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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第一章 学園編

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19話 降り注ぐ落雷

「すっかり夜だな」


「……だね」


「だね……じゃなーい!! 昼間、夜は魔族が出るから危ないって確認したばっかりだろ」


「あ、あはは」



 俺とエヴァは午後の総合学科の授業を終えた後、国民区の大通りに遊びに来ていた。時間はもうすっかり陽が沈んだ夜更け前。張り紙の効果か、町人達は家に引きこもっており、あれだけ商人であふれている大通りも今は人っ子一人居ない。

 何故張り紙を確認した上でこんな夜に出歩く事になってしまったのかと言うと、事件は遡ること数時間前…………





 魔族出現の張り紙を見た後、寮に帰ろうと歩き出した俺をエヴァが止めた。



「ねぇ、クロト」


「ん?」


「ちょっと行きたいところがあるんだけど……」


「ん、そうか。じゃあ先に寮に帰ってるな。魔族の件もあるから、なるべく早く帰って来てくれよ」


「…………」


「な、なんだよ」


「…………」



 盛大なジト目で俺を見つめるエヴァ。



「わ、わかったよ。一緒に行こう」


「ん!」



 ぱぁっと顔を輝かせるエヴァ。わかりやすいが、そこが可愛かったりもする。



「で、どこに行くんだ?」


「マナちゃんがね、トピオカって言うのがおいしいって教えてくれたんだ」


「トピオカ?」


「知らないの?」


「聞いた事無いなぁ」


「……私もよく知らない」


「なんだそりゃ……」


「だって今日マナが教えてくれたんだもん。今女の子の間で流行ってるって」



 マナに俺達以外の関りがある事も意外だったが、よくよく考えればエルネア公爵の長女と言うだけで近づいて来る生徒が何人か居たのを思い出した。マナは少しうんざりした様子だったが、将来的に敵を作ってしまわないようにと丁寧に対応していた。



「へぇ、美味しいって事は食べ物なのか?」


「飲み物!」


「飲み物……ま、とりあえず行ってみるか」



 俺達はトピオカを求めて国民区大通りに向かう事にした。



「あれじゃないか?」


「……ん!」



 商人達が開いている露店の合間にカフェのような建物があり、そこの看板にデカデカとした字で『トピオカあります!!』と書かれていた。

 中に入ると正面にカウンターがあり、そこから左に行くと席があった。まばらに客もいる。

 感じの良い女の店員が「いらっしゃいませ~!」と元気に声を出している。カウンターに案内され、メニュー表を見るとトピオカとは果物を絞ったジュースの中に黒い玉を大量に入れた飲み物だった。



「う、なんか気持ち悪いな」


「見た目で判断しない」


「すいません」


「トピオカのミルクティー下さい」



 知らないと言った割には即決で決めてるな。マナにおすすめでも聞いてたのか。



「はい!そっちのお兄さんは?」


「えーと、じゃあ俺は普通のココアで」


「はーい、それではお会計銅貨二枚になります」



 店員さんに銅貨を払う。



「あ、私が払うよ」


「気にするな」


「んー」



 なにか言いたげな顔をしていたエヴァだが、トピオカが来ると小走りで席に向かった。



「んーー!!」


「美味しいのか?」


「美味しい!」


「ミルクティーが?」


「うん!」


「トピオカ関係ないじゃん!」


「え、えへへ……ほんとだ」



 しかし見れば見るほど気持ち悪くなってくる。黒い球の集合体がミルクティーの中で泳いでいる。ストローを挿して飲んでいるが、吸う度に黒い球が揺れて……いや、非難ばかりするのはやめておこう。

 とは言っても見ているのはそれはそれでしんどいので、俺はなるべく見ないようにしながらココアを飲む。結構熱いな。

 すると一分もしない内に……



「美味しかった! トピオカはなんかもちもちしてたよ、味はよくわかんない!」


「早!」


「さて、全味制覇しないと」



 と言ってカウンターに向かうエヴァ。



 え、いま全味制覇って言った?

