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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第四章 傷痕編

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101話 正体不明”アンノウン”

「クロトちゃん、少し話があるんだけど、いいかしら?」


「なんだ?」



 特訓は一段落にして、俺達は休憩の為にブルーバード内に入った。

 そろそろ日も暮れるし、今日はもう特訓も終わりだろう。そんな折、俺はマスターボウから声をかけられた。



「みんなも集まって頂戴!」



 マスターボウの呼び掛けで雨刃を除いた〈シルク・ド・リベルター〉のメンバー全員とシエラ、リンリ、そして俺が一つのテーブルに集まる。

 雨刃は未だに必殺技を考えている。

 ヴァランとレッグは開店前の仕込みがあるらしく、忙しそうにしている。アジェンダとマルスは少し前に出かけたっきり戻ってきていない。レオと何故かレオと一緒に居たナイアリスは依頼を受けてくると冒険者ギルドに行ってから、まだ戻ってきていない。



「さっき街に行ってきたんだけど、少し厄介事が起きてるみたいで」


「厄介事ボーンか?」


「正体不明の生物が現れたらしいの」


「正体不明?」


「ええ、発見されたのは一昨日の夜。討伐の依頼で向かいの山に来ていた冒険者が、素早く空を斬るような音がして、不審に思って確認した時に発見したそうなの」



 向かいの山、と言うのは昔、俺やエヴァがグレイド達とクリュを奪還する為に盗賊と戦った山で、ブルーバードとセントレイシュタンに挟まれるように位置している山の事だ。



「そこで見たのがまさに正体不明の生物。一見人間の様にも見えるんだけど背中や脇下から触手の様な細長い腕が大量に生えてるらしいの」


「気持ち悪いでありんすね」


「そうなのよ〜! もう話を聞いただけで鳥肌が……」


「デ、ソイツガドウカシタノカ?」



 いつの間にか戻ってきていたらしい雨刃が席につく。必殺技は完成したのだろうか?



「そうそう。今のところ街にまで出てくる様子はないんだけど、凶暴で見境なしに人を襲うから、怪我人が多く出てるみたい。冒険者ギルドも手をこまねいてるって」



 討伐されずに居るという事はそれだけ強いという事だ。となれば並みの冒険者では歯が立たないし、マスターボウに話が回ってくるのも頷ける。冒険者ギルドとしてもあの山での依頼が滞ると、色々と困るんだろう。



「ジャア、倒スノカ?」


「ええ、正式に冒険者ギルドから依頼が来たわ」


「マスターボウが行くのか?」


「ううん。それが、その生物が街に降りて来た時の為に私は防衛に回って欲しいそうなのよ。そ・こ・で~」


「クロト達ヲ行カセヨウッテ事カ」


「せいか~い!」


「望むところだ」


「俺モ行コウ」


「だったらわっちも行くでありんすよ」


「私も! ……行きます」



 討伐に向かうのは俺、雨刃、シエラ、リンリの四人。戦力的には問題なさそうだが、レオが居ないのは痛手かもしれない。かと言ってそんな危険そうな奴を野放しにするわけにもいかないし、レオの事だからいつ戻って来るかもわからない。ここは四人で行くしかないだろう。



「ん〜!じゃあ決まりね! 四人にお願いするわ」


「任セロ」


「おう!」



 目撃証言から活動しているのは夜が多いそうなので、準備する時間もあまり無く、俺達は最低限の準備だけを整えて出発する事にした。





「もう一度説明していただけますか?」


「だから、コレがオーガだったんだ」


「しかし……どう見ても人間ですよ? もしこの身元がなんの罪もない一般人だったら殺人ですよ?」


「……ナイアリス、交代だ」



 エンデルを倒し、その死体を冒険者ギルドまで運んできたのだが、依頼を受けた時に居た受付嬢とは別の受付嬢の為、話が上手く進まない。



「あの、依頼人を出してもらえますか? 行商人の人なんですけど」


「……わかりました」



 受付嬢が奥へ行くとすぐに昼間転がり込んできた行商人が出てきた。因みにリザードマンは全身に重症を負ってしまい、奥で治療をしてもらっているそうだ。



「あ、昼間のお二人!」


「どうも……早速ですが、あなたが見たオーガはこの人ですか?」


「はい、確かこんな感じでした」


「えぇ!? でも人間ですよ? どう見ても」


「マール、下がってて。私が聞くから」


「あ、先輩! わかりましたー!」



 マールと呼ばれた受付嬢の肩をトンっと叩いて、昼間の受付嬢と交代した。



「ごめんなさい、少し用事があってすぐに来れませんでしたが、ご苦労さまです。この方について報告をしていただけますか?」


「ええっと……」



 ナイアリスはエンデルについてわかる範囲で答え、リザードマンについてや報酬についての話などをした。

 どうやらあのリザードマンは行商人を護衛していた助っ人らしく、エンデルが街へ行かないように食い止めていたらしい。終始レオはボケーッとしていたが、頭の中でも実はボケーッとしていた。



