第十五話②
「お兄さん!」
手を振りながら、昨日の暗い表情なんて夢だったと思う程の笑顔で、ニナは俺を呼んでくる。
あんな事があった後なのだから、傷心していてもおかしくないとは思うのだが、本当に心が強い子なのだなと関心を覚えた。
「用事は終わった?」
「あー、剣を受け取って礼も済んだからな。今から宿に帰るところだ」
結局俺は、宿を移らずにいた。手間に感じたのもそうだが、何よりもニナが悲しんでしまうのではないかと思った事が1番の理由だ。
「だったらお兄さん、少しだけ行きたいところがあるんだけど……いい?」
「いいぞ、何処にだってついていってやる」
遠慮がちな態度をとるニナに、二つ返事でそう答えると、太陽が霞むほどの笑顔を見せてくれ、そのままニナは俺の手を取って「着いてきて」と何処かへと走り始めた。
走ると言っても、子供の足が故に大した速さは出ておらず、小さい足で一生懸命走るその姿は愛らしさすら感じさせた。
村でもあまり人通りの少ない場所を抜けた後、そのまま村に出てしまう勢いで、ニナは進み続ける。
ようやく止まったその場所には、幾つかのお墓が並べられており、その周りには白く可憐な花が、一面に沢山広がっていた。
「ニナ……ここは?」
「私のお父さんがいるところだよ。ついてきて」
幾つかある墓の中で、最も村の外側に近い位置に、ニナの父親の墓は建てられてあった。
墓といってもしっかりとした形で作られた墓石ではなく、少し大きめの石に無理矢理名前を書いたようなものだ。
ニナはそこに目を瞑って手を合わせて、「会いにきたよ」と話しかけている。
「お父さんに合わせにきてくれたのか?」
「うん、お父さんに紹介したいと思ったの。村の人を守ってくれた、とってもすごいお兄さんなんだよって」
そんな大層な事は出来ていないと、まだ何も救えてなどいないといった言葉は、無粋だと思い飲み込んだ。
「どういったお父さんだったんだ? ニナのお父さんなんだから、とっても優しい人だったのか?」
「うん、とっても優しかったよ。でも怒るととっても怖いの、鬼のような顔をして怒ってくるんだよ?」
そんな事を話しながらも、ニナは良い思い出を語るように穏やかな口調を続ける。
「でもやっぱり優しかった印象が強いかな…最後も村の人を助ける為に、必死に戦ってくれたの……お父さんはこの村の英雄だって、皆んな言ってくれるんだよ」
この瞬間、ニナは笑顔を続けたまま、瞳に涙を浮かべ始めた。
「でも私は……死んでほしくなかった。優しいお父さんには生きていて欲しかったの……だからお兄さんは、こんな最後にならないでほしい。…ねぇお兄さん、この村から出ていって…」




