13話 仲間との休日
大通りでの騒動をアラン団長が収めてくれた後、すぐに来た道を引き返してガイナ達との待ち合わせ場所に戻る。途中でガイナの巨体を発見し、俺とエヴァは更に足を進める。
「おーい、ガイナ!」
「お、クロト。どうやってお前達を探そうか迷ってたところだ」
「やっほー! クロト、エヴァ!」
「あ、マナちゃん!」
タイミングが良かった。ガイナ、レイグ そしてマナを加え全員が揃った。
「さて、これからどうし…………」
「君達がもしかして噂の氷の姫?」
俺の言葉を遮って誰かが話しかけてくる。
聞き覚えの無い声だなと思いながら振り向くとそこには赤髪の短髪で、俺達と大して歳も変わらない少年が立っていた。周りにも似た歳の少年少女が5名ほど。
「えーと……」
「おっとすまない。人に尋ねるときは自分から、だね。人魚の涙のシリウスだ。よろしく」
「あ、ああ。よろしく。俺は氷の姫のクロト・アルフガルノだ」
「クロトだね、よろしく。……そして、君が氷の悪……ッ!」
〈黒帝流 剣狼〉
俺はシリウスの視線が俺達を一周し、そしてエヴァに戻ったのを見逃さず、いつでもテンペスターを抜けるように握っていた。
そして次の言葉を聞き、こいつは敵だと理解し、技を放った。
「おっと、危ない。いきなり何をするんだ」
シリウスは間一髪の所で剣狼を避ける。最初から少し外して技を撃ったが、それにしても見てから反応出来る反射神経。舐めてかかれる相手ではない。
「俺達の前でエヴァの事をその名前で呼ぶならお前は敵だ」
「ちがう! 誤解だ」
シリウスは狼狽えつつ態勢を立て直す。周りの取り巻きもやばい雰囲気だと感じ取り各々構えようとする、が……
「やめろお前たち! 俺達は争いに来たわけじゃない。……クロトわかってくれないか?」
「お前もどこぞの皇子様と同じくエヴァを笑いに来たんじゃないのか」
「そんなことするもんか!」
「剣を抜け」
「……」
シリウスは剣を抜き構える。
〈黒帝流 絶剣狼〉
俺はフルスピードで接近し剣を上から振り下ろす。
〈神明流 同力剣〉
シリウスは俺とは逆に下から剣を振り上げる。
神明流……確かテクニック重視で自分から攻撃したりする流派ではなかったはず。本来なら力の込めやすい振り下ろしの方が有利だが、神明流はそういったものを度外視出来る。
そして今シリウスが使った同力剣……その名の通り相手の攻撃を全く同じ力で返す剣術。神明流の中でも中級レベルの剣術だ。
俺の絶剣狼とシリウスの同力剣がぶつかり、ガチガチと音を立てて両者の剣が震える。
そして五秒もしないうちにお互いに弾かれ後ろに吹き飛ぶ。
「いってー。神明流か、珍しいな。だが、まぁいきなり剣を抜いたりして悪かったな」
「え?」
「舐めるな、剣を交えればそいつがどんな奴かぐらいわかる」
「……なんだ、誤解が解けてよかったよ。それにあのまま試合を続けていたら確実に負けていたし、君達が反応するのも理解せずにあの言葉を使おうとした俺のせいだ」
俺はテンペスターを鞘に戻し右手を差し出す。シリウスは理解したように俺の右手をにぎり返す。出会い方はあまり良くなかったが、握手を交わして一先ずは丸く収まる。
「で、なんの用だったんだ?」
「君達が皇子に敵対したって噂を聞いて真偽を確かめに来たんだが、その様子だと事実のようだね」
「まぁな 事の成り行きというかなんというか。まぁ後悔はしてない。あいつは俺の仲間を傷つけたんだ」
「なんだかいいな、そういうの。だが、気をつけろよ」
「気をつける?」
「仮にも皇子だ。王族の力を使われては勝ち目がない。それに皇子の護衛であるパトリックとアイズはそれぞれ剣術、魔術の天才だ」
「ほぉ、忠告ありがとさん。だが、俺の仲間に手を出すなら誰が相手でも叩き潰す。そう決めてるんだ」
「そうか、君がそういう奴でよかった。じゃあまたな」
「ああ、またな」
意外とあっさりとその場は解散となり、今度会ったらまた話してみようと思いながら手を振った。その後は予定通り大通りを歩こうって事で五人は歩き出した。
エヴァとマナは買い物が好きらしく、気になるものがあれば見て回り、店があれば入る。男三人はそれにせっせと着いていく。荷物持ちを引き受け、どっちが似合うかと聞かれれば素直に答え、二人は俺達が選ばなかった方を買っていく。
「そういやクロト」
「ん?」
「お前のその剣。初めて会った時から思ってたが、ただの剣じゃねぇよな?」
「お、わかるのか?」
「あだぼうよ。ベルガラック男爵家は代々武勇に長けている。親父なんか武闘男爵なんて呼ばれてるしな。ちっちゃい頃から武器を見てきた俺にとって、ただの剣とそうでない剣を比べるなんて朝飯前よォ」
「そうか、初めて聞いたな。そう、ガイナが言う通りこいつは超一級品だ。名はテンペスター、半年前に手に入れた俺の相棒さ」
「ほぅ、興味あるね。誰が作った剣だい?」
「剣鉄のガーデルさんって人だ。ちょうどここから近いし、行ってみるか?」
「お、行ってみてぇ!」
「なんの話ー?」
「お、マナか。クロトの剣の話をしてたんだよ」
「あー、そういえば気になってたのよ。普通の剣って感じしないし……」
「だろ? で、こいつの剣の生みの親に会いに行こうって話をしてたんだよ」
「行こう」
「お、エヴァも行きたいのか?」
「うん」
「じゃあ行くか!」
◇
そんなこんなで俺達は『剣鉄』に来ていた。相変わらず重い扉を開け薄暗い店内に入る。久々に風が入ったのか、薄暗い店内に埃が舞う。
「……暗い」
「す、すごい」
「ああ……どれもこれもすげぇいい武器だ」
店内は一年前と大して変わった様子はなく、棚には多種多様の武器が下げてある。変わったところと言えば……少し量が増えたか?
