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最弱属性魔剣士の雷鳴轟く  作者: 相鶴ソウ
第四章 傷痕編

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99話 獅子vs炎帝

 炎の衝撃で冒険者ギルドの扉が吹き飛び、中からレオが転がるように出てくる。それを追うようにダダンも飛び出してくる。

 〈地獄の炎帝(ヘル・フォース)〉のパーティメンバーによる一斉放火を受け切ったレオはすぐさまダダンに斬り掛かったが、ダダンの炎の衝撃(フレイムインパクト)を諸に受け、外まで弾き飛ばされてしまったのだ。



「ハハッー! ナイト様は中々良い動きをしやがるな」


「お前は大した事ねーな」


「……言ってくれるじゃねーのー?」



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『虎武璃(とらぶり)』〉



 ダダンの首を狙った居合は、首元に現れた炎に防がれてしまう。だが、ダダンの背後を取ったことでレオは既に次の行動に移っていた。



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『突き立てる牙』〉



 即座に切っ先をダダンに向けて、背後から突きを放つ。が、それも突然現れた炎によって受け止められる。銀月を引き、レオは後ろへ飛ぶ。



「お前のその炎、速度が異常だな」



 本来の炎術は手や足から出すものが多く、体を覆うように発生しているのはかなり珍しい。加えてダダンが詠唱をした素振りは無かった。



「ナイト如きに遅れを取る俺様じゃねーぜ」


「腐ってもミスリル級か……だが、クロトや雨刃に比べれば……」


「あァ? なんか言ったか?」


「……雑魚同然」


「なんだと……!?」



 ほんの瞬きの間にレオが視界から消えた。

 正面から風が吹き抜け、ダダンの頬に何かが垂れる。ダダンが自分の頬に手を当てると、その手に血が付いていた。



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『虎武璃』〉



「テメェ、何を!」



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『狂乱の太刀』〉



 勢い良く振り返ったが、既にレオは斬撃を放っていた。

 間一髪のところで無差別四連斬を炎でガードしたが、止めきれずに手の平が少し切れている。



「……テメェにはこの俺様の真の実力を見せてやる!」



〈炎術 炎帝(フォース)



 詠唱と共にダダンの両拳が炎に包まれる。

 この炎帝(フォース)という術はダダンが考えた固有の魔術である。本来は自身や武器に炎を付与するだけの魔術で、先程のように攻撃を受け止めたりするほどの密度は無かった。

 だが、ダダンの圧倒的魔力量とその技だけを極め続けた結果、攻撃の際には炎の衝撃(フレイムインパクト)の様な爆発力を、防御の際は羅生門の様な硬さを手に入れた。ダダンのミスリル級たる所以とも言える術に変化したのだ。



「行くぜェ?」


「来い」



 そこから先はまさにヒートアップした戦いだった。

 両手両足に炎帝(フォース)を纏い、動きを加速させたダダンに対し、レオは自らの身体能力、そして相殺の型『廻し流し』を活用し全てを避ける。レオが縦横無尽に駆け抜け、それを追うようにダダンの拳が振られる。

 建物に穴を開け、地面にヒビを入れ、それでも二人は止まらない。次第にギャラリーも増えてきたが、二人が暴れすぎてかなり離れたところで集まっている。



「チィ、埒が明かねーな」



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型〉



「させるかよォ!」



 一瞬停滞した攻防も、すぐさま再開される。

 だが、すぐに先程までとは違う変化が起きた。

 レオを追って攻撃をしていたダダンが、炎の拳を飛ばしてレオを攻撃し始めたのだ。

その結果、レオが動き回るという点は変わらないが、ダダンがその場から動かないという変化が起きた。

 後を追いかけられるより、遠距離からくる攻撃を避けながら隙を突く方がレオにとっては得意である。故にレオはそれを決して逃さない。



「こいつで……」


「させねぇってんだろうがァ」



 一瞬抜刀の構えを取り、動きを止めたレオにダダンはすかさず炎球を拳から放つ。幾つもの火球がレオに迫るが、レオは動かない。



「レオっ!」


『いっけーっ!ダダンさん!』



 ナイアリスのレオへの声援と〈地獄の炎帝(ヘル・フォース)〉のダダンへの声援が同時に起こり、その場に緊張の糸が張られる。

 突然周りが静かになり、時がゆっくりと進むような感覚に襲われる。抜刀の構えを崩さず目を閉じたままレオは敵を捉え、技の名を唱える。すると炎球は風に吹かれた時の様に掻き消された。

