26話 仲間の絆
「パトリックは僕達で何とかする。クロトはイーニアスを!」
「わかった! ここは頼むぞ」
クロトが一蹴りで敵陣まで乗り込む中、残ったレイグとガイナが復帰したパトリックに相対する。クロトの雷砲拳を直撃していたが、パトリックの練度も相当なもので、しっかり受け身を取ってダメージを最小限に抑えていた。
エヴァはアイズとの戦闘でダメージを食らっており、マナがそれを回復している為、まだ満足に動ける状態では無い。
「レイグ、そこをどけ。僕の強さは理解してるだろ?」
「ガイナ、気を付けてくれよ」
「三流派を使いこなす人理限界だっけか。羨ましい限りだぜ」
氷の姫には一つ罠がある。それは、チームの中心であり、指揮を執っているクロトがリーダーではないという点。この対抗戦においてリーダーの戦闘不能はそのままチームの敗北を意味する。そしてそのリーダーはチームを結成した時のものを流用する為、氷の姫のリーダーはエヴァという事になる。
「情報は入っている。そこの悪魔がリーダーなんだろ? このまま戦闘不能にさせれば僕達の勝ちだ」
「やっぱり調べてきているね。ガイナ、ここは死守だ」
「おうよ!」
ガイナの体格はパトリックよりも更に恵まれている。その体格を遺憾なく発揮した斧による猛攻がパトリックに迫る。
〈神明流 即応剣〉
ガイナの連撃はことごとくパトリックによって相殺、または受け流されており、斧は届かない。
神明流の中でも上位の技として位置している〈即応剣〉は、相手の太刀筋を素早く見切り、完璧な動作で無効化させるというもの。パトリックは父である剛力将軍ファリオスに幼少期から剣術を叩き込まれている為、この年で学生レベルでは片づけられない程、剣術の練度が高い。
〈神明流 絡め回し〉
ガイナの猛攻を縫ってレイグが動き、パトリックの剣に自身の大剣をねじ込む。腕の可動域を把握し、理解して上で相手の動きを止める神明流の技の一つ。レイグの攻撃によりパトリックは剣を動かせずにいる。この絡め回しから抜け出すには一度剣から手を放す必要があるが、それは自殺行為にも成り得る。
「その技が好きだな。だが、それなら俺も使える。性質はよくわかってるぞ」
パトリックはレイグに押さえつけられている腕を腕力だけで振りほどき、逆にレイグの大剣を地面に叩きつけて抑え込む。
神明流は腕力や速度ではなく、人体の構造や反射神経を用いて相手の攻撃を相殺、受け流し、そして妨害する事に優れている。故に、単純な力勝負に持ち込まれた場合、圧倒的に力が勝っている相手にはそもそも技が通用しない事がある。
「そう来る事もわかってたよ。君とは何千回も一緒に訓練したからね。でも、今は一対一の勝負じゃない」
「俺が居るぜぇ!!」
レイグの大剣をパトリックが抑えているという事は、即ちパトリックも即座に身動きが取れない状況であるという事。そしてこの場にはガイナが居る。パトリックの動きを止めてしまえば、ガイナの攻撃を防ぐ事はパトリックには出来なくなる。
「おらァァァ!!」
ガイナが全力を込めて斧を振るい、パトリックに迫る。が、パトリックは既に反応し始めていた。
〈豪傑流 断斬〉
パトリックがレイグの大剣を抑えている剣をそのまま横薙ぎに払い、ガイナの振った斧とかち合う。
「こいつ、予備動作無しで……」
「待ってろ、ガイナ!」
「遅い」
〈豪傑流 円盤斬〉
パトリックはそのまま回転斬りに移行し、ガイナの斧は弾かれ、浅くはあるがガイナとレイグに傷を与える。二人が怯んだ隙にパトリックはエヴァに狙いを定め、二人の間を素通りして迫る。
〈炎術 火柱〉
パトリックの進行を塞ぐように火柱が昇り、パトリックはその場でいったん止まる。火柱自体はすぐに消えたが、先程まで標的にしていたエヴァが視界から消える。居るのは回復に専念していたはずのマナだけで、火柱を出したのもマナだとすぐに理解する。
「動きを止めたね」
〈氷術 銀世界〉
地面を伝って氷結がパトリックに届き、下半身が氷に覆われてしまう。
火柱がパトリックの視界を塞いだ一瞬の隙にエヴァは死角に移動しており、術の準備を始めていた。銀世界はエヴァの使える氷術の中でも大技で、魔力を大幅に消費してしまう為、連発も出来ないし、一度使うだけでも溜めの時間が必要になる。
「氷結か、だが……この程度ッ!」
パトリックが力むと、氷結にひびが入る。このままでは純粋な力で脱出されてしまうだろう。しかし、この術の目的はパトリックの動きを封じる事ともう一つ、パトリックの持っている剣を地面とつないでおく事がある。
「後ろがガラ空きだぜェ!!」
この攻防の間にガイナとレイグは既に復帰し、パトリックの後ろを取っている。レイグとガイナの同時攻撃にパトリックは反応こそ出来ているが、剣が氷結で動かず、更には自身の下半身も氷結のせいですぐには動かない。武術の練度が高いからこそ、この攻撃は防げないと直感で理解する。
その直後、ギリギリでレイグの大剣とガイナの斧の間に剣を差し込んで直撃は避けたが、二人の渾身の一撃がパトリックの全身に衝撃を与え、そのまま吹き飛ばされてしまう。
