手間取ってしまったが、ようやく行動に移る時が来た」


「ちょっと待ってくれよ」


「どうした?」


あいつら(クロトとエヴァ)にやり返さなきゃ俺の気が済まねぇ」


「出来るのかのぉ? 確かに帝国でも知名度の高い『不死不滅』のフロリエルが、たかが学生二人にやられたとあっては、わしら四魔王のメンツも丸つぶれじゃ。……じゃが、一度負けたお前さんの言葉をそう簡単には信用出来まい」


「クッ……」


「リヴァの言う通り。お前に本当に出来るのか?」


「あの黒氷の女は力を制御出来ていなかった! 雷男の方なんて問題ですらなかった! 次は……次は必ず殺せる」


「フロリエル君、口調が崩れてるわよ」


「ひぇひぇひぇひぇひぇ、これは失礼」


「じゃが、フロリエル一人を行かせるのは危険じゃのぉ。相手も警戒し、対策しておるじゃろう」


「私も共に行きましょうか」


「確かにお主の異能なら小僧程度なんでもないとは思うが、貴重な戦力をそっちにばかり使う事は出来ん」


「フロリエル、少し我慢しろ」


「この屈辱を晴らさずじっとしてろと言うんですか? そもそもこの集まりの目的は……」


「とりあえずその話はあとだと言っている。……アリス、お前は現状、巨人を同時に何体出せる?」


「私の魔力が空っぽになるまで、って意味なら十体が限界よ」


「十体か……サイズは?」


「だいたい二十〜四十メートルね」


「十分だ。リヴァ、お前の兵は?」


「今のところは三千程は居るかの」


「よくぞそこまで集めたな」


「増やすのは簡単だからのぉ」


「ふむ、忌まわしきあの国を堕とせるだけの戦力は着々と集まりつつある」


「でも注意は必要よ。あの三大将軍とやらはかなり危険だし、学生の中にもフロリエル君を倒すほどの者がいる。先にそいつらだけでも消しておくのが先決じゃない?」


「計画は綿密に、準備はより入念に……何も今すぐ攻め込むわけでは無い。先にやらねばならぬこともある」


「ここでフロリエル君に朗報。学生は一ヶ月後、雪山へ長期訓練に行くらしいわよ」


「ひぇひぇひぇひぇひぇ、私に行かせてください」


「うむ……学生程度に固執するのは解せないが、どうせ騎士団の連中も来るのだろう。ついでに消せれば一石二鳥だ。リヴァ、お前も行け」


「了解した」


「ああ、そうだ。リヴァ、お前の兵を少しばかり残してくれ。同時進行で攻める。ようやくこいつの完成も見えて来たからな。学生は殺すなりなんなり好きにしろ。アリス、お前はあいつ(・・・)と共に行け。初陣をさせる」


「了解」


「ひぇひぇひぇひぇひぇ、心臓の次は学生狩りと行きますか」





「さて、この前も軽く話した雪山合宿についてだ」



 例の雪山訓練がもう間近に迫ったある日、アラン団長から雪山合宿についての説明があった。



「今回行くのはこのエルトリア城下町からエルネア公爵領に沿って北上し、更に上に抜けた寒冷地帯にそびえ立つテリア山。馬車で行くが、なにせこの人数だ 移動時間だけでも一ヶ月は見ている」



 一ヶ月移動しっぱなしか、きつい旅路になりそうだな。



「準備は各々勝手にしておいてくれ。特に制限も縛りも無い。一ヶ月間雪山で生き抜けばいい。ちなみに魔物学で習っているかもしれないが、この山は強力な魔物がゴロゴロいる。この合宿で死にそうな目に遭った奴をごまんと見ている。その事を覚えておけ、解散」



 雪山合宿を楽観視していた生徒達はアラン団長の最後の言葉で固まってる。そこまでビビるか……

 ミノタウロスとフロリエル。もう命の危険を感じたのは二度目だ。ま、そのおかげでここまで強くなれたんだが。



「……クロト」


「ん?どうした、エヴァ」


「みんなが呼んでるよ」



 と言われエヴァが指さした方を見ると三人が早く来いと言わんばかりに見ていた。



「あ、悪い」



 と、俺は小走りでみんなの所に向かう。



「よし、クロトも来たことだし、行くか」


「ん? 行くってどこに」


「買い物よ?」


「雪山合宿も当然チームで行動するからね。きちんと準備しておかないと最悪の場合は全滅だよ?」


「あぁ、そうか」


「じゃ、行きましょ」



 俺達は学園を出て国民区に向かった。





 その夜。



 エルトリア城より西へ三週間ほど行った先にあるアルバレス公爵領。十二公爵の中で最も軍事力に優れた公爵家であり、その領地も他の公爵よりも広大である。西は海辺が広がり、南西は強力な魔物の生息地となっている『大魔森』が隣接している。この公爵家が武力に優れるのは、この大魔森から、魔物の侵攻を防ぐ役割も担っているからである。