 続く複数の炎球も全て掻き消される。



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 薙払の型 『麒麟駆け』〉



 その場で剣を振るうレオによって炎球は掻き消されているのだ。速すぎる斬撃は風を巻き起こし、更に威力を上げる。

 アジェンダに負けた事で基礎能力を向上させたレオの努力がここにきて表れ始めている。



「こ、このっ!」



 ダダンは更に拳の速度を上げ、炎球を何度も何度も放つ。

 レオは火球を掻き消しながら一歩、また一歩と歩いて行き、速度を上げる。次第に走りとなり、彼我の距離を詰める。



「クソがァ!」



 既にレオはダダンの首を射程内に入れている。

 そして振られる刀。間一髪の所でダダンの両手の炎帝(フォース)がそれを防ぐが、レオはそのままダダンを通り過ぎ、後ろを取った。

 そして振り返りざまに刀を斜めに斬り下ろす。



「ぐぁぁ……ぁぁ……なーんてね」



 ダダンの背中を狙ったレオの斬撃は再三炎によって止められていた。

 だが、ダダンは完全に前を向いており、炎を出すことはおろか、レオの斬撃をピンポイントで受け止めるなんて芸当出来るはずがない。そもそも見えていたかすら疑問だ。



「どうやって……」


「こっちも大技行かせてもらうぜェ」



 ダダンは構えを取りながら、炎帝(フォース)を纏った拳に炎を集中させ魔力を高める。

 対するレオも、斬れなかった事に違和感は感じたもののすぐに構えを取り直す。お互いに溜めを必要とする程の大技が放たれる。周りには再び緊張感が張られ、両者から放たれる威圧にギャラリーも息を止めて見守っている。



 だが、その中で、一人だけ動いている者がいた。ナイアリス・レヴァンだ。

 腰から三日月刀を抜き、〈地獄の炎帝(ヘル・フォース)〉のメンバーに飛びかかる。一人を蹴り飛ばし、別の一人に三日月刀で斬りつける。実際には当たっていないが、ぎょっとしてそのまま尻もちをついてしまう。

 残ったメンバーに掴みかかったところでレオとダダンが動いた。



「行くぜェ……」



〈炎術 炎帝・最後の審判フォースジャッジメント・オブ・ラスト



至天破邪剣征流してんはじゃけんせいりゅう 突破の型 『至天失斬烈風斬り』〉



 どんな鋼鉄をも溶かすほどに温度の上がった拳と、抜刀から放たれる神速を越えた斬撃がぶつかる瞬間。誰の目にも二つの大技がぶつかるように見えた。

 だが、実際は違う。

 レオは炎帝・最後の審判ラストジャッジメント・オブ・フォースを横目に見ながら“通り過ぎた”。そしてダダンの首目掛けて大技を放つ。





〈雷術 雷撃(ライトニングボルト)



