22話 皇子直属の護衛
訓練の日々はあっという間に過ぎ去り、気づけば対抗戦当日となっていた。
対抗戦が行われる会場は中央区のアルバレス領。ここには大きな円形闘技場があり、こういったイベント事で使用される。学園の対抗戦と言えば町人や国の要人たちも楽しみにしているイベントらしく、俺達は参加者用の席が設けられていて、そこで試合を見れるのだが、闘技場の中にはものすごい量の人が集まっていて、ほぼ満席と言った感じだ。
「こんなに注目されてるんだな」
「今日は特に特別よ。なんたって未来の帝国を担う皇子が戦うんだから」
マナは少し気に入らないようにフンッと鼻を鳴らしながら吐き捨てるように言う。
俺達五人はこの一週間、吐く程訓練してきた。実際に吐いた事も一度や二度じゃない。その訓練の成果が通じるのかどうか、この試合でわかるわけだ。当然、想定より強いからって棄権なんて有り得ないが。
「ほら、入場してくるわよ」
マナが顎で指した方向を見ると、エルトリア学園の制服に身を包んだ五人の男女が闘技場に入ってくる。その中心に居るのは当然イーニアス。残りの四人が皇子直属の護衛と呼ばれる者達で、二人はイーニアスと揉めた際に見ている。名前は確かパトリックとアイズ。残りの二人は見た事が無いが、一人は大柄な体格で、もう一人は逆に華奢な体型だ。
「で、あれが対戦相手か」
反対側から入場してきたのは同じく制服を着た七人の男女。今回の対抗戦は人数に制限がない。だが、チームは七人までと決まっているので、実質七人が最大人数となる。学園のチームと言う制度上、一人でもこの対抗戦には参加出来る。まぁ、学生の時点で数的不利を覆せるような者はこれまで殆ど出てこなかったわけだが。
「チーム全員、もしくはリーダーの戦闘不能を持って勝敗とする。途中降参は可能だが……まぁ、するつもりは無いだろう。また、回復不能なダメージを与える事も禁止だ。状況によっては俺達が止める場合もある」
審判を務めるアラン団長が、両チームを集めて簡単にルールの確認を行う。事前に説明されている通りなので、両チームとも闘志をぶつけたままあまりアラン団長の話は聞いていなさそうだ。
「じゃ、お互い位置に着いて」
この闘技場内には木が生えていたり、山場や水場が作られている。なるべく実戦に近い形を再現する為だそうだ。そして、両端に各チームが布陣し、魔術と武術を用いて戦闘を行う。全滅かリーダーの戦闘不能が敗北条件であり、この時のリーダーはチームを作った段階で登録したリーダーになる。俺達であればエヴァがリーダーだ。
「試合、開始!!」
アラン団長の掛け声と共に試合が始まる。
相手のチームは早速陣形を作り、前衛と後衛に分かれてイーニアス達を迎え撃とうとしている。だが、対するイーニアス達は全くと言っていい程動かない。
「アース、やってくれ」
「了解」
〈土術 大地崩壊〉
イーニアスのチームで一番ガタイの良い大男――アース――が地面に手を付けると、会場全体が震えるほどの地震を引き起こし、一気に陣形が崩れる。この闘技場には観客や外の街に魔術の影響が出ないように結界が張られているが、それでも若干揺れる程の規模という事になる。
地面には亀裂が入り、もはや陣形を維持出来なくなっている。
「アイズ」
「……」
イーニアスの指示で小柄な女の子が一歩前に出て両手を前に出す。
あの女の子はイーニアスと揉めた際にパトリックと一緒に居た護衛だ。
〈水術 大瀑布〉
〈爆炎術 炎怨龍鬼楼〉
右の手から大質量の水を吐き出し、左の手からドラゴンを象る火柱を生み出す。二属性の魔術が同時に発動され、襲い掛かる。地震で陣形を崩されたところに水の質量でゴリ押され、無防備になったところで炎の追撃が襲い掛かり、一気にリーダー以外が戦闘不能に追い込まれる。
試合が始まってたった数分で完全に戦場を掌握した。あの連携の速さから見ても、イーニアス達の中での常套手段なのだろう。あれを打ち破れなければそもそも戦いの土俵にすら立てない。
「僕が行こう」
