第二十九話②
「ごめんね。あんな事言っちゃって……」
俺の服の裾を掴みながら、ニナは震えた声でそう呟く。
その震えた声はあまりに切なく、俺は同情してしまったのか、後ろを振り向かないまでも、ダメだと思いながらも言葉を返してしまった。
「ニナは何も間違ってなんていない。危険だったのは事実だ。俺がこうして生き残ったのも、結果論でしかないからな」
俺が言葉を返してくれた事に驚いたのか、はたまた喜んでくれたのか、こちらに駆け寄ってこようとする。
「ダメだニナ、長くは話せない。そのまま……お互い顔を合わせないまま、少し話そう」
この言葉を聞いた途端、ニナはパッと立ち止まり、暫しの間無言を貫く。
あまり長居はしていられない、このまま何も離さないのであれば、申し訳ないがここを離れる他ない。
そう思った途端のことだった。
「村を救ってくれて……私を救ってくれてありがとう」
ニナは俺の元へ駆け寄ってきて、そのまま背後から俺を抱きしめながら、そう呟いた。
ダメだと言ったばかりなのに、俺の元へきたのだ。
ニナは泣いているのか、俺の背中は少し濡れてしまい、そしてニナの温もりを薄らと感じた。
本来は説教をしなければならないのだろうが……この行動すらも、俺はとても喜ばしく思った。
「君の幸せを願っている。……君の友達として、」
「うん! 私も、お兄さんの幸せを願ってるね!」
そのような会話を最後に、その場からゆっくりと離れていく。
そんな俺からニナはゆっくりと手を離した。
後ろから、「また会おうね」と声が聞こえてくる。
もう会える日は……いや、魔王を討伐すれば、この世界が平和となって俺が英雄になる事が出来れば、また彼女に会える資格を得られるかもしれない。
俺は後ろを振り返らないまま手を振る。
次に会う彼女の姿がどうなっているのか、それを少し楽しみに思えた。
森を抜けると日は既に上り切っており、光が全身を包み込んだ。単純な人間だなと笑ってしまうが、俺の気はこの青空のように晴れていた。
この先にあるどんな苦労にも、何とか乗り越えられる気がしてきた程だ。
心優しい少女ニナとの出会い、そして1つの村を救って見せた実績。ただそれだけではまだ、俺の望む英雄像には程遠い。
俺はまだ英雄になれる程の器ではない……。
背中に背負った武器を取り出して、じっと眺める。
武器はレベルを上げていて、レベル1からレベル3へと成長していた。
俺はまだ英雄の器ではない、だがこの武器のように、少しずつだが成長し、夢に近づけていけている気がするのだ。
この姿となってから、残りの寿命がどれ程残っているのかは分からないが、目指していこう。
この朽ちた身が動かなくなるそれまでに、英雄になって見せるのだ。