 その後報酬金貨二十枚を貰い、月間冒険者雑誌『STRONGER』の記事に載せるため、記者がナイアリスにあれやこれや質問しているのを待ったりと、レオにとってかなり退屈な時間を過ごし、二人はやっと解放された。



「レオ、お待たせ」


「ぐがーぐがー」


「レオっ! 起きてっ!」


「レオ殿、ナイアリス殿。少々よろしいですか?」



 そこへやって来たのは手当を終え、やっと目が覚めたリザードマンだった。



「あの時のリザードマン……」


「おまえおれとしょうぶを……ぐぅ」


「起きて、レオ!」


「……んぁ、寝てた」


「おはよう……」


「誰だ、お前」


「行商人であるジャン殿の護衛をしていたアリゲインという者である。この度は助けていただき、誠にありがとうございます」


「あ、ああ。気にするな」


「お礼と言ってはなんですが、私に差し出せるものなどこれぐらいしかなく、こちらを……」



 リザードマン、もといアリゲインが差し出したのは数枚の細長い紙の束だった。



「これは?」


「レオ、これって……」


「四ヶ月後に行われる超決闘イベントのボックス席チケットです。どうかお受け取りください」


「……いら」


「ありがとうございます!」



 と、レオの口を強引に封じ、ナイアリスはチケットを受け取った。

 結局その後、二人はブルーバードに戻る為に冒険者ギルドを後にしたのだが、既に二人はこの街の冒険者界では有名になっていた。

 突然現れたアイゼンウルブスの〈舞姫〉と謎の男が〈地獄の炎帝(ヘル・フォース)〉のダダンを倒し、オリハルコン級指名の依頼をこなしたと噂が広まったのだ。

 当然そんな事を知らない二人は呑気に帰ったわけだが……



「なんでこんなもん受け取ったんだよ」



 レオは五枚のチケットをヒラヒラとしながらナイアリスに尋ねる。



「そんなレアな物中々手に入らない! 見るもよし、売るもよし……」


「まぁ確かにあのファリオスを直で見れるならいいかもな。お前にも一枚やるよ」



 レオは頭の中でパーティのメンバーを数え、多分四人だろうと殆ど適当でナイアリスに一枚渡す。



「ありがとう。でも私はもう持ってるから」


「そうなのか?」


「うん、たまたまだけどね」


「そうか」



 そんなこんなで二人はブルーバードへ帰っていった。





「居たか? アンノウン」



 正体不明の生物、呼称アンノウンを倒す為に森に入ってから数刻。

 特に何も発見出来ずに森を彷徨っていた。シエラは木の上で神眼をフル活用してもらい、俺は耳を使いながら索敵していた。リンリは俺のすぐ後ろをついて来ている。

 そもそも小さいとは言っても森。そう簡単に見つかるわけが……



「クロト、あれを見るでありんす」



 どうやらアンノウンを発見したらしい。



「約十メートル先の広場でありんす」



 言われて目を凝らせば確かにおおよそ人でも魔物でもない生物が丸まっていた。



「寝てる……?」



 どんな生物でも眠るし、不思議ではないが、イメージ的には不眠不休で暴れる化物だっただけに少し違和感。ともかく寝てるってのは有利だ。奇襲出来る。



「ところで、アイツはどこ行ったんだ……」



 ここに居るべき人間を探すが見渡す限りはいない。

 何があったかは知らないが、森に入ってすぐに雨刃は消えてしまった。なんの気配も音も無く、ちらっと後ろを見た時にはもう居なかった。



「仕方ない、三人でやるぞ。俺とリンリで両サイドから同時攻撃、シエラは弓での援護射撃。あとは状況に合わせて臨機応変な対応を」


「わかりました」


「了解でありんす」


「行くぞ!」



 シエラはその場で弓を構え、俺とリンリは分かれてアンノウンの両サイドに付く。

 見た感じは三角座りをした人間にも見えるがその姿もどこか異様。全身がとにかく真っ白で、のっぺりしている。シワがなくてツルンっとしているのもまた奇妙。

 話によれば触手のようなものも出せるらしいし、そういった手数相手には雨刃が頼りだったんだが、居ないものは仕方ない。



「……」



 俺は無言でリンリに頷き、合図する。森の茂みに隠れている為、音を出さずに出る事がほぼ不可能。なのでなるべく音を小さく抑え、茂みから出る。俺はテンペスターをリンリに貸しているためシュデュンヤーだけを構えてジリジリと距離を詰める。距離にしてお互いに三メートルを切った。