「ガーデルさーん! 俺です! クロトです!」
「そんな大声ださんでも聞こえてるわ」
「あ、お久しぶりです」
「ああ、久しいな。あの時はまだテンペスターがでかく感じたが、随分様になったじゃねぇか」
「はは、おかげさまで」
「で、そこのでかいの」
「え、あ、俺っすか?」
ガーデルさんがガイナに話しかける。
しかし、この狭い店に人間五人、内一人はガイナ。一人の時は思わなかったが、かなり狭いな。
「お前見る目が無いな。さっきそこの棚の武器が良い物だと言ったが、店内に出しているのは全部失敗作だ」
「こ、これが失敗作!?」
「俺は基本的にオーダーメイドしか受けねぇ。店先に並べてんのは失敗作を処理する為に売り出してるだけだ」
俺は改めて店内を見る。
確かに良い武器なのは確かだが、ここにあるのはテンペスターやローズレインに比べれば失敗作と呼ばれるのも理解出来る。一年前は分からなかったが、半年間テンペスターを使ったおかげか、武器の善し悪しがわかるようになってきたのだろうか。
「まぁ、その辺の武器屋しか知らないなら仕方ねぇな。なぁクロ坊」
「ク、クロ坊……? え、ええ、そうですね。今ならわかります。確かに失敗作ですね」
「ま、まじかよ……」
「で、クロ坊。コイツらはなんだ?」
「あぁ、俺のチームメンバーです」
「チームメンバー? そうか、お前さんもそんな時期か。何か用があってきたのか? まさかただ喋るためだけにここに来たわけじゃあるめぇ?」
小さい声で「カフェじゃあるめぇし」とつぶやくガーデルさんに、「この店が入りづらいって自覚はあるんだ」とつぶやくエヴァに挟まれながら事情を説明する。
「いや、特に何かあるってわけじゃないんですが、テンペスターの生みの親を見たいって言うもんで」
「そうか、まぁクロト坊の知り合いなら大歓迎だ。流石に一人一人にオーダーメイドはしてやれんが、その棚にある奴なら好きなのを持って行っていいぞ。もちろん金を積めばオーダーメイドだろうがなんだろうが作ってやるがな」
「え、マジかよ」
「本当ですか?」
「やったー! ね? エヴァちゃん!」
「あ……う、うん」
エヴァの様子がおかしいな。あとで少し聞いてみてやるか。
「ところでクロ坊、チーム名は?」
「氷の姫です。ちなみにリーダーは俺じゃなくあの子です」
と、俺はエヴァを指す。それに気づいたエヴァはこっちを見る。
「ん? そのチビは…………」
ガーデルさんはエヴァを見て目を細める。
「ハルバード坊主の娘だよな?」
「……え あ、はい。そうです」
「やっぱりか! 大きくなったな。……ん、何だその顔? 俺がその辺の馬鹿な噂を信じてるとでも思ったか? ガッハッハッハ。こちとらまだ言葉も話さねぇ頃から知ってんだ。なにが悪魔、笑わせてくれる」
やっぱりガーデルさんは信用出来るな。
どうもガーデルさんはハルバード公爵とは昔からの仲だったようで、魔術一家故に全く武器を使わないくせに、あれこれ注文してくる公爵と次第に仲良くなっていったそうだ。エヴァが生まれたばかりの頃ではあるが、何度か屋敷に招かれてエヴァの事もその頃から知っていたらしい。
エヴァも少し笑顔が戻ったようで、マナとはしゃぎながら店内を散策し始めた。
しばらく『剣鉄』に入り浸った後、ガーデルさんにお礼を言って店を後にする。店を出る頃には日も傾きだしていて、マナがそろそろ家に戻らないといけないという事で今日は解散する事にした。