 そして大魔森との境にある巨壁『フォルトゥレス』。

 大魔森から稀に現れる魔物の侵入を阻止するために建てられたこの壁は、兵士が交代で見張りにつき、一日中魔物の動きを監視をしていた。



 その日の夜。

 フォルトゥレスの上に兵士が二人。一人は中年ぐらいのおじさんで、もう一人は青年だ。



「ふぁ〜暇だなぁ〜」


「文句言うな、俺達が暇なのは良い事なんだから」


「そうですけど〜」


「しかし、お前もつまらん所に配属されたな。この仕事をもう三年はやってるが、この壁(フォルトゥレス)を越えてくる魔物なんてまだ一度も見た事が無い」


「ガウィン先輩でも無いって事は相当稀なんすね。でも、それだけ魔物も恐れてるってことじゃないんですか?」


「確かにアルバレス領は武闘で有名だが、魔物にそれを理解出来る程の高度な知性があるとも思えない。そもそもこの大魔森の中には、この壁を単独で破れる程の力を持つ魔物もいる。俺達みてぇなたかが一兵士を恐れるとは思えんがなぁ」


「うーん、まぁ襲ってくるよりいいじゃないですか」


「まぁ、そうだな」



 カラン、コロン、オォォォ……



「…………なにか、聞こえましたか?」


「いや? 特に何も」



 カラン、コロン、オォォォ……



「ほ、ほら!」


「あぁ、何か……いるな」



 二人が見ている先はフォルトゥレスより南、大魔森。カランコロンという不気味な音、そして低いうめき声が森から響いてくる。稀に唸り声や咆哮が聞こえてくる事はあるが、こんなに大量に聞こえてくるのは初めてだ。

 二人の兵士が森を注視していると、木の影から音の正体が出てくる。



「あ、あれは……」



 現れたのは大量の“人”だった。ただ普通の人と違うのは皮膚は土のようなくすんだ色をしていて、所々の肉が爛れ腐っているという事だ。



「……アンデット」


「だけじゃないっすね」



 全身白骨状態に革の腰当てやらボロボロの布切れを着け、錆びついた剣や折れかけの弓を持った連中もいる。



「スケルトンか。単体なら俺達だけで追い払えるがこの数は……」


「軽く数百は居ますね……」


「しかも見えてるだけで、だ。森の中にはもっと居るぞ」


「ど、どうしますか?」


「この壁は十メートルはある。簡単には越えられまい。ここは俺が様子を見ておく。お前はすぐにこの事を全兵士に知らせてくれ」 


「は、はい!」



 青年は壁を降り、兵舎の方へ駆け出す。



「……さて、どうしたものか」


「ガウィン隊長! 我々も戦います」



 壁のあちこちにいた兵士達が集まってくる。全員集めても数十人。



「よぅし! この壁は見た目より頑丈だ。奴らがどう攻めてくるかは知らんが、登ってくるものは叩き落とせ。だが、スケルトンの弓には注意しろ。行け!」


『は!』



 それを上空から見つめる二つの影。



「ふふっ……あんな数十人の兵士じゃあの数のアンデット集団は相手に出来ないわよ」


「あの方がこの戦いを見ておけと仰っていたが、この街を蹂躙するのか?」


「ええ、その為にリヴァに数百体ものアンデットを残してもらったんだもの。まだここを落とすつもりはないらしいけど、それなりに被害を出して魔族の侵攻を印象付けたいみたいね」


「なるほど、それは愉快な話だな」


「愉快……? それより、傷は大丈夫なの? 初陣だって言ってたけど、もう体は問題なく動くの?」


「ああ。この襲撃にも、自分から志願したしな」


「あなた、本当に一年前死にかけてた子供なのかしら?」


「ふ……あの日まではただの夢見るガキだったからな。今はそんな事どうでもいい。少し、俺も手を出すか」



〈爆炎術 豪炎丸〉



 片方の男が手のひらに作った豪炎の球を、兵舎付近に投げる。炎は膨張するように大きくなり、爆発音を響き渡らせながら兵舎に直撃する。轟轟と燃える炎はすぐに燃え広がり、兵舎をあっという間に火だるまに変える。



「あれで兵士はしばらく動けないわね」


「ああ、俺の仕事もこれだけだ」


「後は私に任せて、先に戻ってなさい」


「ああ」

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