 ちらっとメニュー見ただけでも二十種類以上はあったぞ。大丈夫かな……嫌な予感しかしない。



 そして、その嫌な予感を的中させたのに喜ぶべきか、目の前の光景に悲しむべきか……数分後、トピオカを五個持ったエヴァが帰ってきた。



「いくらなんでも一気に五個は多いんじゃないか?」


「……ん?」



 なんの話? というように俺を見てくる。その間にも脅威の吸引力で次々とトピオカを胃袋に流し込んでいる。

 この後、何も起きませんように……





 結局全味制覇を果たしたエヴァだが、完全に日は沈み、大通りは真っ暗になってしまったというわけだ。

 誰も居ない大通りと言うのは昼間との対比が効きすぎているのか、想像以上に寂しく、そして暗く見える。この雰囲気なら確かに魔族が出てもおかしくないな。



「仕方ない、急いで帰るぞ」


「ん!」



 俺達は早足で寮に向う。



 が、世の中というのは上手く出来ているらしく、無事に寮に辿り着いた……なんて事にはならなかった。



 五分ほど小走りで大通りを進んでいると、突然頭上から空を斬るような鋭い音が聞こえ、ほぼ反射的にエヴァの腕をつかんで後ろに飛ぶ。すると、ちょうど俺達が通ろうとしていた所に黒い塊が降ってくる。黒い影、と言ったほうが正しいか。

 その影は輪郭のぼやけたまさしく影の様な様子だったが、次第に人型になって地面に着地する。



「おや? 私のせいでもうこの街で〈心臓狩り〉は出来ないと残念に思ってたんですけどねぇ……ひぇひぇひぇひぇひぇ」



 紫の髪に赤い派手なフロックスーツ。青白い肌に真っ赤な目が目立っている。黒いマントまとった姿は吸血鬼のようにも見える。一目見ただけでもただの人間とは思えない。つまり……



「お前が……魔族か!」



 俺はテンペスターを抜き構える。この男からは本能的に危険だと感じさせられる。その風貌もそうだし、感じ取れる魔力の質も、人間とは違い過ぎている。



「おやぁ? 私の事を知っている様子なのに、わざわざ夜に出歩くとは……お馬鹿さんですねぇ。では、折角ですので自己紹介をしておきましょう。私の名前はフロリエル・ラーテン。どうぞよろしく……って、今から死ぬんでしたねぇ……ひぇひぇひぇひぇひぇ」


「気色の悪い笑い方だな!」



〈黒帝流 絶剣狼〉



 俺は男に反応させまいと準備動作を最小限に抑え、挙動を察知される前に一気に距離を詰め、テンペスターを頭上から一直線に振り下ろす。



「お?」



 案の定、余裕をかましていたフロリエルは反応する間もなくテンペスターの刃に斬り裂かれる。テンペスターは腕に大きな切り傷を作り、そこから血が吹き出す。そしてそのままテンペスターは抵抗もなくフロリエルの腕ごと斬り落とす。



「う……おのれ……」



 何人も殺しまわってる割には随分反応速度が遅い。それにいくらテンペスターの切れ味が鋭くても、こんなに簡単に腕を落とせるわけはない。あまりにも手応えが無さすぎる。……が、俺の予想を良い意味で裏切る様に目の前のフロリエルは腕を抑え、苦しんでいる。



