10話 エヴァリオン・ハルバード
イーニアスが教室から去り、この一悶着にも終止符が打たれる。
それを機に教室内に居た生徒達も俺達に興味を失い、それぞれのチームに戻っていく。意図せず目立ってしまったが、あそこで大人しくしていてはイザベラさんに「なにしてるの!」と怒られてしまうだろう。
「ったく……マナ、さっき言ってた意味がわかったぜ」
「え?」
「さっき『あの皇子はだめよ』って言ってたろ?」
「あ、ええ、でしょ?」
周りが再びがやがやと騒ぎだした頃、ガイナとマナが話し出す。
「さてと、気分の悪い出来事だったけど、決める事は決めてしまおう!」
「おう」
「まず、レイグ……だっけ? お前は俺達の仲間になったって事でいいのか?」
「ああ。ってまぁ、もし入れてくれるならって話だけど……」
「もちろんだ、よろしく」
「ああ、よろしく頼むよ」
「軽く寝返ったな。お前、『皇子直属の護衛』を代々務めて来た一家の子なんだろ? 親の立場とかに影響するんじゃないのか?」
「大丈夫だと思うよ。うちには優秀な兄も居てね、皇子の年代的に僕が選ばれたけど、兄は既に立派に近衛兵をしている。うちの家は十分な奉仕を王族にしていると言える」
ガイナの疑問にレイグは何でもないという風に返す。
「皇子直属の護衛?」
「優秀な騎士の家系から選ばれる皇子の護衛よ。そのまま側近として将来が約束されてるから、選ばれる事は光栄な事なんだけどね」
俺の疑問に「皇子がイーニアスじゃなければ」と付け加えながらマナが教えてくれる。
「そうか。で、エヴァリオンさん、さっき言いかけてた事だけど、俺達のチームに入らないか?」
「……だめ」
「どうして?」
「迷惑……かけるから。さっきも迷惑をかけた」
「……どうして悪魔なんて呼ばれてるのか、教えてくれないか?」
「ん……」
エヴァリオンさんは俺が何も知らないことに心底驚いている様子だったが、コクっと頷き話し始める。
話を簡単にまとめるとこうだ。
今は亡きハルバード公爵家は代々魔術一家として有名だった。
ハルバード家の血が入っているものは例外なく二属性持ち、更に人理限界を持つ者も珍しくないという。――人理限界とは訓練しても身につかない人の理を超えた能力のこと。一生をかけても習得する事が出来ず、まさに才能と呼ばれるものだ。
エヴァリオンさんにも人理限界があり、それが氷属性だ。水と風の属性を合わせることにより氷の魔術を使用可能にする。
エヴァリオンさんが十歳になったある日、魔術訓練を行っている際に事件は起きた。
ハルバード公爵夫人……つまりはエヴァリオンさんのお母さんが、病で亡くなった事を機にエヴァリオンさんの魔力が暴走。ハルバード公爵は勿論の事、使用人をも巻き込んで、エヴァリオンさん以外全員が死亡。それが原因でハルバード公爵は滅び、今に至る。そうだ。
そのせいで『氷の悪魔』、なんて呼ばれているらしい。
「…………」
話し終えたエヴァリオンさんは無言で俯く。話した事で俺達が去っていくと思ってるみたいだ。
マナのエルネア家はハルバード家が没落した事で新しく十二公爵に加わった家だそうで、エヴァリオンさんの事情を聞いている時はマナも居心地が悪そうに俯いていた。
「……辛かったな」
俺はエヴァリオンさんの頭を撫でながら言う。
「……っ!」
エヴァリオンさんは驚いた表情でこっちを見てくる。
「……な……んで……? 他の人に話したらみんな私を……」
「俺も家族や友達、知り合いを全員殺された。今はだいぶ立ち直ったけどかなり辛かった。エヴァリオンさんの場合は自分の意志では無いとはいえ、自分の力のせいで起こってしまった事故だ。辛くないわけがない」
「…………うっ」
エヴァリオンさんの目に涙が滲む。
「なぁお前ら、今の話を聞いてまだこいつを氷の悪魔なんて呼ぶか?」
俺は後ろに立っているガイナ、マナ、レイグを順番に見る。
「呼ぶわけねぇだろ」
「辛かったでしょうね。私の立場からじゃ嫌味に聞こえるかもしれないけど……」
良かった、みんな受け入れてくれた。と、次の瞬間衝撃が……いや、エヴァリオンさんが抱きついてきた。
「……ありがとう……ありがとう…………」
俺の胸に顔を押し付けて泣きながらエヴァリオンさんは言う。
「大丈夫だ、エヴァリオンさん。俺達はエヴァリオンさんから離れたりしないから」
「……エヴァ」
「ん?」
「エヴァって呼んで、父上や母上、レボはそう呼んでくれた」
「…………わかった。エヴァ」
「ありがとう……本当に……」
エヴァは時間にすればたった五分ほどではあったが、今まで溜まっていた気持ちを吐き出した。涙と共に。
「……エヴァリオン・ハルバード」
「ん……?」
エヴァが泣き終わると今まで黙っていたレイグがエヴァに話しかける。
「悪かった」
レイグはエヴァに頭を下げた。こいつ……良い奴だ。
