15話 クロトvsアラン
円形闘技場を模して創られた第一演習場に二人の男が向かい合う。
周りにはそれを見守る生徒と少し離れた場所で、別の武器の訓練をしている生徒と担当者が居る。
男のうち一人は赤い鎧を着けた筋肉隆々の大男――アラン団長。もう一人は少年ながらも体格に恵まれ、手練だと感じさせる鋭い眼光を放つ少年――パトリック・デルガルドン。
訓練とはいえこの気迫。これが実力者同士の戦いか。俺とイザベラさんが訓練する時とは緊張の種類が全然違う。
アラン団長は豪傑流の使い手、パトリックはわからないが、あの構えは疾風流だな。
静かに睨み合っていた両者、先に動いたのはパトリックだ。
〈疾風流 突風〉
パトリックはアラン団長に急接近したかと思われたが、距離を半分ほど詰めるのみで剣は届かない。全く届かない状態で剣を突き出しているので、当然アラン団長には当たらない。
最初は見ている皆も何をしているか理解していない様子だったが、アラン団長が身をひねらせ、それから数秒後に後ろの壁に風穴があいた。
すごい……
素直にそう思わされる。あの技は疾風流の初級技〈激突〉の上位に位置する技で、当然の事ながら難易度はかなり高い。斬撃を飛ばすだけでもかなりの筋力とテクニックを要求されるし、ましてや壁に風穴を空ける威力を出すには尚更だ。
しっかりと避けられた事をそう気にしている様子もなくパトリックは剣を構えなおす。それに対しアラン団長はすぐさま動いた。
剣を両手で持ち肩に担ぐように構え、剣を振り下ろす。
〈豪傑流 猛擊〉
地面に叩き割る勢いで振り下ろされる剣をパトリックは冷静に見据え、構えを変えて迎え撃つ。
〈神明流 剣流し〉
パトリックから見て右上から来る斬撃の軌道を、自分の剣で左下へ促す様に構え、衝撃もろとも地面に受け流した。
その技術にも目を見張るものがあるが、驚くべきはそこじゃない。最初の攻撃は疾風流、さっき防御した技は神明流。つまりあいつは二つの流派を使った。
イザベラさんに教わった時は無理だと言われたし、実際に俺も試したが無理だった。二つ以上の流派を獲得するなんて……
「驚いたな。二流派の人間に会えるとは……」
アラン団長もびっくりらしい。
「これが僕の人理限界ですよ。人理限界は魔術にのみ現れると勘違いしてる人が多いようですけどね」
「なるほど、なら最後は……」
「ご察しの通り」
〈豪傑流 斬鉄砲〉
パトリックは剣を持った右腕を首に巻き付けるように構え、空いた左手で右腕を掴んで力む。力を溜めた腕を横一文字に振り払う。と、さっきの突風とは違い、目に見える程強力な斬撃が螺旋を描いてアラン団長に向かって飛ぶ。
なんだ、あれ。
斬撃を飛ばすのすら高度な技術なのに、あんな目に見える程の飛ぶ斬撃なんて俺は知らない。あれが豪傑流の真髄か? 確かにイザベラさんやアラン団長なら出来そうな芸当だけど……少なくとも今の俺は出来ない。
だが、見ている感じ肉体が完成しているというよりは、全ての流派を使いこなせるからこその技にも見える。各流派がお互いを補完し合っている結果、疾風流の威力を豪傑流のノウハウで底上げしたり、神明流の要領で豪傑流の斬撃を飛ばす事が出来ているんだろう。
〈豪傑流 断斬〉
パトリックの三流派には驚いたが、それ以上にそれを軽く相手するアラン団長にも驚きだ。パトリックの斬鉄砲を断斬で真っ二つに叩き斬った。
「流石にやりますね」
「お前もな。流石ファリオス様のご子息だ」
「そう呼ばれるのは嫌いです。僕はパトリック……それだけです」
二人の間で短い言葉を交わし、再びパトリックはアラン団長に向かっていく。
〈疾風流 擊貫〉
〈豪傑流奥義 猛鋼撃〉
疾風流の〈撃貫〉と豪傑流の奥義である〈猛鋼撃〉がぶつかる。が、力の差は歴然。パトリックは後ろに吹き飛びアラン団長の剣が地面に叩きつけられる。その衝撃で地面が砕け、地割れが発生する。
「やっぱり、か……」
自然と言葉が口から漏れる。
パトリックは三十メートルほど吹き飛ばされ、頭を抑えながら起き上がる。あれをまともに受けたんだから当然といえば当然だけど……やっぱアラン団長はすげぇ。三流派を使える相手にも余裕の勝利だ。流派間の相性をものともしてなかった。まぁでも、生徒に負ける様じゃ騎士団の団長なんて無理な話だろう。
「ふぅ、三流派相手はきついな。さ、最後はおまえだ、アルフガルノ」
「はい!」
俺は樽の中から剣を二本取り構える。
「ん?アルフガルノ、お前二刀流だったか?」
「いえ、少し試してみたくて」
「ふっ、俺を相手に練習とは。余裕だな」
「まさか。アラン団長ほどの相手にどれほど通じるか、試してみたいんですよ」
俺は両手の剣を地面と平行になるように持ち左手を前に出し右手を後ろに下げる。切っ先は二本ともアラン団長。剣狼の構え、二刀流バージョンだ。