 リンリと顔を見合わせ、一斉に飛びかかる。

 だがその瞬間、リンリが間合いを取る為に動かした足が枝を踏み、ポキっという少し大きな音が鳴った。



「……っ」



 アンノウンはムクっと顔を上げリンリを見る。

 リンリは何か怯えたように顔を引きつらせたが、ここまで来たら後戻りはできない。アンノウンはリンリに手……というよりは白い触手をゆっくり伸ばしている。



「怯むな!」



 俺の声に合わせるように一本の矢がアンノウンの伸ばしかけていた手を貫く。

続けて俺もシュデュンヤーを振り上げて首を狙う。

 アンノウンの動きは思ったよりも遅く、矢や俺の接近に反応しきれていない。



「……取った!」



 シュデュンヤーがアンノウンの首を捉え、真っ二つに斬り裂いた。だが手応えが妙に軽い。



「グッ……」



 反応した時には遅かった。矢で貫かれた手とは別の腕に腹を殴られ、俺は大きく後ろに飛ばされてしまう。

 宙を飛び、木に背中を強打し一瞬呼吸が止まる。



「……ゴホッ……」



 さっきまでの弱々しく遅い動きからは想像できない程の速さと力にも驚いたが、それよりも驚く事が目の前では起きていた。

 ぼやける目でアンノウンを見ると、シエラの矢で貫かれた手も、シュデュンヤーで斬り落とした首も元通りに戻っていたのだ。まるで何も無かったかのように。

 ちらりと振り返ったアンノウンの顔には本来人間ならばあるはずのパーツがたった一つしか付いていなかった。口も鼻も無く、大きな目が一つ、顔の真ん中にあるのみ。



「シエラっ!」



 アンノウンはすぐに怯えて動きの止まったリンリに狙いをつけ、のそのそと歩き出した。とても先程の素早く強力な攻撃を仕掛けて来たとは思えない動きだ。

 すかさずシエラに声を掛けると、五本の矢がアンノウンの全身を貫通し、木に突き刺さった。貫通した体は液体の様にぐにゃぐにゃに崩れかけたが、すぐに人の形へと戻った。



「不死身……いや、そんな生物居るはずがない」



 とにかくリンリが危ないと思い、シュデュンヤーを構える。が、そこで動きを止める。

 あんなにぐにゃぐにゃと姿が変わるなら遠距離技はダメだ。一直線上にアンノウンとリンリが重なっているこの場所からでは、遠距離攻撃は貫通してリンリに当たってしまう。

 考えろ、考えろ……斬り落としても貫通してもすぐに元に戻ってしまうなら……



〈雷帝流奥義 紫電一閃〉



 雷を足に纏い、一気に蹴って接近。そして居合の如く早抜きで空からの落雷に合わせてアンノウンを捉える。

 触れた瞬間、なんの抵抗もなく右肩から胸部を弾き飛ばす。俺は勢いが止まらず、アンノウンを飛び越え、リンリの前に転がりながら着地する。



「まだまだ……」



 際限なしに再生を続けられるわけがないし、全身のどこにも弱点が無いなんて事もあり得ない。木っ端みじんに吹き飛ばすか、連撃で弱点を炙り出すしかない。



〈雷術 雷撃(ライトニングボルト)



 続く雷撃で左肩を爆散。



「もう一撃!」



 更なる一撃で再生しかけていた胸部を再び爆散。上半身が完全に散ったが、恐らくはすぐに再生する。



「リンリ! ……リンリっ!」


「あ……ごめんなさい、私」


「いいから構えろ、来るぞ」



 既に人の形を取り戻したアンノウンは指先を触手のように伸ばしこちらへ迫ってくる。だが、そういう手合は雨刃との訓練でシミュレーション済み。

 俺はシュデュンヤーを地面に突き刺して手放し、両手を合わせる。



〈雷術 雷撃大砲(プラズマキャノン)



 高電圧の電撃がアンノウンの指ごと上半身を再び消し飛ばす。



「リンリ」


「はい」


「あいつの腕を落とせるか?」


「わかりました」



 既にほとんど再生しているアンノウンにリンリが一気に距離を詰める。大きな目でギョロっとリンリを見るが、特に反応はしていない。



〈我流 蟷螂(カマキリ)ノ太刀〉



 鋭く細い炎の斬撃がアンノウンの腕を斬り落とし、切断面を発火。燃えた事に若干ぎょっとしながらも、燃えた腕を炎が本体へ燃え移る前に自分自身で肩の付け根を断ち切って地面に落とした。

 炎が苦手なのかそれとも……



「……ッ!」



 次の瞬間、斬られたのと逆の腕がおよそ人間の関節を無視した鞭のような動きでリンリの腹部を強打。

 リンリは投げ飛ばされ、木を薙ぎ倒すほどの衝撃で森の奥へ突っ込んでいった。あれはまずい。下手したら……



「シエラ! 頼む!」



 俺はシュデュンヤーをアンノウンに向け、シエラへ叫ぶ。アンノウンは既に腕を再生させ、ギョロギョロとこちらを見つめていた。

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