「事情も知らず、皇子……いや、イーニアスの命令だったとしても、僕は君を氷の悪魔と罵り、剣を向けた。本当に、すまなかった」
「……もういいよ 今は私を理解してくれる仲間がいる。レイグもその一人でしょ?」
「……ああ! 改めてよろしくたの……」
「よしゃぁ、これで五人! とりあえずチームの紙だけ書いて一旦外に出ようぜ」
レイグの言葉を遮りながらガイナは五人揃った事への喜びを露わにする。
七人が上限だったが、エヴァとの一件で他生徒は俺達を避けている様子だ。これ以上待ってても人は集まらないだろう。勿論事情を知れば『氷の悪魔』なんて罵りは酷い誤解だとわかってくれる奴もいるだろうが、一々勧誘の為に説明して回るような事では無い。今居る五人で十分だ。
「えーと、メンバーの名前とリーダーの名前、でチーム名だよな?」
「ええ、確かそうだったわ」
「んーと、リーダーは……エヴァだな」
「んっ……? なんで?」
「一番向いてると思ってさ、嫌か?」
「…………クロトが言うならそれで、いい」
「よし、サンキューな」
俺はぱぱっと紙にチーム名と自分の名前を書き他のみんなに回す。
「このチーム名……ふふ、いいじゃない!」
「だろ?」
「流石クロトだぜぇ」
「……ん?」
「いいと思うよ」
俺が考えたチーム名はこうだ。
―――
【氷の姫】
エヴァリオン・ハルバード 【水・風】
クロト・アルフガルノ 【雷】
ガイナ・ベルガラック 【土】
マナティア・エルネア 【火・光】
レイグ・フィルトルト 【水】
―――
「エヴァは氷の悪魔なんかじゃない。そういう意味を込めた。俺達が卒業する頃にはエヴァの事を『氷の悪魔』なんて呼ぶ奴は一人も居ないようにしてやろうぜ」
「……恥ずかしい」
「ふっ。で、クロト。君、雷なんて大丈夫なのかい? 剣を交えたから剣術の才があるのはわかったけど、雷属性でこれからやっていけるのかい?」
「任せとけよ、なんなら一戦交えてみるか?」
「……クロト」
「ん?」
「私と戦って」
「……おう!」
◇
「本当に良いのか? エヴァ」
「うん、クロトの力を見てみたい」
「わかったよ じゃあ全力で行くぜ」
俺はテンペスターを抜き剣狼の構えを取る。
〈黒帝流 剣狼〉
目にも止まらぬスピードでエヴァに突きを放つ。流石に当たる直前で止めるつもりではあるが、本気で挑んだ方がエヴァの為だ。
〈氷術 氷の盾〉
エヴァの前に氷の薄い板のようなものが出現する。これが氷術か。
剣狼と氷の盾がぶつかる。氷の盾は剣狼の衝撃を完全に殺し切ると、役目を終えたように崩れる。速攻重視の剣狼に対応出来る反射神経もそうだが、魔術の発動速度も、氷の盾の耐久も、エヴァが相当の実力者だと十分に証明している。
「……すごいな!」
「ふふっ、気を抜かないほうがいいよ」
〈氷術 氷の雨〉
エヴァの詠唱と共に、上空に数十個の氷柱が生成される。
「すご、こんな広範囲に……」
〈雷術 雷装衣〉
俺は雷を体に纏いテンペスターに魔力を流す。
「降り注げ」
エヴァの合図で氷柱が落下してくる。これじゃ範囲が広すぎて避けようにも避けれない。
〈雷帝流 雷千剣〉
俺はテンペスターを頭上で振る。雷の斬撃が上に向かって千に分かれ、氷の雨とぶつかる。
「……雷でそんなに戦える人、見たことない」
「はは、俺もやるだろ? 雷は最強の魔術属性だ。氷にも負けないぜ」
俺は一気に踏み込みエヴァに接近する。纏っている雷がバチバチと音を立てる。
〈雷術 雷拳〉
雷を纏った右手でエヴァの顔面を殴り飛ばす。
「あ、悪い!」
止めるつもりが勢い余って殴り飛ばしてしまう。
〈氷術 氷の身代わり〉
「大丈夫だよ、ただの人形だから」
よく見ると殴ったエヴァは氷となって砕け散った。そして俺の背後にエヴァが立つ。
「まったく……恐れ入るな」
「これで決めるよ」
俺とエヴァは十メートルほど間隔を開けて向かい合いお互いに魔術を発動させる。
俺は手のひらと手のひらを握りこぶし一つ分間隔を開けて向かい合わせ、バチバチと雷を生成。雷丸を作り出す。
エヴァは両手を重ね魔力を込める。微かに冷気が漏れ出ている。
〈雷術 雷砲〉
〈氷術 氷の大砲〉
雷砲と氷の大砲が激突。
雷と氷を伴う激しい爆発が起きる。かなりの衝撃だ。氷の破片が飛んでくるので腕で顔を覆いながらなんとか前に目を向ける。
雷砲と氷の大砲の力は均衡しそのまま消滅した。
俺もエヴァもそのまま向かい合ったままだ。
「ふぅ……流石、強いな」
「クロトもすごい。雷は最弱だって言われてるのに全然そんなことない」
「まぁな。さて、レイグ。これで俺もそこそこ強いって証明出来たか?」
「ああ、なんというか、すごいよ」
「ハッハッハッ、クロトォ! 一ヶ月前雷属性って見たときは心配になったもんだが、全くの無意味だったな。たった一ヶ月でここまで使いこなしてるし」
「そんなに褒めるなよ。さ、これで終わりならもう帰ろうぜ」
『おー!!!(……おー)』