「行きますよ……」
〈黒帝流 剣狼〉
〈豪傑流 撃鉄〉
左手の剣と撃鉄がぶつかる。
今までならここで力負けし、退くことになっただろうが、今は違う。俺は右手の剣をおおきく振りかぶってアラン団長目がけて振り下ろす。
〈黒帝流 双剣狼〉
アラン団長は避けるために撃鉄に込めた力を緩め、後ろに下がる。距離を取るべきか、踏み込むのか。判断を迫られる場面ではあるが、迷わず俺はそこを畳み掛ける。アラン団長相手に間合いを取った読み合いを仕掛けても負けるのは目に見えてる。ならばここで反撃の余地を与えすに斬りかかった方が得策だ。
〈黒帝流 打上剣狼〉
両手の剣を合わせて二本で下から振り上げる。これをアラン団長は剣で防ぎ、素早く腰に添えるように構える。
「お前もやるな。じゃあ、これならどうする?」
〈豪傑流 断斬〉
アラン団長はそのまま横一閃に薙ぎ払う。さっきパトリックに見せた斬鉄砲を斬った技だ。技の射程から即座に出られない以上、ここは受けるしかない。
俺は頭上で振り上げたままの剣を再び二本合わせて振り下ろす。
〈黒帝流 絶剣狼〉
断斬と絶剣狼が衝突。二本に増えたことで少しだけだが豪傑流に食らいつける。が、パワーで勝てるわけじゃないのですぐに弾き飛ばされる。
ザザザッ――
技ごと身体も弾かれたが、何とか踏ん張って倒れるのだけは耐える。が、勢いを殺しきれずに後ろに強制的に下げられる。
二刀流を実戦で試すのは初だが、やはり懸念していた通り一本の威力が落ちる。逆に二本合わせて技を打てば確かに多少は増すが、一本を両手で持った時と比べれば、無理に二本持つ恩恵はかなり少ない。
「これも受けきるか……ならこうだ。」
〈豪傑流 斬鉄砲〉
アラン団長が右手の剣を左肩に置き、そしてそのまま半円を描き斬撃を飛ばしてくる。パトリックは両手でパワーを補強し、神明流のテクニックを織り交ぜなければ打てなかったみたいだが、アラン団長は片手で平気で撃ってくる。
しかもパトリックと違って縦一本の殺意的な斬撃だ。
〈黒帝流 狼牙〉
俺は二本を柄の部分でクロスさせ斬鉄砲を受け止め、そのまま両腕を広げて斬り裂く。が、同時に技の威力に耐えかねた剣が、バキッと嫌な音を立てて折れる。
「あ」
「ここまでだな」
武器を失った時点でこの勝負は俺の負けだ。折れた剣でも向かえば良かったのかもしれないが、模擬戦でそこまで勝ちを狙いに行く必要も無いし、何よりアラン団長に止められた後に向かっていくのは不意打ちに近い。
俺は折れた剣をアラン団長に渡し、みんなの所に戻る。
「さて、これでだいたいお前たちの実力はわかった。これからの訓練学は二人一組の訓練が基本になる。もちろん俺もそれぞれにあった訓練法や技を教えていくので安心してくれ」
二人一組か。シリウスがいてよかった……
俺はこの中だと友達が居ないからな。氷の姫の面々も、片手剣の授業には居ないし。
「午後からは総合学科の授業だろう。昼飯は食堂で食べるといい。ではまた明後日に、解散!」
授業を終えた俺はレイグ、エヴァと合流し、マナ達の所へ向かう。
「エヴァリオン、短剣の授業はどうだった?」
「んー、いろいろ教えてもらったよ。リーチが短い分、確実に殺せる部分とか、女の子の力でも楽に刺せる場所とか」
「へ、へぇ……」
俺は短剣担当の人を思い出す。
茶髪をショートにした笑顔が似合う明るい人だった。で、教えてもらったのがほぼ暗殺術。うーん、人は見かけによらないんだな。
「お、マナとガイナだ ちょうど終わったみたいだな」
出口に向かって歩いていると向かい側からマナとガイナが歩いてきた。が、様子がおかしい。二人とも何かを怒鳴り合ってる……?
「……だからってあそこまでやることないでしょ!」
「だから悪かったって! ちょっと力加減できなかったんだよ」
「あなたそんなのでやっていけるの?」
「う、うるせーな! だいたいお前だって……」
「はい、そこまで。何してるんだ? お前ら」
「あ、クロト。ちょっと聞いてよ! ガイナったら何したと思う!?」
「まぁまぁ落ち着いて、マナティア。何があったんだい?」
「私が弓の練習をしてたらガイナが斧で地面を叩き割ったのよ!そのせいで手元が狂って担当の先生に当たるところだったのよ!」
「おいガイナ。どうやって地面割ったんだよ」
アラン団長やイザベラさんは平気でぽんぽん地面を割ったりしているが、俺はこれまでの訓練でも一度もそこまでの威力は出せた事が無い。なんて筋肉してるんだよ……
俺達はマナをなだめつつガイナを注意し、そのまま食堂へ向かう。
食堂は第二校舎の一階にあるらしい。
一年間イザベラさんの料理を食べてきたからなぁ。
その辺の料理で満足出来るだろうか……ちょっと心配になってきた。