 俺の右手から高電圧の一撃が放たれるが、ボーンマンは特に聞いた様子も無く片手で受け止めた。



「やっぱり効かないのか……どうなってるんだ?お前の体」


「…………」


「……おい、どうした?」


「…………はっ!」


「え?」


「い、いや、なんでもないボーン。いい一撃だったボンよ」


「もしかして、雷を無効化出来るんじゃなくて……ただの我慢?」


「そ、そんなわけ無いだろう……ボボーン……」


「だよなー」



 ただの我慢なんかで雷撃(ライトニングボルト)を受け止められたら流石にショックだ。しかし休憩を挟んでから五戦やったが、三敗二引き分けってところだ。

 そもそも打撃の殆どを完封してくる時点で厳しい。おまけに雷術も全然効いていない様子だし……



「おーい、クロト!」


「ん、シエラか」



 ブルーバードからシエラとリンリが出てきた。

 リンリはあの夜以降、よく顔を出すようになった。ずっとシエラにくっついてるが、恐らくは姉を亡くした悲しみを埋めようとしてるんだろう。

 酒場の手伝いも始めたが、これが中々受けがいい。まぁ基本飲んだくれのおっさん共だし、女の子ってだけで嬉しいのかもな。



「どうしたんだ?」


「そろそろリハビリをしたいとリンリが言ってるでありんす。接近戦は苦手でありんすから、クロトに頼もうかと思いんして」


「ああ、そういう事なら俺は全然いいぞ」


「あの、シエラ……」



 リンリがシエラの影に隠れながら袖をクイクイっと引っ張る。



「なんでありんすか?」


「あの紫の髪の人はどこですか? 刀を持った……」


「レオの事でありんすか?」


「レオなら街に仕事をしに行ったぞ」


「ほっ……」



 少し安心したように胸を撫で下ろしている。

 そういえば先の戦いではレオにボコボコにやられたらしい。可哀想に、トラウマになってる。



「あの人の強さは異常すぎます。そもそもあれだけの攻撃を受けて……ぶつぶつ」



 まぁ、ずいぶん調子が戻ってきたみたいでよかった。暫くは気にかけてやらないとな。



「リハビリをするってなら付き合うぜ。おい! 雨刃!」


「究極、運命、厄災、審判、悪夢……ブツブツ……ブツブツ……」



 まだ言ってたのか……

 俺の黒帝流や雷帝流の技名は基本的に本で呼んだ名前を採用してるけど……一から考えるのは大変そうだ……



「忙しそうだし、俺が相手するよ」


「お願いします」





 セントレイシュタン冒険者ギルド前にて。レオの刀はダダンの首をほんの少し斬って止まった。

 衝撃のせいで風が駆け抜け、髪を揺らすが、首は繋がっている。ダダンはヘナヘナと座り込み、恐れるようにレオを見上げる。



「う、うわぁ……」



 そのまま一目散に走り出し、パーティメンバーもそれにつられて一緒に走っていった。

 実に呆気ない。レオは心の中でこんな簡単に戦意が喪失した事を情けなく思いながらもミスリル級も大したこと無いなと一人で満悦に浸っていた。



「レオ! 大丈夫?」


「ああ、全く問題ない」


「そう、でもすごいわね……あのダダン相手に」


「言うほど強くなかったぞ」


炎帝(フォース)を使ったダダン相手にあそこまで渡り合えるのは中々のものよ」


「何度か体中から炎を出したのは謎だったが……」


「ああ、あれはね……」



 レオとダダンとの戦いの中、何度か突然登場した不可解な炎。

 詠唱も無く、体のどんな部分でも、それこそダダンが認識できない死角からの攻撃をも止めたのはダダンの力ではなくパーティメンバーの力だ。

 つまり、レオの攻撃に合わせてダダンのパーティメンバーが炎術を発動し防いでいたのだ。



「……だからパーティメンバーが見きれない程の攻撃では炎は出なかったし、最後は私が抑えたから出なかったよ」


「なるほどな……助かった、ありがとう。しかし助けてもらわなかったら最後の一撃も防がれた、か……まだまだだな」


「なにか目標があるの?」


「最強」


「……最強」



 既に最強の部類に片足を突っ込んでいる……という言葉をナイアリスは押し殺す。

 言ってもレオが納得するはずがないし、そもそもレオが目指しているのは将軍やオリハルコン級冒険者のレベルだろう。生半可な強さでは満足できないみたいだし……



「じゃあ次の超決闘イベントは見に行くの? きっと最強同士の戦いになるし」


「……んー、クロトに合わせる。おれ達のリーダーだしな」


「あ、でも今からじゃチケット取れないかもね」


「チケット?」


「うん、入場するにはチケットが必要で、それも完売したって噂よ。全国から人が集まってるみたい まぁ今までこんなイベント無かったし、みんな浮かれてるのはわかるけど……」



 レオとナイアリスはギルド内の掲示板を眺めながら超決闘イベントについて話し合う。そこへ一人の男が倒れ込むようにギルドへ入ってきた。

 服装からして行商人らしいが、所々から流血しており、“何かがあった”という事は一目瞭然だった。

 すぐさまギルドの受付嬢が駆け寄り、手を差し伸べる。



「た、助けてくれ!」


「落ち着いてください。どうされました?」


「お、俺達は南東のディルという街から荷物を届けに来たんだ。だが、途中の森でオ、オーガに出会ったんだ」


「オーガ?」


「オーガっつってもそこまで強いわけじゃねーだろう」


「そもそもこの辺りにオーガは出ないぞ」



 周りの冒険者たちは若干訝しげにその行商人を見る。



「ほ、本当なんだ! 馬車を腕の一振りで破壊して、俺以外の仲間は……」



 目に涙を浮かべながら悔しそうに握り拳を握る行商人を見て、周りの冒険者達も憐れみの視線を投げかける。



「とにかく落ち着いてください 依頼を発注すれば……」


「おれが受ける」


「ちょっとレオ?」


「あ、あなたは?」


「ゴールド級冒険者のレオだ」


「わ、私も一応冒険者よ」


「……悪いがゴールド級じゃだめだ オリハルコンを、〈紅の伝説〉を呼んでくれ! それかミスリルの〈地獄の炎帝(ヘル・フォース)〉を!」


「……ではレオさん、ナイアリスさん。冒険者ギルドより正式に依頼を発行します。引き受けていただけますね?」



 受付嬢は行商人を無視して依頼をレオとナイアリスに頼む。二人が断るわけもなく、そのまま受理される。

 本来なら依頼者の希望通りオリハルコン級、もしくはミスリル級の冒険者を待つべきなんだろうが、この受付嬢も見ていたのだ。レオとダダンの戦いを。実力は十分。加えてこのナイアリスがこの間アイゼンウルブスで起きたゴブリン襲撃事件を解決した一人である事も知っていた。

 レオについてはクロトが伏せた為わからなかったが、〈舞姫〉のナイアリスと言えばその名は結構通ってる。

 実は迷子になっていただけなのだが……



「な、何言ってるんですか! さっきの話聞いてましたか!?」


「この方達は先程ミスリル級冒険者パーティのリーダー、ダダンさんを倒していらっしゃいます」


「ダ、ダダンを……」


「よろしいですね?」


「は、はい……どうか、どうかよろしくお願いします。ほ、報酬は……」



 行商人が報酬の話をする為に顔を上げると、そこにはもう二人の姿はなかった。受付嬢が依頼を頼んだ段階で既にギルドから出ていた。

 行商人が襲われたという森の場所も、オーガの特徴も何も知らずに……

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