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挿話【女の子と一度もデートした事のない俺がゲームでも勝てなかったら立つ背がないじゃないか】

今の南条を作り上げてしまった


そのきっかけのお話



 よく耳にする。


「周りの人間と同じ事はしたくない」


 そんなイキがった陽キャの言葉。贅沢な話だよな。人とは違う特別な存在でありたいんだろうか。

 俺はいつだって周りの人と同じがいいのに。


 陽キャがうらやましい。俺の欲しいものを全部持ってる。

 だからマネをする。同じ事がしたいから。



 悲しいかな……絶対に同じにならないんだよ。

 みんなが当たり前の様に手に入れてるものが、俺はどんなに努力しても手に入らない。


 だから思う。

 俺は陰キャだから持ってないんだ。陽キャになれば全部手に入る。


 そして、あらゆる努力をした。

 今までゲームやアニメに浪費していた時間は全部トレーニングに。

 今までグッズやサブスクで浪費していた金は全部ファッションと美容に。

 今まで1人で過ごしていた休日は全部コミュニケーション能力を上げるセミナーに注ぎ込んだ。


 できる事は全部やったんだ。





ーーそうして半年が過ぎたある日。



「先輩、なんか最近変わりましたね」


 後輩の女の子に言われた。



「え?なんでそう思う?」


「見た目もシュッとしててなんか前よりも話しかけやすいっていうか……なんかやってるんですか?」


 驚いた。挨拶と仕事の話くらいしかしなかったような子だ。向こうから突然話しかけてくるなんて。


 そして『なぜそう思ったかを聞き返すと会話が続きます』っていうセミナーの教えが役に立つ時が来るなんて,

 今まで一言二言だった会話が、今日は延々と続く気がした。


 楽しい。もっと話したい。

 これが陽キャなのか。俺ついに陽キャになれたんだろうか。



 そうして何度か会話をして、会うたびに何を話そうって考えて、やっとの思いで仲良くなって。

「もしかして俺に気があるかも?」なんて思って、今度ご飯にでも誘ってみようかなって。



 そう思ってた矢先だ。



「南条……ちょっといいかな?」


 先輩に声をかけられた。先輩は正直俺よりも陰キャだ。


「南条最近ゲーム全然ログインしてないじゃない?マルチプレイもしてないし……」


「あ〜最近ちょっとやる余裕ないんですよ。俺くらいのレベルがいないとクリアできないクエストなんですか?」


「まぁそれはそうなんだけど……いや話ってのはそれじゃなくてね…」


「なんですか?」


「最近さ……南条の雰囲気結構変わったなって思うんだ」


「よく言われますね」


「だからなにかやってんのかなと思ってさ」


「なんでそんな事聞くんですか?」


「いや、実は……」


先輩は一瞬言葉に詰まったようだった。そして少し悩んでから、大きく深呼吸して、意を決した表情で言った。



「彼女に言われたんだ」



 え? 彼女? 陰キャの先輩に?


「へぇ、先輩彼女いたんすね」


「まぁな……つってもまだ付き合って1週間だけど」


 悔しいな。俺は陰キャだから彼女ができないと思ってた。でも先輩は陰キャのままで彼女ができたじゃないか。


 悔しいな。単純に。


「おめでとうございます。それで彼女になんて言われたんですか?」


「いや、それなんだけどさ……彼女が南条の話ばっかりするんだよ」


「え?俺の事知ってんすか?」


「あ、あぁ……まぁな。いや、それで……その南条が最近めっちゃ雰囲気良くなったからさ。格好とか話し方とか……教えてもらったらどうだって言われたんだ」


 おい。



 待て。ちょっと待て。



「あの……先輩の彼女ってのは……」



 先輩はスッと口元に人差し指を当てた。そして後輩の女の子の方をチラッと見た。



「内緒な」



 天地明察ーー



 さっきの悔しさは前兆でしかなかった。本前兆に突入した今の悔しさは、天井直前で自力解除され、絶望のボーナスタイムへと突入した。



「あの……どうやって付き合ったんですか?」


 聞きたくねぇ。でも聞かないと納得できねぇ。


「いや、きっかけはさっきのゲームでさ……」


「ゲーム?」


「最近お前やってないけど……彼女が昼休みに休憩室でやっててな……ちょうどイベントだったし……それでマルチプレイしないかって声かけたんだ」



 おい、嘘だろ。



「それで仲良くなって……彼女俺よりも強くてさ……その後ご飯行って……そのまま付き合うことになって……」



 この瞬間、まるで視界がブラックアウトしたかのような感覚に襲われて、絶望の上乗せ特化ゾーン投入。



「へぇ……すごいじゃないですか」


 力無い相槌だけど素直にそう思った。

 

ーー俺がやっとの思いで声をかけられる様になった女の子は、


 俺が必要ないと思っていたゲームがきっかけで、


 その日の内に知り合った先輩と付き合った。ーー



 しかもだ。その子は俺の話ばかりすると言う。先輩に「俺みたいになれ」と言う。


 俺はご飯の誘い方なんて分からないよ。だって誘った事ないから。


 じゃあゲームなら誘えたのか? ゲームは先輩よりも強かったし、情けない話だけど1番の取り柄だったんだ。

 女の子と一度もデートした事のない俺が唯一誇れるのがゲームだった。そのゲームでも負けた? 俺よりも下のレベルに?

 

ーー立つ背がないじゃないか。


 俺が先に言ったら付き合えたのか? ゲームの話をしてたら付き合えたのか?



ーーもしかして



「なにもしなければよかったのか?」



 正直あとの会話は全く覚えていない。けどこの日が確実に俺の人生のターニングポイントだった。


 本日の実戦終了。かどおわ。

 結果・絶望の一撃万枚達成。


 お疲れ様でした。おめでとう俺。

 次回は『1/65536を引くまで帰れません』でお会いしましょう。

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