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狐狩り~あやかしぶん殴ります~  作者: 桐谷雪矢
第二章 動画に映るモノ
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1.不穏な動画

 持ち帰った封筒を前に俺は所長の真意を測りかねていた。俺はただのバイトで所長とは仕事以外の接触はまったくないし、そもそも二ヶ月かそこらしかバイトしていないのだ。そういえばフルネームも覚えていない。なのにどうしてこんなものを俺に残して姿を消した? 地図はコピー用紙に四色ボールペンでざかざかと書き込まれたものだった。幹線道路と枝分かれしている道、青で引かれた線はもしかしたら川かもしれない。赤で×印があるところが目的地かなにかだろう。いったいこれは……と裏返してみると、なにか文字が小さく書かれていた。住所のようだがあまりに字が汚くて解読する気にもなれない。。

 ここにいるから探しに来いとでも言うのだろうか。いや、適当に金を入れている時に紛れ込んだ物件のメモ用紙の可能性が高そうだ。デスクの上はごちゃごちゃだったし。だいたい縁を切りたいのに探す義理はない。

 念のために両面をスキャンするとデータをスマホにも転送しておく。それから勇司の取り分を分けているとチャイムが鳴った。インターホンの画面を見ると趣味仲間の野間英紀が映っていた。

「すまん、予定してたのって今日だっけ?」

 動画編集を手伝う話をしていたが、日程は未定だったはず。

『そうじゃないけど、ちょっと気になる映像が録れちゃってね。鑑定を頼めるかなあ』

「ちょっと待って。ロック開けるから」

 野間とはSNSで知り合ったいわゆるオタク趣味で話が合う友人だ。たまたま近所だとわかり、イベントなどへよく一緒に足を運んでいる。同人誌即売会に出す本の編集などを引き受けてくれる有り難い友でもある。

 部屋に来るまでの間に急いで金と地図を封筒に入れて鞄に戻した。スキャンしたままモニタに出ていた画面も落とす。1Kなのにやたら物が多くて来客を通せる場所は限られている。勇司だと床に座ってローテーブルを使うが、野間だと打ち合わせがあったりしてデスク横のサイドテーブルとスツールが定位置になっている。モニタ画面に迂闊なものを出していると、そこからでは丸見えなのはいろいろ経験済みだ。

「しのくん~、いてくれて良かった~」

 玄関を開けてすぐに目に入ったのは、派手なプリン頭だった。俺よりひとまわり背が低いのと玄関の段差で、頭頂部がいきなり視界に広がった。

「なんか頭、派手じゃないか。どういう心境の変化?」

 いつも地味めなオタクルックなのに……と思ったが、俺も仕事がなければスーツなんか着ないしな、人のことは言えないな、と我が身を振り返る。それにしても金髪に近い茶色とは普段の野間とはかけ離れた姿だった。野間は前に抱えるようにかけていたリュックを下ろして手に提げた。パソコンやタブレットを持っている時はいつも前に抱えている。

「ああこれ、頼まれて断り切れなかったんだな。ほら、『すとすと』のコスプレ。俺が背が低いからってさあ。この年でショタっ子やるハメになるとは思わなかったね」

 中へと招き入れながら、話題になってるけど俺ソシャゲしないからな~、時間と金が溶けるじゃん~などと他愛ない話で笑っていたが、ペットボトルのコーヒーを注いでいるうちに少しずつ野間の表情が曇ってきた。気になる映像って言ってたな。

 コーヒーで喉を潤した野間はリュックからタブレットを取り出した。

「見て欲しい映像ってのは、このコスプレの時に録った動画でさ。まずは先入観なしで見てみて」

 動画を表示させたタブレットを受け取ると、心構えをしてじっと見つめた。コスプレイベントで『すとすと』の主要メンバー九人がゲームのシーンを再現している動画だ。

───ダンジョンへは俺が潜る。おまえらには無理だ───

───運良く助かったとしても治癒も転移も使えないくせに───

 そんなシーンで、一瞬画像が乱れた。軽い頭痛がして画面が歪む。場所はイベント会場の中庭にある噴水前のようだが、その噴水が赤く染まった。位置的にはちょうど野間の首が飛んでそこから血飛沫が上がっているようにも見えた。その後も背景がぐにゃぐにゃと安定せずにしばらく動き、全てが収まったところで、誰も喋っていないのに野太い声が聞こえた。

『───助かるものか───贄にはちょうど良い───』

 ああなんかダメっぽいヤツ。いままでの経験から面倒くさそうな予感がした。ちらりと野間を見遣ると、不安そうにリュックを抱きしめて俺を見ている。

「野間、おまえ、どこまで視えたんだ?」

「やっぱりなにか映ってるよねえ? 俺にわかるのは、全体にノイジーでとにかく見てると落ち着かないんだ。で、これ見た後は、いっつもすごく喉が詰まった感じがして気分悪くてさあ」

「ああ、もう霊障っぽいの出ちゃってるか」

「よくないヤツ? 祟られて死んじゃうとかそういうの? しのくん、割とそういうのどうにかしちゃうの得意だよねえ?」

「俺じゃなくて、勇司が得意なの。野間は苦手らしいけど」

 野間と勇司はあんまり相性がよくない。インドアオタク系の野間のことを、陽キャ系で身体を動かすのが好きな勇司としては鬱陶しいらしい。あからさまに態度に出てわかるので野間も意識して避けている。もっともそれを言うなら俺は野間側に近いのだが、なぜか俺は別らしい。

「どうにかしてもらえるんだったら、ちゃんとお礼もするし、お願いできない? すんごく怖くてすんごくイヤな予感がするんだよ~」

 時々声が裏返っている。あまり詳しく言わない方がいいかも知れない。ビビって焦って余計なことをしてしまうのがホラー映画では定番だ。

「じゃ、早い方がいいよな。後で会う予定があるから話しとく。その後でよければ連絡するから来てくれる? あ、この動画、コピっとくぞ」

 タブレットに未使用のUSBメモリを挿して動画をコピーする。普段からよくデータのやり取りをしているので慣れたものだ。ただ今回は再生するのに古くなって使っていない、捨ててもいいスマホを使おう。悪意も感じるし、使っているガジェットが壊れたら洒落にならない。大きなファイルではないからすぐに作業を済ませてタブレットを返す。

「じゃ、連絡待ってるから、できたら早い方がいいなあ。お願いっ」

 リュックを持った野間は拝む仕草をして帰っていった。次から次へと忙しい。執筆時間が取れないじゃないかと頭を抱えつつ、古くて使っていないスマホを探すことにした。



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