受け身も取れないままパトリックは地面に倒れ、何とか起き上がろうと藻掻くが、クロトから受けた雷砲拳のダメージがぶり返し、そのまま気絶してしまう。
「勝った……あのパトリックに……」
「しゃぁ! 人理限界だろうがなんだろうが、仲間との絆には勝てねぇって事だな!」
パトリックの戦闘不能で、一瞬ではあるが四人の間に安堵の空気が流れる。ガイナはレイグの肩をバシバシ叩いており、レイグもなんだかんだ嬉しそうに笑っている。
「ありがとう、マナちゃん。おかげで助かっちゃったよ」
「ううん、こちらこそ! エヴァちゃんの氷術のおかげであのパトリックにも勝てたわ」
「あとは、クロトがイーニアスに勝つだけだね」
「私達も急ごう!」
四人は今も戦っているであろうクロトの元へ急ぐ。
◇
少し時は遡り……
「決着を付けるぞ、イーニアス!」
雷化の状態であれば距離はほぼ関係がない。すぐに敵陣のど真ん中に辿り着き、すぐ近くで倒れているアースを横目にイーニアスに剣を向ける。
雷化で戦闘するのはこれで初めてで、発動するのもこれが二回目だ。だから俺があと何分この状態を維持しておけるのかわからない。イザベラさんには、今の俺の全魔力量から計算して大体十分と少ししか発動を維持出来ないと言われている。だが、それは発動して棒立ちしている場合の話で、術を使えばその分発動時間は短くなってしまう。
もう、時間をかけている余裕は無い。
「行くぞ、クロト!」
イーニアスが剣を振り上げ、真っ直ぐに突っ込んでくる。
イーニアスが戦う姿は授業で見たのと、一昨日の試合のみ。剣術のみで言えば俺の方が分があるだろう。
雷化した俺なら踏み込むだけで光速の斬撃を発動出来る。が、早すぎて俺も狙いを定められない。よって実用可能な速度は光速よりもかなり落ちてしまう。それでも、イーニアスよりは数段速い攻撃になるだろう。
〈雷帝流 稲妻剣〉
慎重に狙いを定め、一息に踏み込む。イーニアスが目で追えない速度で迫り、一撃で振り抜く。
「……!?」
直後、俺の雷を纏った斬撃は闇の中を斬り裂き、斬ったはずのイーニアスがそこには居ない。俺を包む込むような真っ黒な闇。
〈術式解除〉
「またこれか……」
さっきも食らったヨルの闇を広げる攻撃。中に囚われれば実質的に外へ干渉出来なくなる。さっきは雷化・天装衣を発動する時の光量で無理矢理消し去ったが、今回は既に発動している為それを利用する事は出来ない。
そして残りの魔力量を考えても、闇を晴らすために雷を放出すればもう戦いでは雷化を維持出来ない。
「イーニアスは闇で助かったか。恐らく、俺を警戒して一旦後方に下がっているはず……なら、そこに向けて全力を放つ」
〈雷術 雷神具・天裂槍〉
手の平に俺の出せる全魔力を雷として放出し、一本に纏めて槍へと変化させる。これまでで最大規模の攻撃である天裂槍の光量に、闇が行き場を失う。次第に視界が闘技場内に戻り、そして俺の目の先にはイーニアスをそれを守る様にヨルが立っている。
「食らえッ!」
俺の正真正銘最後の一撃を放ち、ヨルは闇を広げてイーニアスを守ろうとするが、迸る天裂槍がその闇を寄せ付けずに二人に着弾。落雷とも言える程の強烈な雷撃が二人を襲う。
それと同時に俺の雷化が解除され、その瞬間、体の重みに膝を付く。雷化・天装衣を発動している時は自然エネルギーという状態に俺そのものがなっている為、体が非常に軽く、更には魔力が満ち満ちているおかげで自分の体重すらほとんど感じない程だった。だが、解除されればそれも無くなり、更には魔力の消費と疲れで二倍三倍にも体が重くなったように感じる。
「発動してられる時間はこの辺が限界か。でも……」
「おーい! クロトー!」
ちょうどその時、後ろからガイナ達四人が走って来る。全員揃っているという事は……
「パトリックをぶっ倒したぜェ!」
ガイナがガッツポーズで笑みを浮かべ、俺もそれに応える。
実況が張り裂けんばかりに声を張り上げ、イーニアスの戦闘不能、及びチームの全滅を宣言し、同時に俺達の勝利が確定する。耳が割れそうなほどの声援と拍手の嵐に、純粋に心の底から嬉しさがこみ上げてくる。
「やったね、クロト。これで対抗戦優勝だよ」
「ああ、手強い相手だったな」
雷化・天装衣の発動時間からしても、あそこで闇を晴らすのと、イーニアスを倒す事を両立出来なければ俺は負けていたかもしれない。なんせ今は魔力が本当に空っぽになってしまっている。解除後に魔力を残しておく必要もあるかもなぁ……
「みんなすごくはしゃいでるね」
ガイナは観客達に大きく手を振り、レイグは小さく振っている。マナもピースを掲げて声援に応えている。
すると、拍手をしながらイザベラさんとアラン団長がやって来る。
「本当に倒しちまうとはな。お前らを推薦した俺は間違ってなかったわけだ」
「本当におめでとう、クロト。それに皆も。まさか全滅条件で勝利するなんて思わなかったわ。私も鼻が高いわね」
二人の祝福も受けながら、俺達は対抗戦優勝という一生に残る思い出を作り、その余韻に暫く浸っていた。