イーニアスがゆっくりと歩き出し、地震と洪水と炎に晒され、既にボロボロの闘技場をまっすぐ横断する。相手方のリーダーも少なからずダメージを負っており、もはや勝負は決まっている。
「く、クソが……化物集団がよ!」
リーダーが憤り、イーニアスに斬りかかる。冷静に考えると、王族に向かって武器を振り上げて攻撃するその光景は、どう考えても反逆罪だろう。
そんな事はさておき、リーダーの単調な攻撃をイーニアスは簡単に捌き、鋭い一撃でリーダーを気絶させる。同時にイーニアス達の勝利が決定し、アラン団長の宣言と共に歓声が沸き起こる。
「やっぱり勝つのはイーニアス達か」
「ええ、まぁこの場に居る誰もが予想していた事でしょうけどね。正直言えば学生範疇で収まる実力じゃない。強すぎるのよ、皇子直属の護衛って奴らは」
「まぁ、それもわかっていた事だけどね。でも、僕達もこれまで努力はして来た」
「そもそも明日の俺達の試合に勝たないといけないしな。アレは使わずに済むと良いけど」
「使わずに勝つつもりなの?」
「可能ならな。イーニアス達に手の内を明かしたくない」
エヴァの疑問に答えると、納得したように闘技場を見下ろす。とは言っても、もう試合は終わってしまっている。今は闘技場内の整備と怪我人の運び出しが行われている。
「今日はどうする? 明日に備えて特訓するのか?」
「いや、万全の状態で臨むべきだ。今日は体を酷使すべきじゃないね」
「じゃあ作戦会議?」
「陣形についてはもう一度確認してもいいかもな。よし、もう俺達も行こう」
俺が立ち上がるに合わせて皆も動き出す。イーニアス達の圧倒的なまでな力は確認出来た。後はもう、ぶつかってみるしかわからない。
とにかく今日は準備の出来る限りを尽くそう。
◇
イーニアス達の試合から一日が経過し、あの後俺達は寮の部屋で頭を捻らせながら作戦会議に没頭した。そしてなるべく早く寝て体調を整えようという事になり、そのまま眠りに着いた。
そして俺達の試合の日がやって来た。
「イーニアスがどれだけ強かろうが、結局この試合に勝てなきゃ意味がない。あの皇子様に一泡吹かせてやるためにも、絶対に勝とう!」
『おう!』
闘技場へと続く廊下の中で、俺達は円陣を組んで戦いの指揮を高める。
全員やる気は十分。この一週間の訓練のおかげで皆強くなってる。普段通りにやればきっと勝てるはずだ。
「よし、行くぞ」
廊下は暗いが、闘技場の方は明るくなっており、漏れ出している光に向けて五人揃って歩き出す。
闘技場に出ると同時に歓声が俺達を迎え、張り裂けんばかりの音が耳に届く。一際大きいのは俺達の紹介をしている実況だ。そういえば昨日も居たな。試合内容が内容だけに、殆ど誰も聞いてなかっただろうが。
「まさか君達と、こんなところで戦う事になるなんてね」
すぐに俺達の対戦相手となる男女六人が入場し、ここで初めて相まみえる。
「シリウス……まさかここで戦う事になるとはな」
対戦相手は人魚の涙のシリウス。学園に入ってすぐ、皆と国民区に出かけた時に出会って以来、約半年ぶりの再会だ。最初アラン団長から聞かされた時は驚いたが、あれも何かの縁だったんだろうなと今では思う。
「いい戦いをしよう。よろしく」
シリウスに手を差し出され、握り返す。シリウスのチームは六人で、こちらは五人なので数的には不利だが、だからって甘えは許されない。全力で勝ちに行かせてもらう。
「ああ、よろしく」
俺達が握手を交わしていると、審判のアラン団長がやって来る。
「さて、昨日聞いたとは思うが……チーム全員、もしくはリーダーの戦闘不能を持って勝敗とする。途中降参は可能。また、回復不能なダメージを与える事は禁止。状況によっては俺達が止める場合もあるからな。じゃあ、お互い位置に着け」
俺達は闘技場の端まで移動し、合図を待つ。一通り作戦は立てて来たけど、シリウスのチームはあまり情報が無い。なのでどんな陣形で来られても対応出来るような作戦を考えてきたつもりだ。
「さぁ、どんなもんか試してみよう」