「なーんて言ったら少しは面白いでしょうか? ひぇひぇひぇひぇひぇ」


「な、なに……」



 切り落とされ、地面に転がっている腕が激しく発煙し、そのまま霧散して消える。

 そしてその煙は吸い寄せられるようにフロリエル本体の腕の傷口に集まり、煙が消えるとそこにはまるで何事も無かったように腕が生えている。

 にわかには信じられない光景だが、吹き出した血も斬り落とした腕も煙へと姿を変えて、もう跡形もない。完全に再生しきっているのか、そもそもあの体が偽物なのか。



「これが私の異能『超再生』。私の意識とは関係なく、傷を負うとすぐさま再生します。残念でしたねぇ……あなたじゃ私は殺せませんよ」


「な、そんなのなしだろ……」



 俺はフロリエルの動きに注意を割きながら、エヴァの元まで下がって小声で話しかける。



「エヴァ、足止めしながら逃げよう。町の兵士も騒ぎに気付けば助けてくれるはずだ」


「だ、だめ……」


「エヴァ?」


「ト、トイレ!」


「はぁ? あんなにトピオカ飲むからだろ!? てかトイレ行ってなかったのかよ」


「し、仕方ないんだもん! 魔族に襲われるなんて聞いてないもの!」


「張り紙読んだろ!」


「ひぇひぇひぇひぇひぇ。仲間割れとは余裕ですねぇ……もう最期だと言うのに」


「誰の最期だ。もう一度行くぜ……」



〈黒帝流 絶剣狼〉



 再び接近し、今度は脳天から心臓にかけてテンペスターを振り下ろす。

 腕を斬り落とした時の感覚で、肉体の強度自体がかなり脆い事はわかっている。そしてこれは推測ではあるが、全部位が同じ再生速度では無いはずだ。魔族の異能というのがどういう原理のもと成り立っているのかはわからないが、癒術を例にとれば、腕に出来た傷を回復させるのと、重要な臓器や心臓に出来た傷を回復させるのでは、全く意味が違うとイザベラさんが言っていた。

 この再生の異能がそれに当てはまるならば、急所を再生させるにはそれなりの時間を要するはずだ。脳と心臓、そしてその周りの臓器。これらを同時に損傷させられれば、足止め程度の時間は稼げるだろう。



「ひぇひぇひぇひぇひぇ。愚かですねぇ」



 だが、その仮説を試す事も出来ず、俺の振り下ろしたテンペスターはフロリエルの人差し指と中指で挟まれ、完全に止められてしまう。



「な、素手で……」


「確かにスピードはそれなりにありますねぇ。でも……些か軽過ぎますよ」


「くそが……うぉぉぉぉぉ」



〈雷帝流 稲妻剣〉



 俺の全体重をかけた振り下ろしの一撃を止められるなら、更にそれ以上の力で攻める。

 掴まれ、微動だにしないテンペスターに上から雷を流し込み、目一杯力を込めて斬り込む。各魔術には武器に流し込んだ時に得られる効果がある。雷ならば付与された武器の貫通力、切断力が上昇する。感電なんかも見込めるが、今はこの切断力に賭ける。



「ひぇひぇひぇひぇひぇ。これはこれは、やりますねぇ……でも、その程度の攻撃じゃあ私は殺せないと、まだわかりませんか?」



〈闇術 衝撃(インパクト)



 テンペスターを掴んでいない方の手から放たれた闇の衝撃波が俺を吹き飛ばす。



 予想外に強力な衝撃を受け、俺の体は軽く宙を浮いて背中から地面に落ち、その衝撃で肺から空気が漏れる。



「ぐ、ごほっごほっ」


「弱いですねぇ。ひぇひぇひぇ……」



〈氷術 氷の弾丸(アイス・バレッド)



「……おっと」



 エヴァが作り出した数十の氷の矢がフロリエルを襲うが、軽く手で弾き、余裕の表情でこちらを観察している。数、勢い、精度……どれを取ってもいつものエヴァに比べて弱すぎる。トイレを我慢しているという状況がここまでエヴァを弱らせてるのか。



「はぁ……二人揃って期待はずれ。もう殺しますかねぇ」


「させるかよ……」



 俺は呼吸を整えてなんとか立ち上がる。受け身を取れなかったが故に予想外のダメージを食らってしまったが、あの闇の攻撃の威力自体はそう大したものではない。こちらの攻撃であいつを殺せないのは大問題だが、あいつの攻撃も俺達を瞬殺出来るわけではなさそうだ。

 テンペスターは……あいつの足元に転がっている。エヴァは……トイレが限界そうだな。プルプル震えてる。



「エヴァ」


「……ん?」


「さっさとトイレに行ってこい。少しだけ俺が時間を稼ぐ。そんな状態じゃ自衛も出来ないだろ? 守りながらは絶対に勝てない」


「…………うん、わかった。すぐに戻るから」



 エヴァが振り返って走り出す。

 俺一人をここに残す事を懸念している様子だったが、今の自分ではかえって足手纏いになるという俺の判断を理解したのだろう。

 本当はそのまま逃げろ、なんてかっこいい事を言いたいが、生憎こいつに俺一人で勝てると思い上がるほど馬鹿じゃない。万全の状態のエヴァと力を合わせれば逃げるぐらいは出来るだろうし、今なら殺されるのは俺一人で済む。もし俺が殺され、それを発見したエヴァなら、一人で弔い合戦をするほど短絡的な子でもないはずだ。騎士団や兵士を呼んで来てくれれば、俺の生死に問わずそれも最善手になる。二人揃ってこいつの相手をするより、ここからエヴァを離脱させる方が結果的に生存率は高いはずだ。



「ひぇひぇひぇひぇひぇ。私が逃がすとでも?」



 フロリエルは再び黒い影に変化し、エヴァを追おうとする。



〈雷術 雷拳〉



 黒い影の動きを正確に見切り、瞬間的に雷装衣を発動させ、雷を纏った拳で影を殴り飛ばす。エヴァに集中していてくれたおかげで綺麗にカウンターを決められた。

 フロリエルは影の状態のまま拳をもろに食らい、何度か地面をバウンドし、また人型に戻って着地する。



「く……ひぇひぇひぇひぇひぇ。いいでしょう、まずはあなたから殺す事にします」


「やってみろよ!」



〈雷術 雷砲〉



 手を向かい合わせ雷丸を生成。雷砲を放つ。が、俺が魔術を発動するというその予備動作だけでフロリエルは上に飛び、雷砲をいとも容易く避ける。雷砲は虚しく空を裂き、地面に着弾して爆発を起こす。

 俺の魔術を発動する動作を見て、正面から攻撃が来る事を理解し、その上で最善手である上空への離脱。こいつの言動はふざけている様にも感じるが、実際戦闘経験はあっちが数段上だ。



「ひぇひぇひぇひぇひぇ。そんな単調な攻撃は当たりませんよぉ?」


「へ、馬鹿が。最初からお前なんて狙ってねーんだよ」



〈雷術 雷装衣〉



 先程は影の速度に追いつくために一瞬だけ発動した雷装衣を発動し直す。

 雷砲は避けられる、または防がれる前提で発動した技。真の狙いはフロリエル気にも留めていない地面。地面に着弾した雷砲の爆発で、さっき手放してしまったテンペスターは宙へ舞う。フロリエルよりも更に上へ、そしてそこを目掛けて俺も強く踏み込む。

 フロリエルの動きよりも速く、俺は更に上空で円を描きながら飛んでいるテンペスター両手で掴み、フロリエルを見下ろす。



「ひぇひぇひぇひぇひぇ。なるほどぉ、やりますねぇ……しかしあなたにこの超再生を超えるほどのダメージを与えられますか?」



 俺の魔力はこの数か月でかなり伸びてきている。だが、それでも雷術の使用には制限があるし、むやみやたらに全力の大技は撃てない。だが、空中というおよそ逃げ場のないこの場所で、確実に当てられるのであれば、試す価値は十分にある。

 俺の中に残る全ての魔力をテンペスターへ。刀身に雷が纏われ、バチバチと細い稲妻が走る。



「これで、決める」



 俺の全魔力がこもった一撃だ。『超再生』相手でも多少の時間は稼げる。



〈雷帝流 雷鋼剣〉



 真っ直ぐ、一直線に。フロリエルの脳天目掛けてテンペスターを振り下ろす。



「ひぇ、ひぇひぇひぇひぇ……」



 目を焼くまばゆい光と、耳を引き裂く轟音。

 雲一つない夜の帝国に、落雷が発生する。

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